7度結婚した男の涙と絶句

7度結婚した男の涙と絶句

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  • 更新日:2017/09/15
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多くのサザン・ロック・バンドに影響を与えたグレッグ・オールマン

オールマン・ブラザーズ・バンドのヴォーカリスト兼キーボーディストだったグレッグ・オールマン。肝臓がんの合併症で5月27日に亡くなった。69歳だった。サザン・ロックを世に紹介してきた彼の遺作『サザン・ブラッド』がこのほど発表された。

かつて刺青を施した際の処置が原因で、2007年にC型肝炎を発症。肝腫瘍も見つかり、肝臓移植の手術を受けた。長く療養を続けながら、11年にブルース・アルバムの『ロウ・カントリー・ブルース』を発表。14年にはレコーディング活動45周年記念のトリビュート公演にも出演したが、昨年10月、自ら主催したフェスへの出演を最後に公演活動も休止していた。

『サザン・ブラッド』は昨年3月、余命いくばくもない状態を自覚し、最後のアルバムになるという覚悟で取り組んだ作品だ。プロデューサーは、先述のトリビュート公演で音楽監督を務めたドン・ウォズ。バックを担ったのはツアー・バンドの面々。近年、グレッグを支えてきたギタリストのスコット・シャラードやホーン奏者ら、いずれも気心の知れた仲間たちだ。

グレッグの意向に従い、アラバマ州のフェイム・スタジオで収録された。ここではグレッグが兄のデュアン(71年死去)と結成していたアワーグラス時代に録音したことがある。デュアンがセッション・マンとして数々の名演を残したスタジオでもある。

当初はオリジナル作品主体のアルバムを想定したが、グレッグの体調などを考慮。スコットとの共作による1曲のみを完成させた。アルバムの幕開けを飾る「マイ・オンリー・トゥルー・フレンド」がそれである。

ダブル・ギターによるイントロをはじめ、その演奏、サウンドはゆったりとしていて雄大。サザン・ロックの神髄を物語る。グレッグの歌声もかつてと違って枯れた味わいがあり、堂々としている。迫る“死”に面したグレッグが“あなたの心の中に私を残して、魂を癒やしてほしい~私の魂を込めた歌に夢中になってほしい”と歌い上げる。

他の収録曲はいずれもカヴァー作品だが、グレッグの歩みを振り返る自伝的な選曲になっている。

たとえばティム・バックリーの「ワンス・アイ・ワズ」。グレッグは長年ティムのファンだった。この歌を人前で歌ったことはなかったが、ひとりひそやかに歌い続けてきたという。恋人への追憶を描いた曲だ。7度の結婚歴を持つグレッグが、過去に出会った恋人や妻たちへの思いを込めたに違いない。

ボブ・ディランの「ゴーイング・ゴーイング・ゴーン」は、“このページで本を閉じて”と、それまでの人生を断ち切り、新たな旅立ちの決意を語った歌だ。グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアとロバート・ハンターによる「ブラック・マディ・リヴァー」も人生の歩みをテーマにしている。

2曲とも渋い選曲だ。いずれもカントリー、フォーキーなテイストに満ちた演奏で、グレッグの抑制の利いた歌いぶりが印象的だ。グレッグとグレイトフル・デッドの交流はアワーグラス時代に遡る。ジャム主体の演奏などグレイトフル・デッドからの音楽的刺激はオールマン・ブラザーズ・バンドにも反映されてきた。

そこから一転し、「アイ・ラヴ・ザ・ライフ・アイ・リヴ」は豪快なブギ・ブルース。歌声もパワフルで、ブルースに賭ける心意気、ヴォーカリストとしての本領を発揮してみせる。

ローウェル・ジョージが作曲したリトル・フィートの「ウィリン」は、トラック・ドライヴァーへの賛歌であり、アメリカの南西部を旅する放浪の歌でもある。歌詞には“葉っぱ、白いヤツそしてワイン”という一節がある。思えば、グレッグは長くドラッグとのかかわりを断てなかった。

ニューオーリンズの雰囲気たっぷりの「ブラインド・バッツ・アンド・スワンプ・ラッツ」は、ドクター・ジョンを思わせるヴゥードゥー的な怪奇さも漂わせる。R&B/ソウル・シンガーのジョニー・ジェンキンズのレパートリーだったが、ジョニーのセッションにはデュアンが参加していた。しかも、本来はデュアンのソロ・アルバム用に準備されていた。そのセッションをきっかけにオールマン・ブラザーズ・バンドが結成されたという話を知れば、大いに納得のいく選曲である。

そのデュアンへの思いを重ねたのがジャクソン・ブラウン作で、ジャクソン本人がハーモニーで参加した「ソング・フォー・アダム」。ドンが明かすには、3番目の主題部の歌詞の最後のところでグレッグは感情が高ぶって口ごもり、続く歌詞を歌えなくなった。その後、グレッグは録り直す機会もなく、歌えなかった一節は空白の状態のまま作品化したという。

ドンの解説を読まずに聞き進めていた私も、グレッグが涙声になって絶句する一瞬に驚いた。兄への思いが募り、感極まってのことだろう。この曲を繰り返し聞くたび、胸を突かれる。

グレッグはデュアン亡きあと、ディッキー・ベッツとオールマン・ブラーザーズ・バンドを率いた。ディッキーとの確執から解散、さらに再編やメンバー・チェンジを繰り返してきた。

ソロ活動では、自分の内面を表現してきた。酒、ドラッグ、7度の結婚……。波乱に満ちた人生だったが、常によりどころが必要な繊細な性格だったのに違いない。グレッグが人生の歩みを語り、人生最後のありのままの姿をさらけだした『サザン・ブラッド』は、生々しく、心が震える作品である。(音楽評論家・小倉エージ)

●グレッグ・オールマン『サザン・ブラッド』(ラウンダー/ユニバーサル UCCO-6017)

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