転換期を迎えた世界の不動産投資市場

転換期を迎えた世界の不動産投資市場

  • ZUU online
  • 更新日:2016/11/30
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■はじめに

2007年から2008年に起こった世界金融危機(Global Financial Crisis、以下GFC)の後、各国で金融緩和政策がとられたことにより、投資用不動産への資金流入が加速し、世界の主要都市で不動産価格が上昇してきた。しかし16年に入り、不動産取引の減少が顕著になり、不動産投資市場は転換期を迎えている。

きっかけは、2015年末の米国金利引き上げ、2016年2月の英国EU離脱に関する国民投票実施の確定などが考えられる。同時に、不動産価格が上昇し続けていることへの警戒感、利回りを確保したい投資家が物件を売却せず取引される不動産が減少していることなども要因となっている。

現在は、米国の政権移行を控え、不動産市場では不確実性と成長期待が錯綜している状況にある。本稿では、主要国の投資用不動産データから、これまでの市況と現在の状況を概観し、今後の方向性を探る。

■世界の各地域で不動産取引量は減少傾向

2016年に入り、グローバルに不動産投資取引が減少している。RCAのデータによれば、2016年1Q~3Qは、各期とも前年同期比マイナスで、直近の2016年3Qは-15%となった。

四半期ごとに欧州中東アフリカ(以下EMEA)、アジアパシフィック、アメリカ大陸の分類で見ると、アメリカ大陸は2016年1Qは前年同期比-19%と減少幅が大きかったが、Q2、Q3は、それぞれ-4%、+3%と前年と大差ない水準を維持した。

一方でEMEAは、2016年に入ってからの前年同期比で見ると、Q1:-35%、Q2:-15%、Q3:-41%で、英国においてEU離脱に関する国民投票を行うことが決まったQ1から、既に大きく減少に転じていたことが分かる。

世界全体の取引額の過去4四半期平均は、GFCの影響前の2007年4Qが3,102億ドルで、その後、取引の大幅減少を経てから回復し、2013年4Q以降は3,100億ドル超を維持している。しかしピークは、2015年4Qの3,381億ドルであり、取引量減少のトレンドはより確実なものになってきている。

■投資用不動産の国別シェア

MSCIが推計した投資用不動産の国別市場規模では、2015年末時点で米国が36.1%を占め、次いで英国10.0%、日本9.3%であった。これを2009年末時点と比較すると、米・英がシェアを高めた一方で、日本、ドイツ、フランスなどの他の先進主要国のシェアは縮小していたことが分かる。

要因はいくつか考えられるが、GFC後の英米不動産価格の下落が著しかったことの影響が大きい。その後、不動産価格が反転すると英米不動産価格は下落前の水準を超えて上昇し、上昇幅は他国を大きく上回ったことから2015年の市場シェアが拡大した。さらに従来の欧米年金を中心とした機関投資家に加えて、新興国の資金も英米市場に流入したことも影響している。

中国本土、台湾の保険会社が海外不動産投資に対する規制緩和の後押しもあり、欧米の主要都市で不動産投資を拡大しており、これも市場シェア拡大に寄与していると思われる。また、GFC後に不動産投資リスクを低減する方針となった米国年金基金などの機関投資家が、賃料収入の安定した低リスクの不動産投資に注力したことも、新興国への投資を抑制し、英米への投資が増えた要因と推察できる。

■商業用不動産価格指数はロンドン、米国主要マーケットで変調

英、米、日の商業用不動産価格指数の推移を示した。これらの指数は実際の取引データを品質調整したリピートセールス法による。日本については、指数の開始時点が2008年2Qで期間が短いことから、オフィス価格指数(*1)も記載した。

日本の商業用不動産価格は、いずれの指標でも回復基調にはあるがGFC前の水準に達していないことが分かる。一方で、米英はともにGFC前の水準を超えて価格が上昇している。日本の商業用不動産価格の上昇が米英に比べて抑制的である要因として、経済回復が緩慢で賃料が上昇に転じるのに時間がかかったこと、新規供給が賃料上昇を抑制していることが考えられる。

2015年12月に米国で政策金利が0.25%引き上げられると、米国の主要マーケット(全用途)の商業用不動産価格指数は一旦下落に転じた。その後、利上げの見送りが続く中で、指数も再び上昇して推移している。この間、米国の主要マーケット以外(全用途)は、緩やかながら上昇を続けており、利上げをきっかけとした価格調整は、より価格の上昇幅が大きかった主要マーケットのみで見られた。

また、英国ではロンドン中心部オフィス価格指数が2016年3月をピークに下落に転じ、9月までに7.4%下落した。英国がEU離脱の国民投票を行うことが決まったのは2月20日であるが、投票の結果を待つ前に既にリスクが認識され、価格は先んじて下がり始めていた。ロンドン中心部オフィスについては、EU離脱の影響が大きい金融セクターが所在することに加え、米国の主要マーケット同様にそれまでの価格上昇幅が大きく価格調整されやすい状況にあったことも下落の要因と考えられる。ロンドンを除く英国オフィスについては緩やかな上昇基調が続いている。

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(*1)大和不動産鑑定が公表する「オフィスプライス・インデックス」。年間純収益を還元利回り(キャップレート)で割り戻して作成したインデックス。総収益の査定にあたり賃料は「オフィスレント・インデックス」(三幸エステート・ニッセイ基礎研究所)を採用。総費用、還元利回りは大和不動産鑑定が査定した数値を採用。
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■米・英・豪・日の不動産インカム・キャピタルリターン

不動産のトータルリターンは、賃料収益をベースにしたインカムリターンと、不動産評価額の増減ベースのキャピタルリターンに分解することができる。

各国の年率リターンの推移をインカム・キャピタル(棒グラフ)、トータル(折線グラフ)に分けて示しているが、2016年に入り、米・英・オーストラリアでキャピタルリターンが低下し始めている。英国以外ではキャピタルリターンはプラスを維持しており、不動産評価額はまだ上昇を続けているものの、上昇幅が縮小傾向にある。英国は、キャピタルリターンが2016年3Qに-0.6%となり評価額はマイナスに転じた。

各国のリターン増減を比較すると、米・英のリターンの増減幅が、オーストラリアと日本に比べて、かなり大きいことが分かる。インカムリターンは各国とも比較的安定しており、キャピタルリターンの変動が米・英で大きい。各国のキャピタルリターンの標準偏差(四半期、2002年3月-2016年6月)は、英国3.39、米国2.71、オーストラリア1.44、日本1.32となっている。

なおキャピタルリターンに使用される不動産価格は評価額であることから、各国の評価システムにおける市況反映の迅速性、取引価格との乖離度などがキャピタルリターンの変動特性に影響を及ぼしている点には留意を要する。

いずれの国もGFC後にキャピタルリターンの下落を経験しているが、米国についてはそれより遡った2002年にITバブル崩壊による価格下落もあった。また、英国はGFCからいち早く回復し、2010年にはキャピタルリターンがプラスに転じたものの、続く2012年にギリシャ問題を中心とした欧州危機が起こり再び下落、そして2013年以降プラスに転じたが、EU離脱国民投票を経た2016年3Qは、キャピタルリターンがマイナスに転じた。

日本についてはキャピタルリターンの下落幅はオーストラリアと同程度で米・英に比べると小さい。日本の指数算出の対象不動産には上場リートが保有している物件も含まれている。これらは長期保有を前提としているため売買されるケースは少なく、鑑定評価額は同一評価者による継続鑑定が多数を占める。

こうした事情もキャピタルリターンの変動幅が小さい要因となっている。また、日本はキャピタルリターンが回復してプラスに転じるまでに時間を要したことも他国と異なる特徴となっている。

各国のトータルリターン(四半期毎)を2001年12月=100とした累積リターンを示した。オーストラリアがGFC後は継続して最も高く、英米は拮抗しているものの2016年に入り英国は反転している。GFC後に底打ちした時点は、英国・オーストラリアが2009年6月、米国が2009年12月であった。日本は前述のように、GFC後にキャピタルリターンの小幅なマイナスが続いたことから底うち時点は2010年6月で、英国とは1年のタイムラグがある。

■投資用不動産の都市別シェア

こうした各国のリターンの変動特性には、リターン算出の対象となっている投資用不動産の地域構成による影響もある。英国のリターン変動幅が大きい要因は、リターン対象不動産の資産価値のうち、37%を価格変動幅の大きいロンドンが占めていることにある。

英国よりさらに一極集中が著しいのが日本で、東京の資産価格が56%を占める。しかし英国と異なり、東京の物件でも価格変動は相対的に緩やかでリターンの変動も緩慢なものとなっている。

米国については最も資産シェアが大きいニューヨークでも14%で、ロサンゼルスが10%、サンフランシスコ・ワシントン・シカゴが8%と続く。リターン対象不動産が多数の主要都市に分散して所在していることが分かる。

オーストラリアについては、シドニーの資産シェアが39%と高めなものの、次点のメルボルン(24%)との差は小さく、少数の都市にバランスよく分散して投資対象不動産が所在している。

■長期金利の動向とイールドギャップ

現在の投資用不動産価格の上昇の背景には、各国の金利低下がある。GFC前の不動産市場の好調期に比べて各国とも現在の金利水準は低く、不動産価格が前回のピークを上回っている要因にもなっている。低金利下では、不動産投資を行う際の資金調達が容易であると同時に、投資家の要求利回りが低下することで価格を押し上げる。

Real Capital Analyticsによる各国の実物不動産取引利回り平均値と長期金利を示した。両者の差が最も大きいのはドイツで、次いでカナダ、フランス、スウェーデン、次いで日本となる。スペインを除く西欧各国と日本は、長期金利が米・豪と比べ低水準となっており、取引利回りとのギャップが大きい状況にある。

すでに、トランプ時期政権への政策期待から各国で金利上昇が見られる状況だが、この上昇が一時的なものではなく不動産利回りとのギャップ縮小が確実になった場合には、不動産への資金流入がさらに抑制される市場が現れると予想される。逆に金利上昇が抑制されるマーケットでは、ギャップが縮小するマーケットを避けた投資資金が流入する可能性がある。

金利が上昇したマーケットでは一旦は期待利回りが上昇し価格が下落するが、その後インカムが成長していけば価格は調整され、また上昇サイクルに入ることができる。今後の不動産投資市場では、インカムの成長が注視されると思われる。

■米・英・豪・日 上場リート市場の動向

2009年以降、時折調整局面はあるものの各国の上場リート市場は、概ね上昇基調で推移してきた。しかし、2016年12月に入って各国リート市場は価格が急落している。これは前述のトランプ新政権への政策期待による金利上昇を要因としており、上場リート価格には下落圧力が生じた状態となっている。

英国については、これより1年遡る2015年11月からの4ヶ月に上場リート価格が下落基調となり、EU離脱の国民投票後にさらに価格を下げている。また米国については、2015年に入った頃に利上げ観測を織り込み、大きく値を下げているが、実際に利上げされた2015年12月前には上昇に転じていたことがわかる。

上場リートは、実物不動産より敏感に金利上昇に反応し、価格に下落圧力がかかるが、実物同様に、保有不動産の収益成長が伴っていれば、その後は価格調整される。米国リートの推移からはそうした調整のあと上昇基調に戻ったことがうかがえる。

■まとめ

不動産投資市場にはサイクルがあるといわれる。その理由として、従来から挙げられているのは賃貸市場が好調期を迎え賃料が上昇すると、それを受けて新規供給がもたらされ、その後需給が緩んで賃料が下がるというものだ。

不動産サイクルの好調期は、通常は好景気によりもたらされるため、景気サイクルと連動する。しかし、近年の不動産価格の高騰は、金融緩和による資金調達の容易さと低金利による投資先不足がもたらした側面の方が大きい。

足元で各国の金利は上昇してきており、これまでとは異なる金融環境になりつつある中、資金フローの側面からは、多くの不動産マーケットで利回りが上昇する局面となると思われる。それに抵抗するのがインカムの成長であり、今後はそれが望める市場(都市・セクター)を選別し、投資機会を得ることが求められる。

加藤えり子(かとう えりこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産運用調査室長

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