
雑談上手になるためにコンビニやスーパーでできること(Ph/photoAC)
コミュニケーションの悩みとしてよく挙げられる「雑談が苦手」。職種を問わず、多くの人が雑談に苦手意識を持っています。そこで、さまざまな場所でコミュニケーション能力が高まる方法を伝授し、『雑談が上手い人が話す前にやっていること』(アスコム)を上梓したコミュニケーションコンサルタントのひきたよしあきさんに、雑談の苦手意識を解消する方法と、雑談が苦手な人におすすめの雑談テクニックを教えてもらいました。
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もはや国民病?「雑談コンプレックス」
さまざまな会社で研修の講師を担っているひきたさんによると、コミュニケーションの悩みランキング1位は「雑談が苦手」だそうです。
人と話す機会の多い営業職でも雑談が苦手と感じている人が多く、雑談を苦手だと感じる「雑談コンプレックス」はもはや国民病とも言える存在だといいます。特に、相手との共通点がわからなかったり、心の距離があると感じていたりすると、うまく雑談ができなくなってしまうようです。
「大人も、子どもも同じです。自分と相手との共通点がわからない、心の距離がある、そんな相手を前にすると、何を話してよいのかわからず、沈黙してしまう。こういうことはめずらしいことではありません」(ひきたさん・以下同)
他者に対する心の壁が雑談を苦手にさせる
ひきたさんが、雑談に苦手意識を持っている人にさらに深く話を聞いていくと、自分に自信がないことや、心を開くのが苦手で警戒心が強いこと、会話がうまくいかず失敗するのが怖いといった理由が挙げられたそうです。
「上手く話せない原因は、相手との共通点が見いだせないことだと思っていたけれど、実は一番の理由は自分の心の中にあったということなのです」
心の壁を低くするために有効な「あいさつ」
自信をつけて他者への心の壁を低くするために、ひきたさんがおすすめするのは「あいさつ」。知らない人や利害関係のない人にもあいさつをするのがいいといいます。
「たとえば、コンビニやスーパーのレジの店員さんから商品を受け取ったら、必ず『ありがとう』と言う。外で食事をしたときは、帰り際に『おいしかった。ありがとうございました』と言うクセをつける。たったそれだけです」
「あいさつ」で脳は「雑談ができるモード」に
たかが「あいさつ」と思うかもしれませんが、知らない人や利害関係のない人にあいさつをしているうちに、「相手との関係が深いかどうか」よりも「他人に対しては、そう振る舞うものなのだ」という意識が強まり、他者に対する心の壁がどんどん低くなっていきます。これは脳のしくみに即した、科学的にも実証されている、効果的な「脳のだまし方」だそうです。
「『自分に自信がない』『知らない人に心を開くのが苦手』『失敗が怖い』『恥ずかしい』という心理的な障壁が、あいさつを続けることで、『あ、そんなに気にすることはないんだ』『もっと軽く考えればいいんだ』ということに気が付き、脳を『雑談ができるモード』に変換できるのです」

あいさつで脳は雑談モードに(Ph/photoAC)
雑談への苦手意識を作る「雑談罪悪感」
雑談への苦手意識のもう一つの要因が、話しかけてもらっても気の利いた返事ができず、ダメな自分に対するストレスや相手への申し訳なさを感じてしまうこと。
ひきたさんは、この心情のことを「雑談罪悪感」と呼んでいます。そして「雑談罪悪感」が芽生える理由には、「『相手の気持ちを汲み取りすぎてしまう』という背景があるのかもしれません」とひきたさん。
「相手の気持ちを考えることは、決して悪いことではありません。ただ、相手のことを考えすぎると、身動きがとれなくなってしまいます」
雑談では「自分の気持ち」も大切に
自分の気持ちより相手の気持ちを考えすぎると、生まれてしまいやすい雑談罪悪感。雑談罪悪感を解消するには、「私のせいで」「相手に悪い」といった考え方を捨てる必要があります。
「イメージでは、『相手の気持ち>自分の気持ち……×』『相手の気持ち≧自分の気持ち……○』というくらいの感覚でいるのがいいのではと思います」
コミュニケーションは「一期一会」の気持ちで
「相手の気持ち≧自分の気持ち」というイメージを持つためにひきたさんがおすすめするのは、「『一期一会』の気持ちを表明すること」。「今、この瞬間にこの人と会って話すのは、一生に一度のこと」と考えると、その時間が貴重に思え、相手に感謝する気持ちも湧いてきます。
「『今、あなたに会えてよかったと思っています』という気持ちを相手に示す。そして、にっこり笑う。相手の話をよく聞いて、うなずく。これだけで、雑談で人に嫌われないコミュニケーションは十分可能なのです」
雑談が苦手な人におすすめのテクニック
あいさつをしたり、感謝の気持ちを持って話をしたりすることで雑談への苦手意識を薄めていくことができますが、すぐに意識を切り替えるのは難しいですよね。そこで、雑談が苦手な人におすすめの雑談テクニックも教えてもらいました。
雑談テクニック【1】聞き手、観覧者となる
雑談というと「相手と話をすること」と考えがちですが、「話す人」がいれば、それを受け止める「聞く人」も必要です。さらに、「話す人」と「聞く人」に加えて、話を聞いてリアクションを取る「観覧者」という役割もあります。雑談が苦手な人にひきたさんがおすすめするのは、積極的に聞く人になったり、観覧者となったりすることです。
「話すことがしんどい人は、『聞く役割』『観覧者として楽しむ役割』になればいいのです。しゃべらなくてもいい。うなずいたり、笑ったり、みんなの会話を一緒になって楽しんでいる。そんな聞き手や観覧者がいることで、気持ちよく話せる人がいる。これも、雑談には必要な、立派な役割です」

会話は聞き手、観覧者でもいい(Ph/photoAC)
雑談テクニック【2】名前を呼ぶ
はじめて会った人に、自分が相手に興味を持っていることを伝えるコツは「相手の『名前』を呼ぶこと」。名前は、その人が最もよく聞く親しみ深い言葉のひとつであり、相手の名前を呼んで好印象を与えることができれば、その後の会話もしやすくなります。
「初対面のとき、ビジネスシーンであれば名刺交換をします。まず、名刺をもらったら、とにかく相手の名前を声に出すこと。これを心がけてください。『すてきなお名前ですね』『俳優さんみたいですね』『はじめて見ました』など感想や自分の気持ちをつけ加えるといいですね」
雑談テクニック【3】感じたことだけ話す
相手との関係性を構築していくのに必要なのは口数ではなく、きちんと自分の気持ちを伝えること。自分の気持ちを心の内に留めておくのではなく、意識して声に出すことが大切です。

雑談は感じたことだけ話せばいい(Ph/photoAC)
最初は恥ずかしい気持ちがあるかもしれませんが、ひとり言っぽくてもいいので、くり返すことで「感じたことを話す」ことが体に染みついていくのだそうです。言い出しづらいときは、「個人的な感想ですが」という言葉を付けて話し始めるのもよいのだとか。
「当然ですが、気持ちや感想には正解がありません。雑談なら、あなたが感じたことを素直に口にすればいい。そのひと言をきっかけに、周りの人も自分の感想を言い出して、雑談が広がっていくこともあります。自分の感じたことを言葉にする習慣をつけましょう」
◆教えてくれたのは:コミュニケーションコンサルタント・ひきたよしあきさん

コミュニケーションコンサルタント・ひきたよしあきさん
大阪芸術大学芸術学部放送学科客員教授。早稲田大学法学部卒業。博報堂に入社後、クリエイティブディレクターとして数々のCMを手がける。政治、行政、大手企業などのスピーチライターとしても活動し、幅広い業種、世代の価値観、世代間のギャップ、言葉遣いの違いなどを分析、コミュニケーション能力が高まる方法を伝授。著書に『雑談が上手い人が話す前にやっていること』(アスコム)、『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)など。
『雑談が上手い人が話す前にやっていること』(アスコム)