
The Breakthrough Company GO(以下、GO)は、ファミリーマート、コーセー、ジンズホールディングスといった企業やブランドのマーケティングやブランディングをサポートしてきた「事業クリエイティブ」の専門集団だ。その代表取締役でPR/Creative Directorの三浦崇宏氏は、「クリエイティブはサービスや商品、企業の価値を高めるために必要なもの」だと言う。
ぴあのDX事例から学ぶ -トレンドに合わせた4度の“変態”はいかに実現したか
8月2日から18日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 for Leader DX FRONTLINE ビジョンから逆算する経営戦略」に同氏が登壇。さまざまな事例を交えながら、ビジネスにおけるクリエイティブの位置付けや意味、役割を解き明かした。
なぜクリエイティブが必要なのか
三浦氏は、企業になぜクリエイティブが必要なのかについて、Apple社を例に説明した。
この20年間で著しく成長したApple社は「世界で最もクリエイティブに投資している企業」だと同氏は言う。実際のCM制作だけでなく、多くのデザイナーを自社で雇用するなど、クリエイティブに関する幅広い範囲に投資をしているそうだ。
三浦氏は「クリエイティブに最も投資している企業が時価総額1位になっている。さらに、デザインへの投資を現状の倍に増やしたい企業が増えている」と語り、クリエイティブが企業の成長に欠かせない要素であることを示した。
では、なぜ企業の成長にクリエイティブが求められているのか。三浦氏は資本主義経済の限界をその理由に挙げる。
従来の資本主義は、毎年高い目標を課すことで市場を広げて企業が成長し、その結果顧客も豊かになるという考え方だ。例えば、1万円のものを100人に売ったとすると、翌年は200人に売らなければならない。しかし、これは高度経済成長期だからこそ成立していたモデルとも考えられる。人口減少期にある今は、翌年は値上げして100人に1万2千円のものを売るか、1万円のものを100人に2回以上リピートして買ってもらう方法を考えなければならないのだ。
○資本主義の変容で求められる「ブランド化」と「サービス化」
そこで三浦氏が紹介したのが、商品やサービスの価値を高めるブランド化と、サービス化の例である。
ブランド化では1本3万円以上するプレミアム日本酒「雨下-uka-」を挙げた。この商品は値段を上げたことでブランド化したという。サービス化の例として三浦氏が挙げたのは、アイウエアブランド・JINSの取り組みである。JINSではカラーコンタクトレンズをリピートできるよう、サブスクリプション制にした。また、オンラインでアイウエアの試着ができるようにしている。このように体験を変えることがリピーター化につながると同氏は語った。
「自分たちのプロダクト、サービス、商売のブランドを高めて価値を上げていくことが必要な時代だと思います。(中略)また、JINSの例のように“体験を希薄にする“という体験を設計することでリピーターをつくっていくのが、今の戦い方とも言えますね」(三浦氏)
クリエイティブは「全てを可能にする根本的な力」
このように、現在はブランド化で価値を上げること、そしてサービス化でリピート率を上げることが重要であり、そのために必要なのは「価値を設計する力」と「顧客体験を設計する力」だと三浦氏は言う。それこそがクリエイティブの持つ力である。
三浦氏はクリエイティブを以下のように定義した。
「クリエイティブは、全てを可能にする根本的な力です。(中略)他者の感情や、社会の在るべき姿をイメージし、現実に新しい可能性を創り上げることを、私はクリエイティブと呼んでいます」(三浦氏)
言い換えると、顧客が喜ぶ姿をイメージして、新しいビジネスを生み出すことだと同氏は続ける。Apple社がスマートフォンの通信速度より美しさを優先したこと、トヨタが自動車をどう使うかを考えて都市開発を目指したことなどがその例だとした。
クリエイティブは逆転の起爆剤にも
では、クリエイティブはどのように機能するのか。三浦氏はその例として、GOが手掛けた三井不動産のシェアオフィス事業を挙げた。シェアオフィスは従来、スタートアップやクリエイターのための場所というイメージがあり、言わば“尖った人たちのための場所”だった。
しかし三井不動産は、シェアオフィスを一般的なビジネスパーソンのための場所に変えることで、成功したという。
一般的なビジネスパーソンがシェアオフィスを使うためには、まず所属する企業がリモートワークを許可している必要がある。そのため、三井不動産はシェアオフィスの契約対象を法人に絞り、利用者の従量課金制にした。これによって、企業側は誰がどこでどのくらいの時間働いたかを把握できる。一方、社員のためには、都合の良い時間帯に都合の良い場所で働けるように、複数拠点を使い放題にした。利用者と企業、両方にメリットがあるように設計したことで成立したモデルである。
このように、顧客やユーザー、生活者などのことを想像し、ブランドや企業、社会の新しい可能性を創造するのがクリエイティブなのだ。
「知名度や資本で負けていたとしても、クリエイティブ次第で一発逆転のチャンスがあります。例えば、大きな会社が多額の宣伝費をかけた飲料があったとしましょう。消費者がそれを買いに行った時、その隣に、同じ価格でめちゃくちゃカッコいいボトルデザインの飲み物があったら、カッコいい方が選ばれる時があるんです」(三浦氏)
マーケティング、ブランディングとは?
講演後半では三浦氏が“よくある質問”に答えるかたちで、マーケティングやブランディングについて説明した。まずは「マーケティングとブランディング、クリエイティブなどの違い」について。マーケティングは、TVCMや新聞広告など、顧客にプロダクトを購入してもらうためのあらゆる取り組みのことを指す。狭義では広告、宣伝活動の意味で使われることもある。
ブランディングは、あらゆるステークホルダーに企業やプロダクトについての特定のイメージを共有し、エンゲージメントするための取り組みで、狭義で言えば「自社のイメージを向上させる活動」のことだ。マーケティングは顧客が対象だが、ブランディングはあらゆるステークホルダーに向けて行われる。
プロモーションは、プロダクトを購入してもらうために店頭やメディアを活用する活動のこと、つまりマーケティングの中で店頭やメディアを使うものを指す。
PRは、あらゆるステークホルダーと合意形成するための取り組みのことだ。狭義ではメディアに自社やプロダクトを紹介してもらうための活動を指し、購買行為などの前に、まずブランドや商品を理解してもらう取り組みのことである。
そしてクリエイティブは、上記の4つを、アイデアやデザインによって効率的で機能的にする取り組みのことだ。
「だからこそ、これらのどれについてもクリエイティブが必要になってくるのです」(三浦氏)
クリエイティブは事業をより良いものへ運ぶ
三浦氏は次に、経営とマーケティング、クリエイティブの関係について言及した。
経営を構成するのは、事業、マーケティング、組織、ファイナンスの4つの要素であり、さらにマーケティングの中にはプロダクト、プロモーション、プライス、プレイスの4つの要素があるという。
クリエイティブは、こうしたマーケティングやプロモーションの中にある構成要素の1つではなく、その外側から経営の全てに影響するものだと三浦氏は強調する。狭義のクリエイティブはプロモーションだけに関わることだが、広義のクリエイティブは事業全てをより良いものに変える力なのだと同氏は語った。
マーケティングとブランディングを比べると、三浦氏は「ブランディングの方が大事」だと言う。ブランディングはマーケティングの一部分ではなく、組織、事業の両面において企業を動かすキードライバーになるためだ。事業戦略の根幹にブランディングがあり、プロダクトをどうやって世の中に伝えるかという一貫した意思があれば、組織、顧客のどちらにもブランドが浸透しやすくなり、事業成長が加速するそうだ。
「どんな企業を目指すかというブランド戦略があれば、全てのタッチポイントが変わっていきます。ブランディングはマーケティングの一手段ではありません。ブランディングは事業戦略と表裏一体です。そして、マーケティングにも、ブランディングにも、クリエイティブの力は必要不可欠なのです」(三浦氏)
三浦氏は最後に、「ブランドをつくって価値を上げ、事業を成長させる。それを一緒にやることで、日本社会をもっと希望の持てるものにしたいと思っています」と語り、講演を締めくくった。
エースラッシュ