『あつい胸さわぎ』対談~舞台と映画で競演。舞台・横山拓也(作・演出)× 映画・まつむらしんご(監督)

『あつい胸さわぎ』対談~舞台と映画で競演。舞台・横山拓也(作・演出)× 映画・まつむらしんご(監督)

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  • 更新日:2022/08/07
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繊細に揺れ動く心模様を精緻な言葉で紡ぐ劇作・演出家の横山拓也の実力を一気に演劇界に知らしめたiaku『あつい胸さわぎ』の待望の再演が2022年8月4日より下北沢ザ・スズナリで上演中だ(8月14日まで。その後、8月18日〜8月22日に大阪インディペンデントシアター2ndでも上演)。2019年に初演された本作は、一つの出会いをもたらした。人生の中でぶつかる大きな壁にあらがい、もがきながら必死に生きる人間の姿を愛しくも、ユーモラスに描く気鋭の映画監督まつむらしんごだ。『あつい胸さわぎ』に一目惚れしたまつむらは、これを映画化し、2023年初めに全国ロードショー公開する予定でいる。同世代の二人が語る『あつい胸さわぎ』とは――。

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『あつい胸さわぎ』初演より 撮影:木村洋一

――まつむらさんは本当に途切れることなく映画を撮られている、これはすごいことですよね。

まつむら いえいえ、必死です。それこそ次回作まで空いてしまうと映画を撮れるチャンスすらなくなってしまうし、一つの映画が次の映画をつくるきっかけを与えてくれることもあるので、ソースを継ぎ足すかのように、とにかくつくり続けることを心がけています。特に『あつい胸さわぎ』は僕自身もプロデューサーの一人として、映画をつくるためのすべての業務にかかわっています。こんなことは初めての経験です。動き始めた時期がコロナ禍ということもあって、企画を進めるのは本当に大変でした。ただ、どうしても映画化したかったし、誰かに任せてしまうときっと成立する可能性が低くなってしまう気がして、だったらもっとも熱量を持っている自分が率先して動いて、想いを伝えていくことで企画を成立させるしかないと思ったんです。

――『あつい胸さわぎ』との出会いについて教えてください。

まつむら 僕は演劇が大好きでいろいろなものを見ています。でも失礼ながらiakuさんとはご縁がなかったのですが、友人がTwitterでとても素晴らしかったとつぶやいていて。その友人とはいつか一緒に映画をつくろうという話を数日前にしたばかりだったので、彼の好みも知りたいという動機から見てみようと思ったわけです。2019年のこまばアゴラ劇場での初演を拝見し、もう帰り道、井の頭線に揺られながら絶対に映画化しようと決意しました。

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まつむらしんご

――映画はどんなスケジュールで制作されたのでしょう。

まつむら まず初演の大阪公演が終わるのを待って横山さんに最初のメールを入れたと思います。2019年10月あたりでした。そこから劇団俳優座さんでの公演がすぐにあったので、横山さんがトークショーに参加される日に僕も観劇して、出待ちしてまずはご挨拶させていただきました。『あつい胸さわぎ』の映画化についてちゃんとお会いしてお話しできたのは、2020年2月ぐらいだったと思います。許諾はいただけたので、その段階で私の方で脚本家、髙橋泉さん(映画「凶悪」「東京リベンジャーズ」「朝が来る」ほか)にどうしても書いてもらいたいという思いがありましたから、2020年3月に彼にお願いをしに伺って、初稿が上がったのが2020年9月。そこからようやく本格的に映画のいろいろが動き出しました。

――横山さん、『あつい胸さわぎ』の戯曲を拝見したときに、なぜこんなにも女性の描き方が繊細でうまいんだろうという印象を受けました。

横山 なぜでしょうね。僕自身あくまでも人の葛藤とか、思わぬものに出会ったときの振舞いとか、そういうことに注目して普段から作家としてのアンテナを張り巡らせて観察しているということはありますけど、それがたまたま女性を主人公にしたときにもうまくはまったのかなという感じです。

――この戯曲ができるきっかけ、ヒントになる出来事はなんだったのでしょう。

横山 僕が扱う題材は親子や家族といった人物配置をすることが多いんです。これは自分の作品のことなので影響という言い方はおかしいんですけど、2018年に劇団俳優座さんに書いた『首のないカマキリ』という作品がありまして、登場しない人物なんですけど、白血病になってしまった10代の女の子をめぐる話が出てくるんです。女の子が自分の意思で卵子の凍結をしたいと親に伝えるという。それは取材や手記を読んだりした中から拾い上げたものでしたが、そのころから若年がんの扱いについて興味を持って調べていくうちに、娘の胸を巡る母との物語、まだ恋をしたことがない女の子という設定に至ったんです。

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横山拓也

――監督は作品のどんな要素に惹かれたのでしょう?

まつむら まず親子の物語であるところに強く惹かれました。シングルマザーの母親がようやく子育てから解放されて、自分の人生における再スタートを切る中で新たな恋愛のようなものに出会っていく。一方、子どもから大人になっていく18歳の少女が初めての恋愛をした。しかし彼女に乳がんが発覚したことをきっかけに、二つの恋愛に障害が起きてしまうという構造にものすごく惹かれました。そしてどうしても乳がんをはじめ婦人系の病気は、女性が考えるべき問題とされがちじゃないですか。男性なのに乳がんの物語を描くのは違和感があるみたいなことを言われたりもするのですが、決して当事者である女性だけの問題じゃなく、男性の問題、僕の問題でもあるはず。むしろ女性の問題と言われていることがおかしい。この作品を見たときにちょうどそんな僕の思いが合致したんです。正直に言えば、女性が胸について思い悩む本当の部分はわかりません。腕がなくなる、足がなくなる、目がなくなる、耳がなくなるということがその後の生活にどんな支障を来たすのか想像はできますけど、胸を失うことが、女性にとってどういう障害になるのか。それがこの物語においては、18歳の女の子がもしかしたら恋ができなくなってしまうんじゃないかという思いにとらわれてしまう。その設定がとても魅力的だと思いました。

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撮影中のまつむら監督

――監督から映画化のお話をいただいたときは、どんなお気持ちだったのでしょう。

横山 いつも正直に答えているんですけど(笑)、もちろんありがたいお話だという前提はありますが、映画のお話はもう着地することが稀なのでどのくらいまで進めていただけるのかという意味では期待しすぎないようにしていました。映画の場合しょうがないんですよ。企画を立ち上げるところからスタートするのもわかっていますし、さらにそこから動き出すのがどれだけ大変かも重々理解しています。小劇場の公演を打つ身軽さとは全然違うんです。でもそうやってお声掛けしてくださったり、興味持っていただけることはもう感謝しかありません。

――横山さん、初演から今までの間に横山さんも相当いろいろな経験を積まれてきてるわけですが、再演はどんな作品として上演されるのでしょうか。

横山 今は本当に稽古終盤で、いつ本番が来ても大丈夫な状態にまで持ってこれています。ちょうど稽古が始まる直前に試写を拝見したのですが、ものすごく刺激を受けました。絵の強さもすごく感じましたし、視線一つで心情が立ちあがってくる瞬間とかに映画の強みを感じ、まず純粋にいい映画にしてもらったという思いがありました。それを受けて稽古に入ったので、一緒に盛り上げていきたいという思いと同時に、負けられないという気持ちが芽生えました。出演者5人のうち4人は初演と同じメンバーで、主演の女の子役には新しく平山咲彩さんを迎えました。彼女の感覚など、この作品に光をもたらす影響が大きいと思ったので、平山さんの心理みたいなものを十分にコミュニケーションしながら見つけていって進めていきました。結果的に初演よりも演技も空間も精密になりました。そして、やっぱりこれは演劇の作品だと強く思いましたね。

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舞台版『あつい胸さわぎ』

――映画の方はどんな手触りになりそうでしょうか。

まつむら もちろん原作に強く惹かれて映画化を決めたので、本当に作家としての僕個人のエゴみたいなのが今回はまったくありませんでした。とにかく物語が素晴らしいので、小劇場で見てくださるお客様だけではなく、映画としてもっと多くの人に届けたいという純粋な気持ちになれたので、何かを大きく変えるつもりもありませんでした。とはいえ演劇と映画はまったく別ものなので、そのためにつくり変えたり、登場人物が増やしたりはしています。演劇では家族というコミュニティと昔から家族と仲良くしている人間というミニマムで、歴史を積み重ねた人間関係の中で展開する。映画ではもう少し外部の人間を増やして関係を少しかき乱し、この物語がミニマムな話、一つの家族だけの話ではなく、もっと世界共通の問題だという視点を入れたいと考えました。ただ、すごいドラマ性があるのに、とってもユーモラス。病気という題材をお客さんを感動させるための道具にしていないのが、僕が観たときにも感じた印象だったので、そこは崩したくなかったし、泣かせに走ることも絶対にしないように心がけましたね。

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映画版『あつい胸さわぎ』

――横山さんとまつむら監督のアフタートークが2回ありますね。

横山 再演を見ていただいて、監督が初演のときに持った感想とどう違ったか、もし今から映画をつくり直すとしたら変えたいところがあるか聞いてみたいですね(笑)。

まつむら 本当に楽しみです。再演には期待しかないんで、とにかく観たい、本当にそれだけです。あとはもう僕は無事に最後まで走りきれるよう神社を見つけたらお賽銭を投げて祈っています。1年前の今ごろ、僕もこの映画を撮っていて創作で使う頭とは別に、常にコロナのことを考えて祈るしかなかったので。あのときの気持ちを思い出すともう本当に苦しいですよね。

横山 ありがとうございます。本当にそこは気を使います。

まつむら 実は横山さんと出会った後、完全にコロナ禍になってしまい、本当は創作期間中にもっともっとお会いしてお話ししたかったんですけど、いかんせん状況が許さなかった。だからこれから横山さんといっぱいお話ししたいなと思っているところです。

取材・文:いまいこういち

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