テスラの元主任エンジニアが率いるEVメーカー「ルーシッド」の挑戦

テスラの元主任エンジニアが率いるEVメーカー「ルーシッド」の挑戦

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/02/22
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16万9000ドルの高級EV(電気自動車)として話題の「ルーシッド・エア(Lucid Air)」を今春発売予定の、ルーシッド・モーターズのCEOのピーター・ローリンソンは、このクルマが地球上で最も速く、長距離を走行可能な電気自動車になると述べている。彼は今から約10年前に、テスラのモデルSの開発に関わっていた。

ローリンソンは、ルーシッド・エアの発売にあたりいくつかの目標を定めているが、その一つはこのクルマが、世界最高のEVとして歓迎されることだ。

「誰も信じてくれないかもしれないが、私たちはEVを次のレベルに引き上げようとしている」と、彼は昨年のクリスマス前のズームのインタビューで語った。彼がその日居たのは、ルーシッドモーターズが本社を置くシリコンバレーではなく、イングランド中部のウォリックシャーにある築300年の農家だった。

ローリンソンは今、10年前にテスラでモデルSのチーフエンジニアを務めていた頃と同じ気持ちでいるという。2012年のテスラのモデルSは、自動車業界に旋風を巻き起こしたが、「あの頃は誰も私やモデルSについて信じてくれなかった。驚くほどの敵意も感じていた」と彼は話す。

ローリンソンが間もなく世に送り出す、エアの「ドリームエディション」は、確かに驚異的なものになるようだ。1充電での航続距離は、テスラのモデルSの402マイルを上回る、517マイル(約832キロ)で、停止状態から時速60マイル(約97キロ)までわずか2秒強で加速する性能を持っている(イーロン・マスクは今年1月、年内に発売するモデルSのPlaid+バージョンの航続距離が520マイルになると述べていた)。

しかし、ローリンソンの野望は、約1800万円の高級車を求める富裕層を喜ばせることだけではない。

彼のより大きな目標は、エアの1080馬力の推進テクノロジーを、より安価な車両に広げていくことだ。ローリンソンは5年以内に、4万ドル台半ばのEVを何十万台も販売し、大手自動車メーカーが2万5000ドルの大衆向けEVを製造するのを支援したいと考えている。

これは、彼の元上司であるイーロン・マスクと同じ目標だが、ローリンソンはまずサウジアラビアに最初の自動車工場を建設しようとしている。ルーシッドの株式の3分の2を、サウジアラビアの政府系ファンドが保有している。

富裕層向けのEVメーカーではない
「世間の人々は、私たちのビジネスモデルを誤解している」と英国のウェールズ生まれの63歳は話す。「私たちは富裕層向けの高級車メーカーではなく、年間100万台の車を送り出そうとしている。当社の野望は、世界に大きなインパクトを与えることだ。決してマイナーなプレイヤーを目指そうとしているのではない」

高級感あふれるアルミボディに特徴的な、「マイクロレンズアレイ」ヘッドランプを備えたルーシッド・エアはEV市場の転換期を示す存在だ。このクルマは、リチウムイオン電池の安価化やEV向けパーツの世界的な供給拡大、消費者の関心の高まりなど、テスラがもたらした新たな波の恩恵を受けている。さらに、米国のバイデン新政権はEVの普及促進を優先事項に掲げている。

バイデン大統領は、連邦政府に対し、政府が保有する数十万台もの化石燃料車をEVに置き換えるよう促す命令に署名した。さらに、何千もの新たな公共EV充電ステーションの建設を約束しており、トランプ政権が廃止したEV購入に対する税制優遇措置も復活させる見通しだ。

大手自動車メーカーはこのアイデアに飛び乗り、GMは、2035年までにすべての新車を電動化し、EVや燃料電池車などのゼロエミッション車にすると発表した。フォードとフォルクスワーゲンも化石燃料からの脱却に向けて積極的な計画を立てている。

長年のテスラ支持者として知られるモルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナスは、2021年の世界のEV販売台数が50%の増加になると予測している。米国のEVの主要市場であり、ルーシッドとテスラの本拠地でもあるカリフォルニア州は、「米国のノルウェーになるかもしれない」と述べている。

人口約540万人のノルウェーは、政府のEV普及策によって新車販売台数の6割近くがEVで占められている。「ノルウェーは、世界の他の国の15年先を行っている。カリフォルニア州が同じ方向に進めば、他の多くの州もそれに続き、クルマの脱炭素化を進めることになる」とジョナスは話す。

ローリンソンは今年、アリゾナ州カサグランデの新工場で少なくとも6000台のエアを製造し、9億ドルの収益を上げることを目指している。価格が7万7000ドルの新バージョンのエアが登場する2022年には、生産台数が2万5000台を超える可能性があるという。

2023年にはグラビティ(仮称)と名づけられた電動クロスオーバーモデルが登場し、その後はテスラのモデル3のライバルとなる、より安価で小型のモデルが投入されることで、さらなる成長が期待できる。

カリフォルニア州ニューアークに本拠を置く非上場企業のルーシッドは、サウジアラビアの公共投資基金PIFから2018年に13億ドルの出資を受け、エアの開発と生産を行っている。同社はそれ以前に1億5000万ドルを調達しており、Pitchbookのデータでルーシッドの企業価値は150億ドルとされている。

しかし、車両の開発には巨額の資金が必要であり、ローリンソンはさらなる資金調達の必要に迫られ、SPAC(特別買収目的会社)を通じた上場も検討中という。彼は以前、SPACを "ダーティーな世界"と考えていたが、その認識も改めたという。ただし、特定のプランについては明かさなかった。

イーロン・マスクから学んだこと
英国の名門、インペリアル・カレッジ・ロンドンで学んだローリンソンは、テスラに入社する前に、ロータスやエンジニアリング・コンサルタント企業のコーラスで先進的な車両の開発に携わった後に、ジャガーに勤務していた業界のベテランだ。

彼は、ルーシッド・エアがいかにしてキロワット時あたり4.7マイルという業界最高の電気パワートレイン効率を達成したのかについて、何時間もかけて楽しそうに説明する。エアのパワートレイン効率は、18万5000ドルのポルシェの電動スポーツカー、タイカン(Taycan)の約2倍で、テスラのモデルSや、それより小型で軽量なモデル3よりも優れているという。

ローリンソンがテスラに入社したのは、同社がガレージのスタートアップから脱却した頃の2009年だった。そして、2010年には同社の副社長で、モデルSのチーフエンジニアに昇進した。「私はテスラに心血を注いでいた」とローリンソンは話す。

マスクは厳しい上司として知られるが、ローリンソンのテスラ時代の思い出はポジティブだ。「テスラ時代の私はほとんどの時間、マスクと切磋琢磨しながら過ごしていた。最後の頃を除けばね」と彼は振り返る。

「私たちはテクノロジーとエンジニアリングで、業界のトップを目指すという思いでは一致していたが、意見が分かれる部分もあった」と彼は振り返る。しかし、ローリンソンは、自動車市場に参入するにあたり、マスクをお手本としようとしている。それは、まず超高級車市場に参入し、その次に大衆車市場にマーケットを広げるという戦略だ。

2人の対立の始まりは、モデルSの後継モデルとなるはずだったモデルXのクロスオーバー車両に、マスクが複雑な折り畳み式の「ファルコン・ウイング」ドアを採用するアイデアに固執したことだったという。その結果、Xの発売は約2年遅れ、膨大な追加コストが発生したが、これはローリンソンが予想した通りだったという。

ローリンソンは2012年に英国で暮らす病気の母の介護のためにテスラを退社した。しかし、その1年後には仕事に戻り、2013年にシリコンバレーの新興企業アティエヴァ(Atieva)にCTOとして入社し、当初はバッテリーサプライヤーだった同社をEVメーカーに脱却させた。

2016年後半にアティエヴァは、ルーシッド・モーターズに社名を改めたが、サウジからの出資を受けるまでは資金調達に苦戦したという。2019年にルーシッドのCEOに就任したローリンソンは、自身の株式の持ち分については明らかにしていない。

EV需要の高まりの恩恵を受けているのはルーシッドやテスラだけではない。アマゾンが出資するリヴィアンは今年、電動ピックアップ車両やSUVの納車を開始する。著名なカーデザイナーのヘンリック・フィスカーは、2022年にスタイリッシュな3万7499ドルのEVクロスオーバー「オーシャン」を市場に送り出す予定だ。アップルもEV市場への進出を狙っていると噂され、GMやフォルクスワーゲン、ヒュンダイ、日産などの大手自動車メーカーからも今年、数十台のEV車両が発売される予定だ。

ガートナーのアナリストのマイク・ラムゼイは、超高級車から参入し、より手頃な価格のクルマを目指すルーシッドの計画が、正しいアプローチだと考えている。「この分野では、まずはハイエンド市場を狙い、忠実な顧客基盤を構築した後に、大衆向け市場に乗り込むのが正しい戦略だ」とラムゼイは話す。

マスクとローリソンは、EVに熱い情熱を抱いている点では似た者同士だが、リーダーとしてのアプローチは全く異なっている。テスラは今や、世界最大の時価総額を誇る自動車メーカーとなり、マスクは世界トップの富豪の座を争っている。

ツイッターで4200万人以上のフォロワーを持つマスクは、良くも悪くもテスラの絶対的なリーダーであり、ブランドのシンボルとして君臨している。一方で、ルーシッドのCEOであるローリンソンはツイッターのアカウントすら持っていない。

「ルーシッドという会社はチームワークなんだ」と彼は話す。「マスクと私との大きな違いをもう一つ挙げるとするなら、それは、私は自分が有名になりたいとは思っていない点だ。ピーター・ローリンソンが誰であるかなんて、顧客にはどうでもいいことなんだ」と彼は話した。

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