「分断」と「壁」―トランプ時代の『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』

「分断」と「壁」―トランプ時代の『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』

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  • 更新日:2017/10/12
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(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

映画は、製作された時代の写し鏡の役割を持つことがある。

特に『猿の惑星』シリーズは人間と猿の立場が逆転した不気味な世界を、その当時の社会不安への風刺を込めて描いてきた。

シリーズ1作目の『猿の惑星』(1968年)が公開された当時、世界を覆っていたのは核の恐怖だった。猿が支配する世界をさまよった主人公が見たものは、核戦争の末、砂浜に沈んだ自由の女神像。猿の惑星とは、実は未来の地球の姿だった―この衝撃の結末は、映画史上でも有名なエンディングとなった。

また、シリーズを通して下敷きにしていたのは人種差別問題で、人間と猿の関係性に白人と黒人の構図を意識して描いている。本シリーズ出演以前は白人社会を象徴するようなキャラクターを演じてきたチャールトン・ヘストンが『猿の惑星』で演じる主人公テイラーは、猿から黒人が受けてきたような差別や迫害を受け、現実世界に通じる立場の逆転を印象付けていた。

『猿の惑星: 創世記(ジェネシス)』(2011年)から続くリブートシリーズの3作目となる『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』も、アメリカではトランプ大統領が国民の分断を招き、ヨーロッパでは難民・移民の問題が渦巻く、混迷の2017年の今の時代性を随所に感じる作品だ。

聖戦へと続く、憎しみの連鎖

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(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

新薬実験の影響から知能を獲得し、虐げられた猿たちのリーダーとなったシーザー(アンディ・サーキス)の誕生と、同じく新薬によって発生した感染症により人類滅亡の一端が描かれた『猿の惑星: 創世記(ジェネシス)』、文明崩壊後の猿と人類の平和的共存を望むシーザーの葛藤を描いた『猿の惑星: 新世紀(ライジング)』(2014年)に続く本作は、前作から2年後の物語となる。

猿と人類の戦いが続く中、秘密の拠点で群れとともに隠れ潜むシーザー。人類からの攻撃が続く中、人類側に付く猿も現れるなど、猿のコミュニティは分断されていた。

そんな中、猿の指導者であるシーザーのみをピンポントで標的にした人間からの襲撃(この戦法はオサマ・ビン・ラディンを急襲した作戦を彷彿とさせる)に遭い、シーザー自身は無事だったものの、妻と子どもを殺されてしまう。

家族を殺され、これを実行した人間側の指導者である大佐(ウディ・ハレルソン)に対する怒りと憎しみから、復讐の念に取り憑かれたシーザーは、居場所が明らかになってしまったことから群れを「希望の地」へと移動させつつ、自身は大佐への復讐を遂げる旅に向かう。

信頼する仲間のみを連れた旅の途中、オリジナル版のヒロインと同じ名であるノバと名付けられた口のきけない人間の少女(アミア・ミラー)と、言葉を話せるチンパンジーのバッド・エイプ(スティーヴ・ザーン)を連れていくことになる。

一方、前作で人間への恨みのあまり暴走し、「猿は猿を殺さない」という掟を破らざるを得ずシーザーが殺してしまったコパ(トビー・ケベル)への罪悪感と相まって、コパと同様に憎しみにとらわれてしまったことにシーザーは葛藤する。

ついにシーザーは大佐の拠点である刑務所のような施設を発見するが、そこには新天地へ向かったはずの猿の群れが収容されていた…

星条旗の下で作られる「壁」

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(C)2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

その収容所では、猿たちが強制労働を強いられていた。その労働の目的は、「壁」の建設。人類は、ノバのように言葉が話せない病にかかる者が現れはじめ、その処遇を巡って勢力が分断されており、対立する勢力との来るべき「聖戦」に備えた「壁」を作っていたのだ。

強制収容した猿たちを働かせる大佐の拠点に掛かっているのは、巨大なアメリカ合衆国の国旗で、強制労働を始める朝にはアメリカ国歌が大音量で流れる。

星条旗の下で、住む家を追われた移民たちに「壁」を作るための強制労働を強いるのは強烈なブラックジョークだ。

2016年のアメリカ大統領選で、メキシコ国境沿いに巨大な「壁」を建設することを主張していたドナルド・トランプは大統領に当選した。その「壁」は、不法移民への対策が目的とされている。

大佐の軍勢には有色人種があまり多くないことも含めて、アメリカのイメージと重ね合わせたこれらの描写の意図は、ハリウッドに反トランプが多いことを考えれば明白だ。

随所で起こる「分断」と、曖昧になる猿と人間の境界

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また、トランプ大統領の誕生はアメリカ社会の「分断」を象徴する出来事と言われている。『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』では猿と人間という大きな枠での対立だけではなく、様々な勢力や場所で「分断」が起きており、猿も人間も一枚岩ではなくなっている様子が見受けられる。

言葉を話せる人間と、話せなくなった人間。その会話が出来なくなった人間を巡る処遇により、勢力が二分された人類。

猿も、シーザーの指導力が絶対的なものではなくなった。前作で対立したコパ側についたことで、シーザーからの報復を恐れて人間側に身を寄せる猿もいる。

一方で、言葉を話し人間に近づく猿と、言葉をなくし猿に近づく人間が現れたことにより、両者のボーダーラインはより曖昧になっていく。

これはグローバル化によって、人種の垣根がより低くなっていくというこれからの希望を見出すことが出来るかも知れないし、ピエール・ブールによる「猿の惑星」の原作小説に込められた、人間の特権と思われた知性が失われ、動物と立場が逆転する恐怖という原点に回帰したものにも見える。

人間から猿へと逆転する、物語の視点

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この「猿の惑星」シリーズの根本的な要素である奇妙でショッキングな「人間と猿の逆転」については、本作でもうひとつの仕掛けがある。

『猿の惑星: 創世記(ジェネシス)』、『猿の惑星: 新世紀(ライジング)』は、いずれも人間側に主人公のポジションがあったが、前述のあらすじの通り『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』は猿側からの視点がメインに移っている。三部作を通して、作劇の視点も人間と猿との間で逆転しているのだ。

これにより、リブートシリーズが「そして、猿の惑星になる。(本作キャッチコピーより)」エンディングは、三作を通してシーザーに感情移入し、その長い旅路を見届けた感慨を大きく感じさせられるものになっており、人類にとって暗い結末であることを忘れてしまいそうになるのだ。

今こそ振り返りたい、オリジナル版のエンディング

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人類の終焉といえば、オリジナル版では核戦争によるものだったことに対して、2011年公開の『猿の惑星: 創世記(ジェネシス)』では、アルツハイマー病のための遺伝子治療薬が変異した新型ウィルスのパンデミックがきっかけとなっていた。

『猿の惑星: 創世記(ジェネシス)』で描かれる人類の終焉のはじまりは、資本主義による欲望の追求と、グローバル化によって脅威があっという間に世界に広がり、いつの間にか終わりを迎えてしまうという、現代においてリアリティのある終末にアップデートされた。

それから6年後、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』が公開された2017年の今、世界を覆っているのは北朝鮮と、アメリカをはじめとする国際社会の対立による核戦争の恐怖だ。

人類滅亡の危機は、オリジナル版公開時の約50年前に戻ってしまったようだ。『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』で描かれたように人類は進歩がなく、退化しているのだろうか?

(文:藤井隆史)

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