「ズーマ」はどこへ消えた? - スペースXが打ち上げた、謎の極秘衛星

「ズーマ」はどこへ消えた? - スペースXが打ち上げた、謎の極秘衛星

  • マイナビニュース
  • 更新日:2018/01/12
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●米政府機関の極秘衛星「ズーマ」、謎に満ちたその正体

米国の宇宙企業スペースXは2018年1月7日(現地時間)、人工衛星「ズーマ」を搭載した「ファルコン9」ロケットを打ち上げた。ズーマは「米国の政府機関が運用する衛星」ということしか公式には明らかにされておらず、その正体は謎に包まれている。さらに、なんらかのトラブルが発生し、衛星が失われた可能性も取り沙汰されている。

ズーマ(Zuma)を積んだファルコン9(Falcon 9)ロケットは、日本時間2018年1月8日10時ちょうど(米東部標準時7日20時ちょうど)、フロリダ州にあるケープ・カナヴェラル空軍ステーションの第40発射台から離昇した。

ロケットの第1段機体は打ち上げから約8分後、発射台にほど近い第1着陸場(Landing Zone 1)への着陸に成功した。

一方、第2段の飛行や衛星分離などがどうなったかは、機密ミッションだったため一切不明で、打ち上げの成否すら明らかにされなかった。

そして11日現在、ファルコン9による打ち上げは成功したものの、衛星は機能していないか、あるいはロケットと共に大気圏に再突入してしまい、ミッションは失敗に終わったという情報が流れている。

○謎の衛星「ズーマ」

ズーマは、その正体についてほとんど明らかにされていない謎の衛星である。

衛星を保有、運用するのは"米国の政府機関"だとされる。それが具体的にどこなのかはわかっていない。もちろん衛星の目的や姿かたち、どんな装置を積んでいるかも不明。ズーマという名前の由来や意味もわかっていない。さらに、当初打ち上げは2017年11月に予定されていたが、その打ち上げが存在する事実が明らかになったのはわずか1か月前と、他の軍事衛星よりもさらに秘密に覆われた、異例ずくめの衛星でもある。

ズーマの正体を推測する要素として、大きく2つの手がかりがある。「打ち上げ場所、方向」と「所属機関、製造企業」である。

たとえば、地表を偵察する衛星の多くは地球を南北に回る軌道(極軌道)に打ち上げられており、その場合は西海岸のカリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地から打ち上げられる。しかしズーマが打ち上げられたのは東海岸に位置するフロリダ州からであり、南北方向にはキューバや米本土があるため、極軌道に向けて打ち上げることはできない。したがって、ズーマは少なくとも極軌道を回る偵察衛星ではないということになる。

また、打ち上げ時のロケットの落下などに備えて設定された、船舶や航空機などの飛行・航行禁止区域からは、打ち上げ後にロケットが軌道傾斜角約50度の軌道に向けて飛ぶことがわかっている。このことから軌道傾斜角0度に向けて打ち上げなければならない静止衛星である可能性は消える。さらに今回ファルコン9の第1段機体は、海上の船ではなく発射台にほど近い第1着陸場まで舞い戻って着陸したことから、エネルギーが少なくて済む低い軌道への打ち上げだったか、あるいは1トン前後の比較的軽い衛星を高い軌道に向けて打ち上げたかということになる。

つまりズーマは、軌道傾斜角50度前後の、低軌道を回る大型衛星か高軌道を回る中型~小型衛星である可能性が高い(もっとも、打ち上げ後に衛星側のエンジンで大きく軌道変更する可能性がないわけではない)。

過去、米国が打ち上げた軍事衛星の中で、これに近い軌道に向けて打ち上げられた衛星は少ない。たとえば2017年5月1日にファルコン9が打ち上げた「NROL-76」の打ち上げ警戒エリアも、今回と近いものだった。NROL-76は米国家偵察局(NRO)が運用する衛星で、やはり目的などは明らかになっていないものの、打ち上げ後に、国際宇宙ステーション(ISS)に異常接近したことが知られている(偶然か故意かは不明)。

このほかにも、偵察衛星のデータ中継衛星や、新型偵察衛星の試験機と考えられる衛星、米空軍の無人スペースシャトル「X-37B」などが、今回と近い打ち上げ方で宇宙に送られている。

○まったく新しい軍事衛星か?

しかし、もうひとつの手がかりがこの問題を難しくしている。

NROはたしかに、今回のような機密ミッションを帯びた衛星を数多く運用しているが、Aviation Week & Space Technology誌によると、NROは自ら「ズーマは我々が保有する衛星ではない」と表明しており、この言葉を信じるなら、他の諜報機関や軍の衛星ということになる。いわゆる軍事衛星は、NRO以外にも米空軍や海軍、陸軍、そして米中央情報局(CIA)や米国家安全保障局(NSA)なども保有しているため、その候補は多い。

また、製造を担当したのは米航空宇宙大手のノースロップ・グラマンであることが明らかになっている。

たとえばNROL-76はボール・エアロスペースが製造を担当し、他の偵察衛星や通信衛星も、その大半はロッキード・マーティンやボーイングなどが製造を担当している。そこへきてノースロップ・グラマンは他社にやや一歩譲ってはいるものの、小型の早期警戒衛星「STSS」や、衛星やデブリの観測、追跡を行う「SBSS」、小型の偵察衛星などといった軍事衛星を手がけ、宇宙事業における先代のTRWの歴史と合わせれば、その実績は高い。

そのうち、今回打ち上げられたと思われる軌道やロケットの能力などに合致するのは、早期警戒衛星のSTSSである。STSSは米空軍が運用する、弾道ミサイルの発射などを検知することを目的とした衛星で、質量は約1トン、高度1350km、軌道傾斜角58度の軌道を周回しているとされる。打ち上げは2009年に行われ、衛星の寿命などから考えても、ズーマがこのSTSSの後継機、新型機である可能性はあろう。もっとも、STSSの目的や運用機関などは公表されているため、今回のズーマでそれらが完全に秘匿されていることの説明がつかない。

ちなみに、ノースロップ・グラマンでは「イーグル」と呼ばれる衛星バスの展開を進めており、そのバスを使った衛星である可能性もある。イーグルはいわゆる標準バスと呼ばれる、衛星にとって基本的な機能をもった部分のみを大量生産し、あとはミッションに応じ、観測機器や通信機器など目的の機器をあとづけできるようにした衛星で、これにより低コスト化や短納期化などが図られている。

逆にいえば、イーグルは偵察衛星にも通信衛星にも、もちろんSTSSのような早期警戒衛星にもできるということで、イーグルを使っているからといって、すぐになにを目的とした衛星かが決まるわけではない。打ち上げられた方角から極軌道衛星や静止衛星である可能性はほぼ排除されるが、それでも偵察衛星はもちろん、早期警戒衛星やデータ中継衛星である可能性も依然として残り、そしてそのうちどれかに絞るこむことは、いまわかっている情報だけでは無理がある。ましてや、北朝鮮や中東など、緊迫化する国際情勢と合わせて考えると、すべての選択肢がテーブルに残る。

ノースロップ・グラマンが展開している標準バス「イーグル」のひとつ。ズーマの正体である可能性がある (C) Northrop Grumman

ちなみに、Ars Technicaの報道によると、スペースXのイーロン・マスクCEOは同社の従業員に対し、「ズーマはこれまでで最も重要な打ち上げになる」と語ったという。それがどういう意味なのかは想像するしかないが、衛星の正体が完全に秘匿されていること、急に打ち上げが決まったことなどと考えると、スペースXのみならず、米国の宇宙開発史上においても相当に珍しい、そして重要なミッションであることは間違いないだろう。

はたしてズーマの正体はいったい何なのか。その答えを知るには、何十年かあとに機密が解除されるのを待つか、あるいは情報が漏洩されるのを待つしかないだろう。

●極秘衛星ズーマの消失 - 打ち上げ失敗か、衛星の故障か

○ズーマはどこへ消えた?

今回の打ち上げでもうひとつ異例だったのは、打ち上げ後に成功か失敗かが、いっさい明らかにされなかったことである。

従来、軍事衛星の打ち上げでは、その目的や姿かたち、投入する軌道などについては秘匿されていても、打ち上げが成功したか否かについては、衛星の保有・運用する機関からも、そしてロケット会社からも、明らかにされることがほとんどだった。しかし今回は、衛星を運用する機関はそもそも明らかにされていないのでともかく、スペースXも成功か失敗かは明らかにしなかった。

ところがその後、ウォール・ストリート・ジャーナルやブルームバーグなどは、匿名の関係者の話として、「衛星が失われた」、「ミッションは失敗した」と報じた。

ズーマのミッション・パッチ (C) SpaceX

この表現には注意が必要で、必ずしも「ファルコン9の打ち上げが失敗した」ということを意味するものではない。それ以上の詳細が明らかにされなかったこともあり、ファルコン9による打ち上げが失敗したのか、それとも打ち上げ直後に衛星側が故障したのかなど、その詳細は不明である。

ただ、この報道が流れたあと、スペースXはメディア向けに「機密衛星の打ち上げだったため、詳しくはコメントできないが、ファルコン9は順調に飛行した」との声明を発表し、ロケット側の失敗の可能性を否定した。スペースXには、テレメトリー(ロケットの状態などを示す信号)のデータや、搭載カメラからの映像などといった、証拠になりうる材料があることから、この発言には一定の信頼をおいていいだろう。

一方、衛星を製造したノースロップ・グラマンは、「機密ミッションであるため何もコメントできない」とし、具体的なコメントは避けている。

○ロケットからの分離に失敗? それでもスペースXの責任ではない?

打ち上げでいったいなにが起きたのか。依然として不明な状態が続いたが、その後WiredやArs Technicaなどのメディアは、ズーマがファルコン9の第2段から分離できず、そのまま大気圏に再突入して失われたという関係者の話を報じている。

ロケットと衛星との間には衛星分離部という台座があり、ロケットが目標の軌道に達すると、火薬や機械の力で拘束を解き、衛星を分離するようになっている。そしてズーマの打ち上げでは、この分離部が正常に機能しなかった可能性があるという。

ファルコン9の衛星分離部は通常、スペースXが自社で製造しているものを用いている。しかし今回の打ち上げでは、衛星を製造したノースロップ・グラマンが用意したものが用いられたという。その理由は不明だが、ズーマの形状が特殊で、スペースXの用意している分離部と適合しなかったのかもしれない。

したがって、たとえロケットから分離できなかったとしても、その責任はスペースXにはないということになる。

ちなみに今回、ファルコン9の第2段機体は打ち上げ後、地球を約1.5周したのち、インド洋上で逆噴射をして大気圏に再突入する、いわゆる「制御落下」を行い、機体を処分することになっていた。前述したスペースXの声明どおりなら、この制御落下は正常に行われたはずで、実際にアマチュア天文家などが再突入直前の第2段機体と思われる物体と、その機体から推進剤が排出される様子の撮影に成功している。もしズーマが分離されていなかったならば、第2段機体もろとも大気圏に再突入し、失われたはずである。もちろんその場合でも、スペースXには一切非はない。

いずれにせよ、いままでに出ている情報だけではこれ以上のことはわからないことから、衛星の正体と同じく、今後の情報公開や関係者からのリークを待つほかない。

ただ、失敗したことはほぼ間違いない以上、その原因や詳細が明らかにならない限り(もちろん原因が不明という可能性もあるが)、スペースXも自身の潔白を完全に証明することはできず、ノースロップ・グラマンも旗色が悪いままの状態が続き、両社の対外的な信頼にとって悪影響となることにもなろう。

○スペースXの今後の打ち上げに影響は?

しかしスペースXは、前述の声明の中で、「打ち上げ後のデータを分析した結果、いかなる設計や運用などの変更は必要ないことを確認した。今後の打ち上げスケジュールへの影響もない」とも明言している。

スペースXは2018年中に、約30機ものファルコン9の打ち上げを計画しており、1月中にも静止通信衛星「SES-16/ガヴサット1」の打ち上げが予定されている。

声明どおりなら、この打ち上げは予定どおり行われるはずであり、逆にいえば、この打ち上げが大きく遅れるようなら、ズーマの失敗を受けてなんらかの対策を取らねばならなくなったという可能性も考えられよう。

スペースXはさらに今年、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」、ファルコン9の新型機「ブロック5」、そして有人宇宙船「ドラゴン2」の打ち上げも予定している。ファルコン・ヘヴィは軍用の巨大衛星や月・惑星探査機の打ち上げにとって必須であり、ブロック5も同社の主力ロケットとして、そして「再使用による打ち上げコストの削減」という方針にとっても重要なものになる。

ドラゴン2もまた、民間による有人飛行の実現と、NASAとの契約の履行、そしてNASAの「米国の地から米国の宇宙船で、米国の宇宙飛行士の打ち上げを復活させる」という目標の達成のためにも、なんとしても成功させねばならない。

この多忙で重要な一年の幕開けに、ややけちがついた形になったが、もとより"縁起"などという言葉とは無縁なイーロン・マスク氏とスペースXのことからして、今回の問題がロケットの技術的な問題でない限り、その躍進が止まることはないだろう。

参考

・Zuma Mission

・SpaceX launches of clandestine Zuma satellite - questions over spacecraft’s health - NASASpaceFlight.com

・NRO: SpaceX ‘Zuma’ Payload Not Its Bird | AWIN_Space content from Aviation Week

・Photo Release -- Northrop Grumman's Delivery of Modular Space Vehicle Means Faster, Flexible, Small Satellite Launch Capabilities | Northrop Grumman

・Eagle Spacecraft

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

Webサイトhttp://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info

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