中国の空母「遼寧」が日本近海通過、その事実が暗示する恐ろしい未来

中国の空母「遼寧」が日本近海通過、その事実が暗示する恐ろしい未来

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/07/12
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米中貿易摩擦の行方が最大の注目点となったG20サミットが開催される少し前の6月11日早朝、中国海軍のクズネツォフ級空母「遼寧(りょうねい/CV-16:65,000トン)」を中心とする6隻の空母艦艇群(グループ)が東シナ海から沖縄・宮古島間を通峡(南下)して太平洋へ進出した。

同艦艇群がこの海峡を通峡したのは、平成28(2016)年12月25日(海峡南下)、同30(2018)年4月21日(海峡北上)に次いで3回目である。

これは、西太平洋方面への外洋航海を兼ねた日米台(日本、米国、台湾)に対する軍事的示威行動(プレゼンス)であるのは明らかであるが、われわれが何より注目しなければならないのは、これら中国の運用の進化。即ち、「中国海軍の空母運用がどれほど実戦に即してきたか」ということである。

人民解放軍がダミー会社まで作って手に入れた空母

この空母「遼寧」というのは、元々旧ソ連海軍クズネツォフ級空母の2番艦として「ワリャーグ(ロシア語で戦士の意)」と名付けられ、ウクライナ造船所で建造されたものであった。

しかし、完成間際にソ連が崩壊して整備計画がとん挫し、ウクライナがソ連から独立したため宙に浮いていた本艦は、ロシアとの交渉の後にウクライナの保有となった。

これを中国の人民解放軍の息のかかったマカオの観光(ダミー)会社が、「カジノ付きの洋上ホテルに改修する」との名目で1998年にウクライナから買い取ったものである。

この際、エンジンやその関連機器、電気系統などはほぼ元のままの状態であった模様である。その後、このダミー会社は消え失せ、購入時の契約で定められていた「軍事目的で使用しない」との約束は反故にされて、本艦は機関や設備から兵装に至るまで大幅な改修が加えられ、2011年に中国初の空母として完成に至ったのである。

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大連港に停泊中の空母「遼寧」(photo by gettyimages)

人民解放軍がダミー会社まで作ってこの空母を何としても手に入れようとした背景には、1996年の(第三次)台湾危機が関係している。

この年、中国が台湾海峡で弾道ミサイルなどの実射演習を行って(独立派の李登輝総統の再選が懸かった総統選挙直前であった)台湾を軍事恫喝した際、米国は「ニミッツ」と「インディペンデンス」を中心とする2個空母戦闘群(CVBG:Carrier Battle Group/空母を中心とする攻撃部隊)を台湾海峡周辺に派遣して中国をけん制し、台湾海峡は一触即発の状態となった。

結局、戦闘は回避され、中国の目論見は失敗に終わり、李登輝総統は無事に再選を果たしたが、中国はこのCVBGによる米軍の機動力の高さを目の当たりにすることになり、将来的に米国に軍事力で対抗するためには、何としても空母を保有する必要があると痛感したのであろう。

外洋活動に必要なコマはそろった

最初に空母「遼寧」艦艇群による沖縄・宮古島間の通峡が確認されたのは、前述のように「遼寧」完成から5年後の平成28(2016)年12月であった。この時の艦艇群の編成は、空母「遼寧」のほか、ルーヤンⅢ(ミサイル駆逐艦7,000トン級)1隻、ルーヤンⅡ(同)2隻、ジャンカイⅡ(フリゲート艦4,000トン級)2隻の計6隻であった。

2回目の平成30(2018)年4月は、「遼寧」のほか、ルーヤンⅢ1隻、ルーヤンⅡ3隻、ジャンカイⅡ2隻の計7隻であり、ミサイル駆逐艦が1隻多いほかは、1回目とほぼ同じ編成であった。つまり、この編成が中国海軍の空母艦艇群としての基本編成なのであろう。

因みに、現在の米海軍空母打撃群(CVSG:Carrier Strike Group)の基本的な編成は、空母(100,000トン級)1隻、ミサイル巡洋艦(7,000トン級)1~2隻、ミサイル駆逐艦(9,000トン級)2~4隻、攻撃型潜水艦(6,000トン級)2隻、補給艦(40,000給油艦/高速戦闘支援艦等)1~2隻の計7~11隻となっており、中国はこれを参考にして保有する艦艇の中から編成を組んでいるものと考えられる。

米海軍のCVSGと比較すると、この2回の「遼寧」艦艇群の中で欠落している艦艇がある。それは、攻撃型潜水艦と補給艦の存在である。

この内、潜水艦については実際に艦艇群に先行するなどしていたかもしれないが、これは表には出てこないので何とも言えないものの、周辺で活動していた可能性はあるだろう。

一方、補給艦については、この6月の空母「遼寧」艦艇群の編成で新たに確認された中国海軍の最新型補給艦である「フユ級高速戦闘支援艦(AOE-965:48,000トン)」の存在に刮目しなければならない。この高速戦闘支援艦(Fast Combat Support Ship)というのは、空母の運用に必要な補給を行うため特別に設計された補給艦であり、燃料から弾薬や数千人分の食料に至るまで、この1隻で全て空母艦艇群に関わる補給を賄うことができる能力を有している。満載排水量は今までの中国海軍の補給艦の倍以上で、速力も25ノットと高速で航行する空母に追随することが可能である。

つまり、今回の艦艇群を見ると、編成上これで中国海軍の空母艦艇群が外洋で活動できる駒がそろったということになる。

訓練内容は格段に進化している

では、この空母艦艇群の実際の運用能力はどうであろう。

過去3回のこれら艦艇群が太平洋に展開した際の活動状況について、防衛省統合幕僚監部の公表資料から見てみるとその一端が窺える。

(1)平成28(2016)年12月の状況
空母艦艇群は、青島(チンタオ)の母港に集結後、出港したものと見られ、東シナ海を経て沖縄・宮古島間を通峡して太平洋に進出した。

海上自衛隊が確認したところによると、この東シナ海で活動した際には、「フチ級補給艦(AOR-966:23,000トン)」が随伴していたことから、訓練を兼ねて洋上補給を実施した後に太平洋へ進出したのであろう。太平洋へ進出後は特に目立った活動等はなく、程なく台湾を周回するように台湾南部のバシー海峡を西航して台湾海峡を北上し帰投したものと思われる。

これらは、日米台に対する軍事的示威行動はもちろんのこと、艦艇群としてこれらの海峡を通峡することや太平洋へ進出することを主目的とした外洋航海訓練であったものと考えられる。

(2)平成30(2018)年4月の状況
このときは、前回と逆コースで青島を出港した空母艦艇群は東シナ海を経て台湾海峡を南下した後、台湾を周回するようにバシー海峡を東航して西太平洋へ進出した。この際、西太平洋へ出たところで空母に搭載した複数の艦載戦闘機による離着艦訓練が行われているのを海上自衛隊が視認した。外洋で空母「遼寧」の艦載戦闘機による離着艦が行われるのを確認したのはこれが初めてであった。

また、これら艦艇群が西太平洋へ進出して反転北上し、沖縄・宮古島間を通峡するまでの3日間にわたり、中国海軍の航空部隊と連携した訓練も実施した模様である。この爆撃機や支援機は、中国本土の基地を離陸して東シナ海を横断し、沖縄・宮古島間の海峡上空を南下して空母艦艇群とは逆コースを飛行して台湾を周回するように母基地へ帰投した。爆撃機が東シナ海から同海峡上空を西太平洋へ抜けるまでの間には、戦闘機2機による随伴(エスコート)も確認された。

航空自衛隊のスクランブル機がこれらの航空機を写真撮影し、爆撃機(H-6)が対艦ミサイル(ASM)と思しきミサイルの搭載を確認したことなどから、この爆撃機等は空母艦艇群と対抗訓練を行ったものと推定される。

恐らく、航空部隊は(米空母打撃群への攻撃を模擬して)艦隊攻撃を実施し、一方の空母艦艇群は空母を中心とした対空防護訓練を実施したのであろう。即ち、これらは前回のような外洋航海と示威行動が主体ではなく、外洋における実戦的な戦闘訓練を主眼に置いたものであったと考えられる。

以上2回の状況を見ると、初めて西太平洋へ進出して1年半足らずの間で訓練内容は格段に進化していることが窺える。

今回から加わった最新型補給艦

最初に太平洋へ進出した際は、空母に艦載機の搭載は確認されなかったが、2回目の通峡時は艦上に8機の戦闘機とヘリ1機の搭載が確認された。艦内にも艦載機は格納可能なので実際に何機搭載していたかは不明であるが、「遼寧」は20機ほどの戦闘機(J-15)が搭載可能とされている。

最後に、今回の6月の状況を見ると、艦艇の種類や規模も今までとほぼ同等であったものの、今回は空母艦上に戦闘機等の搭載は認められなかった。しかし、今までと全く異なる点が三つ確認された。

一つめは、先に触れたように最新型補給艦である「フユ級高速戦闘支援艦」が初めて随伴し、「今までよりさらに航海距離を延伸してグアム周辺まで航行した」ということ。

二つめは、1回目と2回目は空母に随伴した艦艇の半数である3隻(ミサイル駆逐艦1隻、フリゲート艦2隻)が同じ個艦であったのに対し、今回は空母を除く全ての個艦が、「今まで空母に随伴して外洋(太平洋)に出たことが認められなかった艦であった」ということ。

そして最後に、今までの2回は北海、東海、南海艦隊それぞれの艦隊所属艦からなる混合編成であったのに対して、今回は全て「空母の母港である北海艦隊所属艦で編成されていた」ということである。

これはいったい何を意味するのか。筆者は、いよいよ「北海艦隊で『遼寧』を主体とする空母打撃部隊が本格的に編制された」のではないかと考えている。

今回は、この手始めとして東シナ海から沖縄・宮古島間を通峡し、太平洋へ進出して新たに加わった高速戦闘支援艦による空母への洋上補給を演練したり、それぞれの戦闘艦艇が隊形を組んで空母を護衛したりする訓練を実施したのではないかと推定する。加えて、南シナ海への覇権や台湾の問題などで中国を抑え込もうとする米国に対する示威行動として、グアム周辺におけるプレゼンス活動を実施したのであろう。

今回、艦上に艦載戦闘機等を搭載していなかったのは、米国を過度に刺激しないよう配慮した結果かもしれない。

早急に戦略面からの見直しが必要

空母「遼寧」を中心とする中国海軍の空母打撃群は、ようやくその運用が緒に就いたばかりと見られる。しかし、もう間もなく艦載機を満載した「遼寧」艦艇群が定期的に西太平洋を周回するようになるであろう。最後に今後の動向とわが国や米国などに及ぼす影響について考えてみたい。

(1)米国や他の地域に及ぼす影響
そもそも、空母というのは、その建造や運用に莫大なコストがかかる。旧ソ連も結局はこの負担に耐えられずに米国に匹敵するような空母部隊の建設を断念した。

一方で、中国が未だ堅調な経済基盤を背景にこの建設計画を推進し、独自に建造した新たな国産空母「001A型:70,000トン級」が進水して試験航行を実施中であるほか、「002型」と呼称される2隻目の国産空母も上海郊外の造船所で建造中の模様である。米国防総省は、この空母について2022年にも完成する可能性があると予想している。今後、中国は少なくとも4個以上の空母打撃部隊を編制するつもりであろう。これは、それほどまでに莫大な経費を投入しても、この投資に見合うだけの戦略上のメリットがあると確信しているからに他ならない。

中国の空母打撃群は、現時点ではとうてい米国の空母打撃群に匹敵するような戦力ではないし、将来的にも、中国軍が米軍に戦術面で互角に戦って勝てる相手ではないだろう。しかしながら、中国の空母打撃群によってグアムやハワイさらには米本土が弾道ミサイル以外の戦力で直接脅威にさらされるというのは、とても看過できないことであるだろうから、この対応に一定の戦力を拘置する必要が出てくる。したがって、いずれかの地域で米軍が多大な戦力を展開しなければならないときには、「極めて厄介な存在たりうる」ことが予想される。

また、米軍不在の地域における国々にとっては、この空母打撃群は相当な脅威となる。つまり、「世界の警察」という役割を放棄して孤立主義化する米国のすきを狙った戦略的地域における「力の外交」が可能となるということである。中国は、これだけでも十分なメリットがあると考えているのであろう。

(2)わが国に及ぼす影響
また、中国はこの空母打撃群を前述のような戦略的アイテムとして以外に、実際の作戦行動においても、南シナ海などにおける海洋権益の確保やシーレーン防衛に加えて、何よりも台湾有事の際に必須の機動部隊であると考えているに違いない。まさに前述した空母「遼寧」艦艇群の台湾周辺における活動がこれを裏付けている。

これは取りも直さず、尖閣諸島における有事の際にも同様にこの機動部隊が有効であるということであり、わが国はこの空母打撃部隊に対する防御作戦も考慮しておかなければならない。そのためには、東シナ海方面だけではなく、比較的防御が脆弱である太平洋方面からの攻撃にも備えなければならない。

たとえば、航空自衛隊は、F-35の配備推進はもとより国内各地域における機動展開能力をさらに拡大する必要があろう。また、海上自衛隊は、空母部隊の建設もさることながら空母機動部隊に有効な潜水艦部隊の増強を考慮する必要があろう。

そして、何より重要なのは、海空自衛隊の協同作戦及び日米共同作戦の強化であることは言うまでもない。しかし、トランプ大統領になってから、日米安保の片務性があらためて取りざたされるなど、日米共同作戦に過度に期待するリスクも考えなければならなくなってきている。

わが国は、独自に国を護る防衛力について、早急に戦略面からの見直しが必要となっているのではないだろうか。中国が、台湾や尖閣諸島での緊張をさらにエスカレートさせて、わが国が軍事的に対応しなければならなくなった際に、「中国の空母打撃部隊が日本海と太平洋からわが国を挟み撃ちするように取り巻く」というような事態が顕現する前に。

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