「あなたの病名はALSです」人気声優が難病を告知された日の話

「あなたの病名はALSです」人気声優が難病を告知された日の話

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/06/06
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ALSとはどんな疾患なのか?

「名無しの権兵衛病」の正体を突き止める!
この思いで突っ走ってきた半年余りを経て、ようやく病名を突き止める事が出来ました。
病名は「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」でした。

さぁ、もう名無しの権兵衛病ではありません、これからはこのALSをどのように治療していくかになるはずです。
ところが、この病気は思っていた以上に厄介な病気なのでした。

2019年10月にALSを発症していることを公表した、声優の津久井教生さん。ニャンちゅうの声で人気も高く、精力的に朗読劇なども行って来た津久井さんが自身の身体に異変を感じたのは、2019年3月のことでした。突然転んだ日から、歩行が困難になるほどになったのです。しかし病名を特定するまでには、医師と信頼関係を積み重ね、痛い検査を乗り越えて半年の時間を要しました。現在治療中の津久井さんが率直な闘病生活を綴る連載「ALSと生きる」の第4回は、告知をされた時のお話を伝えていただきます。

津久井教生さん「ALSと生きる」今までの連載はこちら

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2019年11月の津久井さん。「相棒」ニャンちゅうと 写真提供/津久井教生

「最終的には筋肉が動かなくなる」

検査入院でALSであることを診断してくれた主治医は、たくさんの資料を渡してくれました。そしてどのようにしてこの病気だと確定するに至ったかを、長い時間をかけて説明してくれました。この時に「病名を絞るには90%以上の確証をもってして告知できる事、それでもまだ100%ではない事」なども話し、今後の経過観察も大切であると伝えられました。

そしてALSの説明に関しても「難病」というカテゴリーの話から、10万人に数人の患者数であり、現状で1万人余りのALS患者がいるという現状の話をされました。

では、ALSとはどのような病気なのでしょうか?

医師からはこう告げられました。

「筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。大きく分けると上肢から始まるタイプや下肢から始まるタイプが多いです、津久井さんは下肢から始まるタイプであると思われます。

筋肉が動かなくなるので筋肉の病気と思われがちですが、そうではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経『運動ニューロン』が障害をうけて症状が出ているのです。どういうことかと言うと、脳から『手足を動かせ』という命令が伝わりにくくなることにより、力が弱くなり、その結果筋肉がやせていきます。ものすごい個人差があるのですが、最終的には全身の筋肉が動かなくなります。しかしその一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などは概ね正常に保たれることが認められています」

この話の後、自宅に帰ってから自分でもネットで調べてみると、
「早ければ3年くらいで意識があるままに体が動かなくなり死に到る疾患である」
と記されていました。

「治療法はないのですか?」

その後も主治医はしっかりと長い時間をかけて資料と共に病気についての説明をしてくれました。しかし、ALSの「治療法」に関しては驚くほど短い時間での説明になりました。

「このALSは現在において確たる治療法がありません。進行を遅らせると言われているものが、わずかに認定されているだけです。ALSとはそういう難病です」

「治療法がないのですか?」

「はい、リルゾールという飲み薬とラジカットという点滴がありますが、あくまでも進行を遅らせるという治療になります」

「この2つだけですか?」

「他にも現在色々な治験が行われていますが、認定されている代表的なものはこの2つです」

話はここで終わりました。

ある程度覚悟していたとはいえショックでした。いえ、大ショックでした。
病名が分かれば治療法が確立し、それに向かって主治医と進んでいくものであると思っていたので、盛大な肩透かしを食らった感じです。

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病名はわかっても治療法はわからない…Photo by iStock

「他に何か質問はありますか?」

「何かやることってありますか?」

「やること?」

「何かこのALSってやつに対してやれることです」

「好きな事をやってください」

「好きな事?」

「ご自分が良いと思われることです。」

ALSという疾患は、確固たる治療法をバックボーンとして、治療を進めていく事が出来ない病気なのです。その上にものすごく病状の個人差が激しいものなのです。

告知されて夫婦で話したこと

この入院時の主治医からの病名告知と病気の説明は、退院日が決まってから退院前日に病院内の個室で受けました。退院したのち、難病に関する申請をしたほうがいいので、それに合わせて「患者支援室」の方の指導のもと、色々申請資料の収集を始めることになりました。

患者である私もそれなりに話をされていて知っていましたが、やはり実働は家族になるようです。これまでもそうでしたが、ここからは家族、特にかみさんのありがたみを実感することになっていきます。

難病の申請は「申請した期日」がスタートになるものがあるので、早めに動いた方がいいのです。

主治医の宣告を受けて8人部屋の病室にすぐに戻る気になれず、誰もいない談話スペースで話しをしました。

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Photo by iStock

「やっぱりALSの診断だったね、参ったな……」

「この入院の期間で分かって良かったね、良く頑張ったと思う」

「あぁ、ありがとう。そうだよね、また経過観察じゃ、何のために痛かったのか」

「痛かった分だけ病名が分かったんだね」

「うん、名無しの権兵衛の病気が分かってすっきりしたよ」

「ALS、まだよくわかんなくて、正式な病名言えないね」

「うん、治療法が無くって、『好きにして下さい』ってショックだな」

「それだけすごい病気という事なんでしょ」

「だから『難病』って言われてるんだよな・・・」

「あなたって、こういう節目節目で派手な事やるよね」

「そうだよな、またド派手な難病に見込まれたもんだ(笑)」

「本当にね(笑)」

短い会話でしたが、最後に笑ったのを覚えています。

この時から、かみさんは難病申請に踏まえての準備に入ったのでした。私も行政の決めた「難病患者」として進まなければならないと気持ちを切り替えました。ましてや、かみさんが先を歩いていて「おいでおいで」をしている感じでしたから、ものすごく助かりました。

病名は分かってもALSの事はほとんど知りません、でも方向ははっきりとしました。

舞台役者のような気分、 でもこれは現実

私の検査入院中の主治医も、現在の担当医も、まっすぐに患者の顔を見て説明してくれるタイプでした。

お医者さんという職種は「冷静」を基盤としているものであることは多くの方が知っていると思います、ドラマなどでも良く描かれているヒューマンの部分です。
嘘偽りなく現状を患者に伝えるという事、そこに変な感情を入れたりすると後々のお互いの関係が悪くなってしまう、しかしながら時にそれは「冷たい態度」と患者に取られることがあって、コミュニケーションは基本的に難しいものです。そして患者は、自分の病気の種類が重ければ重いほど、本人が思っている以上に冷静ではない状態にあるものなのです。

私は極力、話を冷静に受け止めることを心がけるタイプだと思います。一連の入院中の関係者の方々との会話で自己発見することができました。
とにかく受け入れようとしちゃうのです。取り乱すのが嫌なのですね、良いカッコしいの典型です。患者は様々なタイプがいると思います、でもその自分を好きになれる事、そして周囲に認知してもらう事で、その後の患者生活が楽になります(笑)。

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9月の入院中、ニャンちゅうも一緒だった 写真提供/津久井教生

舞台の台本で大げさに言えば、患者は「悲劇のヒロイン(ヒーロー)」と「渦中のヒーロー(ヒロイン)」です。

「なんで私ばかりがこんなに辛い目にあうの、酷いわ!」
という悲劇のヒロイン。

一方「これは私に与えられた試練なんだ、これを乗り切ることが使命だ!やるぞ!」
という渦中の中で頑張ろうとするヒーロー。

そしてその患者の周囲にいる人たちは、それを取り巻く配役です。
家族もお医者さんも周囲の方も、ヒロインとヒーローのレギュラー共演者なのです。
通院から転院、そして検査入院とドラマが進めば進むほど、自分のタイプが見えてきますし、それは共演者の影響も少なからずあるものだと思うのです。

患者のタイプが周囲に受け入れてもらえるのか? そうではないのか? それによって患者は様々なストーリーを歩んでいく事になります。ドラマの台本だとそうなるのです。

しかしこれは現実の話です。事実は小説よりも奇なりといいますが、台本通りになんかいかないものなのです。

お堅いだけではなかった医師たちとの会話

「必ず貴方の病気を突き止めて見せるぜ!」と確約してくれた、舞台俳優のような教授は、回診のたびに、私の事を「言葉のプロ」と呼んで親身にしてくれました。その教授がトップの一団です、メンバーは個性的なプロ集団でした。私のいる前で色々な病気の説明をしながらその場で意見交換をし、宿題も出していき、検査の方向性も決めます。一団でやって来て、各ベッドの違った病気の患者さんに的確なアドバイスをして風のように去っていきます、どこでカメラが回っているんだぁ~と思うほど、ドラマの中のような風景でした。

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まるで医療ドラマのような「チーム」だった Photo by iStock

私を外来の時から見てくれていた医師は、何か冗談を言うと冷静に「そう来ましたか」と受け答えする研究者タイプで、検査のエキスパートです。
針筋電図検査は体を固定して反応を見るのですが、全身のいたるところに針を刺して電気を流していきます、モニターのある雰囲気抜群の個室で検査をされました。

「まるで仮面ライダーの改造人間の手術を受けた感じじゃないですか、何かこれの影響で変身できるとか、特殊な能力とか身につかないのですか?」

私はあまりに痛かったけど、ちょっと笑いを取るつもりで言ったのですが、医師は真顔で数秒考えて、

「う~ん、残念ながら、そういう事例は無いですね」

「先生、ここ笑うところ!」

とツッコムと、ここで医師はニヤッと笑いました、うわぁっやられました、クールだなぁ。

入院時の主治医は熱血漢タイプです、入院初日に私が彼の前で転んでしまった時、

「はい、津久井さんアウト~、院内フリーは剥奪です、棟内でおとなしくしていてください、転んだらアウト~」

「入院で分からない事があったら何でも聞いてください、分かっていることは全てお答えします、ただ、看護師の方が知っている場合が結構あります」

「他の科であれば、この検査画像を見て、脳も肺も内臓も全く問題が無いので『異状なしで健康です』という診断を出すところから、原因探求をスタートするのが神経内科です、本当に何なんだぁ~っ、なんです」

「何なんだぁ~」はALSでした、医師の皆さん、見つけてくれてありがとう!

そして退院日が決まってからは、経験豊かな看護師さんや理学療法士の皆さん、作業療法士の皆さんにリハビリや自主トレのアドバイスをたっぷりとレクチャーしてもらいました、この専門分野の皆さんも個性豊かで、次のステップのヒントをたくさんもらいました。

さぁっ、気持ちを切り替えてALSと生きていく日常生活が始まります。

津久井教生さん「ALSと生きる」今までの連載はこちら

津久井さんが5月に収録した読み聞かせ動画はこちら↓

出典/youtube 81produce official

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