「負のループ」脱出へ苦渋のリストラ 鉄工所の後継ぎが貫いた意志

「負のループ」脱出へ苦渋のリストラ 鉄工所の後継ぎが貫いた意志

  • ツギノジダイ
  • 更新日:2021/04/09
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池上鉄工所専務の松田拓也さん。同社は1946年に創業。約1万7500平方メートルの敷地面積の工場で、設計から機械加工、製缶溶接、工事配管、メンテナンスなどを一貫して手掛けています。2017年には経済産業省「攻めのIT経営中小企業百選」「地域未来牽引企業」に選ばれました(写真はすべて同社提供)

宮崎県延岡市の池上鉄工所専務・松田拓也さん(40)は12年前、畑違いのIT企業から、家業に入った直後に経営危機に直面しました。苦悩を重ねながら、人員削減などのリストラを進めて再建への糸口を探り、V字回復を果たしました。松田さんへのインタビューを、2回に分けて配信します。

「売れない営業マン」時代に学んだこと

――子どもの頃、家業はどのような存在でしたか。

今の社長である父に連れられて会社に遊びに行くことはありましたが、後継者になるとは思いもよりませんでした。創業者は母方(池上家)の祖父で、私は松田家の三男。家業といっても、少し遠い存在でした。

――松田さんは新卒で東京のIT企業に入社し、中小企業向けの業務システムの提案営業職を経験しました。

1日100件の飛び込み営業は当たり前で、メンタルは鍛えられました。業種を問わず、伝票作成や在庫管理に関する業務システムの営業を行っていましたが、中堅・中小企業で最終決裁権を持つのは社長です。社会に出たての割には、経営者と話す機会が多かったと思います。

最初は相手にされませんでしたが、頑張っていると「話を聞いたるわ」という反応になりました。経営者からみれば、私は自分の子供ぐらいの年齢。かわいがられたり、経営のイロハを教えてもらったりする中で、様々なタイプの経営者を見られた経験は大きかったです。

システムを導入したからといって、組織がうまくいくわけではありません。現場でどんな問題が発生し、トップが何をやりたいか。そしてシステムを導入することで仕事がなくなる人への対処をどうするか。事務員の方から会社の課題を吸い上げて、経営トップに話していました。

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池上鉄工所は松田さんの母方の祖父(2列目中央)が創業しました

――家業には28歳で戻りました。中小企業経営者と接した経験が大きかったのですか。

それがきっかけではありません。そもそも私は「売れない営業マン」で、入社1、2年目から何度も辞めたいと思っていました。でも、成果を出すまで5年は黙って働こうと思っていたのですが、3年目で大阪の人材事業に関する部署に転勤になりしばらくして、転職を考え始めました。

そんな時、池上鉄工所の経理を担当していた幼なじみが「いつ戻ってくるの?」と電話をくれて、初めて「家業を継ぐ」という選択肢に気がつきました。

大学まで卒業できたのは池上鉄工所があったからだし、他の会社では経験できない、経営者になるチャンスを自分は持っていると感じたのです。父の年齢を考えると、戻るのは早い方がいいとも思いました。ただし、経理者として能力やセンスがあるとは到底思っていませんでした。

「負のループ」に陥る

――当時の池上鉄工所には、どんなイメージを持っていましたか。

鉄工所は「もうからない会社」という認識です。前職の営業で同じような業態の企業も営業で回っていて、厳しい商売というのも理解していました。自社製品を持っているわけでもないし、材料費も高く、残る利益は知れているという感覚がありました。

特定顧客への依存度が高く、決まったコスト感覚で進んでいたら、後から値段を上げるのは厳しいとも思っていました。営業力をつけて、商圏を広げたいという課題感を持っていました。

――家業に戻ってみて、どのように感じましたか。

このままではヤバい、と思いました。私が戻った2008年度の売上高が約8億4千万円、営業利益は1800万円の赤字でしたが、まだ序の口です。翌年度から売上高が大きく下がり、09年度は1億3千万円、10年度は9千万円の赤字でした。黒字の月の方が圧倒的に少なく、危機感を持ちました。逆によく持ちこたえているなとも思いました。

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池上鉄工所の製缶工場

――経営危機の要因は。

2008年のリーマン・ショックの影響もひとつです。取引先が設備投資を抑制し、大幅に売り上げが減りました。さらに、そのタイミングで売り上げを見込んだ新規分野進出への投資や売り上げ見込みが、うまくいかなかったことも重なりました。

構造的な問題として、仕事1件あたりの利益率が悪すぎました。受注生産が中心で、受注先から仕事が取れないと、売り上げが立ちませんでした。営業の仕方や人員配置にも問題がありましたが、仕事がない時は、ただ会社で8時間を潰すだけという状況でした。無茶をして仕事を取って、甘い見積もりでさらに大赤字になるという「負のループ」が見事にできあがってしまったのです。

当時は数字がオープンになっておらず、それでも賞与や昇給はあったので、会社全体に危機感が薄かったように思います。

会計士と「破滅のシナリオ」を試算

――2011年、池上鉄工所は大規模な経営合理化に踏み出しました。松田さんはどのように進めたのでしょうか。

まずは現場に入り、情報収集しました。総務担当として、経営に関する数字を見始めて実情を知る中で、感覚的にやばいなと思いました。私ひとりの力ではどうしようもなく、顧問先だった会計事務所の切れ者の担当に協力をお願いしました。

その方と二人三脚で数字のシミュレーションをして、現状維持だとあと何年で会社が潰れるかという「破滅のシナリオ」を試算しました。同時に、管理者クラスを呼んで「SWOT分析」(※)をしてもらいました。

(※経営資源など自社の内部環境と、経済情勢など自社が直面する外部環境について、強み、弱み、機会、脅威のカテゴリーに分けてビジネス環境を分析する手法)

全員集めてもあまり意見が出ません。個別に話して各自に考えてもらい、私がみんなの声を取りまとめました。強みや弱み、数字の分析を掛け合わせて、最短で復活させる道を探ると、仕事を増やすか、固定費の削減しか、策が残っていませんでした。経費削減などの手はすでに実行していましたから。

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作業を行う池上鉄工所の従業員

やむを得ず希望退職を募る

――シビアな状況ですね・・・。

営業マンもいないので、すぐに売り上げを増やすのは難しい。社員数を減らさないと乗り越えられないと判断し、当時64人いた社員の中で、20人ほど退職してもらわないと会社が成り立たない試算が出ました。

当然、労働組合を通さないと話が進みません。数字を全部オープンにしたうえで、人員の削減がやむを得ないと説明しました。話し合いを重ね、希望退職を募ることになりました。

全社員にオープンに話をしてから、最終的に社員を3グループに分けて、社長と総務担当の私が、各メンバーと会社の方向性について話し合いました。自分が言い出したことなので、社員の様々な声を聞きましたが、「生き残るためにはこれしかない」という当初の意志はぶれないようにしました。むしろ一番大変だったのは、当時の労働組合のトップにいた社員だったと思います。

自分で計画を練り、総務担当として早期退職時の手続きまで全部やりました。手続きの中で、辞めたくなくとも自分より若い方に譲る、託すと辞めたベテラン社員もおり、正直言葉になりませんでした。でも、業績がこれ以上落ちたら会社が無くなる。あとは上がるしかないと、覚悟を決めました。

外部にブレーンを作る

―― 後継者として、挫折や失敗の経験はありますか。

たくさんあります。人員を減らす過程で、事業を立て直すために必要な人まで辞めてしまい、自分がもっと早く策を打てていたらと思いました。何度も逃げ出したいと、すごく悩むこともありましたが、やろうと決めたことは結果が出るまでやりきろうとするタイプです。

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IT企業の営業職から転身した松田さんは、経営危機からの脱却の過程で一から経営を学びました

私が主導した意識改革も、最初は正直言って仲間がいない状態でした。でも、何人かに「(家業に)戻ってきて数年の子が、分からないなりに一生懸命、会社を立て直そうとしている。それで少し心が動かされた」と言ってもらえたのが、うれしかったです。必死に動いていたら、徐々に会社内部も協力的になってきました。

前職で経験したのはシステム営業です。鉄工所のことも、経営や会計も分からない状態でした。経営危機の時に会計事務所に協力してもらったように、外部にブレーンを作るスタイルは今も続いています。

――経営危機からの脱却に取り組んだ成果はいかがでしたか。

希望退職者を募った翌年の2012年度は、売上高が約6億円、営業利益が約800万円の黒字に転じました。社員は20人ほど減りましたが、売上高は変わらず、利益が出ました。狙い通りというより、そこまでやったなら、意地でも出さなきゃいけない結果でした。

最短で結果を出すことを考えると、自分一人でできることには限度があります。経験や専門知識が足りない部分は、外部の専門家に協力をお願いした方が早いですし、内外で支援してくれる人たちを裏切りたくないという気持ちが、しんどくても頑張る原動力になりました。

後編は、新規事業の開拓や広報発信力の強化、IT活用による変革など、松田さんの反転攻勢に迫ります。

皆本類

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