鶏1600万羽が「殺処分」され、卵の値段は2倍に...鳥インフル「パンデミック」の深刻な弊害

鶏1600万羽が「殺処分」され、卵の値段は2倍に...鳥インフル「パンデミック」の深刻な弊害

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/03/19
No image

卵の価格が高騰している原因

物価の優等生と言われてきた卵の品不足、価格の上昇が話題になっている。卵の卸売価格の目安となる「JA全農たまご」の1キロあたりの価格は3月16日時点で345円(Mサイズ)に達し、統計を取り始めてから最高値を記録した。去年2月の平均価格175円と比べて、97%もの値上がりだ。

この理由として、ロシアのウクライナ侵攻でとうもろこしなどの飼料価格が高騰しており、また、鳥インフルエンザの感染拡大による鶏の殺処分の増加により、卵の出荷数が減少していることがあげられる。

卵を大量に使う飲食店からは悲鳴の声が上がっているし、スーパーでの品薄や価格の上昇に困惑する消費者も多い。3月14日には、卵不足を理由にマクドナルドが「てりたま」の一部店舗での販売を休止していると発表した。

No image

Photo by gettyimages

野村農林水産大臣は2月14日の記者会見で、鳥インフルエンザの今シーズン(今冬)の発生は、合計25道県76事例で、殺処分羽数が1478万羽となったと述べた。採卵鶏(レイヤー)では飼養羽数の約1割を殺処分したことになるという。

その後さらに数字は増えて、殺処分でおよそ1600万羽の鶏の命が奪われたということだ。なぜこのように大量の鶏を殺さなければならないのだろうか。犬や猫がこのように殺されたらたいへんな事態だろう。「家畜はどうせ殺して食べるのだから、殺処分しても構わない」と思う消費者が多いのか、批判の声はそれほど大きくない。

また、殺処分のために自衛隊や自治体の畜産関係以外の職員も動員されている。命を奪う作業に従事せざるを得ない者のメンタルも気にかかるし、また素人が動物を苦しませずに殺処分できているかも疑問だ。

ウイルスの源は水鳥だった

今流行している鳥インフルエンザは、H5N1亜型というA型インフルエンザウイルスのひとつだ。2003年に致死性の高い「高病原性」に変異し死亡率が高まったこのH5N1亜型インフルエンザはいくつかの意味で強烈だ。

A型インフルエンザは人や豚やその他多数の動物に感染するもので、その全てが鳥由来。もともと自然宿主として水鳥たちのなかで循環していたウイルスが、家禽(鶏やガチョウ)に感染し、さらには人、豚へと拡大し、パンデミックを引き起こしてきた。

インフルエンザはオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)に分類され、世界で最も多くの人間を殺したパンデミック=スペインかぜも、1957年に流行し100万~200万人が死亡したアジアかぜも、1968年に流行し50万人が死亡した香港かぜも、2009年に15~50万人が死亡した豚インフルエンザも、元をたどれば鳥インフルエンザだ。

No image

Photo by gettyimages

もともと水鳥たちが持っていたインフルエンザウイルスは、「低病原性」と呼ばれるあまり致死性のない弱毒性のウイルスだった。

それが集約的に飼育されていることが多い家禽に伝染し、多数の宿主に短期間で出会ったウイルスが感染を広げ、強毒化し、致死性の強い高病原性鳥インフルエンザに変異していった。この変異が過去に鳥のパンデミックを引き起こし、人間の被害とは比較にならないほどの甚大な被害をもたらしてきた。

アニマルライツセンターによれば、現在の鳥インフルエンザは、水鳥の中で循環していた低病原性のウイルスが、家禽に感染して高病原性に変異して野鳥へ逆流。感染した野鳥がさらに感染を全世界にひろめ、狭いところに押し込められた工場畜産の家禽がウイルスの絶対量を一気に増大させたという。その過程で鳥インフルエンザは様々なタイプのウイルスと再集合し、変異を繰り返してきた。

感染がこれほどまでに拡大してしまった要因は、はたして何だったのか。後編記事『鳥インフルエンザ「感染拡大」を引き起こした、日本の養鶏場の「ヤバすぎる実態」』でレポートする。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加