わずか3年で世界を席巻 ネットフリックスのアニメは何が「すごい」のか?

わずか3年で世界を席巻 ネットフリックスのアニメは何が「すごい」のか?

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/01/15
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ネットフリックスで、あるカテゴリーが急成長を遂げている──「アニメ」だ。

過去1年のあいだに、全世界で1億世帯以上がネットフリックスでアニメを視聴。世界100カ国以上の国と地域で、人気作品トップ10にアニメ作品がランクインした。日本でも、500万世帯にのぼる会員のおよそ半数が、1カ月でアニメを約5時間視聴しているという。

また、2020年2月には、「機動戦士ガンダム サンダーボルト」の太田垣康男氏や「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリ氏をはじめとした、人気アニメクリエーター6人との中長期的なパートナーシップを発表。さらに10月には、提携する大手アニメ制作会社を9社に拡大することで、日本発のオリジナル作品にも注力している。

そんな飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大するアニメ戦略を支えてきたのが、ネットフリックスアニメ部門・チーフプロデューサーの櫻井大樹だ。

アニメ制作会社を経て2017年にジョイン。当時、ネットフリックスでアニメを視聴する人はほとんどゼロに近かったという。それでも、本人は「アニメが世界を席巻すると確信していた」と話す。

ネットフリックスのアニメはなぜ世界を魅了できたのか。わずか3年で”ネトフリアニメ旋風”を巻き起こした立役者に、その「すごさ」を聞いた。

──ネットフリックスはいつ頃からアニメに力を入れ始めたのでしょうか?

ネットフリックスが日本にローンチしたのが2015年。その翌年には、既にアニメに注力しようという話が出始めていたようです。

とはいっても、最初は社内でのアニメの立場はあまり強くなくて。僕は2017年に日本初のアニメ部門・チーフプロデューサーとして就任しましたが、当時チームにいたのは僕1人だけ(笑)社内でもアニメといえば「ニッチなことを扱う人だな」という認識でした。

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ネットフリックス アニメ部門 チーフプロデューサーの櫻井大樹氏

それが今では、全世界で1億世帯以上が視聴し、視聴率も前年比1.5倍にもなる急成長のカテゴリーになりました。社内での扱いも変わり、現在では10人ほどのチームで動いています。最近では「アニメって大事だよね」と社員に言われることも多い。ようやく世間がアニメのすごさに気づき始めてくれたなという感覚です。

──なぜ、アニメ作品がこんなにも世界中で人気を博しているのでしょうか?

ネットフリックスのような配信サービスが増え、世の中に出回る映像コンテンツの種類もグローバル化しました。その一方で、人気のコンテンツを見てみると、案外その国や地域ごとに視聴者が固まっていることが多いんです。

例えば、日本では洋画よりも邦画が見られる傾向にある。興行収入のトップ10〜20に入る作品も、やはり邦画が多いです。ハリウッド作品なんかも、もちろん人気は出ますが世界的な大ヒットと比べると大人しい。こうした地域ごとに人気コンテンツが細分化される傾向は、世界中のいたるところで起きています。

そんななか、どの国でも人気を集めているコンテンツこそがアニメです。その理由は、アニメ作品の世界観や登場人物が「どの国のものでもない」からだと考えています。

世界的大ヒット作品の『進撃の巨人』にはヨーロッパ風の街並みが登場しますが、あくまで巨人に支配されている架空の世界が物語の舞台であり、登場人物たちも国籍をもたない「アニメ人」です。つまり、どの国でもない、なに人でもない──だからこそ、あらゆる国や地域で受け入れられやすいという強みがある。

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(c)諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会

もっと突き詰めて言えば、アニメとはただの動く絵、つまり世界観から登場人物まですべてが「つくりもののフィクション」です。これは僕の師匠であるアニメーション監督・神山健治の受け売りですが、実写だと少し嘘っぽさがあるだけで、全体のリアリティが一気に失われる。それに比べてアニメは元々全部がフィクションだから、少しでも本物っぽい要素を入れるだけで、世界観がとてもリアルに見えてくるんですよね。

どこにも存在しない物語に少しリアリティを加えることで、どの地域の人々にも身近なものとして受け入れてもらえる。これがアニメ作品の強さだと思います。

──現在、ネットフリックスでは多数のアニメが配信されています。ジャンルやターゲットなどはどのように決めているのですか?

作品単体ではなく、全体的な編成力で勝負できるのが、ネットフリックス最大の強みです。

僕らが重きを置いているのは、「視聴者数」と「視聴時間」という指標。つまり、いかに多くの人に長い時間作品を見てもらえたかが判断基準になる。現在も約80本ほどの作品がさまざまな企画段階で練られているところですが、そうした基準をアニメの配信作品全体でどうバランスをとれるか、マトリクス的に戦略を立てて考えていくということです。

ネットフリックスのアニメ作品で比較的人気が高いのは、SF、ファンタジー、バトルものなので、こういうジャンルには一定の作品数を準備します。そこで成功が見込めれば、新たなジャンルを開拓してみる。例えば、少女漫画やコメディはどうかというように。

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ネットフリックス オリジナルアニメシリーズ「日本沈没2020」

自分が制作会社にいたときに「違うな」と思っていたのは、1作品の制作にスタッフ全員が注力せざるをなくて、それが失敗するとすべてがダメになってしまったこと。ネットフリックスでは、80本同時に動かしている時があるくらいなので、その分規模も大きく勝負できるので、極端に言えば、半分負けても半分勝てればいい。80作品中、2、3作だけでもより多くのファンに観ていただける大ヒットが出れば勝ちという姿勢で取り組んでいます。

編成的に「弱い」と思っているジャンルは今はやらないでおく、この作品はマトリクスで空いているこの辺を狙ってみよう、このジャンルは原作が足りないからオリジナルでつくろう、という選択がロジカルにかつ柔軟にできるのが大きな強みですね。

──オリジナル作品も、より視聴者に楽しんでもらえるところを戦略的に狙えるということですね。アニメ制作会社や人気クリエイターとのタッグにはどんな意図があるのでしょうか?

オリジナル作品を製作するにあたり、一番の悩みは「どうやっていい制作チームを常に確保するか」でした。

いい制作チームには、腕が立つ制作会社やクリエイターが必要不可欠です。だけど、優秀なところほど多忙で、3〜4年先まで制作スケジュールがびっしりと埋まってしまっている。しかも、通常のアニメ制作チームは1作品が終わるとすぐに解散してしまい、いざ次の作品を作ろうとなっても、すぐに同じチームを集めることは難しい。高いクオリティのオリジナル作品を常に出し続けたい僕たちにとっては、クリエイター不足が最大のネックでした。

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アニメのオリジナル企画・制作におけるパートナーシップをCLAMP、樹林 伸氏、太田垣 康男氏、乙一氏、冲方 丁氏、ヤマザキマリ氏と組むことを発表(2020年2月)

一流の制作会社やクリエイターがネットフリックスとの仕事を優先し、かつそのチームを解散させないようにするにはどうしたらいいか。そこで思いついたのが、「複数年かけて複数作品を一緒に作る」というパートナーシップ関係を構築することでした。

制作する作品が絶え間なく続けば、チームは解散せずに済む。制作会社やクリエイター側は予算が約束された状態でスケジュールを埋めることができ、ネットフリックス側もいいスタッフを優先的に確保できる。つまり、ネットフリックスが原作権を持つ作品を増やすことができる。そんなWIN-WINの関係性ができるのではないかと考えたんです。

会社はこのパートナーシップ提案に対して「いいよ、やってみて」とすぐにGOサインを出してくれたのですが、その1週間後には「そういえば、あの話できた?」と詰められました(笑)。それくらいのスピード感で、僕自身が親交のある制作会社と直接交渉したわけです。

日本のアニメ業界では、外部の人間、特に我々のような外資系の会社はものすごく警戒される。制作側は自分たちが気に入らない作品を無理やり作らせられるのではないかと心配しているんです。彼らは生粋のクリエイター気質だから、自分たちが心から気に入ったものを作りたいという気持ちが非常に強い。

パートナーシップを結ぶ際は、こちらが提案したものを制作側が断る権利を保証しました。お互いに納得したものを作るのが一番だと僕も思っています。業界でも権威のあるアニメスタジオと業務提携をすることは、業界に対して、ネットフリックスの信頼性をアピールすることにもなり、どんどん規模を拡大させることができました。

──ネットフリックスでのアニメ製作プロセスは、他とはどんなところが違うのでしょうか?

クオリティを優先してスケジュールや予算を「後から」でも決めることができる、さまざまな点で制約が少ないことではないでしょうか。

日本のアニメ業界が「ブラック」と言われがちなのは、そもそも制作スケジュールに無理がある場合が多いからなんですよね。TVシリーズや映画は、公開や編成の枠があらかじめ決まっていて、その逆算で制作を進めなければいけないから。

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2021年5月独占配信予定のネットフリックス オリジナルアニメシリーズ「エデン」。2体のロボットに育てられた少女サラが世界へ立ち向かうSFファンタジー。監督は「鋼の錬金術師」の入江泰浩

一方ネットフリックスには、そもそもこの「埋めなければいけない穴」がない。納品の期日は制作側に決めてもらって、我々はそれさえ守ってもらえればいいんです。

予算だって、もちろんざっくりした設定額はありますが、目的が明確ならばそこからはみ出ることも許容する。例えば、すごく音楽に凝りたい作品があって、どうしてもあの人に依頼したいが金額がネックになるというのなら、予算はフレキシブルに考えられるということです。

そもそも作品に興味がないといいものはできないので、企画自体に興味があるスタジオと組みます。スタジオ側から「監督はこの新人がいい」「脚本家を探してきて」などの要請を聞きつつスタッフを決めたら、スケジュールや予算に折り合いをつけて、脚本の打ち合わせを立てる、といった流れですね。

僕らが求めているのは、視聴数が取れてほしいということだけ。だから決断が早いし、製作の打ち合わせにいる人数も少ない。意志決定も早いからミーティングも30分くらいで終わります(笑)。

制約が少なく裁量が大きいことで、クリエイター側も思い切った作品作りができているんじゃないかと思うし、きっと楽しいんじゃないかな。実際、出来上がった作品は、期待の200%だったり300%だったりするものも多いです。

──ネットフリックスの参入により、日本のアニメ界は大きく変わってきているように感じます。今後はどのような展開を考えていますか?

ネットフリックスのような配信サービスの参入もあり、日本のアニメ業界はバブル期を迎えています。しかし、同時に制作側の人材不足がより一層深刻化している。求められる作品数が増えても、つくり手のリソースがなければ、ブームは一過性のものになってしまう。そこで、ネットフリックスとしては次世代のクリエイター創出に関わっていきたいと考えています。

例えば、日本のアニメ業界に憧れを持つ海外の学生やクリエイターは山ほどいる。そんな彼らを留学生やインターン生として招き入れてはどうかと考えています。実際に、フランスのアニメーションアカデミーのGOBELINSと提携し、クリエイターを志す海外の学生に留学やインターンの機会を提供するプログラムを昨年から取り組んでいます。逆に、日本の学生を海外に送り出してもいい。

他にも、第一線で活躍したのち引退した60代から70代の優秀クリエイターを講師とした授業を提供するのもいいかもしれないですね。その授業料を僕たちが持つ「ネットフリックス奨学金」なんてものも面白いかもしれない。

クリエイターを志す若者がお金をかけずに技術を学ぶことができ、さらにリタイアした後も業界での活躍が約束されている。そんな仕組みがあると理想的だと思っています。

さくらい・たいき◎ネットフリックス アニメ チーフプロデューサー。2017年入社。アニメ作品におけるクリエイティブを統括。入社前には、櫻井圭記の名でアニメーション制作会社プロダクション・アイジー話題作「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「xxxHOLiC」「精霊の守り人」の脚本を手がけたほか、スタジオカラー「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズで脚本協力を担当した。

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