
ジャパンモビリティショー2023に展示されていた新型スペーシアのコンセプトカー(筆者撮影)
スズキが軽スーパーハイトワゴン「スペーシア」と「スペーシアカスタム」をモデルチェンジし、3代目となる新型モデルを2023年11月22日に発売することを発表した。
ここ数年、軽四輪車の新車販売台数でつねにトップ3に入るほどの人気を誇るのが、スペーシア・シリーズ。その新型モデルでは、先代モデルが持つ広い室内はもちろん、外観イメージや使い勝手がいい装備などを継承しつつ、より快適性や利便性を向上させていることがポイントだ。
注目は軽自動車では珍しいオットマン

オットマン機構を備えたマルチユースフラップ(写真:スズキ)
とくに2列目シートへ新採用した「マルチユースフラップ」は、軽自動車では珍しい「オットマン機構」も持つことが注目点。停車時に乗員が足を伸ばすことができるミニバン並みの新装備により、室内をより心地よく過ごせる空間として演出している。
当記事では、そんな新型スペーシア・シリーズの主な特徴や商品性などについて紹介する。なお、今回は、発売直前に開催された「ジャパンモビリティショー2023(2023年10月28日~11月5日、東京ビッグサイト)」で、ほぼ市販モデルと同等といえるコンセプトカーも取材してきたので、その内容なども交えながらお伝えしよう。
全高が1700mmを超えることなどで広い室内を持ち、若いファミリー層からシニア層まで、幅広いユーザーから大きな支持を受けているのが軽スーパーハイトワゴンだ。
なかでも、スペーシアとそのカスタマイズ仕様のスペーシアカスタムは、前述のとおり、つねに新車販売台数のトップ3に入るほどの人気を誇る。軽四輪車ジャンルでは、本田技研工業(以下、ホンダ)の「N-BOX」が8年連続で新車売り上げ1位だが、ダイハツ工業(以下、ダイハツ)の「タント」とは、毎年のように2位争いを繰り広げている。
初代や先代モデルについて

2013年に登場した初代スペーシア(写真:スズキ)
スペーシアの初代モデルは2013年に登場。2017年に発売された先代の2代目モデルでは、スタンダードのスペーシアに、厚みのあるフロント部や高いベルトラインを持つ四角いボディなどで、親しみやすさとワクワク感を演出した外観デザインを採用。また、スペーシアカスタムには、大型メッキフロントグリルやLEDヘッドランプなどを装備。迫力と精悍なイメージのフロントフェイスを持つことが大きな特徴だった。

2017年に登場した2代目スペーシア(写真:スズキ)
先代モデルのパワートレインには、最高出力38kW(52PS)を発揮する658cc・水冷3気筒のNA(自然吸気)エンジンを採用。スペーシアカスタムには、NAエンジン車に加え、より高出力な最高出力47kW(64PS)のターボエンジン搭載車も設定していた。
また、いずれの仕様にもモーター機能付き発電機「ISG」を搭載したマイルドハイブリッドシステムを採用。信号待ちなどでアイドリングストップした後の再発進時には、モーターの力だけを使いアクセルを踏まない状態で走るクリープ走行を実施。加速時にはモーターの力でエンジンの出力をアシストするなどで、余裕ある走りと高い燃費性能を両立することが特徴だ。なお、駆動方式には、2WD(FF)と4WDを全グレードに用意していた。

2代目スペーシアの後席(写真:スズキ)
先代モデルの室内は、大人4名でもゆったりと座れる広さが大きな魅力だったといえる。また、2列目シートは、ワンタッチで折りたためるほか、左右を独立して前後スライドさせられるなどで、多様なアレンジを可能とした。加えて、後席両側にスライドドアを装備することで、小さな子どもや高齢者などでも乗り降りがしやすいことも魅力。自動でドアの開閉が可能なパワースライドドアもグレード別に設定するなど、ファミリー層など幅広いユーザーにとって、使い勝手のいい装備が満載だった。
ほかにも、自車の周辺を俯瞰(ふかん)的に見ているような映像をモニターに映し出す全方位モニターや、後退時の衝突被害軽減ブレーキなど、先進の安全運転支援システムが充実していたことも、大きな魅力だったといえよう。
新型スペーシアの外観について

発売になった新型スペーシアの外観(写真:スズキ)
こうした充実装備により、ファミリー層を中心に、幅広いユーザーに大きな支持を受けているのがスペーシア・シリーズだ。その新型モデルでは、外観を先代モデルが持つ四角いイメージを継承しながら、細部をアップデートしていることが特徴だといえる。
主な変更点は、ボディサイドに新しいプレスラインを採用したこと。形状や数を変更することで、デザインモチーフである「大容量のコンテナ」を演出する。スタンダードでは、ヘッドライトをより丸くて四角い形状としたほか、フロントグリルなどのデザインも変更。顔付きが、よりフレンドリーになった印象だ。

新型スペーシアカスタムの外観(写真:スズキ)
また、スペーシアカスタムでは、フロントバンパーやヘッドライトの形状を変更するなどで、よりシャープな印象を加味。ヘッドライト下には、横長デザインのシーケンシャルウインカー(内側から外側へ向かって流れるように光るウインカー)も採用することで、被視認性も向上している。
ジャパンモビリティショーで現車(コンセプトモデル)を見た印象では、両タイプともに、かなり先代モデルのイメージに近い外観だと感じた。この点について、スズキの開発担当者に聞いたところ、「(新型のデザインは)一目でスペーシアとわかることを意識した」とのこと。

ジャパンモビリティショー2023に展示されていたスペーシアカスタムのコンセプトカー(筆者撮影)
スペーシア・シリーズは、長年大きな支持を受けているモデルだけに、ある程度の固定イメージを持っているユーザーも多く、大がかりなデザイン変更はかなりの「バクチ」となってしまうからだろう。とくに以前からこのモデルに乗っていたり、購入を検討していたりするユーザーは、外観がガラリと変わると戸惑いや違和感を持つ場合も多い。そうなると、例えば、旧モデルから新型への乗り換え組が減るなど、結果的に新車販売台数へ大きな影響を与える可能性もある。あえて外観デザインの雰囲気をキープした背景には、そうしたユーザー嗜好も大きいのかもしれない。
パワートレインとグレード構成について

スペーシアカスタム(コンセプトカー)のサイドビュー(筆者撮影)
新型モデルのパワートレインは、先代モデルと同様に、NAエンジン車とターボエンジン車を設定し、全車にマイルドハイブリッドシステムを採用する。全タイプに2WD(FF)車と4WD車を揃えている点も同じだ。
グレード展開は、スタンダードのスペーシアにベースグレードの「HYBRID G」と上級グレード「HYBRID X」を設定し、いずれもNAエンジン車のみを用意する。スペーシアカスタムでは、ベースグレードの「HYBRID GS」と上級グレードの「HYBRID XS」がNAエンジン車で、さらにターボエンジン車の「HYBRID XSターボ」も用意する。
新型のパワートレイン構成は、基本的に先代モデルと同じだ。だが、NAエンジン車には、先代モデルが搭載していた658ccのR06A型を、より燃焼効率を向上させた657ccのR06D型に変更している。これにより、最高出力は先代モデルの38kW(52PS)から36kW(49PS)とややダウンしているが、そのぶん燃費性能がアップ。とくにスペーシアHYBRID Gの2WD車では、WLTCモード値25.1km/Lという低燃費を実現する。
スズキの調査によれば、この数値は、全高1700mmを超える軽スーパーハイトワゴンのクラスでトップだという(2023年11月現在)。なお、ターボエンジン車のパワートレインは、先代モデルと同じR06A型を搭載し、47kW(64PS)という最高出力なども同じ。燃費性能はWLTCモード値19.8~21.9km/Lとなっている。

電動パーキングブレーキのスイッチ(写真:スズキ)
走行関連の新装備としては、「電動パーキングブレーキ」が追加されていることも注目だ(グレード別設定)。スイッチひとつで簡単に操作できるほか、シフト操作やアクセルと連動して作動や解除を行うことも可能だ。従来の機械式と比べ、発進時などに解除し忘れることがなく、非常に便利だ。また、停車中にブレーキペダルから足を離しても停車状態をキープする「オートブレーキホールド」も装備し、信号待ちや渋滞時などで、ドライバーの疲労軽減に貢献する。

先進安全機能・運転支援機能のイメージ(写真:スズキ)
安全運転支援システムでは、衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポートⅡ」を、スズキで初搭載する。車両や歩行者に加え、自転車や自動二輪車にも対応。また、交差点での右左折なども検知シーンとするなどのアップデートを行うことで、より幅広いシーンの衝突回避や被害軽減をサポートする。
ほかにも、高速道路などで車間を保持しながら前車を追従する「ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)」には、全車速追従機能や停止保持機能を追加。渋滞走行時に発進・停止を頻繁に繰り返す状況などにも対応することで、より運転操作の負担を軽減する。また、ACC作動時に、車線中央付近での走行維持をサポートする「車線維持支援機能」も搭載。システムが車線を認識し、自車が車線中央付近からはずれそうな場合は、ステアリングに力を与え車線中央付近の走行維持を支援する機能も追加している(両機能は、スペーシアHYBRID Xのセーフティプラスパッケージ装着車とスペーシアカスタム全車に採用)。
室内の注目点はマルチユースフラップ
一方の室内。高さ1400mmを超える高い天井や、大人でもゆったりと座れる余裕の足元スペースなど、広くて使い勝手のいい空間を持つことは、先代モデルと同様だ。

ジャパンモビリティショー2023で撮影したマルチユースフラップ(筆者撮影)
大きなトピックは、先述した後席のマルチユースフラップ(グレード別設定)の採用だ。これは、後席座面の前部分に装備した可動式フラップのことで、それを伸ばしたり、角度を変えたりすることで、主に3つのモードを活用できる。
まず、フラップを足の裏側にマッチさせる「レッグサポートモード」。これは、例えば、カーブなどの走行時に足をホールドしてくれることで踏ん張りやすくなり、乗員の疲労などを軽減するためのものだ。また、フラップを長く伸ばせば、停車して休憩するときなどに足を伸ばしてくつろげる「オットマンモード」となる。

マルチユースフラップを上向きに立てた荷物ストッパーモード(筆者撮影)
さらに、フラップを上向きにして立てれば、後席に載せた荷物などを支え、減速時などに脱落を防止できる「荷物ストッパーモード」にも変更が可能だ。後席には、ほかにも、左右独立した後席センターアームレストも採用。マルチユースフラップと併用することで、快適性を高めるとともに、座面に置いた荷物の横ずれ防止にも役立つ。
また、新型モデルでは、室内の空気を効率よく循環させて、冷たい空気や温かい空気の偏りを解消するスリムサーキュレーター(グレード別設定)も改良。新型では、作動音をより低減することで、室内の静粛性を向上させるといった改善も行っている。

折りたたみ式のパーソナルテーブル(筆者撮影)
ほかにも、前席の背もたれ裏にある折りたたみ式テーブル「パーソナルテーブル」にも新型を採用。後席乗員がドリンクホルダーとして使う穴部分を四角い形状に変更することで、容量500mlの紙パックに入ったジュースなども入れられる工夫が施されている。
新型スペーシア/スペーシアカスタムの価格

新型スペーシアのリアビュー(写真:スズキ)
新型モデルの価格(税込み)は、スタンダードのスペーシアが153万100円~182万4900円。スペーシアカスタムは180万1800円~219万3400円だ。ちなみに、スペーシアとつねに2位争いを展開し、直接的ライバルといえるタント。こちらの価格(税込み)は、スタンダードが135万3000円~177万1000円で、タントカスタムは174万9000円~199万1000円だ。

とくに軽自動車の場合は、価格面も新車販売台数などを左右するといえる。こうしてライバルであるタントの価格帯と比較すると、新型スペーシア・シリーズは、やや高い印象もある。ただし、このクラスで新車販売台数が8年連続1位のN-BOXでは、2023年10月に発売した新型が、スタンダード164万8900円~188万1000円、カスタムは184万9100円~236万2800円で、価格帯的にはもっとも高い印象だ。N-BOXも新型は発売されたばかりなので、新車販売台数などはまだわからないが(2023年11月現在)、もし先代モデルの好調さを維持するとすれば、一概に価格帯だけで有利・不利が出るとも限らないといえる。
いずれにしろ、熾烈なシェア争いを繰り広げている軽スーパーハイトワゴン市場で、新型のスペーシアとスペーシアカスタムが、今後どのような戦いを繰り広げるのかが興味深い。先代モデルの熟成版ともいえる3代目が、果たして直接ライバルのタントを抑え、絶対王者のN-BOXを打倒できるのか? 今後の動向に注視したい。
(平塚 直樹:ライター&エディター)
平塚 直樹