午前3時起床、週6日の勤務...大型トレーラー運転手として激務を送る30歳女性の日々に迫る

午前3時起床、週6日の勤務...大型トレーラー運転手として激務を送る30歳女性の日々に迫る

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/11/21

「アマゾンのロゴを見るだけで吐き気が…」需要が増え続ける宅配業界の悲惨な実情とはから続く

【画像】女性ドライバーの不満は、「お手洗い(トイレ)の問題」

インターネット通販の台頭や、コロナ禍による巣ごもり需要の増加を要因に、宅配業者の需要は増加の一途をたどっている。しかし、重労働というイメージがあるためか、ドライバーは慢性的に人手不足が続いているというのが実情だ。なかでも運転の難易度が高い大型トレーラーのドライバーは、団塊世代の定年を迎え、空前の人手不足に見舞われている。

刈屋大輔氏の新著『ルポ トラックドライバー』では、そんな大型トレーラーの運転手として働く女性に密着した。彼女はなぜ大型トレーラーの運転手という職業を選んだのか、激務の日々を過ごす女性の思いを、同書より引用し、紹介する。

◇◇◇

大阪港で海上コンテナを搬出入

どんよりとした梅雨空が広がった2020年6月下旬。この日の同乗取材の待ち合わせ場所は、大阪・泉大津港のフェリーターミナル近くの岸壁沿いにあるトラック置き場(駐車場)だった。現地に到着したのは午前6時。土曜日だったせいだろうか。早朝にもかかわらず、駐車場近くの岸壁は魚釣りを楽しむ親子連れで賑わっていた。

この辺りではいったいどんな魚があがるのだろうか。釣果を確認しようとベテラン風の釣り人のバケツを覗き込んでいると、携帯電話の着信音が鳴った。その日取材でお世話になる女性トラックドライバーのユミさん(仮名)からの着信だった。「いまどちらにいらっしゃいますか?」

どうやら私は待ち合わせ場所を間違っていたようだ。土地勘がないうえに、周囲は同じ構造をした平屋の倉庫が立ち並ぶだけの殺風景な場所だった。慌てて目に入った数百メートル先にあるガソリンスタンドの存在を伝えると、「ではそこで落ち合いますか」とユミさん。スーツケースを引きながら小走りでスタンド前に向かうと、手入れの行き届いたピカピカに輝く大型トレーラーが停まっていた。その運転席にはサラサラのロングヘアーで口にはマスク、紺色の作業着姿のユミさんが座っていた。

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©iStock.com

ドアをあけて助手席によじ登る。座席後方のスペースにスーツケースとカバンを置かせてもらう。互いに簡単な自己紹介を済ませた後、大型トレーラーはその日最初の仕事先だという大阪南港に向けて出発した。

ユミさんは大型トレーラーで海上コンテナを運ぶ仕事をしている。海上コンテナとは、国際貿易を行う海上輸送などに使用するモノを納めるための容器だ。主なサイズは20フィートや40フィート。種類としては常温品を運ぶためのドライコンテナや、冷蔵・冷凍品を運ぶためのリーファーコンテナなどがある。コンテナはトレーラーの荷台部分であるシャーシに載せて輸送する。

ユミさんは主に大阪港(稀に神戸港も)で積み降ろしされる海上コンテナを扱う。港のコンテナターミナル内のコンテナヤードで海上コンテナを積んで、客先(物流拠点など)まで運ぶ。または、客先から荷物が入った状態や空の状態の海上コンテナを預かり、コンテナヤードに搬入する。コンテナヤード間やコンテナヤード内で海上コンテナを動かす回送業務も担当している。

午前3時起床で週6日の勤務

ユミさんの一日はとてもハードだ。まだ夜明け前の午前3時すぎに起床して、二人の子供と自身のための弁当づくりや夕食の仕込みなど、一通りの家事をこなす。その後、勤務先である運送会社には5時半に出社。アルコールチェックや車両点検などを済ませて、6時すぎには車庫を出発する。忙しい時期には、途中の休憩を挟んで午後8時まで乗務することもある。月~土曜日まで週6日勤務している。

午前3時起床で週6日の勤務。ハンドル操作の難しい大型トレーラーの運転は精神的にも肉体的にも疲れるはずだ。しかし、ユミさんは「慣れてしまえば、全然平気ですよ」とマスク越しの笑顔で否定する。

ユミさんが大型トレーラーのハンドルを握り始めたのは5年前。すでに25歳の時には大型トレーラーを運転するために必要な大型免許と牽引免許を取得していた。しかし、すぐにはドライバー職に就かず、二人の子供が成長するのを待って、この仕事を始めた。

前職が自動車販売に関係する仕事だったこともあり、車の運転はもともと好きだった。

大型トラックのドライバーの仕事には昔から憧れがあり、いつかはそのハンドルを握ると心に決めていたという。

トラックドライバーの仕事は、まず小型トラックで運転のノウハウや経験を積み、その後、中型トラック、大型トラックの乗務にシフトしていく、というのが通常のキャリアパスだ。

ところが、ユミさんはトラックドライバー職を一度も経験しないまま、いきなり大型トレーラーのドライバーになった。その度胸もさることながら、必要な免許はすでに保有していたとはいえ、トラックの乗務経験がゼロで、しかも女性の採用を決めた会社側にとっても、勇気のいる決断だったに違いない。

ユミさんは「4トンや10トンの運転手から経験を積んでいかないと、大型トレーラーのハンドルはなかなか握らせてもらえないと聞く。そういう意味で未経験者の私を採用してくれた会社にはとても感謝している」という。

担い手不足と高齢化が深刻な海コン輸送

近年、大型トレーラーを使う海上コンテナ輸送はドライバー不足に直面している。その深刻さの度合いは、同様の課題を抱えている大型トラックによる長距離輸送や宅配便の領域よりもはるかに高いかもしれない。

実際、すでに港での通関許可は下りているものの、運び手を確保できないため、ヤードからコンテナを搬出できないなど、ここ数年、国内の主要港では円滑な貿易に支障を来たす事態が発生している。

ドライバーが集まらない理由の一つに、海上コンテナ輸送の過酷な労働環境がある。主要港のコンテナターミナルは慢性的な混雑に見舞われており、それに伴いドライバーたちはターミナルのゲート前で長時間の待機を余儀なくされている。その影響もあって海上コンテナ輸送は仕事としての拘束時間がとても長い。

港での長時間待機

コンテナターミナルの混雑ぶりは尋常ではない。東京都トラック協会が2019年5月に実施した定期調査によれば、東京港の各コンテナターミナル(大井地区、青海地区、品川地区)での待機時間は、輸入、輸出ともに平均で2時間以上、最長では8時間を要していたケースもあった。ドライバーたちは待機している間、トイレにも行けずに積み降ろしの順番を待ち続けている。

港での長時間待機は、海上コンテナ輸送を手掛けるトラック運送会社の収支を圧迫している。ターミナルでのコンテナの出し入れに多大な時間を費やすため、大型トレーラーの一日当たりの稼働量(運行本数)が限定されてしまい、売り上げが思うように伸びないという。

そして会社として十分な収入を確保できなければ、当然、ドライバーの賃金を低く抑えざるを得なくなる。仕事はハードなのに、それに見合うだけの報酬を手にすることができなければ、ドライバー人材が集まるはずはない。海上コンテナ輸送は、収益悪化が労働力不足を招く負のスパイラルに陥ってしまっている。

環境改善のめどは立っていない

その一因でもあるコンテナターミナルでの長時間待機の問題は、解消に向けた対策が長年にわたって官民で議論されてきた。しかし、その進みは“牛歩のごとく”であり、海上コンテナ輸送を手掛けるトラック運送会社や実務を担うドライバーたちは満足していない。

経済のグローバル化で国際貿易が活発化し、コンテナ貨物の取扱量は世界的に拡大している。これを受けて、海外の主要港では、接岸した船での積み降ろしやコンテナヤードでのハンドリングといった港湾荷役を365日24時間体制で展開している。

ところが、日本では未だ港湾荷役の稼働時間を制限している港が少なくない。コンテナのボリューム拡大に対し、荷役が十分に供給されない需要過多の状態であれば、インフラ(コンテナターミナル)が混雑するのは当たり前だ。今後、日曜(休日)荷役や夜間荷役など混雑緩和のための取り組みが浸透していかないかぎり、ゲート前やゲートの周辺道路で大型トレーラーが長蛇の列をなす光景は消えることがないだろう。

20歳代のドライバーはわずか3.1%

ドライバーの高齢化も加速している。関東トラック協会が実施した調査によれば、2020年3月31日時点で、海上コンテナ輸送を手掛けるドライバーの平均年齢は49.9歳だった。トラックドライバー(道路貨物運送業)の平均年齢(全国)は大型で48.6歳、中小型で46.6歳となっており、それらを1~3歳程度上回る水準で推移している。

年代別では「50歳代」のドライバーが最も割合が大きく、全体の36.0%を占める。次いで「40歳代」が33.9%。「60歳代」13.1%、「30歳代」11.2%、「20歳代」3.1%、「70歳代」2.7%と続く。

「40歳代」以上は全体の実に8割超に達しており、そのことからも高齢ドライバーへの依存度の高さが窺える。ちなみに、同調査で確認された最高齢のドライバーは79歳だった先にも触れたが、大型トレーラーのハンドルを握るためには、大型自動車の運転免許のほかに、牽引免許を必要とする。長きにわたる活躍が期待できる若年層がなかなか流入してこないのは、このような資格上のハードルの高さもネックになっている。

こうして海上コンテナ輸送の現状を見ていくと、「女性の未経験者」であるユミさんが大型トレーラーのドライバーとして採用された理由が何となくわかった気がした。乗務に欠かせない資格(免許)をすでに持っていて、年齢は30歳代。長時間待機など過酷な労働環境も厭わない“やる気とガッツ”がある。海コン業界が求めているドライバーとしての条件を満たす稀有な存在であることが採用の決め手となったのだろう。

待機時間中はスマホいじり

大阪南港に向かう車中では、ユミさんにプライベートについても色々と話を聞いてみた。 趣味は食べ歩き。休日の日曜日には、メディアや口コミで評判のいい肉系メニューが充実した飲食店に足を運ぶ。食事をしながら、口にした牛肉の珍しい部位や、料理が綺麗に盛りつけられたプレート(皿)をスマホのカメラで写真におさめていく。それを自身のインスタグラムのページにアップすることを楽しみにしている。

運転中は車内にJPOPを流している。お気に入りのアーティストの一人は「あいみょん」だ。普段は娘さんと一緒にカラオケ店で熱唱しているが、最近は新型コロナの影響で足が遠のいており、もっぱら運転席での“ひとりカラオケ”に興じている。

ゲート前での待機時間中にはスマホが欠かせない。ユーチューブで好きな動画を観たり、SNSをしたりして過ごすことが多い。LINEグループを通じてドライバー仲間たちと周辺道路やゲートの渋滞状況などを共有するのも日課の一つだ。ドライバーたちから寄せられる生の声は、ナビが提供してくれる情報よりも精度が高く、とても役に立つのだという。

トラックドライバー職に対する女性としての不満や不安なども聞いてみた。

男性が働くことを前提に整備されてきた職場環境

不満として最初に挙げたのは、第六章で取り上げた軽トラドライバーの杏子さんと同じく「お手洗い(トイレ)の問題」だった。ユミさんは「女性専用かつ衛生的で、パウダールームが併設されていたり、女性にとって使い勝手のいいトイレが物流現場にもっと普及してくれれば、女性ドライバーたちにとって、もっと働きやすい環境になる」と指摘する。

トラック輸送の現場は長らく、男性のみが働くことを前提に職場環境が整備されてきた。それだけに、女性用トイレの絶対数が足りないなど、未だ女性ドライバーたちへの配慮に欠けている感は否めない。

「トイレ問題」と言えば、もともとは清涼飲料水などが入っていた空のペットボトルに尿を入れて、路上や道路脇の植え込みなどに“ポイ捨て”されていることが一時期、社会問題として取り上げられたことがあった。ポイ捨て犯の大半は男性のトラックドライバーだとされている。物流拠点への入線待機中や渋滞運転中など、トイレに駆け込めない時に、空のペットボトルをトイレとして代用している。

緊急時とはいえ、看過できない行為だ。ただ、身体的な構造や羞恥心からペットボトルを使えない女性ドライバーたちからすれば、そうやって用を足せる男性は羨ましい面もあるという。詳細はのちの第八章で触れるが、こうしたトイレ問題を解決することは、トラックドライバー職への女性進出を促していくうえでも、運送業界全体として避けて通れない道であると言えるだろう。

インスタ映えしないカー用品

ユミさんはトラック向けカー(CAR)用品にも不満を持っている。作業用手袋をはじめ、運転席に置く小物類、シフトレバーやハンドル用のカバーなど、「自家用車向けに比べ、商用車(トラック等)向けのカー用品は、とにかくイケてない。男性だけが乗務することを前提に開発されており、その商品のほとんどはインスタ映えしない」(ユミさん)。

ピンクやパープルなど女性が好む色を使ったアイテムがこれから増えていくといいですね、と返したところ、間髪を入れずに “マーケティング講座”が始まった。

「色はもちろん、柄や形状、キャラクターやロゴなど、女子の好きな要素がたくさん盛り込まれたアイテムが必要。それらに囲まれながら毎日運転の仕事ができたら、女性ドライバーたちはもっとテンションが上がるはず」

いま市場に出回っているアイテムにまったく魅力を感じていないユミさんは、行きつけのカー用品ショップのオーナーに、女性トラックドライバー向け商品を共同で開発することを持ちかけた。自身や女性ドライバー仲間たちのインスタを活用した拡販も提案した。しかし残念ながら、色よい返事はもらえなかった。

恐らく、オーナーが開発に二の足を踏んでいるのは、潜在的なニーズも含め、商品のターゲットとなるマーケットの規模がまだまだ小さいからだ。実際、日本国内でトラックのハンドルを握っている女性ドライバーの数は2万人程度にとどまっている。

(刈屋 大輔)

刈屋 大輔

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