
豪州代表のワーウィック・サーポルド【写真:羽鳥慶太】
メジャー82試合登板のサーポルド、子どもたちとの交流で気付きが…
6年ぶりに行われているワールド・ベースボール・クラシック(WBC)を戦う日本代表「侍ジャパン」は、1次ラウンドプールBを4戦全勝で駆け抜け8強進出、さらにイタリアとの準々決勝も制しアメリカへ飛んだ。注目された日韓戦に圧勝するなど、戦前の高評価そのままに勝ち進んだ日本の戦いを、対戦チームはどう見ていたのだろうか。プールBの2位で、史上初の8強進出を決めた豪州のワーウィック・サーポルド投手は、日本滞在中に気付いたことがあるという。
サーポルドは2016年からの3年間タイガースでプレーし、メジャー通算82試合登板、8勝4敗という成績を残している。2019年からは韓国プロ野球のハンファで2年連続2桁勝利を挙げるなど、今回の豪州代表の投手陣では圧倒的なキャリアを誇る投手だ。その目にも驚異に映ったのが日本の打線だった。「世界最強の打線と言えるでしょう。2回優勝しているのも当然だと思います。1番から9番まで気を抜くところがない」と賛辞を惜しまない。
なぜ日本野球がこれほど強いのか。サーポルドには思い当たることがあるという。豪州はWBC開幕前、東京都府中市で合宿を行った。選手がラーメン店に集まったり、神社で集合写真を撮るなど日本文化にも触れる姿が話題となったが、その間に地元の野球少年たちを集めた野球教室を開いていた。
「その時に思ったんです。日本の子どもたちは打撃も、投球も、野球の動作がこんなにうまいのかと。野球の動きが、若い世代から備わっているのに感動しました。豪州に比べると、あまりにも早い。みんなよくできているのは本当に驚きました」
日本の選手は「あまりにも早くから野球の動きをできている」
豪州の選手は小さい頃から野球に触れるケースが少なく、野球の動きを後から身に着けていくのだという。「日本と違って、野球がメジャーではないですから。フットボールやクリケットがメーンで、子どもたちが小さなころからプレーするのはこちら。日本の子どもは小さなうちからキャッチボールをしたり、バットを振ったりできている。野球に関係した動きをできていると思います」。
さらに、日本と季節が逆となる豪州の選手にとっては、年末年始こそが野球のシーズン。北半球の夏にプレーする機会を得られるのは、北米や日本からオファーのあるひと握りの選手だけだ。メジャー経歴のあるサーポルドも例外ではなく、現在日本の夏にあたる期間は父が経営する道路舗装の会社で働いているという。「日本の選手は、ぼくらよりスポーツ選手らしい身体をしていて、それも強い要因の1つかな」。プロとして、1年を通じて野球中心の生活を送れるのも大きな違いだ。
強化には、まず野球というスポーツを知ってもらうことから始めなくてはならない。母が豪州代表を長年率いたジョン・ディーブル氏と友達で、幼いころから野球を続けてきたサーポルドはレアケースだという。現状を考えた時に「条件がいろいろ揃わないと、野球で日本のレベルに達するのは難しいかな」と口にするしかない状況だ。
今回のWBCで、豪州野球のレベルアップを世界に示すことはできた。史上初の8強進出を果たし、ブルワーズや中日でもプレーしたデービッド・ニルソン監督も「いい準備がこの結果を招いてくれた」と、事前合宿を受け入れてくれた府中市に感謝した。子どもたちとの思わぬ出会いが、メジャーも経験した右腕に日本野球の“強さの秘密”を気付かせた。豪州に戻って種をまき、さらなる代表強化につなげることはできるだろうか。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)
羽鳥慶太 / Keita Hatori