視野が広がる!フランスで移民のための「市民講座」を受けてきた

視野が広がる!フランスで移民のための「市民講座」を受けてきた

  • コスモポリタン
  • 更新日:2021/02/23
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「グローバル化」が叫ばれて久しい昨今、異なった文化的背景を持つ人々が、真に共に平和に暮らすことはできるのでしょうか。歴史的に多くの移民を受け入れてきた国、フランスで暮らす筆者が体験した、移民のための(スパルタ)勉強会「市民講座(La formation civique)」から見えてきた、この国のリアルな“今”をレポートします!

【INDEX】

移民局からの「召集令状」が届く

アフリカ系移民で溢れかえる教室

皆の前でまさかの「君が代」を熱唱!?

「移民大国」フランス

移民を「統合」することの難しさ

「市民講座」を終えて感じた心の変化

ある日、移民局からの「召集令状」が届く

フランスに移住して早5年。毎年恒例の滞在許可証の更新の時期がやってきました。

フランスにおいて移民や亡命希望者、難民の受け入れに関する責任を負うOFFI(フランス移民統合局)という行政機関があるのですが、今回このOFFIから呼び出しがあり、現状のビザから「フランス人の子供の親のビザ」というものに切り替えるため、面接とフランス語のテストを受けてください、との要請を受けたのです。

その面接の際に案内があったのが、今回レポートする「市民講座」です。これは、フランスに長期滞在する移民が必ず参加しなくてはならない1日約6時間×全4日間の講習会のことで、移民に「フランス共和国の価値観を共有すること」を目的としています。

毎回無料のランチも提供され、フランス語のレベルに応じて別途無料の語学研修も用意されている、かなり手厚いもの――逆に言えば、ここまで提供するのだから「ここで暮らす以上は、フランスという国をリスペクトしなさいよ」という強制力を持つもので、これを受けずして滞在許可をもらうことはできないのです。

アフリカ系移民で溢れかえる教室

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電車に乗り30分、オード県の県庁所在地であるカルカソンヌへ。会場は、街中にある貸し会議室のような場所でした。アジア系は私のみ。その他アメリカ、ウクライナ出身の人以外は、モロッコ、アルジェリア、マリ、ソマリア、コンゴ、マダガスカル、タンザニアと、アフリカ系の移民で埋め尽くされ、普段見慣れない光景に衝撃を受けました。

もちろん講義はすべてフランス語。私にとっては全神経を集中させて聞かねばついていけず、何度も頭がショートしかけました。講師が時々意見を求めてきたり、グループでの作業があるのでおちおち居眠りなどしていられません。自分がまるでフランスの大学に通う留学生にでもなったかのような気分でした。

皆の前でまさかの「君が代」を熱唱!?

自己紹介から始まり、いよいよ講義がスタート。4日間の講義で勉強した基本的なテーマは以下のものでした。

Le portrait de la France(フランス共和国について)

La sante(健康)

L'emploi(仕事)

Le parentalite(子育て)

Le logement(住宅)

その内容は多岐にわたり、毎回、歴史や社会の授業を受けているかのようでした。

海外領土も含むフランスの地理、歴史、政治制度、選挙権などについて。フランスのシンボルや国旗の説明、国のスローガン「自由、平等、博愛」について。政教分離を意味する「ライシテ」についてのディスカッション。フランク王国の建国から始まり、ジャンヌ・ダルクやルイ14世、シャルル・ド・ゴールなどの歴史上の偉人について。

また、より現実の生活に根付いたトピックも充実していて、たとえば健康保険、医療制度、雇用形態や賃金に関する国の規定、教育制度、結婚と離婚、子供の親権に関する法律、税金、銀行口座の開設方法や、履歴書の書き方まで教えてくれます。

フランスについての知識がまったくない移民に対しても、まさに「手取り足取り」な、きめ細やかな内容にびっくり。この国で暮らしていくための基礎知識をたっぷりと叩き込まれました。

またフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」についての解説から、各国の国歌の話になり、なんと皆の前で「君が代」を歌わされることに…!

ランチタイムは皆で近くのビストロへ。ムスリム率が高かったので、お肉は選択制でした。

最終日は「文化」をテーマにしたフィールドワークで、カルカソンヌの街中に点在する歴史的建造物を見てまわる“プチ遠足”。午後は、なぜか移民たちの人生相談タイムになり、「フランスで禁止されている重婚について」「フランスの公共機関の人たちはなぜ高圧的なのか」「バカンスをどう上司に申請するべきか」などといった雑談もとても興味深く、最終日には移民同士がすっかり打ち解けて、皆で写真を撮ったりする和気あいあいとしたムードで終了しました。

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「移民大国」フランス

今回私が受けたこの「市民講座」は、移民たちにフランスの価値観を徹底的に教え込み、フランス社会に統合、同化させる意図があるのだと思われます。

そもそもフランスという国は、人口の約10%を移民系が占める「移民大国」。その3分の1は他のヨーロッパ圏から来ているのに対し、約半分はアフリカ圏の出身。なかでもアルジェリアやモロッコなど、かつてフランスの植民地だった北アフリカ諸国の出身者が多く、それは今回私が参加した講座でも明らかでした。

また、毎年2万人ほどの難民を受け入れていて、シリアやソマリアなどからの難民も多く含まれます。自身もアルジェリアをルーツに持つ講師が何度も強調していた、「移民でも正当に手続きをして税金を払えば、フランス国民と全く同等の権利が得られるんだよ」という言葉は、この国に夢を持ってやってきた移民たちを大いに鼓舞するものでした。

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移民を「統合」することの難しさ

この講座が「義務」だったことからもわかるように、フランスの移民の受け入れは、移民がフランス語の習得に励み、フランスの価値観を理解した「フランス市民」となることを前提として行われてきた、と言えるでしょう。

しかし、たとえば2015年のパリ同時多発テロや風刺週刊紙『シャルリー・エブド』襲撃事件など、ここ数年間でイスラム過激派によるテロが相次いで起こっており、フランスが移民を「統合」することの限界が来ているようにも感じます。講座を受ける直前にも、「表現の自由」の授業の一環としてムハンマドの風刺画を見せた中学校の歴史教師が斬首される、というショッキングな事件が起こりました。

フランスにおけるイスラム教徒の人口は約570万人とも推計されていて、EU加盟国の間で最も多くなっています。フランスが「フランス国民」として掲げる価値観と、特にイスラム系移民が向き合う現実の間には、深い溝があるようです。

子供が移民の子であろうと、フランスの教育を受ければフランス国民になれる。しかし、国籍が付与され、法律上は「国民」となっても、外見などにもとづいて「移民」扱いされ、差別を受けるだけでなく、正規の職を得られなかったりといった社会・経済的格差に苦しむ移民もたくさんいます。

また、移民排斥を訴える極右政党「国民連合」が今また勢いを増しており、移民にとって看過できない影響を与えているのも現実です。

「市民講座」を終えて感じた心の変化

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講義で出会ったソマリア出身の難民男性が私に話しかけてきました。「こんにちは。私は日本語を少し話せます」。現役大学生の彼はフランス語も完璧で、大学で出会った日本人の友人から日本語を習い、たった1年で習得したそうです。その時私は、ソマリア=貧しい国、難民、というイメージだけで見ていた自分を恥じました。

ウクライナ出身の女性は、自国の経済状態が悪く、職を求めて渡仏、今は家族を呼び寄せる準備をしているとか。

いろいろ意見があると思いますが、個人的にはこの講習を通していろんな移民に出会えたことが大きな刺激となり、私の視野を広めてくれました。

世界では、肌の色、国籍、民族、宗教、歴史、価値観、タブー、全てが異なる人々が混ざりつつあります。国が掲げる「平等」の精神などおかまいなしに、今フランスでは、コロナ禍におけるアジア系移民への差別が広がりつつあるのも事実です。

しかし、一番大事なのは人間としての温かい心と、出身国や宗教などでその人を決めつけたりせず、心をオープンにして対話すること。それこそがヒューマニズム(人間主義)なのだ、と感得できたような気がします。

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