物理学界に衝撃...「宇宙の秘密」を解くかもしれない「ノーベル賞級大発見」の中身

物理学界に衝撃...「宇宙の秘密」を解くかもしれない「ノーベル賞級大発見」の中身

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/05/04
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物理界の根幹を揺るがす「大発見」

みなさんは「素粒子」という言葉を知っているだろうか。

素粒子とは、物質を構成する最小単位のことだが、物理界ではこの4月7日に、これまでの常識を大きく揺るがす大発見があったばかりである。

米フェルミ国立加速器研究所などのチームが、素粒子「ミューオン」が素粒子物理学の基本である「標準理論」では説明不可能な性質を示したことを発表したのだ。

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標準理論とは、素粒子と自然界の力が働く仕組みを説明した理論であり、素粒子物理学が100年以上かけて構築してきたものだが、今回の実験結果によって未発見の素粒子や力が存在する可能性が出てきた。

もしこれが確認されれば、物理学の根幹をも変えてしまう大きな成果だ。

「この世のもの」はなにでできているのか

そもそも、私たちの身の回りにあるものは「原子」の組み合わせで出来ており、それには酸素や炭素のようにたくさんの種類がある。原子自体は、陽子・中性子・電子の3種類の粒子が組み合わさっていて、陽子と中性子は、原子核というかたまりになって原子の中心に位置し、電子はその回りに存在する。

下の図で簡単にイメージして欲しい。ここまでは中学校で習う範囲だ。

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高校物理では原子よりもっと小さい粒子について習うが、多くの人はご存知ないかもしれないので説明しよう。

前述した「陽子」と「中性子」は、「アップクォーク」と「ダウンクォーク」の組み合わせで出来ており、一方の「電子」はそれ以上分解できないと考えられている。同様にアップクォークとダウンクォークも分解できないことが知られている。

そして「アップクォーク」「ダウンクォーク」「電子」のように、それ以上分解できない物質の最小構成単位のことを「素粒子」と呼ぶのだ。

結局、私たちのまわりにある目に見える全てのものは、この3種類の素粒子の組み合わせで出来ているのである。

「ミューオン」という素粒子

そして、この度の実験結果を理解する上で重要となるのが、「ミューオン」という素粒子だ。

ミューオンは、一秒間に数百個ほど宇宙から私たちの体に降り注いでいるが、放っておくと2.2マイクロ秒という非常に短い時間で電子と2つのニュートリノ(どちらも素粒子)に変化してしまうため、ものを形作ったりすることはできない。

ミューオンの透過率(どのくらい通り抜けるかの割合)は物質の種類によって異なるのだが、この性質を使って、目では見ることができない物の内部の構造を調べる手法(ミュオグラフィ)として活用されている。

これは、いわば大がかりなレントゲン写真のようなもので、例えば火山内部のマグマ量を調べたり、ギザのピラミッドに隠された部屋の探索に使ったり、最近では福島第一原子力発電所の炉心の様子を観察するためにも使用されている。

ここまで、アップクォーク・ダウンクォーク・電子・ニュートリノ、そしてミューオンという素粒子が存在することを説明した。

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ミュー粒子はミューオンと同義(出典:https://note.com/higgstan/n/ndafa87cc1bbb

上の図にあるように、アップクォークとダウンクォークは、その名の通り「クォーク」という種類に属している。残りの電子・ニュートリノ・ミューオンは「レプトン」という種類に含まれる。

レプトンの種類のうち、ニュートリノは電荷(電気の量)を持っていないが、電子とミューオンはマイナスの電荷を持っている。この二つは非常に似ていて兄弟のような関係と言える。その唯一の違いは質量で、ミューオンは電子の約200倍程度重い。

初観測された「標準理論のほころび」

質量の違う兄弟である電子とミューオンだが、もっと別の違いがあるかもしれないということが近年の実験で明らかになってきた。特にミューオンの性質は、これまで考えてきたものと異なっている可能性がある。今回の実験結果によって、その疑いが強まった。

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これが本当なら、どのくらいすごいことなのだろうか。

素粒子の存在や性質は100年かけて少しずつ解明され、その集大成が標準理論である。この理論は現代物理学の金字塔とも呼ばれ、これまで実験で明らかになっている17種類の素粒子の性質を全て矛盾なく説明している。もちろん、ミューオンの性質もこの標準理論で予測されていた。

そのため、ミューオンの性質が標準理論と異なることがわかれば、「標準理論のほころび」を初めて観測することになる。

さまざまな観測から、宇宙は今も膨張を続けていて、昔の宇宙は今よりもずっとずっと小さかったことが明らかになっている。その頃は星などが存在せず、全てのものがぐちゃぐちゃに混ざり合う、灼熱の宇宙。宇宙が誕生してから10の-12乗秒(0.000000000001秒)の頃は、原子も存在できず素粒子が宇宙の主役だった。

標準理論はこういった素粒子たちの性質を説明する理論であり、言い換えれば誕生から10の-12乗秒頃の宇宙を記述する理論とも言える。

宇宙の最初にはなにがあったのか

では、「標準理論のほころび」とは一体何なのだろうか。これは、標準理論が間違っていることを意味するわけではない。

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例えば、ニュートンの力学はリンゴの運動を正確に説明しているが、素粒子の性質は説明できない。これはニュートン力学が間違っている訳ではなく、適応できる範囲を超えているだけのことだ。正しい使い方をすれば、今でもニュートン力学は非常に正確な理論として使うことができる。

同様に、「標準理論のほころび」とは、標準理論では扱えない物理法則が存在するかもしれない、言い換えれば、宇宙のさらに最初期には私たちの知らない未知の素粒子の効果があったかもしれない、ということを示しているのだ。

これまで標準理論は、全ての実験結果を正確に説明していたが、それは逆に言えば、標準理論を超えた物理法則の手がかりが得られていなかったことを意味している。そのため今回の実験結果は、私たちが万物の法則をより理解するための一助となるだろう。

今回の実験結果によって、正確に「標準理論のほころび」があると確定したわけではなく、今後、より詳細な実験が行われ、同時に理論の計算が正しいかどうかの検証は続く。

しかし、ようやく手にした、私たちが住む宇宙の手がかりであることに間違いはなく、人類が宇宙の誕生や世界の成り立ちにより迫る大きな一歩になりそうだ。

ワクワクする

1936年にミューオンが発見された当初は何の役に立つのか検討もつかなかった。むしろ理論を複雑にする厄介者とさえ考えられていた。ノーベル物理学賞を受賞したイジドール・イザーク・ラビは「誰がそんなものを注文したんだ!」と中華料理屋で叫んだといわれている。

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発見から85年の時を経た今では、ミュオグラフィのように私たちの生活に役立てられている。兄弟である電子も発見当時は使い道がなかったが、私たちの生活は今や電子機器に支えられている。

素粒子物理学の実験は世界最先端の科学技術によって行われるため、その中で技術革新が生まれる場合もある。WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)もはじめは素粒子実験のデータを共有すること目的で発明されたものだ。しかしそれらはあくまで副産物で、素粒子物理学者は皆ワクワクする発見を目指して研究している。

新しい物理法則が発見されたとして、それを私たちの生活にすぐ役立てるのは難しいだろう。しかし100年後には、「素粒子物理学を発展させてくれてありがとう」と、私たちの子孫が言ってくれるかもしれない。

「役に立つ」とは今を生きる私たちだけでなく、未来の子どもたちを含めた人類に向けた言葉であるべきだと思う。それが何年後になるのか、何に使われるのかわからなくても素粒子物理学は「役に立つ」学問であると信じている。

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