「羽生結弦はフィギュアを観る喜びを与えてくれる」観戦歴38年のファンが語る平昌五輪の楽しみ方 『羽生結弦は助走をしない』高山真氏インタビュー

「羽生結弦はフィギュアを観る喜びを与えてくれる」観戦歴38年のファンが語る平昌五輪の楽しみ方 『羽生結弦は助走をしない』高山真氏インタビュー

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  • 更新日:2018/02/15
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政治的な側面ばかりが注目されている平昌五輪が2月9日に開幕した。現在の日本で冬季オリンピックの花形種目といえばフィギュアスケートだろう。今回も宇野昌磨選手、宮原知子選手など注目選手は多いが、とりわけ耳目を集めるのが羽生結弦選手だろう。

しかし「フィギュアスケートは敷居が高い」「採点や見方がよくわからない」という声もよく聞く。そんな方たちのために『羽生結弦は助走をしない』(集英社)を上梓したフィギュアスケート観戦歴38年のエッセイスト、高山真氏に「フィギュアスケートの見方」について話を聞いた。

写真:picture alliance/アフロ

――06年のトリノオリンピックで、荒川静香さんのイナバウアーをテレビで観て、美しいなと思ったことはあるのですが、それ以降フィギュアスケートを観ようと思っても用語がよくわからなかったりと、正直言うと見方がよくわかりません。そういう方って意外と多いと思うんです。

高山:見方というある種の「作法」は気にせずに、まずは平昌五輪のフィギュアスケートを観てみれば、これまでのスポーツ観戦では味わったことのない興奮や血の騒ぎ方、喜び方が自分の中にあることを発見するかもしれません。こういう本を書いておきながらなんですが、見方という作法よりも、そういった感覚的なことのほうが大事なのではないかと考えています。

また、この本に書いたことは、あくまでも長年フィギュアを観ている私のツボであって、書いたことが必ずしも正解というわけではありません。正解は、人の数だけあっていい。

たとえば、ゴルフが好きな人の中でも、胃がキリキリするような短いパットに興奮する人もいれば、胸がすくようなロングショットに興奮する人もいますよね。同じくフィギュアに関しても、ツボは人それぞれ違いますから。

――それでは高山さんのツボとは?

高山:フィギュアスケートのそもそもの成り立ちは「氷の上に図形(フィギュア)を描くこと」です。

ジャンプは人目を引きますし、得点配分がいちばん高いのもジャンプではありますが、基本はスケート靴の刃がいかに複雑に、そしてスピーディーかつスムーズに動いて図形を描き続けるかだと思います。私のツボもまさにそこにあるんです。

――ニュース番組のスポーツコーナーを観ていると、4回転ジャンプなどの大技についての解説が多いので、ジャンプに注目するのが正しいのかと思っていました。

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『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』(高山真、集英社)

高山:テレビや新聞などでは、4回転ジャンプの種類や飛ぶ数、その成否が話題になることが多いですね。

ここでフィギュアスケートの演技をダイヤモンドのネックレスにたとえてみます。1つは、ごく普通の紐でいくつかのダイヤモンドを結びネックレスにしたもの。もうひとつは、ダイヤモンドを見事な細工を施したプラチナのチェーンで結びネックレスにしたもの。ジャンプをダイヤモンドとして、ごく普通の紐やプラチナのチェーンにあたるのが、描き出した図形だと考えます。その図形が複雑にスピーディーになめらかに描かれるほど、プラチナに近づいていく。

どのダイヤモンドも同じクオリティだとしたら、当然見事な細工を施した後者のほうが素晴らしいですよね。ネックレス全体を競い合うのがフィギュアスケートだと私は思っているんです。

――フィギュアスケートは採点競技です。採点は、ダイヤモンドであるジャンプなのか、それともチェーンの部分、どちらが大きく影響するのでしょうか?

高山:フィギュアスケートの採点は、テクニカルエレメンツとプログラムコンポーネンツの2つを合計した得点で順位が決まります。

テクニカルエレメンツは、ジャンプ、ステップ、スピンの3つの技術のクオリティが加算方式で計算されます。

一方のプログラムコンポーネンツは「演技構成点」とも呼ばれ、どんなスケートの技術を持っているか、音楽の解釈はどうか、男子のフリーなら4分30秒という時間内で演技のバランスを持っているかなど、簡単に言えばテクニカルエレメンツ以外のスキルを採点します。かつては芸術点と呼ばれていましたが、いまはより細分化され、以前より明確になっていると私は感じています。

先ほどの例で言えば、フィギュアスケートの採点は、ダイヤモンドの見事さそのものもジャッジされますが、結局はネックレス全体の価値を観るものだと私は思っています。

ただ、採点などを気にせずに、はじめのほうに申し上げたようにまずは美ししいと思うかや、血が騒ぐか、自分が味わったことがない種類の感動があるかどうか、というところから入るのがおすすめかな、と。

おそらくWEDGE Infinityの主要な読者層である40代の男性と私は年齢的に近いと思うのですが、いい大人にもなると今回のフィギュアスケートも含め、新しい物事、いままで知らなかった趣味や芸術に対して腰が引けてしまうのは痛いほどわかります。プライドも高くなり、いまさらなにも知らないところからスタートするのも恥ずかしい、億劫だとつい思ってしまいがちですよね。だから、誰かに見方などの教えを請うのではなく、フィギュアの演技を観て、きれいなものはきれい、カッコイイものはカッコイイというプリミティブな感動を取り戻す楽しさを重視してもいいんじゃないかと。

――私も40歳ですが、新しいものになかなかチャレンジできません。

高山:そうですよね。私も先日、若い人からスノーボードに誘われたんですが、0.2秒で断ってしまいました(笑)。健康面の理由もありますが、これが25歳くらいなら「やってみようかな」という気持ちになっていたかもしれないなと考えると、肉体以上に精神の老化を切実に感じましたね。

私は、スポーツ以外にも映画を観るのが好きなんですが、なかでもヌーベルバーグの『突然炎のごとく』や『死刑台のエレベーター』などに出演し活躍した女優のジャンヌ・モローさんをリスペクトしています。彼女が、2002年に来日した際に、幸運なことに1対1で1時間インタビューできることになったんです。そこで当時74歳だった彼女に「あなたのように人生の長い時間輝くために、一番必要なことはなんですか?」と聞くと、彼女は間髪入れずに「好奇心」と答えた。そして「好奇心を分かち合える人の存在」だとも。

肉体の老化は仕方がないにしても、精神の老化を止めるには彼女が言うように新しいことへ対する好奇心って本当に大切だと思うんですよね。

――2月16日から平昌五輪でフィギュアスケート男子シングルが行われますが、誰に注目というのはありますか?

高山:私は、フィギュアスケートそのもの、それに打ち込んでいる選手全員を本当にリスペクトしています。そのなかで、毎年倍々ゲームのように新しい「観る喜び」を与えてくれるのが羽生結弦選手。それで書き始めたのが今回の本です。ただ、タイトルに羽生結弦選手の名前は入っていますが、彼一人に絞ったつもりはありません。羽生選手以外の選手にもかなりページを割いています。ただ、好きなスケーター全員を好きなだけ書こうと思ったら、それこそ新書にもかかわらず、広辞苑くらいの厚さになってしまう(笑)。

だから、オリンピックに出場する選手の誰に注目してほしいというのは難しい。先ほどのネックレスの例で言うならば、ハリー・ウィンストンのネックレスも、カルティエのネックレスも、ブシュロンのネックレスも……とどのネックレスにも目を奪われる。だからあげればキリがない。どのネックレスが好きかも人によって違いますが、私は人の好みにまで立ち入るつもりはないですし。

――選手は人生をかけて挑むわけですからね。

高山:実は、私は格闘家の友人が多く、たまに招待してもらうので、観に行くことがあるんです。ルールもいまいちわからず、ましてやジャッジたちがどうやって採点いるかなんてまったくわからない。でも、彼らの熱いものを感じます。要するに、生き様が発光している様を観たい気持ちがあるんでしょうね。生き様を発光させられる人なんてそうはいません。スポーツ選手のなかでも選ばれし人たちがオリンピック選手になる。そういったフィギュアスケーターたちの生き様をぜひ観てもらい。

またもう中年だから新しいスポーツを観るのは遅いと思っている方がいれば、もったいないことだと思います。新しい喜びや感動に対し、新鮮で謙虚な気持ちでいることは、新しいスポーツを好きになること以上に大事なのかもしれません。

フィギュアスケートを観て、合わないと思うならそれでいいと思うんです。人それぞれ好き嫌いがあって、合う合わないがあって当然ですから。ただ、ほんのすこしでも面白いと思う気持ちがあるのならば、そのプリミティブな感情にフタをする必要はないし、その感情に少しでもポジティブな影響を、この本が与えられたのだとしたら万々歳かなという気がしますね。ただし、あくまでも「私のツボ」なんですけどね。

――早くも3刷りとかなり売れていると聞いていますが、反響はどうですか?

高山:この本を読みながら、映像を見返すと新しい発見があるというご意見や、いままで2Dで見えていたものが、この本を読んで3Dに見えるというご意見をいただき本当に嬉しいです。私の本が、読者の方々がお持ちの「好奇心」と、ちょっとだけでも何かを分かち合う時間が持てたのかな、と思える……。それが本当に幸せです。

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