超話題作「テネット」。時間を自在に操るノーラン監督の「前科」を検証

超話題作「テネット」。時間を自在に操るノーラン監督の「前科」を検証

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  • 更新日:2020/09/16
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

いよいよ今週末の9月18日(金)からハリウッドの久々の新作にして超大作映画のクリストファー・ノーラン監督作「TENET テネット」が公開されます。

この超大作映画は、ハリウッド映画の復活をかけた勝負作であるため、アメリカでは現在も映画館の再開が認められていないロサンゼルスやニューヨーク、サンフランシスコなど大都市を除いて公開に踏み切るといった、まさに「With コロナ時代」にハリウッド映画はどのような展開が可能なのか、を探る状況になっています。

もし、この「TENET テネット」が失敗に終わってしまうと、ハリウッド映画が尻込みをして「公開延期」を繰り返す事態にさえなり得ます。

では、どのような完成度の作品なのでしょうか?

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まず、「割と内容が難しい作品」というのは、見聞きしていると思います。

海外記事を読んでいると「もしかしたら、ノーラン自身もよくわかっていないのかもしれない」といった言葉を使って「駄作では?」と評しているものもありました。

ただ、それはその人の理解力が追い付いていないだけで、決してノーラン監督自身が分かっていないはずはありません。

なぜなら、キチンと「論理」は成立しているからです。

とは言え、海外の評論家がそう思ってしまうのも分からなくはありません。

そのくらい本作は、内容の大まかな設定はシンプルでありながら、凄い速さで時間が交錯する複雑な面もあるからです。

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そこで、「TENET テネット」を最大限に楽しんでもらうために、今回は「本作の位置付け」を考えることで、「TENET テネット」という作品の意味を解説します。

さらに、実は「TENET テネット」はネタバレを読んでも、より楽しめる面が大きい「強固な作品」(ネタバレで作品の骨格を理解しても、まだ「?」は十分なほど残ります…!)なので、次回は、リピーターに向けて(本作で出てくるロバート・パティンソンが扮する「ニール」の軽い「物理学の講義」のように)作品を解説します。

まず、今回は「TENET テネット」という作品が、これまでのクリストファー・ノーラン監督作の中でどんな位置付けで生まれたのか、を考えてみます。

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クリストファー・ノーラン監督が最初に世の中で認知されることになったのは2000年の「メメント」という小規模な作品でしょうか。

弟のジョナサン・ノーランが書いた短編が原作で、「頭部損傷により記憶が10分間しか保てない前向性健忘」になった主人公が、妻を殺した犯人を追う作品で、コアな映画ファンたちが注目していました。

注目された理由は、特殊な設定上、「展開を終わりから始まりへ進める」といった、時系列が逆向きに映し出される形式が斬新だったからです。

つまり、クリストファー・ノーラン監督は、初期から特殊な設定の作品を作る傾向があったのです。

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そして、初めての大型作品が2005年の「バットマン ビギンズ」でした。

ただ、日本では、渡辺謙がハリウッド映画に出る、というくらいしか話題になっていなく、そこまでクリストファー・ノーラン監督作品というのが人気であったわけではありませんでした。

実は、2006年に日本ではギャガが配給元であった「プレステージ」というヒュー・ジャックマンクリスチャン・ベールのW主演の作品があり、これもクリストファー・ノーラン監督作品を考える上では重要な作品だと思います。

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小説「奇術師」を原作にして、2人のマジシャンを描いた作品なのですが、これがまた「ややこしい映画」なのです。

作風は、やや地味でしたが、結構、分かりにくい構成で、2回見て、「あ~そういう話か」という感じの作品でした。

このように、「通常の映画だと観客を大いに楽しませることができない」と考えているようで、割と「トリッキーな映画を作るのがクリストファー・ノーラン監督」であるのが、この作品で確信に変わりました。

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そして、2008年のヒース・レジャーが悪役ジョーカーを演じたバットマン第2弾「ダークナイト」の完成度が非常に高く、世界興行収入10億万ドル突破という記録的な水準になり、この作品で「クリストファー・ノーラン監督作品」というのが一般にも広く認知されるようになりました。

さらに、この映画で、クリストファー・ノーラン監督はアクション映画が異常なまでに上手いということも証明されました。

この流れで「クリストファー・ノーラン監督作品」という核が定まってきて、2010年の「インセプション」から独自性の強いオリジナリティが爆発していきます。

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インセプション」は、簡単に言うと、「夢の中に入り込む泥棒」を描いています。

ただ、「科学的な設定」や「映像表現」が半端ではなく、これぞ「クリストファー・ノーラン監督」という作品です。

例えば、夢を見る時間は、体感より短かったりしますが、これを「夢では心の動きが速く、時間の流れが遅く感じる」とし、通常「夢の1時間は現実の5分間」としています。

さらに、この「時間の誤差」は、眠らせる薬の調合による脳の活性化にも左右され、調合を「脳の機能が通常の20倍になる」まで上げています。

そして、通常の夢を「第1階層」とし、さらに「夢の中の夢」の「第2階層」として設定します。

さらには、「夢の中の夢の中の夢」という「第2階層」の夢である「第3階層」まで設定しているのです!

この設定で、現実の10時間は、「第1階層」では1週間に感じ、「第2階層」では半年に感じ、「第3階層」まで行くと10年間といった「時間の誤差」が生まれるとしています。

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この「時間の誤差」こそがクリストファー・ノーラン監督が好む、トリッキーな作風を支える核になっています。

ちなみに、「夢から現実に戻る際の合図」として、エディット・ピアフの「水に流して」が使われていますが、これを低速度で逆回転させていたりと遊んでもいます。

この「インセプション」の流れで生まれたのが、2014年の「インターステラー」でしょう。

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宇宙では重力の関係で「時間の誤差」が生じ得ます。

重力が非常に強い場所では、時間の進み方が遅くなるわけです。

インターステラー」では、水の惑星で「宇宙の1時間が地球では7年間」となっていて、大津波に巻き込まれるだけで(地球時間の)23年間も無駄にするなど、この「時間の誤差」が物語を深いものに変えています。

また、この作品から映画の設定に、よりリアリティーを与えるため「物理学」の事象が多用されるようになっていきます。

「ワームホール」という、光よりも速く時空を移動できる概念上の設定や、重力が大きいブラックホール中心の「特異点」などです。

実は、これらは荒唐無稽なものでもなく、物理学者のキップ・ソーン(2017年にノーベル物理学賞を受賞しています)が監修をしているものです。

まさに、この延長線上で生まれたのが、本作「TENET テネット」なのです!

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インセプション」では「夢の中に入り込む泥棒」を描きましたが、「TENET テネット」では、クリストファー・ノーラン監督初の「スパイ映画」となっています。

もちろん、「007」のような通常のスパイ映画ではクリストファー・ノーラン監督作品らしくなく、「TENET テネット」では「時間のルール」から脱出し、第三次世界大戦から人類滅亡を阻止する、という壮大なものとなっています。

この「時間のルール」とは、私たちが常識とする「時間は前に進む」というものです。

では、「時間のルール」から脱出というのは、どういうことなのでしょうか?

まさに、ここで「時間のトリック」を生み出す仕掛けとして、物理学の熱力学などで登場する「エントロピー」という「物質や熱の拡散の程度を表すパラメーター」が登場します。

実は物理学の世界では「エントロピー」という概念により、時間が逆回転する可能性が完全には否定されていません。

そこで、本作では「インターステラー」と同様に物理学者のキップ・ソーンの監修により、未来では「時間が逆回転できる」ようになる、という設定で進みます。

とは言え、もし本当に時間が逆回転すると「呼吸はできるのか?」などの現実的な疑問も出てきます。

もちろん、そんな疑問も含めてキチンと考察して、可能な限りリアリティーのある世界観を描き出しているのです。

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さて、本作「TENET テネット」は、映像も含めてこれまでに見たことのない世界観なので、おそらく1回では理解力がついて行かないような気がします。

ちなみに、私は完成披露試写会の時にグランドシネマサンシャイン池袋のIMAXレーザーGTという最新のIMAX環境で見ましたが、とにかく映像も音響も凄かったです!

本作はIMAXカメラでIMAXフィルムを約49万メートルも使っている、IMAX世界最長を記録した作品のようですが、これほどIMAXが合っている作品もそれほどないかもしれません。

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とは言え、この日は朝から、あまりに隙間なく多くの仕事が入り過ぎて、夜に見た時は疲れ果てていて、何とかユンケルの高いものを買って飲みながら見ましたが、後半の30分くらいは不可抗力で記憶を失っていました(寝落ちです…)。

そこで、比較の意味もあり通常の試写室で2回目を見ましたが、理解度は2回目の方が圧倒的に上がりましたね。

通常の画面でも悪くはなかったですが、やっぱり最高峰のIMAXを体験してしまうと、やや見劣りしてしまうは仕方ないのかもしれません。

いずれにしても、「TENET テネット」は、映画館の上映にこだわり続けるクリストファー・ノーラン監督の集大成的な作品で、映像や音響、世界観なども素晴らしく、この作品こそ映画館で体感する意味が極めて大きいと言えると思います。

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キャストは意外と地味ではありますが、主演はデンゼル・ワシントンの実の息子が「名もなき男」を演じています。

これは、まだジョン・デヴィッド・ワシントンの世間の認知度は高くないので、役名にピッタリだと思っています。

興行収入は15億円は行ってほしいですが、欲を言えば、ハリウッドの命運を左右しそうな新作の超大作映画なので、20億円くらいは目指して欲しいところです。

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