糖尿病だと「認知症になりやすい」ワケとは?メタボリック症候群の人も要注意【医師が解説】

糖尿病だと「認知症になりやすい」ワケとは?メタボリック症候群の人も要注意【医師が解説】

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  • 更新日:2022/06/23
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近年になって蓄積されてきた前向き調査疫学研究(Prospective Study)で、高齢者糖尿病では認知症の合併が多いことが報告されています。糖尿病と認知症の関係について、最新の知見を基に見ていきましょう。※本稿は、小西統合医療内科院長・小西康弘医師並びに株式会社イームス代表取締役社長・藤井祐介氏との共同執筆によるものです。

「糖尿病患者における認知症」の二大原因

認知症には大きく分けて、2種類あります。まず「脳血管性認知症」は、脳を栄養する血管が動脈硬化になり、血流低下をきたすことで起こります。ラクーナ梗塞というまだら状に脳細胞が壊死をするのを特徴とし、症状的にもまだら状の認知機能低下をきたします。

それに対して、もう一つの「アルツハイマー病型認知症」では、血流低下による脳神経細胞の壊死ではなく、アミロイドβの蓄積による壊死が起こっています。

最近の『Lancet Neurology』の総説に、図表1のような糖尿病における認知機能障害の発症機構がまとめられています。

<文献1>

Biessels GJ, Staekenborg S, Brunner E, Brayne C, Scheltens P. “Risk of dementia in diabetes mellitus: a systematic review,” Lancet Neurol, 2006; 5: 64-74.

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[図表1]糖尿病における認知機能障害の発症機構 出所:文献1より改変

図表1を見ると、糖尿病患者においては、動脈硬化により脳血管の血流が低下することによる血管性の脳機能低下と、アミロイドβが沈着し、高血糖状態による糖毒性で脳機能低下の要因があり、そのどちらもが、脳機能低下を起こし、認知症の発症リスクを高めるということです。前者が脳血管性認知症の、後者がアルツハイマー型認知症の原因となります。

2型糖尿病における認知症の二大原因として、脳血管の動脈硬化とアルツハイマー病があるということが分かっていただけたと思います。糖尿病の患者さんが、どれほど脳血管性認知症(Vascular Dementia:VD)とアルツハイマー病(AD)を合併しやすいのかを示した、合併リスクの研究がいくつか報告されています。それによると、糖尿病の人が脳血管性認知症になるリスクは2.0~3.4倍です。さらに、アルツハイマー型認知症になるリスクは1.2~2.3倍で、いずれも糖尿病のない健常な人と比べて高値です。

糖尿病だと「発症リスクが高くなる」ワケ

■糖尿病だと脳の血流が低下しやすい=脳血管性認知症の発症リスクも高い

脳血管の動脈硬化が進み、血流が低下すると細小な血管が詰まり、巣状に細かい梗塞層が多発します。これは、潜在的虚血病変とかラクーナ梗塞と呼ばれ、大きな血管が詰まった場合と違って症状が出にくいため、気づかれにくいという特徴があります。何だか最近、物忘れが増えてきたと思って、検査を受けて初めて気づかれることも少なくありません。糖尿病になるとこのように細小血管が詰まりやすいので、発症リスクが高くなるのは理解しやすいと思います。

■なぜアミロイドβが蓄積するのか?糖尿病とアルツハイマー病の関係性

では、糖尿病の人がアルツハイマー型認知症を合併しやすいのはどうしてでしょうか?

アルツハイマー病を最初に報告したアルツハイマー博士は患者の脳組織を詳しく調べ、のちにアミロイドβと分かる物質が沈着していることを発見しました。そして、このアミロイドβが沈着していることで、脳組織を破壊し認知症が起こると考えました。これを「アミロイド仮説」と言い、現在で最も有力な説であると考えられてきました。

しかし、ではどうして、アミロイドβが脳組織に沈着するのか?については、これまでも多くの議論がされてきたのです。そして、最近では、脳に起こった慢性炎症が原因であるとする説が有力です。

では、次に高血糖状態がどのようにして慢性炎症を起こすのかということについて見ていきましょう。

■持続的な高血糖がもたらす「糖化物質」を排除するため、炎症が起こる

高血糖症は全身に活性酸素を発生させるので、脳組織にも慢性炎症が起こりやすくなっているということは容易に考えることができます。さらに血糖が高い状態が続くと、身体のタンパク質と結合し変性させます。これを「糖化」と言いますが、糖化物質を排除しようとして、炎症が起こります。炎症とは身体に蓄積した異物を排除しようという生体の防衛反応なのですが、その原因が取り除かれないと慢性炎症の原因となるのです。

ブドウ糖は多数の異なるタンパク質に接着し、タンパク質の機能を妨げます。糖尿病のコントロールの指標に用いられるヘモグロビンA1cは、そのような変性した分子を簡易に測定したものです。

高血糖状態におけるブドウ糖分子は、タンパク質と生化学的反応を起こし、AGE(終末糖化産物というものに変化します。AGEとは、タンパク質に糖が結合し、熱が加わることで毒性の高い物質に変化した老化タンパクの一つです。動脈硬化やアルツハイマー病、骨粗しょう症、白内障などに関連すると考えられています。このAGEには次のような作用があると言われています。

(1)AGEが接着したタンパク質は、免疫細胞には異物に見えるため、自分自身のタンパク質に抗体を作ってしまい、炎症の引き金となる。

(2)AGEは、身体にあるRAGE(終末糖化産物受容体)と呼ばれる受容体に結合し、慢性炎症を引き起こす。

(3)AGEは、活性酸素生成の原因となり、DNAや細胞膜など、この不安定な反応性物質がぶつかったものにダメージを与える。

(4)変性したタンパク質は血管を傷つけ、脳への栄養供給を減らし、血液と脳の間のバリアにある漏れ(リーキーブレイン)の原因となる。

このように、高血糖症は直接的に脳内に慢性炎症を起こし、アミロイドβが脳内に沈着する方向に働くのです。

最近注目の「アルツハイマー病のリスク因子」

■メタボリック症候群や糖尿病の患者に見られる「高インスリン血症」

さらに最近、メタボリック症候群や糖尿病の患者で見られるインスリン抵抗性に伴う高インスリン血症がアルツハイマー病の発症原因に関与するとして注目されています。このような観点から、アルツハイマー病を3型糖尿病とか脳型糖尿病と呼ぶ報告も認められています。

<文献2>

Steen E, Terry BM, Rivera EJ, Cannon JL, Neely TR, Tavares R, et al. “Impaired insulin and insulin-like growth factor expression and signaling mechanisms in Alzheimer disease―is this type 3 diabetes?,” J Alzheimer Dis, 2005; 7: 63-80.

メタボリック症候群や糖尿病では、細胞内に血糖を取り込むインスリンの働きの感度が鈍っていることが多いです。これを「インスリン抵抗性」と言います。健康な人と同じだけ血糖を下げるためには、多くのインスリンが分泌されないといけないので、「高インスリン血症」になっています。

■「脳のインスリン濃度」が下がることで、脳内のアミロイドβ排出が阻害

通常は、インスリンは血液脳関門(BBB)を通過して脳内に輸送されますが、高インスリン血症では脳へのインスリンの移行が低下するため、脳におけるインスリン濃度が低下していることが分かってきました。

1998年にCraftらは、アルツハイマー病において、健常者と比べて末梢血中のインスリン濃度は上昇しているのに、髄液中インスリン濃度は低下し、その結果、髄液血中インスリン比はアルツハイマー病で著明に低下していることを報告しました。さらに、その低下の程度はアルツハイマー病の重症度と比例していたのです。

<文献3>

Craft S, Peskind E, Schwartz MW, Schellenberg GD, Raskind M, Porte D Jr. et al. “Cerebrospinal fluid and plasma insulin levels in Alzheimerʼs disease,” Neurology 1998; 50: 164-168.

脳内のインスリンは脳神経細胞内に蓄積したアミロイドβの排出を促進させ、神経細胞内のアミロイドβの蓄積を抑制することが動物実験のレベルで報告されています。

脳内にアミロイドβが蓄積すると、神経障害性に働くため、脳内のインスリンには神経保護的作用があると言うことができます。そのため、脳内のインスリン濃度が低下することでこの神経保護作用が減弱するわけです。

つまり、糖尿病の患者で見られる高インスリン血症は、中枢神経系では、低インスリン状態を惹起し、その結果、脳内へのアミロイドβの蓄積を助長して、アルツハイマー病の発症に関わるという機序が提唱されています。

このことから、新たな治療として、選択的に脳内インスリン濃度を上昇させる試みが行われています。インスリンを点鼻薬として投与すると、インスリンは抹消血へ移行することなくそのほとんどが鼻静脈叢を介して脳内に移行します。

アルツハイマー病の危険因子であるアポE4遺伝子を持たないヒト症例において、顕著な認知機能の改善効果が認められたという報告があります。最近、同グループは長期的な点鼻インスリン治療によってもアルツハイマー病における認知機能の改善効果を報告しています。

<文献4>

Reger MA, Watson GS, Frey WH 2nd, Baker LD, Plymate SR, Asthana S, et al. “Effects of intranasal insulin on cognition in memory-impaired older adults: modulation by APOE genotype,” Neurobiol Aging, 2006; 27: 451- 458

これまでは、アミロイドβを脳組織から排除するための治療薬が開発されてきましたが、ことごとく失敗に終わってきました。このような新しい視点からのアプローチが、今後どれほどの結果を生み出せるのか、期待が持たれるところです。

■高インスリン血症だと、肝臓による「アミロイドβの分解」も不十分になる

慢性的なインスリン高値と、アルツハイマー病の接点はこれだけではありません。

インスリンは、肝臓でインスリン分解酵素(IDE)によって分解されますが、実はアミロイドβの分解も担当しているのです。

脳内で、インスリンの助けを借りて神経細胞から排除されたアミロイドβは、血液脳関門を通過して、血液中に運ばれ肝臓で分解されます。しかし、高インスリン血症になるとインスリン分解酵素がインスリンを分解するのに手が離せなくなり、アミロイドβが十分に分解されなくなるのです。このため、脳内のアミロイドβ値は上昇し、アルツハイマー病の原因となるのです。

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[図表2]高血糖症における高インスリン血症とアミロイドβ

このように、高インスリン血症は、脳内のインスリン濃度を低下させ、アミロイドβの排出を阻害したり、肝臓でのアミロイドの分解に関与するインスリン分解酵素を取り合ったりして、脳内でアミロイドβが沈着する方向に働きます。

そこで、高インスリン血症を改善することで、アルツハイマー病の治療ができないかという研究がされています。インスリン感受性改善薬(高インスリン血症を改善する)であるチアゾリジン誘導体TZD(ロシグリタゾン)が、アルツハイマー病の認知機能低下の抑制効果を示したという研究があります。

<文献5>

Watson GS, Cholerton BA, Reger MA, Baker LD, Plymate SR, Asthana S, et al. “Preserved cognition in patients with early Alzheimer disease and amnestic mild cognitive impairment during treatment with rosiglitazone: a preliminary study,” Am J Geriatr Psychiatry, 2005; 13: 950-958.

「糖尿病による認知症リスク」を減らすために…

以上で見てきたように、糖尿病は血糖が高いことによる「糖毒性」以外でも、高インスリン血症を介して、アミロイドβの脳内への沈着を促進し、アルツハイマー病発症のリスクを高くするのです。

これらのことから、糖尿病のある人は、アルツハイマー病になるリスクを減らすためにも、糖尿病のコントロールをきっちりと行う必要があります。

糖尿病は、初期の段階ではインスリン抵抗性というインスリンの感度が鈍くなって効きが悪くなる状態から発症します。インスリン抵抗性がどうして起こるのかというと、内臓脂肪が蓄積することが原因であることが分かっています。内臓脂肪が蓄積することで、膨大化した脂肪細胞から悪玉のアディポサイトカインという炎症を起こす物質を放出し、インスリン抵抗性を惹起するのです。

この内臓脂肪が溜まった状態が「メタボリック症候群」と言われるものです。

では、内臓脂肪を溜めないようにするためにはどうすればいいのでしょうか。カロリーを摂り過ぎると余ったカロリーが内臓脂肪として蓄積されるので、一番の基本は適切なカロリー制限をすることです。では、カロリー制限さえしていれば問題ないのかというとそうではありません。同じカロリー制限をしていても、腸内環境の状態によって内臓脂肪がつきやすかったりつきにくかったりするのです。

腸内環境をしっかりと整え、リーキーガットが起こらないようにすることが、身体に慢性炎症を起こさないようにするために非常に重要であることを最後に強調したいと思います。

次回は、このリーキーガット症候群が慢性炎症の原因となり、さまざまな慢性疾患の原因となるということについて話していきましょう。

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

藤井 祐介

株式会社イームス 代表取締役社長

メタジェニックス株式会社 取締役

株式会社MSS 製品開発最高責任者

小西 康弘,藤井 祐介

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