無麻酔で帝王切開しても、猫に火つけても...動物殺傷の厳罰化とは裏腹、軽い罰【杉本彩のEva通信】

無麻酔で帝王切開しても、猫に火つけても...動物殺傷の厳罰化とは裏腹、軽い罰【杉本彩のEva通信】

  • 福井新聞ONLINE
  • 更新日:2022/01/15
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無麻酔での帝王切開による「殺傷罪」追起訴を求めて署名活動を行った杉本彩さん

2022年がスタートしました。今年も動物を取り巻くさまざまな問題が発生するのではないかと予想されます。
昨年6月には、「第一種動物取扱業者及び第二種動物取扱業者が取り扱う動物の管理の方法等の基準を定める省令」(飼養管理基準に関する省令)が施行されました。これは犬や猫を適正に飼養するためペット事業者が守らなければならない基準で、その中のケージの大きさ、従業員の員数、そして繁殖の回数や年齢の3項目に関する基準には、既存事業者においては経過措置が設けられましたが、それらがいよいよ今年6月から適用されます。(※従業員数は段階的に適用)しかし、法律や省令が改正され良い方向に前進しても、利益を守りたいペット業界の抵抗により、必ず副作用が生まれます。だからと言って、改正しても仕方ないわけではありません。その度に形を変えて立ちはだかる問題に、あきらめず挑み続けること。その先に、きっと光明を見い出すことができると信じ、今年も全力で活動し、このコラムを通じて、動物問題の最前線を皆さんにお伝えできればと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今年最初の「Eva通信」は、以前こちらのコラムでもお伝えした、長野県松本市の犬の繁殖場「アニマル桃太郎」が起こした史上最悪の虐待事件についてです。劣悪な環境で犬など約1,000頭を飼育していた前代表と社員の男を、昨年11月に長野県警が動物愛護法違反(虐待)の疑いで逮捕しました。獣医師でもない繁殖屋が、犬を無麻酔で帝王切開し、腹から取り出した仔犬を販売していたことが、元従業員の女性の告発により発覚。世の中を震撼させました。
当協会Evaが刑事告発したことで警察の捜査が始まり事件化。元従業員は、保健所に動物虐待があると通報を続けてきました。しかし、「アニマル桃太郎」への「注意」にとどまり、適切な指導がおこなわれないまま、虐待は長年放置。容疑者の罪はもちろんですが、これを放置し続け、5年に一度の業の登録を更新させていた行政の無責任さも罪深いと非難されました。

この事件は、今後刑事裁判が開かれますが、現在の起訴の内容は、排せつ物を放置して衰弱させたほか、病気やけがをした犬に適切な処置をしなかった等の「虐待罪」です。つまり、獣医師資格を持たない「ずぶの素人」が無麻酔で帝王切開した行為に関しては、起訴の理由になっていないのです。
帝王切開は獣医師が行うから帝王切開であり、無資格者が行えばそれはむやみに腹を切る殺傷行為に他なりません。母体を切り裂いて、金になる仔犬を取り出したおぞましい行為なのです。
犬の帝王切開は、極めて慎重な判断と、手技の困難さ、本来なら麻酔の管理も難しく、当然ですが、無資格者には不可能であるというのが獣医師の意見です。充分な医療設備と人員が揃っていなければ、動物病院でも行わないという難易度の高い医療行為です。たとえ麻酔を使用していたとしても、麻酔管理や手術に知識のない無資格者が、安全に行うことは不可能です。
このような残忍な行為を何年も続け、それにより命を落とした犬が多数いたにもかかわらず、単なる虐待罪でたった数十万の罰金で終わるのは到底納得いきません。

そのことから、当協会Evaは、長野地方検察庁に対し、帝王切開による「殺傷罪」を追起訴していただきたく、昨年末から今年1月6日までの短期間に集めた50,842筆のネット署名を持って、翌7日に長野地方検察庁松本支部へ出向き、担当検事にお会いしました。検察の方向性が決まる前の早い段階で、この事件が社会的関心が強く、多くの市民が厳罰を求めていることを伝えたほうがよいという判断です。司法が国民の常識と感覚、また感情から乖離したものにならないよう、事件の悪質さと残虐性を伝えなければならないと思いました。虐待罪だけで終わらせるには、あまりに軽すぎます。
しかし、虐待と殺傷事件の今までの判例を見ると、司法はこれらを軽視してきたと言わざるを得ません。もちろん法改正前なら、まだまだ法定刑が低かったことから、厳罰を課すことは難しかったかもしれませんが、それを差し引いても、動物虐待や殺傷が軽視されてきたという印象は拭えません。

2019年の法改正で動物殺傷罪は厳罰化され、翌2020年に施行されましたが、その後も厳罰化されたと実感する検察の求刑はありません。改正後は、殺傷罪が5年以下の懲役、又は500万円以下の罰金となり、改正前から2.5倍へと大きく引き上げられてもなお、その求刑が厳正だと思えたことは一度もありません。
このコラムでも以前取り上げた、大阪府箕面市の男性が自宅で飼っていた猫に消毒用のアルコールをかけ火をつけた事件も、猫を動物病院へ連れて行ったこと(長時間放置した後だが)や贖罪寄附をしたことなどが理由で、最初に地検が下した判断は不起訴処分。その内容は「起訴猶予」で、犯罪を認めながらも起訴しないというものでした。

この事件については当協会Evaが刑事告発していたので、検察審査会に不起訴不当の異議申し立てをしていたことから再審され、罰金10万円の略式命令となりました。不起訴が回避できたことはよかったとしても、厳罰化後のこの甘い「不起訴」処分は誰が聞いても納得できるものではないはずです。

そして、さらに納得できないのは、厳罰化前のほうが司法の判断が厳しかったのではないかとさえ思える判例があることです。2019年に報道された富山市の無職の男が、他人の猫を路上から持ち去り、捕獲器に入れて食事も与えずに衰弱させ、棒で突くなどの虐待の末、殺傷した事件がありました。富山地裁高岡支部の判決は、懲役8ヶ月保護観察付き執行猶予4年。検察が求刑した懲役6ヶ月より重いという点に、注目が集まりました。裁判官は「犯行は悪質」と指摘し、動物愛護に対する意識が社会的に高まっていることから検察側の求刑を「やや軽きに失する」と述べたのです。厳罰化前の法定刑は、殺傷罪は2年以下の懲役、又は200万円以下の罰金でした。今より随分低い法定刑の時代に、この量刑が言い渡されたことで、今後の司法の場における厳正な裁きへの期待が高まった判例となりました。
また、さらに以前の判例とも比較してみます。2007年に兵庫県尼崎市で起きた、警備員による野良猫への殺傷事件。猫を踏み潰し殺した罪で略式起訴され、20万円の罰金となりました。この時代の法定刑はさらに低く、殺傷罪は1年以下の懲役、又は100万円以下の罰金です。所有者のいないことで軽視されがちな野良猫の殺傷に対し、その罪と、「厳正かつ適切な裁定」を求めた市民の声を軽視しない判例となりました。

こうして厳罰化前と後を比較してみても、厳罰化後の検察の求刑と処分結果に、より納得できないという思いが強くなります。なんのための厳罰化なのか、どうして厳罰化が必要だったのか、その意味と意義を司法はしっかりと理解し、市民の声を受け止めなければならないはずです。
大手ペットショップと取り引きしていたアニマル桃太郎、その元繁殖屋社長、百瀬容疑者を厳正に裁くことが、悪質なペット業界の今後にも少なからず影響を与えるはずです。また、この史上最悪の動物虐待事件の判決は、今後、罪に問われるかもしれない動物虐待・殺傷事件の裁判にも、判例となって大きな影響を及ぼすと思われます。

私たちEvaは、この事件において、民間の団体として出来ることのすべてを行いました。あとは司法の判断を待つのみです。司法の正しい判断により、「殺傷罪」で追起訴され、懲役刑に処されることを切に求めます。(Eva代表理事 杉本彩)

※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。

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杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

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