「運賃値下げ検討」北総が抱える線路使用料の実態

「運賃値下げ検討」北総が抱える線路使用料の実態

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2021/10/15
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京成電鉄の空港特急スカイライナー。北総線と線路を共用する「京成成田空港線」を走り、京成高砂―小室間は北総に線路使用料を払っている(写真: kei/PIXTA)

千葉ニュータウンと都内を結ぶ北総鉄道。首都圏有数の高額な運賃で知られる同社は2021年6月、「運賃値下げの可能性の検討に着手する」と発表し、9月には千葉県の熊谷俊人知事が県議会一般質問で、同社社長から2022年秋ごろに「通学定期運賃の大幅な値下げ、北総線内の移動の促進に資する普通運賃の値下げ」を実施する方向で検討しているとの報告を受けたと明らかにした。

ただ、運賃の値下げ幅については明らかにされていない。どの程度の値下げが可能なのか、そもそも北総線の運賃が抱える問題とは何なのか。2021年10月7日付記事(「高額運賃の北総鉄道『大幅値下げ』は簡単ではない」)では長年黒字経営を続けながらも運賃が高額な理由について検証したが、今回は北総の収入・支出に多大な影響がありつつもその実態をつかみにくい「線路使用料」について検証したい。

北総と京成で大幅に違う「線路使用料」

2010年に開業した京成の成田空港線(成田スカイアクセス線)は、京成高砂―印旛日本医大間で北総線と線路を共有しており、設備の保有者である北総に線路使用料を支払っている。厳密には小室―印旛日本医大間は京成の100%子会社である千葉ニュータウン鉄道(CNT、2004年に都市基盤整備公団から設備を取得し設立)が所有しており、京成は京成高砂―小室間の線路使用料を北総に支払い、北総と京成は小室―印旛日本医大間の線路使用料をCNTに支払っている。

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各社とも線路使用料は公表していないが、国土交通省の発行する「鉄道統計年報」などの公開情報、鉄道・運輸機構への情報開示請求、そして北総線沿線住民で組織された「北総線の運賃値下げを実現する会」(北実会)が取得し、同会ウェブサイト(現在は閉鎖)で公開していた各種資料などを掛け合わせることで、その実態が見えてくる。

成田スカイアクセス線の開業にあたり、同線の旅客運賃の上限設定の認可申請について審議した2010年度運輸審議会第5回の資料によれば、開業後に京成が支払う線路使用料は北総に年間約15億円(2018年度実績値では約17億円)、CNTに約3億円とされている。鉄道統計年報によれば、CNTが受け取る線路使用料は約28億円なので、北総がCNTに支払う線路使用料は差し引き約25億円だ。

つまり、小室―印旛日本医大間は京成が3億円で利用しているのに対し、北総は25億円を支払っていることになる。

北実会は、京成と北総がCNTに支払う線路使用料の差について、同じ区間を走行しているのに大幅に異なるのはおかしいと指摘しており、共産党の斉藤和子元衆議院議員も2016年に同様の内容の質問主意書を提出している。

問題をややこしくしているのが京成と北総、CNTでそれぞれ交わされた契約の違いだ。CNTは自ら列車の運行はせず、保有する設備を他の事業者に使用させる「第三種鉄道事業者」である。一方、小室―印旛日本医大間における京成と北総は、CNTの設備を利用して列車を運行する「第二種鉄道事業者」となる。

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2010年2月、京成は沿線自治体に対して、線路使用料は「第二種鉄道事業者が使用する施設保有事業者の鉄道設備に係る建設費等の資本費相当分に基づき算出」すると説明しており、京成が北総およびCNTに支払う線路使用料もこれに基づき算出されたとしている(実際の計算方法は後述する)。

京成が北総に払う額は安すぎる?

一方、北総がCNTに支払う線路使用料はこの原則とは異なっている。北総はCNT設立以前に小室―印旛日本医大間を保有していた住宅・都市整備公団との間に、CNTの累積損失が解消するまでCNT区間の運賃収入相当額を線路使用料として支払う契約を締結しており、CNTもこの契約を引き継いでいる。その結果、京成がCNTに支払う線路使用料が約3億円なのに対し、北総のそれは約25億円と大きな差が生じている。

ただ、この数字のみを比較して不公平というのは早計だ。京成が利用するCNTの駅はアクセス特急の停車駅に限られているうえ、CNTが保有する印旛車両基地は北総のみが使用するなど、京成と北総では設備の利用範囲が異なるからだ。また、CNT線内における北総の列車運行により発生するコストはCNTが負担することとされており、CNTから北総への支払いもあるため、京成と北総の線路使用料の違いについては単純に比較できないのである。

ちなみに2008年度に約21億円だったCNTの累積損失は2018年度に約14億円まで減少したが、その後再び赤字が拡大して2020年度は約17億円となり、解消のメドは立っていない。CNTの累積損失が解消されれば、線路使用料の減額分を値下げの原資とすることも可能だが、当面は実現困難だろう。

線路使用料に関しては、京成が北総に支払う額が安すぎるのではないかという指摘もある。例えば北総線区間を走る日中1時間当たりの列車本数を比較すると、北総線が3本に対し、成田スカイアクセス線はアクセス特急1.5本、スカイライナー3本(2021年10月14日時点では減便中)の合計4.5本だ。それなのに北総線の鉄道営業収益約177億円に対し、線路使用料約17億円は1割にも満たない。京成のほうが多く利用しているのに、負担が少ないという主張だ。

この主張に合理性はあるのか。重要なのは、北総と京成の関係は相互直通(例えば京成線と都営浅草線の関係)ではなく、京成が北総の線路を利用して列車を運行する第二種鉄道事業者である点だ。つまり京成高砂―印旛日本医大間は北総線でもあり、京成線でもあるということだ。

相互直通であれば北総線内を走るすべての列車の運賃収入は北総に入るが、第二種鉄道事業者の場合は同じ線路にそれぞれの事業者が列車を走らせ、それぞれの事業者が運賃収入を得る形になる。

だが、同じ区間を走る2つの鉄道が別々の運賃体系を取るためにはホームと改札口を完全に分ける必要がある。例えばJR西日本と南海電鉄が共用する関西空港駅や、JR東日本と京成が共用する成田空港駅など、ホームと改札を分離して路線ごとに運賃収受をする事例もあるが、既存の路線を改築するのは不可能なので、成田スカイアクセス線と北総線は京成高砂―印旛日本医大間で同じ運賃体系を採用することになった(その結果、京成高砂―印旛日本医大間32.3kmが837円なのに対し、京成高砂―成田空港間51.4kmが995円というバランスの悪い運賃カーブとなっているという批判もあるが、この点については今回は触れない)。

両社が運賃体系を共有することで生じるもう1つの問題は運賃収入の配分だ。北総と京成が共有する京成高砂―印旛日本医大間は、乗客がどちらの路線(列車)を利用したのか判別することができない。そこで、北総線区間を通過利用する場合(京成上野―成田空港間など)は、全区間を京成の列車に乗り通すものとみなしてすべて京成の収入とし、北総線区間で京成のアクセス特急が停車しない駅間(矢切―西白井間など)を利用する場合は北総の収入とすることとした。

また、北総線区間でアクセス特急が停車しない駅と成田スカイアクセス線の成田湯川―成田空港間の利用は、北総と京成の乗車区間の運賃をそれぞれの収入とし、両社の列車が同じように利用できる北総線内の京成停車駅間(東松戸―千葉ニュータウン中央間など)の利用は、利用機会の観点から両社の運行本数割合で収入を配分することとした。

相互直通にしなかった理由は

このような複雑な仕組みを構築してまで相互直通方式を取らなかった理由について、京成は2010年1月26日に開かれた公聴会で、高速化のための追い抜き設備新設や保安装置改良などには多額のコストがかかり、相互直通方式だと北総がこれらに加えて車両増備や車庫拡充などのリスクを自ら負うことになる点を挙げている。そのうえで、「北総鉄道は、巨額の累積損失を抱え債務超過状態にあることから、これらを負担した場合、経営リスクが極めて高くなると判断」したとする。

北総は、成田スカイアクセス線の開業による運行本数の増加に伴い必要となる耐震補強工事について費用の半額を負担した以外、新規の設備投資に必要なコストを負担せず、これらは成田空港や沿線自治体、京成などが出資する第3セクター、成田高速鉄道アクセスが費用を負担した。このため、京成はスカイアクセス線開業以前の設備に対して線路使用料を支払うという仕組みだ。

【2021年10月15日19時00分 追記】記事初出時、費用負担についての記述に誤りがあったため上記のように修正しました。

ただ、これにも異論がある。成田空港への鉄道輸送は当初、東京駅から空港まで約30分で結ぶ「成田新幹線」が担うことになっていた。ところが沿線自治体の反対運動により計画は頓挫。そこで1980年代に入って在来線による新線整備の検討が始まり、1984年に決定したのが北総線経由のいわゆる「Bルート」だった。

もっとも1977年時点でも「成田特急新線具体化へ 北総鉄道線と連絡」との報道(同年11月16日付朝日新聞夕刊)があるなど、北総線を活用した成田空港アクセス路線新設の構想は古くから存在していた。Bルート決定の前年に着手した北総線第2期線も、将来の高速運転に備えた高規格路線として設計され、優等列車運転拡大に備えた準備工事もしていた。

これら空港アクセスを見越した施設の追加により高額化した建設費の返済を、北総線利用者が高額運賃という形で負担しなければならないのはおかしいという批判がある。確かに1991年の第2期線開業から2010年の成田空港アクセス線開業までの約20年間、有効活用されなかった「過剰設備」であることは否めず、本来、京成が負担すべき設備投資を北総が肩代わりした結果が建設費の増加を招いたという指摘は一理ある。

一方で現時点での線路使用料の算定に関しては、後述するようにそうした設備も含めた固定資産を元に算出されており、決して京成が「タダ乗り」しているわけではない。

京成が支払う線路使用料の算出方法は

では、京成が北総に支払う線路使用料はどのように算出されているのか。

京成が2010年2月に千葉県に対して行った説明によれば、京成は北総鉄道が保有する鉄道施設のうち京成が使用する分について、鉄道事業用固定資産の平均残存耐用年数(31年)と鉄道・運輸機構および日本政策投資銀行からの借入金の平均金利(1.95%)をもって、元利均等払いの場合の年間償還額を算出し、さらに租税および管理費相当額を加えた額に、北総に対する京成の車両走行キロ割合を乗じることによって負担額(約15億円)を算出するとしている。

先述の線路使用料約17億円との差異は、北総が運行する列車から京成のアクセス特急に乗り換える旅客と、北総線が成田空港と直結されることによって新たに発生する旅客に係る運賃収入額の一部を線路使用料に上乗せして北総に支払うこととしているためだ。

相互直通でなく、第一種鉄道事業者の設備を用いて第二種鉄道事業者が列車を運行している事例としては、東京メトロ南北線(都営地下鉄三田線)の目黒―白金高輪間がある。

同区間は東京メトロが第一種鉄道事業者、東京都交通局が第二種鉄道事業者となっている。『南北線建設史』によれば、目黒―白金高輪間の線路使用料は「対象施設の建設に要した費用の2分の1を使用期間内(引用者注:30年間)で回収し、当該施設の所有、保守管理及び更新、改良等に要する費用のうち、都の対象施設使用割合に応じた額を賄うものとする」としている。

また運賃収入についても、南北線赤羽岩淵―白金高輪間と目黒―白金高輪間を連続して乗車する場合は東京メトロ、西高島平―白金高輪間と目黒―白金高輪を連続して乗車する場合は東京都交通局の収入とし、目黒―白金高輪間の相互発着や、目黒―白金高輪間から東急目黒線を利用する旅客については、当該区間の列車運行本数比率によりメトロと都で分配するとされている。

こうした事例と照らし合わせると、京成が北総に支払う線路使用料は不当とまでは言えないだろう。結局、現在の仕組みの元では、北総が得られる線路使用料を増やすことは困難と言わざるをえない。

「情報不足」が招く利用者の不信

本稿執筆にあたっては北総に取材を申し込んだが、鉄道・運輸機構に支払う償還額や線路使用料など、ほとんどの項目について「ご質問の内容には弊社相手先および関係先に係る事項も多々あり、お答えすることが出来ない設問が含まれて」いるとして回答を得られなかった。

だが、これまで記してきたとおり、公開情報や情報公開請求などで得られる情報で、その実態をおおよそ把握することができた。その中には北総にとって決して不利ではない情報もあった。

結局この問題について利用者が不信を抱く原因は、京成と北総の情報発信が不十分なことにある。今回、値下げ方針が示されたことで、劇的な値下げを期待する利用者も少なくないだろうが、これまで検証してきたように、過剰な期待は空振りに終わる可能性が高い。

悲願の値下げがかえって「失望」を招くことすら考えられるが、さらなる値下げの可能性がないわけではない。累積損失解消と値下げがゴールではないし、利用者からそう思われるのも本意ではないはずだ。将来的な経営のビジョンを示すためにも、値下げを機に経営状況を含む抜本的な情報開示を求めたい。

(枝久保 達也:鉄道ジャーナリスト)

枝久保 達也

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