
日本サッカーの成長が現れるのは、トップリーグや代表チームだけではない(写真はイメージです) 撮影:中地拓也
日本サッカーの成長ぶりは、世界も驚くほどだ。先日は男子代表がドイツとトルコに快勝し、女子代表はワールドカップ2度目の制覇へ再スタートを切っている。だが、日本サッカーの本当の充実ぶりを示す下部リーグを、サッカージャーナリスト・後藤健生がリポートする。
■選手たちの適正
ところで、前半2ゴールを決めたオルカ鴨川の鈴木陽は24歳。そして、1点を返したニッパツ横浜の片山由菜は21歳。ともに若いFWだった。そして、鈴木は168センチ、片山が169センチと女子サッカー選手としては大柄で、当たりにも強い選手だった
両チームにポストプレーができるCFタイプのFWがいることで、ゲームは引き締まったものになった。
しかも、その他のポジションでもパス出しのうまいボランチとか、クロスのうまいサイドアタッカーなど、それぞれのポジションに戦術的狙いを持ってプレーできる選手がいた。
たとえば、ニッパツ横浜は55分には片山の右サイドからのクロスに、逆サイドの蔵田あかりが詰めて2点目を返したし、直後の60分には中央の小須田璃菜が左に開くと、そのボールをサイドバックの中居未来がクロスを入れ、河野が決めて同点とした。
■混沌の優勝争い
サイドを使って攻め、正確なクロスを入れて、鴨川のゴールを脅かした。
冷静にボールを配給する小須田はこのチームの中心としてゲームを組み立てたし、また、サイドの選手は正確なクロスを上げ続けた。また、FKやCKなどで試合が中断しても、プレーを再開するまでに時間も早かった。
もちろんWEリーグのトップクラスと比べれば、ボールテクニックの精度とかプレー強度などは明らかに劣っている。男子の関東リーグの試合と同じことだ。
両チームとも、勝利を逃したのは残念だっただろう。だが、鴨川としては勝って勝点差を4ポイントに広げて優勝争いで大きく前に出たかったはずだ。だが、引き分けたことによって首位の座はキープできた。
一方、ニッパツ横浜としては、もちろん勝利して首位の座を奪回しておきたかったところだが、勝点差1を広げられることなく、1ポイント差で逆転優勝の可能性を残すことに成功した。
こうして、“痛み分け”といった試合内容で鴨川での首位決戦は引き分けに終わった。そして、なでしこリーグでは消化試合数が少ない伊賀FCくノ一三重も勝点3差でニッパツ横浜を追っており、優勝争いは最終節まで混沌として持ち込しとなりそうだ。
■10年前にはなかった光景
先ほど、5部リーグの試合も、それなりにテクニカルであり、また戦術的な試合だったということを紹介したが、女子の2部リーグでも、あるいは(たいへんに失礼な言い方だが)南房総の小さな港町のクラブでも、これだけの試合ができているのだ。
考えてみれば、これは大したものと言うしかない。
そして、男子5部リーグの試合にも、女子の2部リーグの試合でも、それぞれ熱心なサポーターが来場していた。
こんな光景は、たとえば10年前、つまり日本女子代表(なでしこジャパン)が女子ワールドカップで優勝した頃には考えられないことだった。当時は代表クラスの一握りのトップ選手たちが抜きんでており、当時日本のトップリーグだった「なでしこリーグ1部」でも、下位チームは戦略性もなく、ただボールを追いかけるだけのようなチームがあった。
男子5部リーグでも、女子の2部リーグでも、ちゃんとした試合が見られるようになったというのは、フットボールというスポーツが日本の社会の隅々にまで浸透してきた証拠でもある。
また、人数は少ないにしても、Jリーグ並みのサポーターがいて、試合中は声をからして声援を続けている。「Jリーグの理念」は、Jリーグの枠を越えて社会に浸透しているようだ。
女子の日本代表が女子ワールドカップで自分たちでボールを動かす素晴らしいサッカーを披露し、また、男子の日本代表がワールドカップでドイツ、スペインを破り、またアウェーでの親善試合でドイツ代表を圧倒することができたのも、日本にフットボールが浸透したからこそ可能になったのだ。
日本人の若い選手たちが、プレミアリーグやラ・リーガで活躍しているのも、日本のサッカーが広い裾野を展開し、全体がレベルアップしているからこそなのだ。
この週末は、下部リーグの試合を観戦して、そんなことを考えさせられたのである。
サッカーの話題がJ1の優勝争いや代表チームのワールドカップ予選などに集中してしまうのも当然のことだとは思うが、それを支えている下部リーグにも注目すべきだろう。
後藤健生