パワハラで集団辞職が相次いだ...6代目社長の「言葉の暴力」

パワハラで集団辞職が相次いだ...6代目社長の「言葉の暴力」

  • 幻冬舎ゴールドオンライン
  • 更新日:2021/10/14
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お客様を喜ばせようと必死な一方で、従業員にはパワハラ状態の売上至上主義を貫いていたという飯田屋6代目店主。自分は正しいと信じて疑わなかった6代目店主はどうやって自分の失敗に気づくことができたのか。※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

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お客様であふれるお店は実現できたが…

■正論は一方的なただの暴力

とにかくお客様を喜ばせようと必死な一方で、従業員には高圧的な売上至上主義を貫いていました。ミスがあれば大声で怒鳴りつけ、売上が上がらなければ頭ごなしに駄目出しをする。「お客様を喜ばせるため」という大義のもと、絶対に言い返せないような正論で従業員たちを追い込みました。

「嫌われたってかまわない」
「いい店をつくるためなら、いつだって嫌われ役を買って出てやる」
「さぁ、嫌ってくれ! その代わり、なんでも言える権利が僕にはあるからな」

僕は本気でそう思っていました。

経験の浅い若造に、後継者というマウントポジションから一方的に正論で追い込まれたのですから、さぞかしプライドを傷つけられていたことでしょう。

一方的な正論はただの暴力にすぎません。それにまったく気づいていませんでした。

誰よりも料理道具を勉強して、お客様に喜んでもらえる接客をこなし、誰よりも売上をつくっているというおごりがありました。経営者がすべき仕事に加えて、メディアへの対応もこなし、誰よりも努力をしている自負がありました。

従業員たちができないのは、ただ単に努力が足りないからだと考えていたのです。

しだいに、誰もがミスを隠すようになっていきます。そうした彼らのずるさを発見すれば、なおのこと怒りは込み上げてくるのでした。

売上が上がらなければ怒鳴られ、怒られればさらに萎縮してミスを起こし、ミスをすればまた追い打ちをかけるような罵声を浴びせられ、それがわかっているからまたミスを隠したくなる――何をしても怒られるのではないかという抜きがたい恐怖心が負のスパイラルをつくりあげていました。

突然辞める従業員は後を絶ちません。消えた従業員が残した仕事は山積みになり、残された者の負担は大きくなるばかり。ただでさえオーバーワークだから、これまで簡単にこなせていた仕事にもミスが起こりはじめます。

納品から帰ってくると「数量が足りていない!」と、クレームの電話が頻繁にかかってくるようになりました。数を確認する単純作業ができないほどに、心の余裕がなくなっていたのです。

店頭でご購入いただいた商品を、配送するだけの作業にもミスが起こります。「購入したものと違うものが届いた」というお客様からのクレームが続きました。

その理由をのちに知るのですが、ストレスを抱えた従業員が僕への嫌がらせに商品を取り替えていたのでした。不満のはけ口をお客様へ向けるほど、僕は彼らを追い詰めてしまっていたのです。

それでも僕は、どんなに従業員が頻繁に変わろうが、採用して2週間で辞めようが、どれだけクレームが増えようが、平然とした顔をしていました。経営者としての威厳を保つためには、弱みを見せてはいけないと思っていたからです。

「辞めていくほうに問題がある」「あいつらは根性がないんだ」「なんで僕はこんなにも人に恵まれないんだ」と、辞めていった人たちに指を向け心の内でののしることで、本当の原因から目をそらしていたのです。

まだ、自分の弱さを受け入れられずにいたのです。

精神的に追い詰められ、食べものもろくに喉を通らなくなりました。神経は過敏になり、不眠が続くようになります。いつも微熱状態で、どんどん痩せていきます。自分自身の体が壊れていくのを感じました。

あんなにも夢に見た、売上が上がり、お客様でいつもあふれている評判の店を実現できたのに、僕の心はまったく穏やかではなく、幸せとはかけ離れていました。そこにいるだけで苦しみを感じる、まるで地獄のような店になっていたのです。

経営者の仕事は従業員の幸せのために働くこと

■三人目の神様との出会い

もともと、知らないことを学ぶのが好きでした。売上につなげようと、マーケティング系セミナーには積極的に参加しました。SNS集客、販促、POP、輸出、多店舗化など多くのビジネスセミナーに頻繁に足を運びました。

ある日、ある勉強会への参加を母から強くすすめられました。「人と経営研究所」の大久保寛司さんの勉強会でした。「教えないで、気づきに導くプロ」として全国に熱烈なファンを持ち、いい会社を育てる組織風土改革の第一人者として有名だといいます。

しかし、僕は世間で言われる「いい会社」などきれいごとだと思っていました。いい会社の条件とは絶対的な売上の大きさだと考え、そのために全力を尽くしていました。

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誰よりも料理道具を勉強して、お客様に喜んでもらえる接客をこなし、誰よりも売上をつくっているというおごりが…。(※写真はイメージです/PIXTA)

そんな僕に、母は「あなたに必要なのはこれだから!」と、半ば強引に申し込んでしまったのです。母は昔からこれと思ったら、一直線に進むようなところがあります。そうなってしまうと、断ることのほうがたいへんです。

渋々、気が進まないままに会場に向かいました。ところが、この日の大久保さんとの出会いが僕の運命を大きく変えていくのでした。

「経営者の仕事とは、なんだと思いますか?」

穏やかな表情と鋭い眼光を持った大久保さんは、参加者を見渡しながら問い掛けました。心の中で、はっきりと「売上を上げ、利益を守り、会社を潰さないことに決まってるじゃないか」と答えました。

さらに大久保さんは「人は何のために働くのでしょうか?」と問います。

僕はまた心の中で「お金でしょ? それと休みが多くとれて、ほかの会社よりいい条件かどうかだってば!」と答えます。

しかし、大久保さんの答えはまったく違ったのです。

大久保さんは穏やかな声で言います。

「人が働くのは、自分と家族の幸せのためです。経営者の仕事とは、従業員の幸せのために働くことです」

大久保さんはさらに続けます。

「ルールや賃金など外的要素を変えても、従業員が変わるのは一瞬です。仕組みをつくれば表面上はとりつくろえても、人の本質は変わりません。人は、人を変えることはできません。ただし、人が自ら変わる環境をつくることはできます。経営者の仕事とは、その人がその人自身の力で変わる取り組みを全力で支援すること。その人の中にあるいいもの、光り輝くものを引き出してあげることです。そのためには、経営者やリーダーは人格を磨き、信頼できる人にならなければなりません」

大きな衝撃を受けました。僕の考えとまったく違うものだったからです。

僕は会社を潰さないために売上を上げ、利益を守り、会社の知名度向上にも尽くしてきました。それなのに、従業員たちは幸せではなかったというのです。

正直、まったく理解できませんでした。そんな僕に、大久保さんは言いました。

「あなたは、まだ自分に指を向けていない」

まったく意味がわかりません。ただ、その言葉はずっと僕の心に引っ掛かり続けました。

「まだ自分に指を向けていない」という問い

■経営者の本当の仕事とは?

セミナーが終わると、大久保さんに言われた言葉を引きずったまま会社に帰り、仕事に戻ります。すると、いつものようにミスが起こり、従業員が入社してはすぐに辞めていくという現実に引き戻されます。

「なんでこんな単純なミスをするんだ!」
「このミスのせいで、お客様から悪い噂を立てられたらどうするんだ!」
「またすぐに辞めてしまった……。なぜ? なぜ? 僕の何が嫌だっていうんだ!」

すると、ミスを指摘していたときの自分の姿が思い浮かびました。相手を指さして、二度と間違いが起きないように指摘している姿です。

そのとき、ハッと気づいたのです。僕はいつも指を人に向けて責め続けていたのです。

「あなたは、まだ自分に指を向けていない」

大久保さんに言われた言葉が頭に浮かびます。

「自分に指を向けるって、もしかして……」

飯田屋に入社してきたばかりの従業員たちは、誰もが夢や希望に目を輝かせて働きはじめます。ところが、月日が経つにつれ、その輝きはみるみる失われ、一人二人と去っていきました。

初めから辞めようと思って入社した人は、誰一人としていないはずです。

それなら、なぜ辞めざるを得なくなったのでしょうか? それは、辞めたくない人が辞めざるを得ない環境がそこにあったからです。

誰もが、自らの能力を生かせる場を探していたはずです。それにもかかわらず、細かいミスを見つけては指摘し、頭ごなしに怒鳴りつけました。

ある日、トイレにペーパーがセットされていないミスがあり、トイレ掃除の担当者を見つけ出して怒鳴りつけました。トイレ掃除の基本すら、なぜできなかったのでしょうか?

それは圧倒的に従業員の数が足りず、急いで店頭に戻る必要があったからです。急がなければならない現場があったのです。ミスをしたい人なんて、誰一人いません。

つまり、原因は従業員たちの「外」にありました。そこには、ミスをしたくない人がミスをしてしまう環境があったのです。

では、その環境の責任者は誰なのか? ほかの誰でもない、僕でした。

従業員たちが一斉に辞めてしまった理由は「僕と一緒に働きたくないから」でした。

やっと気づいた集団辞職をした本当の理由

これまでの僕は、一方的な価値観でミスを責めては、「駄目なのは従業員たちだ」と決めつけていました。その一方で、自分自身は優秀な経営者だと思い込んでいました。

「お客様のため、会社のため、従業員のため」と言いながら、自分のことばかり考え、ミスが起きるのはすべて自分以外の責任と考えていたのでした。

大久保さんの言葉を思い出します。大久保さんは「従業員は、あなたや、あなたの会社のために働いているのではない。自分と家族の幸せのために働いている」と言いました。これまでを振り返ると、僕は今までに一度も、従業員の幸せを考えたことがありませんでした。1円でも多くの売上を上げて、1円でも多くの給与を払ってさえいれば、従業員は喜ぶだろうと思っていました。

「幸せ」を感じられない職場で、長く働いてくれるわけがありません。どれだけ給料が増えたとしても、どれだけ休日が多くても、それが幸せにつながるとは限りません。

僕と一緒に働くこと、それ自体が従業員を不幸にしていたのです。

「だからみんな離れていったのか……」

やっと僕は従業員が離れていく本当の理由を理解したのでした。

僕は経営者失格でした。僕にリーダーの資格はありませんでした。

飯田屋には、料理道具を求めて全国から多くのお客様が集まります。そのお客様だけが、僕にとっての喜ばせるべき対象者でした。

しかし、ほんの少し視野を広げてみれば、一緒に働く従業員も大切なお客様の一人であり、喜ばせるべき大切な仲間だったのです。いちばん身近にいる従業員を幸せにできずに、より多くのお客様を喜ばせることなどできるはずもありません。

僕が本当にすべき仕事は、従業員に1円でも多く給与を支払うことではなく、一つでも多くの幸せと喜びを感じてもらえる環境を整えることだったのです。

「従業員たちが幸せを感じられる職場をつくりたい……」
「従業員たちからの信用を取り戻したい……」

そう、強く思いました。

飯田 結太
飯田屋 6代目店主

飯田 結太

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