
ケーブルテレビの番組収録に臨む愛知県警蟹江署の田中裕樹巡査(左端)と署員ら=愛知県飛島村で2023年9月14日午前10時53分、熊谷佐和子撮影
調理師から警察官へ――。そんな異色の経歴を持つ愛知県警蟹江署の若手警察官が、料理を通じて防犯に興味を持ってもらおうと「クッキングポリス」として広報活動に一役買っている。
料理の腕を振るうのは、蟹江交番(同県蟹江町)に勤務する田中裕樹巡査(26)。同署管内の同町や弥富市などで放送されている地元ケーブルテレビで、5月から「出動!クッキングポリス」の番組に出演している。
「カニ玉はあんかけ、自転車は鍵かけ」
このほど収録された番組では、蟹江町にちなみ、田中巡査がカニカマを使った「カニ玉」の作り方を実演。料理が出来上がると、同署の生活安全課員らとともに、管内で今年に入って自転車盗難の被害が相次ぎ、約7割が無施錠だったことを説明し、料理にちなんだダジャレを交えて施錠の大切さを訴えた。
田中巡査は名古屋市守山区出身。料理好きの祖父を手伝ううちに「いろんな人に料理を振る舞いたい」と思うようになった。名古屋市内の専門学校で調理師免許を取得し、卒業後は市内のホテルに調理師として勤務した。
一方で、警察官にも憧れを持っていた。中学3年生の時、自転車で交差点を横断中に信号無視の車にはねられた。「事故で怖い思いをしたが、現場に駆けつけた警察官が寄り添ってくれ、心が救われた」。調理師となった後も、警察の仕事に密着したテレビ番組などを見て「やっぱり警察官になりたい」との思いを強め、昨年春に警察学校に入校。今年1月から蟹江交番で勤務し「当直中に事案が発生して仮眠できないなど大変なこともあるが、身近な犯罪を防いで『ありがとう』と言われることがうれしい」と実感している。
署ではコロナ禍により対面での防犯活動が難しくなる中、SNS(ネット交流サービス)や動画を使った広報も試みていた。しかし、詐欺などの犯罪被害に遭いやすい高齢者にアプローチするのは難しく、広報の仕方に悩んでいたという。
そんな時「毎日献立考えるの大変なんですよね」との署員のつぶやきから、「レシピを紹介する形にすれば、興味を持ってもらえるのでは」というアイデアが生まれた。同じ頃に交番に赴任してきた田中巡査の経歴を生かし「クッキングポリス」がスタートした。
番組はこれまでに2回分が放送された。田中巡査は「警察官になっても料理を作るとは思っていなかったが、前職の経歴を生かせるのは良いこと」と話す。今後は地域の敬老会などにも「出動」して「防犯と一体となり、調理の実技指導もできたら」と活動の幅を広げたい考えだ。【熊谷佐和子】
毎日新聞