推しのメイドが客と付き合った?! 責任感と嫉妬で揺れた柴田勝家の苦言

推しのメイドが客と付き合った?! 責任感と嫉妬で揺れた柴田勝家の苦言

  • よみタイ
  • 更新日:2022/06/23
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推しのメイドが客と付き合った?! 責任感と嫉妬で揺れた柴田勝家の苦言

マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。

前回は、新しい推し・きょうちゃんと「好きなメイドさんアンケート」のエピソードでした。
今回から、きょうちゃんがとんでもない波乱を巻き起こします……。

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イラスト/ノビル

「なんていうか、推してて違うな、って」

例のごとくワシは戦国メイド喫茶に通い、新たな推しの朝倉きょうちゃんと楽しくやっていたが、ここで最初の事件が起きたのだ。

『え、朝倉軍辞めるのか?』

『うん、ごめん』

そう告げるのはなおやてんだ。ワシの友人にして、以前の推しから一緒にやってきた仲だ。そんな彼が朝倉軍を辞めるという話を聞き、LINEで事の次第を確かめたところだ。

『これからって時じゃろう。何か不都合あったのか?』

『いや、なんていうか、推してて違うな、って思っちゃってさ』

『そうか、いや気持ちを尊重しよう。推しは辞めても、これからも店で遊ぼうな』

なおやてんが朝倉推しを辞めるのは辛いが、そういうことも多くある。お客さんとメイドの関係というのは血よりも濃いが、一方で羽根よりも軽い。明日に死ぬかもしれない戦国で生きていれば当然の境地だ。常在戦場である。

さてしかし、ワシとなおやてんは問題なく友人を続けられるが、複雑な思いの人もいる。

「なおやてん、どうして推してくれなくなったのかな……」

事情を聞かされた朝倉きょうちゃん本人である。

「何か悪いことしたかな……。好きじゃなくなっちゃった?」

「まぁまぁ。推す推さないは好き嫌いだけでは割り切れんものだからな」

きょうちゃんは人から好かれたいという思いが強いらしく、その反面、他人から嫌われることに対して敏感だった。ワシからすれば、推しを辞めるオタクの姿などはメイド喫茶での日常風景だったが、まだ慣れていない彼女にとっては大変なショックらしかった。

「きょうちゃん、厳しいことを言うが、去ってしまった人のことばかり考えてはいかん。ワシやねこさん、それに他の新しい推しだっているのだからな」

「そう、だよね……」

あんまり意識してなかったが、多分、ワシがメイド喫茶で初めて人を叱った瞬間だった。

生誕イベントは無事成功

そんなこんなで数ヶ月が経ち、朝倉軍になってから初めての冬がやってきた。

確かになおやてんという貴重な仲間は去ってしまったが、それでも推しの数はじわじわと増え、朝倉軍の規模も大きくなっていった。

「いよいよ生誕イベントだな」

「よっし、かっちゃん。頑張ろうぜ!」

ワシはねこさんと二人、修行明けに続く二度目のイベントに思いを馳せていた。やることは前回と変わらず、花束や寄せ書きの色紙を用意し、当日は開店と共に席に陣取って見守り続けること。ライブがあれば我らでサイリウムをお客さん全員に配り、とにかく騒いではしゃいで盛り上げるのだ。

というわけのイベントだが、あえて内容は割愛する。この先も生誕イベントは何度かあるし、全体的に成功だったので文字通りの言うことなし。楽しかったということだけ伝えておきたい。

ただし、このイベントで新たに仲良くなった常連客の紹介もしておこう。何故なら、彼の存在がこの後に続く事件の中心人物になるからだ。

「いやぁ、楽しいねぇ。勝家さん」

「ああ、パピさんも愉快な人じゃな!」

彼の名はパピさん。長野県から遠征で来ている人で、いつも飄々とした風来坊のようなメイド喫茶オタクだった。このパピさんは職場の上司である天さんという人と一緒に来ることが多かった。ちなみに天さんも話しかけやすい気楽な人で、ワシは二人揃って仲良くなったのだ。

「パピさん、きょうちゃんの次のイベントも来てくれよ」

「いいね、次は周年だっけ。じゃあ、来年の春くらい?」

「ああ、その前に来てくれても遊ぼうじゃないか!」

などと言って、ワシはパピさんと再会を約束したのだった。

きょうちゃんからの手紙

時はめぐり翌年となった。

早いもので、ワシが戦国メイド喫茶に通うようになってから一年が経ったのである。店の手形(ポイントカード)のランクは「家老」だが、もうすぐ「大名」となる。そうなれば目指すべき「征夷大将軍」まであと一歩だ。

で、そんな実感はともかく朝倉きょうちゃんの周年イベントが告知されたのだ。今回もイベント当日までの流れは割愛。もう三回目ともなれば慣れたもので、近くの花屋にスタンドフラワーを注文しにいくことだって余裕だ。

しかし、この時のイベントで少しばかり問題があった。

当時、ワシは小説二作目である『クロニスタ 戦争人類学者』の刊行予定があり、その直しの締め切りがきょうちゃんのイベントと丸かぶりしていた。ワシはきょうちゃんに断りを入れ、奥の席で一人、ゲラの修正作業を行っていた。主な作業はチェックだから、時折、手を止めてイベントを盛り上げることだって叶うはずだった。お詫びの気持ちも込めて、初めて自分一人でシャンパンのボトルだって入れた。

「ねぇ、勝家さん」

そんな作業中のワシに対して、イベントの主役であるきょうちゃんが恨みがましい視線を向けてくる。さすがにワシもそこまで鈍感ではないので、きょうちゃんが怒っていることくらい想像できる。

「そろそろ仕事、終わりそう?」

「いや、まだ。ああ、でも最後のライブまでには間に合わせるさ」

「待ってる、からね」

きょうちゃんは明らかに病んでいた。なおやてんの悲劇も尾を引いているのか、朝倉軍がいなくなることを極端に恐れているのかもしれない。

(でもワシ、来てるだけ偉くない?)

などと増上慢。ぶっちゃけ家でやれば早く終わってた気もするが、イベントは開店と同時に参加したかったのだ。結果、遊びながら仕事をするという無茶をした。いっそ後から来た方が「仕事終わらせてまで来てくれてありがとう!」と感謝されたかもしれない、と今にして思う。不良が優しくすると高評価を貰える理論だ。

そんなこんなで周年イベントは終わったのだが。

「勝家さん、この間はありがとうね」

「あ、ああ……」

「あとこれ、家に帰ったら読んでね」

イベントの数日後、きょうちゃんがワシに直筆の手紙をくれた。それはシャンパンを入れたことへの特典で、大体はイベントで尽力してくれた感謝を伝えるものだったが……。

『勝家さんは、厳しいところもあるけど信頼しています』

そんな気になる一文もあった。

「ワシって厳しかったかな……」

なおやてんが辞めた時など、身に覚えがないとは言わないが、それは落ち込むことの多かった彼女をフォローするつもりで言ったものだ。気になったので後日に聞いてみれば、きょうちゃんからはこんな返答があった。

「勝家さんの言うことって、正論なの、知ってるけど……。でも、私はそんなに強くないし。共感してくれるだけで良かったな、って……」

なるほど、と納得。世間によくいう「男性は必要のない答えを言うが、女性は共感して貰いたいだけ」というものだ。今まで眉唾だと思っていたが、こんなテンプレみたいな意識の違いがわかる瞬間があろうか。

さて、とにかくだ。ワシはこの日を境に、彼女に対して少しばかり掛け違いを感じるようになった。

メイドとお客さんがプライベートでつながる御法度

そうした中、二度目の事件が起きたのだ。

「え、パピさんの配信にきょうちゃん来てるの?」

ワシが戦国メイド喫茶に行ったある日のこと、馴染みの常連客からそんな情報が寄せられた。当時はツイキャスが盛んで、ゲーマーでもあるパピさんは良く配信を行っていた。そこに他ならぬきょうちゃん自身が参加しているという。

『マジできょうちゃん来てるの?』

と、さっそくLINEでパピさんに確認する。

『ああ、来てたよ。それがヤバい感じでさ、この後やるからさ、かっちゃんも様子見てよ』

そう誘われたので、ワシは秋葉原からの帰り道でパピさんのツイキャスに参加した。コメントを残さず、参加者にワシがいることは誰にも知られていない状態だ。何人かの友人が参加する中、やがて見慣れたツイッターのアイコンと「朝倉きょう」という名前が表示された。

『マジで来てるな。あれ店のツイッターじゃな』

『でしょ。ヤバいよね』

ヤバいのである。店が管理できない状況で、メイドさんがお客さんとやり取りできる状態なのだ。百歩譲って個人のアカウントで来るならバレないが、メイドさんとしてのアカウントでの参加である。まぁ、千歩譲ってコメントしないならギリ大丈夫だけど。

『パピ、また来ちゃった』

と、きょうちゃんはコメントした。ダメだ。

しかも、きょうちゃんのパピさんへの話し方はどうにも親しげで複雑な気持ちになる。

『パピさん、どうする……?』

ワシは裏でパピさんにLINEした。

『どうしよっか……』

『とりあえず店には黙っとこう。後で本人にやめるように言うか……』

ワシはパピさんとLINEでやり取りをしながら、彼自身がゲームをする様子を眺めていた。なおもコメント欄ではきょうちゃんがパピさんに語りかけており、しかも内容はどんどんとエスカレートしていく。

『パピって長野に住んでるんだよね。いいなー』

『そのうち、私も長野に行きたいな』

『そしたらパピが案内してね!』

むむむ、と思う。こういうのは非常に良くない。万歩譲って店で言うのはアリだが、ここはプライベートな場だ。いや、完全に外に漏れないなら目も瞑れるが、パピさんの配信には店の別の常連だって参加しているのだ。

「これは、困ったことになったぞ」

しかし、事態はジェットコースターのように進んでいく。

「店の中にいる限りは、みんなに平等なメイドさんでいて欲しい」

後日、戦国メイド喫茶では新たな噂が流れていた。

「パピさんと朝倉きょうちゃん、付き合ってるらしいよ」

誰となく流れた噂は止めることはできず、次第に店の常連の間で情報は共有されていった。秋葉原の人間はゴシップに異様に詳しいのだ。

「きょうちゃんがディズニーに行った日、パピもディズニー行ってたって」

「写真上がってたよな。同じ日にたまたま行くことあるか?」

ちなみにワシも、パピさんときょうちゃんが同じ日にディズニーに行ってたことは知っていたが〝たまたま〟ということにしておいた。ほぼ事実なのだが、朝倉軍のワシが声高に言うことなどできない。当時のワシにとって大事なことは、このゴシップに流されずに場を収めることだった。朝倉軍の筆頭家老として、家名を保つことこそ肝要と信じていた。

「仕方ない、言うかぁ」

だからワシは戦国メイド喫茶に行き、きょうちゃんを呼び出した。

「勝家さん……、話ってなに?」

「最近のことについて、やっぱり言っておかなくてはな」

厳しいと言われた手前、苦々しい思いもあったが、やはりワシが言うしかないと思っていた。対峙するきょうちゃんは怯えるように、ただ身を固くするばかり。

「今のことも、先のことも含め、ワシはきょうちゃんが誰に好意を向けても良いと思っている。それは自由だ」

「うん……」

「しかし、たとえば店の常連などが見ている場所で特定の人に好意を向けるのは良くない。店の中にいる限りは、みんなに平等なメイドさんでいて欲しい」

「はい……」

ワシの言葉が響いたのかどうか、そんなことを確かめる余裕もなかった。本当なら言いたくないことだったから、こっちが参ってしまうのだ。

(きっとパピさんみたいに、とにかく優しい方がモテるんだろうなぁ)

などと思っていた。嫉妬である。

(ああ、そうか。今になって、なおやてんの気持ちが理解できたな)

きょうちゃんも去った後の席で一人、ワシは元朝倉軍の友人のことを思った。彼が感じていた「なんか違う」が重くのしかかってくる。

かくして、ワシのメイド喫茶生活二年目はあまりにも苦いスタートとなったのだ。

(つづく)

次回連載第17回は7/14(木)公開予定です。

柴田勝家

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