アンドリス・ネルソンスが語る、ボストン交響楽団と美しい音楽

アンドリス・ネルソンスが語る、ボストン交響楽団と美しい音楽

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2022/11/25
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アメリカ5大オーケストラの一つに数えられるボストン交響楽団が、2022年秋に5年ぶりとなる日本ツアーを行った。小澤征爾が長らく音楽監督を務めていたことでも知られるこのオーケストラの音楽監督を務めるのは、40代にしてトップ指揮者のひとりとして世界にその名を轟かすマエストロ、アンドリス・ネルソンス。

久しぶりの来日となった今回、ボストン交響楽団と6回の公演を行った。11月末にはセイジ・オザワ 松本フェスティバルの30周年記念公演でサイトウ・キネン・オーケストラのタクトを振る予定となっているマエストロに話を聞いた。

音楽監督就任から8年
最近、時が経つのがなんて早いんだろう、と常々感じます。普段はあまり意識することはがありませんが、ふと数えてみると、音楽監督に就任してもう8年経ったのかと驚きます。

これまでいろいろな楽団で指揮をしてきて、もちろんそれぞれに良さ、愉しみがありますが、自分にとってボストン交響楽団(BSO)は、尊敬し、愛してやまない家族のような存在です。

彼らとは、リハーサルやコンサートを通じて、様々な音楽の体験を共にしてきているわけですが、まったく退屈することがありません、常に成長をし続けているチームであり、事ある度に新しい色彩感を発見できるパートナーでもあります。

私はライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(ドイツ)でもカペルマイスター(音楽監督)を務めていますが、実は両者にはいくつかの共通点があります。

BSOの本拠地のシンフォニーホールは、古いシューボックスタイプで、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の本拠地であった二代目のゲヴァントハウスをモデルとして設計されています。そのホールは第二次世界大戦で損傷し後に取り壊され、現在の三代目ホールは東ドイツ時代に建てられたものなのですが、そちらも素晴らしいホールです。

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ゲヴァントハウスのホールの入り口から楽屋までの廊下には、歴代のカペルマイスターたちの肖像が飾られています。メンデルスゾーンやフルトヴェングラー、ニキシュにブルーノ・ワルター、そしてブロムシュテットまで。この楽団の礎には、素晴らしい先人たちが積み上げてきた歴史があります。

ドイツらしい音楽を語るとき、ベルリン・フィルの名前ももちろん挙がってきますが、歴史という観点でみると、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスは275年と世界でも最も古い楽団の一つとして歴史を積み重ね、実にドイツらしい楽団といえると思います。

BSOはアメリカではもっとも古い楽団のひとつですが、多くの国からの影響を受け、フランススタイルも得意としています。1949年にBSOの音楽監督に就任したシャルル・ミンシュは、元々はバイオリニストで偶然にもゲヴァントハウスのオーケストラのコンサートマスターも務めていた人物。指揮のスタイルはフランス色が色濃く、ベルリオーズの『幻想交響曲』やラヴェルの『ダフニスとクロエ』などフランスの名曲を聴きたければボストンに行くべし、なんて言われたものです。

そんなボストンとゲヴァントハウス。同じピースを各楽団で演奏していても、それぞれ別のもので、指揮という体験を通じてそのことを感じられることはとてもエキサイティングですね。

美しい音楽の追求
音楽監督に就任して8年、当初は、この楽団の特徴はなにか、どういう雰囲気なのか時間をかけて理解してくところから始まりました。

人間の体型が人それぞれ違うように、やはり楽団ごとに違いがあるんです。それを探って理解していくプロセスにおいては、指揮者として個人的なビジョンを持ちつつも、オーケストラに合わせて柔軟に対応し、共に旅に出ることが大切だと感じています。

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オーケストラにおいてもチームワークはとても大事な要素で、私の一番のミッションは、各楽団員が勇気を奮って自分たちの表現をやりきれる状態にすることです。そこに楽団の歴史や伝統をシンクロさせる。その上で観客を惹きつけていくことこそ、自分の役割だと考えています。

それには技術どうこうの指導よりも雰囲気の醸成が重要で、そのためには、マーラーやベートーヴェンといった作曲家たちがどういう思いでこの曲を作曲したのか、その背景や精神性を共有し、理解を深めていくこともまた必要なことです。

美しい音楽を作ることはひとつのゴールですが、美しい音を鳴らせば達成できるかというと、そうではありません。美しさは状況に応じて変わってくるもので、場合によっては逆説的に醜いものが美しいときもあります。それを、確かなレベルで表現していかなければなりません。

日本のアーティストについて
そもそも日本がとても好きなのですが、久しぶりの来日になりました。もっと来日の頻度を増やしたいですね。今回、BSOで6公演を行い、日を追うごとに自分の精神も静かに落ち着いてきて、日本の人々との繋がりを感じています。

私はマーシャルアーツ好きが興じて、テコンドーの黒帯を持っているのですが、テコンドーにも空手と似た部分があり、稽古を通じて規律の素晴らしさを学んでいます。

自分を律し、多くを語らずとも、考えの深さが伝わる。今回のツアーではピアニストの内田光子さんと共演しましたが、彼女に限らず、日本の音楽家に対しては総じて、考えが深く、深い演奏をするという印象を持っています。魂の中で熟考していそうなイメージです。

ときに激しく演奏することもありますが、彼らの世界観の根源には、時がゆっくりと流れていている感覚があります。世界がせわしく動いている中で、別の軸があるのかもしれません。あくまで私の個人的な理解で、間違っているかもしれませんけどね(笑)。

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今回の滞在はまだ続き、11月末にはセイジ・オザワ 松本フェスティバルの30周年の特別公演でサイトウ・キネン・オーケストラとマーラーの交響曲第9番を演奏します。今回のBSO公演にはマーラーの6番がありましたが、ここから9番へと壮大な旅が続いていくのも楽しみでなりません。

マエストロ・オザワは日本においてだけではなく、世界の伝説的な存在なのですよ。残念ながら近年は体調が優れないと聞いてはいますが、BSOの大先輩でもある彼が大切にしているこのフェスティバルで、サイトウ・キネン・オーケストラと共演できることをとても嬉しく思います。

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