山戸結希監督が描く「少女の自意識」はきっと表現の世界を変えてしまうだろう

山戸結希監督が描く「少女の自意識」はきっと表現の世界を変えてしまうだろう

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  • 更新日:2017/11/14

あなたは今大注目の「天才」とも評される映画監督・山戸結希を知っているだろうか?

まだ20代である彼女の映画監督キャリアは、大学在学時に映画研究会に所属したことから始まった。そこで撮影した、思春期の女の子たちの複雑な心情を描いた作品『あの子が海辺で踊ってる』を発表すると、学生映画祭で賞を受賞し、いきなり処女作から注目を集める。2013年4月には、バンドのおとぎ話が出演・音楽も担当した『おとぎ話みたい』を「MOOSIC LAB 2013」で初公開し、グランプリを獲得。その流れを汲んだ作風と言える、東京女子流の映画初主演作『5つ数えれば君の夢』を経て、2016年には小松菜奈・菅田将暉がW主演を務め、今までのキャリア史上、商業的に一番大きい規模の作品『溺れるナイフ』が公開された。

また、映画以外にもいくつかアーティストのMVを撮っており、ここ1年程度の間に乃木坂46“ハルジオンが咲く頃”、Little Glee Monster“はじまりのうた”、RADWIMPS“光”なども手掛けた。そしてつい先日公開されたNGT48の新曲“世界はどこまで青空なのか?”のMVも、山戸監督が手掛けた作品となっている。

このMVはショートストーリー含めた12分に及ぶ作品で、シングル初センターを務める荻野由佳が、アイドルを目指す女の子を演じている。崖の上から荻野が「私、ずっとずっとアイドルになりたかった」と振り絞るように叫ぶ冒頭に始まり、たったひとりで「アイドル部」を立ち上げて、仲間を募りながらアイドル活動に打ち込んでいく。最初はその活動を遠目に見ていた女の子たち(他メンバー)も、次第に彼女の熱意に突き動かされていく――という青春ストーリーになっているが、最後に泣きながら「この空の下で歌って踊れていれば部活も、彼氏なんていらない」、「私の人生アイドルしかなくたっていい」と苦しそうに独白するシーンは衝撃的だ。夢だったアイドルへの道を選ぶ一方で、今後そのために選べない夢も出てくる可能性を示唆しているかのようなこの演出は、「ひとりの生身の少女」としての荻野の人生を映し出している。

山戸監督と言えば「少女の過剰な自意識」の描き方が独特であり、それが「天才」と呼ばれる大きな所以であることが知られている。最初に『おとぎ話みたい』を観た時、山戸結希は「映画監督」というよりは、「少女特有の自意識を映像という手段を使ってなるべく100%近く具体化するプロフェッショナル」に近いと感じた。少女や女性ならではのヒステリックや過剰なロマンチシズムは、ただそれを表面的にそのまま描くだけではエキセントリックなものにしかならないが、実際は肉体の内的要因だったり、女性ならではの脳の仕組みに起因していることだ。そのまま映し出すだけでは表現しきれないそれを、女性のホルモンや柔らかい肉体をつくる筋肉、細胞すらも匂わせて描き出しているように感じる。その手法としてモダンダンスだったり、日記や詩を朗読しているかのような、一人演劇チックともいえる長台詞を用いることが山戸作品の大きな特徴である。

山戸監督は大学時代、哲学科で倫理学を専攻しており、将来的には学者になるビジョンもあったそうだ。哲学もそうだが、学問というのは全てを言葉や式に当てはめていくことだと思う。しかし結局、言葉というのはアバウトに決められた記号でしかなく、全ての感情は、100%の正確性を持って表現できることなど1つもないのかもしれない。特に少女時代の憂鬱というものはより感覚的で難解なものだ。『5つ数えれば君の夢』の劇中に「感覚は共感できないから『感覚』である」といった、印象的な言葉が出てくるが、山戸監督はそれを識っているからこそ、その難解さに言葉と映像で挑んでいるのかもしれない。

山戸監督の作品を観ていると、女である自分の個人的な所感として、勝手に涙が出そうになることがある。それは感動や悲しさではなく、少女時代を経て今に至る中で、きっとどこかで感じていたはずの言葉にさえならなかった感傷と、再び出会ったかのようなシンパシーが、身体のどこかで反応しているからではないかと思う。映画はもちろん、MVやそのほかの作品においても、「山戸結希」というレンズ越しに独特な味わいをもって映し出される「少女の自意識」は、今後もっと表現の世界に特異な影響力を与えていく予感がしている。(渡邉満理奈)

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