東京国際映画祭で注目された作品は? 観客賞の「私をくいとめて」が存在感

東京国際映画祭で注目された作品は? 観客賞の「私をくいとめて」が存在感

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/11/22
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新型コロナウイルスの感染拡大により、カンヌ国際映画祭の中止をはじめ、世界各地の映画祭が中止や延期、またはオンラインでの開催を余儀なくされるなか、第33回東京国際映画祭が「通常開催」された。

10日間で公式上映作品は138本、公式上映動員数も4万533人と、昨年に比べ約3分の2程度の数字ではあるが(昨年は9日間で183本、6万4492人)、コロナ禍であることも考えれば、なかなかの成功に終わったのではないだろうか。

海外からの映画関係者の来日が難しいこともあり、今年は例年行われていたコンペティション部門の開催はなく、「東京グランプリ」という名称の最高賞の選出もなかった。

代わりに、従来の「インターナショナルコンペティション」「アジアの未来」「日本映画スプラッシュ」の3つの部門を統合した「TOKYOプレミア 2020」が設定され、その31本の作品のなかから、観客の投票によって「観客賞」が選ばれた。

大九監督は2度目の観客賞受賞

第33回東京国際映画祭の観客賞に選ばれたのは、大九(おおく)明子監督、のん主演の「私をくいとめて」。東京国際映画祭における観客賞は、実は今年だけではなく、例年コンペティション部門の作品から選ばれており、大九監督にとっては3年前の第30回での「勝手にふるえてろ」に続いて2度目の受賞となる。

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大九明子監督(写真左)と主演ののん(右)東京国際映画祭 (c)2020 TIFF

コンペティションがなく、最高賞の選出もないなかで、今回、唯一の「賞」となった観客賞を受賞した大九監督は、受賞の喜びを次のように語った。

「コロナ禍でさまざまな困難があるなか、栄えある観客賞を受賞して、とても光栄です。今回、東京国際映画祭がリアルで開催する道を選んだのは勇気ある選択でした。スタッフの皆さんからも緊張感を感じました。そのなかでチケットを買って足を運んでくださった方たちから面白いと思っていただけるようにと、祈るような気持ちでした」

映画祭の会期中、何度も主会場の六本木ヒルズに足を運んだが、やはり観客は昨年に比べると若干少ないと感じはした。しかし主催者側の新型コロナウイルスへの対策は徹底しており、この状況下での開催に対しての並々ならぬ決意と努力がうかがえた。

観客賞を受賞した「私をくいとめて」も、実は、そんなコロナ禍での緊迫した状況のなかで撮影された作品だった。当初のスケジュールでは今年の3月中旬にクランクイン、4月中旬に撮影が終わる予定だったが、4月7日に政府による緊急事態宣言が発出されて、まさに撮影もたけなわのときに中断を余儀なくされたという。

「2カ月ほど撮影は中断したのですが、その間に脚本を書き直していました。映画館も閉まり、不要不急という言葉が飛び交いましたが、映画は不要でも不急でもないと思いたかったので、最新の注意を払いながらつくり続けていくべきだと信じていました」(大九監督)

まさに「私をくいとめて」は、今回のコロナ禍のまっただなかで生み出された作品だったのだ。しかも、「ソーシャルディスタンス」や「巣篭もり」という言葉が、わたしたちの暮らしのなかにも否応なしに押し寄せてくるなかで、実はこの作品も、人と人の距離の取り方について描かれたものだった。

脳内に棲むもう1人の自分

原作は、3年前に大九監督が観客賞を受賞した「勝手にふるえてろ」と同じ、芥川賞作家である綿矢りさの小説。主演の松岡茉優がコメディエンヌとしての才能を開花させ、こじらせ系のイタい女子を小気味よく演じた「勝手にふるえてろ」は、作中のヴィヴィッドなセリフ回しが印象的で、筆者がその後、大九監督の仕事に注目するきっかけともなった作品だった。

その綿矢りさと大九監督(両作で脚本も担当)が再びタッグを組んだ「私をくいとめて」では、主演ののんが、人間関係の構築があまり得意ではなく、おひとりさま生活を実践する31歳のOLを、リアルでユーモラスに演じている。

みつ子(のん)は、平日は会社員として無難に働き、休日は充実のおひとりさま生活をめざす独身女性だ。どちらかというと人との距離の取り方が苦手な彼女には、秘密があった。それは、脳内に棲むもう1人の自分、「A」の存在だ。

「A 」は「Answer」の「A」で、みつ子は人間関係に戸惑ったときなどは、いつもAに相談し、的確な答えを得ようとするのだった。この1人芝居とも言える演技を、主演ののんが見事に演じている。何度も登場するこの「自問自答」のシーン、Aの声が男性のものなので最初は観ていて少し戸惑うのだが、作品を通じてのいちばんの見どころでもある。

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(c)2020 「私をくいとめて」製作委員会

この物語の主人公である、みつ子のおひとりさま生活は、コロナ禍での巣篭もり生活も想像させる。人との距離の取り方があまり得手ではない主人公が、自炊して部屋で寛ぐ姿は、現状に100%の満足をしていないという意味では、今年わたしたちが強いられてきた「自粛生活」に通じるものを感じさせる。

そんなみつ子の日々の暮らしに、突然、「恋」という「変数」が訪れる。近所に買い物に出かけた際に、職場を訪れる年下の営業マンである多田くん(林遣都)と出会うのだ。実はお互いの家が近いとわかり、多田くんに手料理を振舞う関係となるが、但し多田くんは玄関先でみつ子がつくった料理を受け取り、そのまま帰っていくという、モラトリアムな状態が続いているのだ。

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(c)2020 「私をくいとめて」製作委員会

これが果たして恋なのか、みつ子は多田くんとの関係を、もう1人の自分であるAに相談するのだった……。

公開時にはロングラン上映が続き、根強く観客から支持された作品「勝手にふるえてろ」でも、随所に見せていた大九監督のきめ細かい演出は、この「私をくいとめて」でも健在で、シーンの隅々にまで行き届いている。

物語の導入部、部屋干しの下着をたたみながら、みつ子がAに人間関係について相談するシーンは、のんのコントラストの効いた豊かな演技とともに、この作品の世界へといつの間にか観る者を引き込んでいく。

また綿矢の原作にもある印象的な言葉を生かしながら、大九監督オリジナルのディテールを巧みに織り込んでいく「技」は、「勝手にふるえてろ」でも冴えわたっていたもので、この2人のタッグの相性の良さも感じさせる。原作者の綿矢も次のように語っている。

「映画化のお話を伺ったときは、大九監督の魔法によって、どれだけキャラクターが生き生きとよみがえるのだろうとまず思いました。以前に映画化していただいたとき、主人公だけでなく、物語上のすべてのキャラクターたちが、本当に実在するようにリアルで、それでいてコミカルに描かれていたのが、驚いて忘れられなかったからです」

一方、大九監督もこの「私をくいとめて」を映像化しようとしたきっかけについて次のように語っている。

「この作品は、綿矢文学の醍醐味である切れ味のいい言葉たちの間を、さまざまな色が漂い、ある時はスパークする。色に溢れた読書体験を終えたときには、この色と言葉をどう描こうかと考え始めていました。私、これ撮らなくちゃとすぐにシナリオにして、プロデューサーに売り込んだ次第です」

とにかく「私をくいとめて」という作品では、原作者と監督の親和性の高さに驚かされる。この最強タッグが生んだ作品が、その人間関係の在り方というテーマとも相まって、コロナ禍で開催された東京国際映画祭で観客賞に輝いたのも宜なるかなだ。

最後に、今年の東京国際映画祭で、筆者が注目した作品を挙げておこう。ひとつは「ワールド・フォーカス」部門で上映された「ラヴ・アフェアズ」。いかにもフランス発の作品と思わせる入り組んだ愛の物語を、鮮やかに演出したエマニュエル・ムレ監督の手腕には関心した。中止となった今年のカンヌ映画祭に出品される予定でもあった作品だ。

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東京国際映画祭 (c)2020 TIFF

もうひとつも同じく「ワールド・フォーカス」部門の、こちらはオーストリアとドイツの映画「トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン」。過去と現在が折り重なりながら、アンドロイドの少女をめぐる記憶の物語が展開する。こちらは大九監督の「私をくいとめて」と同じく、女性のサンドラ・ヴォルナー監督の作品で、アーティスティックなタッチで描かれる映像美に富んだ作品であった。

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東京国際映画祭 (c)2020 TIFF

連載:シネマ未来鏡

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