慰安婦訴訟の判決に動揺したのは韓国外交省だった

慰安婦訴訟の判決に動揺したのは韓国外交省だった

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  • 更新日:2021/01/12
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ベルリン市内の公園前に置かれた慰安婦を象徴する少女像(C)朝日新聞社

旧日本軍の元従軍慰安婦の女性らが日本政府に損害賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁が8日に日本政府に慰謝料の支払いを命じる判決を出したが、この判決で動揺したのは実は、ほかならぬ韓国外交省だった。

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日本政府は判決後直ちに抗議したが、外交省はなかなか立ち位置をはっきり示さなかった。数時間後、ようやく出てきた報道官の論評には「判決の外交関係に及ぼす影響を綿密に検討する」とあった。だが、複数の関係者によれば、日本は半年以上前から、さまざまなルートを使って、「仮に損害賠償を命じる判決が出たら、大変なことになる」という警告を送っていた。

今頃になって「検討する」と言い始めたこと自体、事態を真剣に捉えていなかったと言われても仕方がない。実際、韓国側は、日本が「大丈夫か」と何度も何度も訴えても、「三権分立ですから、司法には介入できないんですよ」「でもまあ、主権免除(国家は外国の裁判権に服さないとする国際法上の原則)になるでしょうから、大丈夫ですよ」といった反応だったという。

さすがに、バツが悪かったのか、論評には「(韓国)政府は2015年12月の韓日政府間慰安婦合意が両国政府の公式合意だという点を想起する」というコメントが付け加えられていた。「日本も努力してきたことは認めます」と言わんばかりの内容だが、日本にしてみれば「慰安婦合意を反故(ほご)にしたのは韓国だろう」という思いが走る。

もちろん、従来から指摘されていたように、韓国外交省にはほとんど実権がない。しかも、18年夏には、朴槿恵(パク・クネ)前政権時代の大法院(最高裁判所)が、徴用工裁判に違法な介入をした疑いがあるとして、関係先の外交省の本部が家宅捜索を受けるという屈辱も味わった。「判決を遅らせるよう介入したという疑いで捜査されたんだから、判決の内容に介入するなんてとんでもない」というのが外交省関係者らの本音だ。

では、最大の権力機関である大統領府はどうか。韓国記者団は判決後、大統領府にコメントを求めたが、ひたすら「外交省に聞け」という態度に終始したという。普段、自分たちが関心を持つ、北朝鮮がらみの外交問題については情報を独占しているくせに、面倒な案件は全部、外交省に下請けさせる悪い癖がここでも出た。

文在寅(ムン・ジェイン)政権も損害賠償を認める判決を望んでいたとは言えない。南北関係を改善できないまま年を越したうえ、1月5日から始まった北朝鮮の朝鮮労働党大会で、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長(現総書記)から「南朝鮮(韓国)に善意を示す必要はない」と一蹴されてしまった。残る打つ手は、今夏に予定されている東京五輪・パラリンピックを利用した外交戦くらいしかない。それで徴用工判決問題を解決しようとしていた矢先の慰安婦判決だった。

それでも、事態収拾に乗り出す気配は見えない。文大統領は11日の演説で、日韓関係に言及したが、慰安婦判決には触れなかった。わずかに、13日に予定されていた別の慰安婦訴訟の判決が延期されたことで、「司法ファシズム」(日本政府関係者)の流れが変わる可能性も見えるが、それでも、8日の判決は変わらない。

もちろん、日本の世論は沸騰しており、日本側が韓国に助け舟を出したり、一緒に収拾策を考えたりする状況には全くない。茂木敏充外相が9日、外遊先のブラジルから急きょ、康京和(カン・ギョンファ)韓国外相と電話会談に臨んだのも、怒りのポーズを示して、世論をなだめる狙いがあったとみられる。

日本は控訴する考えがないため、8日の判決は早晩確定する見通しで、司法手続きが進むことになる。ウィーン条約によって外交上の国有財産は保護されているが、どこに落とし穴があるかわからない。「今後の展開は全く読めない」。日本側の関係者たちは異口同音に語りながら、事態の推移を緊張して見守っている。

(文/朝日新聞編集委員・牧野愛博)

※AERAオンライン限定記事

牧野愛博

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