親と暮らせない子を育てる葛藤と喜び。30人以上を迎えた里ジイ、里バア<ルポ・里親たちの胸のうち・1>

親と暮らせない子を育てる葛藤と喜び。30人以上を迎えた里ジイ、里バア<ルポ・里親たちの胸のうち・1>

  • 婦人公論.jp
  • 更新日:2021/11/25
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里子たちの箸は、家族ができれば家族ごとにまとめて保管しておく

毎年10月は里親月間です。2021年も、里親制度を知ってほしいと、厚生労働省が中心となり大規模なキャンペーンが展開されていました。親と暮らせない子どもを迎えての毎日には思いがけない出来事が起こる一方、深い喜びもあるという。里親家族をたずねた(取材・文◎樋田敦子 撮影◎本社写真部)

【写真】30人以上の里子を育てた里ジイ、里バア

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諸外国では7割、日本は2割

日本には、親の病気や失踪、離婚や虐待などさまざまな事情により親と暮らせない子が約4万5000人いる。その約8割が暮らすのは乳児院や児童養護施設だ。社会的養護を必要とする子どもたちを家庭的な温かい雰囲気の中で育てるため、厚生労働省は児童福祉法に基づいて里親制度を定め、里親になる人を増やす活動を推進している。その背景には、諸外国では7割近くの子どもが里親の下で育てられているのに、日本はわずか2割という実態があるからだ。

現在、里親として子どもを受け入れているのは4000世帯ほど。里子を預かり育てる人たちは、里子とどのように向き合っているのだろうか。

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都内の自宅で養育里親として22年、30人以上の子どもたちを育ててきたのが青葉紘宇(こうう)さん(77歳)・やよいさん(71歳)夫妻だ。紘宇さんは以前、少年院、児童相談所(以下、児相)の職員をしていた。

里親というと、養子縁組で親子になることを目的とする里親を想像するが、青葉さんのように親が育てられない要保護児童を一定期間預かり、家庭で養育する「養育里親」もいる。養育里親が子どもを預かる期間は、数日から最長で18歳になるまで。その間、国や自治体からは里親手当(子ども1人につき1ヵ月9万円)や一般生活費などが支給される。

最初の里子のK君は、1999年、小学5年生でやってきた。それまで6ヵ所の施設を転々とし、育てにくい子と評判で、児相から相談を受けた紘宇さんが預かることになったのだ。やよいさんは、最初戸惑ったという。青葉家の2人の息子はもう成人しており、子育ては久しぶり。血のつながらない子とうまくやっていけるだろうか、と。

K君は最初のうちこそおとなしくしていたが、次第に横暴な振る舞いが目立つようになっていく。息子の部屋を引っかき回す、お金を持ち出すなど、次々と問題行動を起こした。

「一緒に住んでいた次男が、〈あいつは全身から周囲をムカつかせるオーラが出ているよ〉と言うほど荒れていました。そのうちに、夜になると街を徘徊する、お菓子を万引きする、自転車を盗む――。そんなことが重なって、もう家では面倒見きれなくなりました」

「大人は信用できない。ただし一部を除いて」

児相の判断で里親委託を解除した結果、中3になっていた彼は、教護院へ入ることに。やよいさんは問題児がいなくなりほっとすると思っていたが、K君はどうしているのか気になって仕方がない。彼の口癖は「大人はみんな信用できない」。ここで見放したら、彼は誰も信用できなくなると感じたやよいさんは「あなたを心配している人がここにいる」と伝えたくて、ハガキを送り始めた。

K君は「この人はなぜここまでしてくれるのか」と疑問に思っただろう。だが、やよいさんは月に1回のハガキでほめたり元気づけたり。次第に心を許すようになったK君は、中学の修学旅行の土産に「いつもきれいなおかあさんガンバッテ!」と印字された湯みを送ってきた。やがて高1になったK君を再び青葉家で預かることに。時を経て彼にも「大人は信用できない。ただし一部を除いて」という思いが芽生えたのだ。

以来、青葉家では中高生の男子ばかりを預かってきたが、2階の4部屋が埋まるとにぎやかだ。一升炊きの炊飯器はフル稼働、里子同士けんかもするが、それでも全員で食卓を囲むのがこの家の習わし。食後に里子は連れ立って近所の銭湯に行き、そこでいろいろ語り合う。

「新しく来た子に〈さあ話してごらん〉と言っても答えてくれませんが、子どもたち同士で話したことを教えてくれる子もいます。だから複数預かるほうがいいみたい」

預かりは数日間から数ヵ月、数年までとさまざまだ。その間、多くの子は近所にある地元の公立校に通うため、新しい学校で少しでも生活がしやすいようにと、やよいさんは積極的にPTA役員を引き受けてきた。長男の頃から数えると、約30年間も役員を務めたことになる。

「最近は、預かる期間が短い子が多くてPTA役員は卒業しました(笑)。以前はやんちゃで元気な子ばかりだったから食事を作って学校に送り出してあげればよかったのですが、近頃は心に傷を抱えていたり、精神科の薬を服用する子も多くなりました。子どもが抱えるものが、より深刻になっているのかもしれません」とやよいさん。

普通のことを一生懸命やれば通じる

「家にやってきて1週間もたてば、多くの子は落ち着いてきて、台所で料理を作っているとそばに来て、学校で起きたことを話してくれるようになります。すりむいたと言えば絆創膏を貼り、虫に刺されたと言えば薬を指で塗ってあげて。どこの家庭でもあることでしょうが、子どもは喜ぶのね。学校に行くときは玄関の外に出て、通りを曲がるまで見送ります。すると何度も子どもが振り返る。それがかわいらしくて。息子と同じように、普通のことを一生懸命やれば通じるんですね」

青葉家にはときどき、夫婦のもとから社会に出た10人ほどが集まる。3人の子の父親になったK君も妻子を連れて参加する。食事どきになるとやよいさんは、みんなにそれぞれの箸を差し出す。青葉家にいたときに使っていた箸だ。「あ、俺の箸」と見つけた子は驚くが、「青葉のおかん」のところには、いつもマイ箸があるという嬉しさ。ひとところで育てられた経験のなかった子は、ここで暮らしていた確かな思い出を呼び起こされるのだろう。

「『おかん大丈夫か』と気にかけてくれるのは、息子より大人になった里子たちですね。昔は『くそばばあ!』と言われてムッときたこともありましたが、今は、いいわよ、本当におばあちゃんだもん、と。里親も年取って、里ジイ、里バアでいいじゃないですか。これからは」

子どもは家庭の中で育つほうがいい。そう思う人は多いだろう。でも里親の数は微増にとどまっているのが現実だ。そこには血のつながりを重んじ、親が子どもを抱え込む日本的子育てが壁になっているのではないかと、やよいさんは言う。

「里親に向いていると思われる人でも、里子はちょっと、と断られます。他人の子が入ることで水入らずではなくなると思っているのでしょうか。でもハリウッドスターのように、人種も違う子どもたちを里子として構えることなく育てる世の中になればいい」

《ルポ》里親たちの胸のうち
【1】親と暮らせない子を育てる葛藤と喜び。30人以上を迎えた里ジイ、里バア
【2】小6で哺乳瓶を吸う里子に戸惑いも。育てることで自分の視野が広がった
【3】おんぶで背骨がつぶれても。里子同士がきょうだいのように育つ「ファミリーホーム」

樋田敦子

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