
日本-ガーナ戦の前半、山根視来(右)は先制のゴールを決め、久保建英に祝福される
11月開幕のワールドカップに向けた6月の強化試合が終わった。サッカー日本代表の戦績は2勝2敗で、最終戦のチュニジア戦では0-3と完敗。ワールドカップでの活躍を不安視する声も上がるが、強化試合で収穫もあった。AERA 2022年6月27日号の記事から。
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明るい材料も見つかった。21歳で代表に定着する若き才能、久保建英(たけふさ)の起用法だ。
日本は元々、中央のMFは三角形に配置されていた。久保はその頂点で力を発揮する。ただ、フォーメーションの変更で逆三角形となってからは、行き場を失っていた。
10日のガーナ戦(ノエビアスタジアム神戸)で逆三角形の右前で先発。周りと連係して先取点につながるパスを出し、待望の代表初ゴールまで奪った。久保自身もこう自己評価した。
「僕はユーティリティー性がある(どのポジションでもこなせる)と思っている。結果を残して、内容も悪くなかった」
何よりチームとして大きかったのは、目指す方向性に自信を深めたこと。どんな相手にも、恐れずにビルドアップ(後方から球をつないで攻めていく)をする戦い方だ。
ボールを保持する時間を、1秒でも2秒でも長くする。それが強豪に勝つための生命線だというのが、森保監一監督(53)の持論だ。保持する時間が長くなれば、それだけ守る時間は減る。相手のボールを追って消耗するより、もう一歩頑張ってパスコースを作り続ける──。能動的に動ける状況を増やせば増やすほど、それだけ勝利に近づくと説く。
その信念は経験に基づいている。コーチとして臨んだ18年W杯ロシア大会の決勝トーナメント1回戦、ベルギー戦。後半に2-0としながら逆転負け。終盤に高さやスピードで押し込まれた日本は、2点を守り切るパワーが残っていなかった。
苦い経験を持つDF吉田麻也(33)は言う。
「ボールを持つ時間がなければ、確実に厳しくなる。それをどれだけ延ばしていけるかが、ロシア大会からずっと続いている。自分たちが高めなければいけないところ」
だから、世界ランク1位のブラジルにも守備固めをせず、真っ向から挑んだ。0-1で敗れたが、ボール支配率は47.8%と互角に近い数字だった。
その翌日の練習前の円陣、森保監督は身ぶり手ぶりを加えて異例の長さとなる約10分の「演説」で選手をたたえた。
「強豪相手にも、ボールを保持することを放棄しなかった。よくトライしてくれた」
2日のパラグアイ戦(札幌ドーム)とガーナ戦はボール支配率で55%超。チュニジア戦は62.4%だった。
今回、足のケガの影響で試合出場を見送った主力DFの冨安健洋(23)は言った。
「ビルドアップを捨てるということは、僕たちのアイデアとして、ない」
それが、日本を初のベスト8以上に導く最善策になる保証はない。ただ、チームは選んだ道をぶれずに進んでいる。(朝日新聞スポーツ部・勝見壮史)
※AERA 2022年6月27日号より抜粋
勝見壮史