【夕焼けエッセー】孫の手のひら

  • 産経ニュース
  • 更新日:2018/02/15

真冬の冷え込みが一向に収まらない早朝、一番下の孫が、午後1時からの大学入学試験に臨むべく白い息を吐きながら出かけていった。

出かけしな

「いつもの勉強の続きだと思って楽な気持ちでやってこいよ」

と言いながら、握手をして送り出した。

彼は、生まれて45日目に父親を交通事故で亡くしている。

今、何年ぶりかにぎゅっと握った孫の手のひらは緊張のためか少しひんやりと汗ばんでいたが、老いた祖父の手を力強く握り返し

「じいちゃん、今日は頑張ってくる!」

と笑顔で言ってくれた。思わず、胸がきゅんとなった。

老いた自分の手のひらは、硬く節くれだった老人の手になっているはずだ。感受性豊かな年頃の彼は、どんな思いでこの手を握り返してくれたのだろう。

父親亡きあと、自分なりに父親代わりを務めてきたつもりだが、孫の急成長とわが身の老化が同時進行しているなかで、彼にしてやれることはなんだろう。

できることは知れている。孫にはずっと、祖父として申し訳ないような気がしていた。

試験の方はどうだったのだろう。今日は長いような短いような一日だった。

時計の針は、夜の8時前を指している。そろそろ寒さにほっぺたを赤くした孫が帰ってくる時間だ…。

大越 正 (85) 大阪市東成区

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