超低高度軌道の利用を開拓できるか?-JAXAが試験衛星「つばめ」をプレス公開

超低高度軌道の利用を開拓できるか?-JAXAが試験衛星「つばめ」をプレス公開

  • マイナビニュース
  • 更新日:2017/10/12
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宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月6日、超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)をプレスに公開、衛星のミッションについて説明した。同衛星は、高度300km以下の「超低高度軌道」の飛行を目指すもの。JAXAの気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)に相乗りし、H-IIAロケットによる今年度中の打ち上げを予定している。

一般に、地球観測衛星は高度600~800km程度の軌道を周回するものが多い。静止軌道などに比べ、高度が低いことから、このあたりは地球低軌道(LEO)と呼ばれるが、それよりもさらに地球に近いのが超低高度軌道である。高度はおよそ200~300km程度。通常、高度100km以上が宇宙とされるので、"ギリギリで宇宙"といった感じの軌道だ。

超低高度軌道の利用が避けられてきた理由は、大気抵抗の大きさである。宇宙空間は真空だと思われがちだが、高度600~800kmであっても、わずかに大気が存在している。この大気抵抗により高度が下がってしまうため、衛星は定期的にエンジンを噴射して、高度を維持している。燃料(推進剤)が尽きたとき--それは衛星の寿命となる。

地球に近づくほど、大気密度は増える。超低高度軌道になると、高度600~800kmに比べ、その大きさは1,000倍程度。大気抵抗も1,000倍になるわけで、何もしなければ、衛星はあっという間に高度を下げ、大気圏に再突入して燃え尽きてしまう。かといって、エンジン噴射で高度を維持するにしても、膨大な燃料が必要になって現実的ではない。

しかし、もしそういった問題を解決し、超低高度軌道を利用できるようになれば、さまざまなメリットがある。

光学観測を行う衛星であれば、より接近して対象(地表)が見られるわけだから、分解能が向上する。逆に、分解能が同じで良いのであれば、センサを小型化できる。一方、レーダー観測の衛星は、電波を出すのに大きな電力が必要になるのだが、これは高度の3乗に比例するため、高度が低くなれば消費電力は劇的に下がる。

つまり、同じ観測性能で良いのであれば、軌道を地球低軌道から超低高度軌道に変えるだけで、衛星の大幅な小型化・低コスト化が可能になる。このいわば「未開拓領域」の利用に道を開くべく、今回技術実証を行うのがJAXAのSLATSプロジェクトである。

なお、つばめには口径20cmの小型光学センサが搭載される。重量はわずか20kg弱しかないものの、超低高度軌道からの観測により、1m以下の分解能を実現する予定だ。

つばめの衛星本体は、大型冷蔵庫程度のサイズ。このコンパクトで細長い本体の両翼に、それぞれ2畳程度の大きさの太陽電池パドルが取り付けられており、まさに愛称のように、大空を飛行するつばめのような外観となっている。重量は約380kg。衛星の開発費は約34億円で、製造は三菱電機が担当した。

超低高度軌道で利用するエンジンとしては、イオンエンジンが最適と考えられる。化学エンジンに比べ、推力は小さいものの、燃費に優れるので、燃料の量を少なくできる。つばめでは、「きく8号」の技術をベースにイオンエンジンを新開発。燃費に相当する比推力は1,200~2,000秒程度であるため、燃料は化学エンジンの1/10程度で済む。

きく8号では、静止軌道の南北制御用にイオンエンジンを搭載していた。つばめでは、回路設計を見直すなどして、信頼性を向上。さらにイオンエンジンの電源と制御回路を統合し、小型化も図った。比推力はきく8号よりも低めになっているが、これは消費電力を削減するための調整だ。

つばめはロケットからの分離時、遠地点643km・近地点450kmの楕円軌道に投入される。そこから化学エンジン(推力1N×4基)を使い、まずは高度392kmの円軌道まで移行。その後、太陽電池パドルを船の帆のように立てた「エアロブレーキモード」に姿勢を変更、大気抵抗を大きくすることで、燃料消費を抑えつつ高度を下げる。

高度が268kmになったら、姿勢を「エアロスルーモード」に変更、大気抵抗を最小化し、イオンエンジンによる軌道維持を開始する。つばめでは、自律的に軌道を維持する制御ロジックを開発。GPSデータから高度を取得し、噴射時間を自動で判断する仕組みだ。高度は段階的に下げ、最終的には180kmに到達する計画。

なお、このイオンエンジンの直径は23cmで、推力は17mN。高度220km以上の運用では、イオンエンジンのみで高度を維持できると考えられているが、低くなるほど大気抵抗が増加するため、最後に高度を180kmまで下げたときには、推力が不足する。そこで、この段階では化学エンジンも併用する予定だ。

超低高度軌道には、もう1つ大きな問題がある。それは、原子状酸素の存在である。地球上では通常、酸素は安定した分子の状態で存在するが、超低高度軌道では、紫外線により分子が分解され、この原子状酸素が大気の主成分となる。原子状酸素は反応性が非常に高く、衛星表面のMLI(多層断熱材)に穴を開けてしまう。

原子状酸素から衛星を守るため、つばめの先端部には板状のバンパーを搭載。さらに衛星の表面には、ITO(インジウム・スズ酸化物)コーティングや、無機系材料の白色塗装を採用し、材料の劣化を防ぐ。

本体の8カ所には、原子状酸素の計測モニターも搭載する。超低高度軌道はまだ定常的に利用した衛星がないため、原子状酸素の濃度などに関し、実測データが不足している。つばめでデータを取得して、数値モデルの高精度化を図り、将来の衛星設計に活かす。また13種類の材料サンプルを設置し、劣化状況を観測する実験も行う。

衛星の設計寿命は2年。現時点の計画では、高度180kmでの飛行実証は打ち上げ後635日(1年9カ月)までに終わらせる予定となっているが、その後、どのように運用するかは未定。燃料の残量にもよるだろうが、研究者からは「高度180km以下も狙って欲しい」という要望もあるそうで、現在、実証内容を検討中とのことだ。

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