のぞみ「接触事故」で新幹線の危険性を煽るマスコミ報道の違和感

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  • 更新日:2018/06/23
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6月9日の東海道新幹線で発生した痛ましい殺傷事件から5日後の14日、今度は山陽新幹線「のぞみ176号」の先頭部分が大きく破損した上、人と接触した痕跡があると別の新幹線の運転手に指摘されて緊急停車するという事故が発生しました。先頭に人が接触した時点で、なぜ運転士は異変に気づかなかったのでしょうか? 新幹線の安全性が揺らいだかのような報道が目立つ中、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で鉄道に造詣の深い米在住のジャーナリスト・冷泉彰彦さんは、今回のJR叩き一辺倒の報道に対する「違和感」の理由について詳述しています。

山陽新幹線の線路立ち入り事故「報道への疑問」

6月14日(木)14時前後に、始発駅の博多を出発して直後に山陽新幹線の「のぞみ176号」が小倉駅に停車後、そのまま発車したところ、すれ違った「みずほ」の運転士に異常を指摘され、新下関に緊急停車して運転を打ち切りました。

車両の最先端部が破損しており、また先頭部分には血痕があり、更に人間の身体と接触した痕跡も残っていたわけで、運転打ち切りになったのは仕方ないと思います。また、小倉駅で車両先頭部分の異常が発見できなかった問題は、反省と改善が必要であるのも、その通りだと思います。

ですが、この問題ですが、まるで新幹線の安全性が揺らいだかのような表現で、しかも大量の報道がされたというのには違和感を禁じえません。

まず、ドンという異音がしたにもかかわらず、運転士が「小動物との接触」だと判断したことが批判されています。ですが、接触が発生した箇所、つまり高架橋からトンネルという区間で、駅からの距離も遠い箇所で人間が線路内に立ち入っているということは想定されていません。

人間の立ち入りに関しては、まず法律で厳しく禁止されています。東海道新幹線が1964年に開通する前に制定された「新幹線鉄道における列車運行の安全を妨げる行為の処罰に関する特例法(略称は新幹線特例法)」という法律があり、新幹線線路内への立ち入りは厳格に禁止されており、違反した場合は5年以下の懲役または5万円以下の罰金という量刑も定められています。

それだけではなく、こうした高架橋の場合は非常点検用のハシゴなども、厳重に施錠してありますし、地上区間の場合は鉄条網等で防護されています。新幹線の線路をまたぐ跨線橋の場合も、飛び降り等を防止するために高い防護柵や鉄条網が設置されています。ですから、大型の脚立を持ち込む等の悪質な行為を行わなくては、立ち入りは不可能であり、そうした事態は鉄道事業者として想定していません。

ですから、運転士が異音を感じた場合に小動物等との接触という判断をしたのは間違いではありません。また、今回の事件を契機としてその判断基準を変更する必要もないと思います。

問題は、先頭部分が破損していながら、そのことに気付かず小倉駅を出発したという点です。この点に関しては、鉄道事業者として反省、謝罪がされており、それは必要なことだったと思いますし、改善も必要です。

但し、今回の事例に関しては、運転士として「あの程度の異音なら」破損するはずがないと判断した可能性があるのは事実です。というのは、今回事故を起こした博多発の東京行き「のぞみ号」というのは、ほぼ99%がN700A系という車両で運転されており、その場合は先頭部分は強化されているからです。

正確に言うと、この先頭部分は車両のボディではありません。新幹線車両のボディというのはアルミ合金ですが、その先端部分は丸く穴が空いていて、そこに非常用連結器が設置されています。東海道山陽の直通車両の場合は、通常は16両固定編成ですから連結ということはないのですが、万が一車両に重大な故障が生じて編成が自走できなくなった場合に「牽引する、される」事態に備えて、全ての新幹線車両の先頭車には連結器が設置してあります。

今回壊れたのは、そのカバーですが、実は事故に遭遇した車両というのは、N700A系ではなく、一世代古い700系でした。700系というのはカモノハシという愛称で親しまれた往年の主力車種ですが、現在は最晩年に差し掛かっており、2019年度の終わりには東海道区間への乗り入れは終了すると言われています。ですから、新大阪以東で見られるのは残り1年半ということで、現在はこの区間について、通常ダイヤでは「こだま」の一部に充当されるだけとなっています。

この古い700系の場合は、連結器カバーは一体型のFRP(強化繊維樹脂)でした。どうしてここだけ金属製ではないのかというと、非常時に取り外す際に重くて作業が不可能だからです。ちなみに、新しいタイプのN700Aでは強化型に変更されています。その代わり、部品を2分割できるようにして、1個あたりの重量を軽くして作業員が外せるような工夫がされています。

では、どうして古い700系が最速の「のぞみ」に投入されていたのかということですが、実は「のぞみ」にも色々あり、最速のもの、例えば「博多発の東京行」では最終直通の64号(博多18時59分発)というのがあって、これは東京まで何と往年の「500系」を上回る4時間46分で行きます。どうして可能になるのかというと、N700Aの性能を生かして、山陽区間は最高時速300キロ、東海道区間は285キロで疾走するからです。

ですが、今回の「176号」というのは、そもそもは「臨時列車」であり、それも「広島=東京」がベースで、場合によっては「博多まで」という、つまり輸送力調整用の「スジ(ダイヤ)」として組まれた列車です。そこで、山陽区間は285キロ、東海道は270キロしか出せない、旧型の700系を代走させてもOKという設定がされています。

ここからは推測ですが、例の台車問題への対応で点検修理のために、初期型のN700Aの編成が相当数離脱している中で、700系に出番が回ってきたという可能性があります。仮にそうであれば、いくつかの不運が重なっているとも言えます。

勿論、今後も「こだま」や「ひかりレールスター」などでは2020年3月以降も山陽区間では700系の運用は残りますので、東海道山陽の編成が「全て強化型の先端部分」になるわけではありません。

ということで、今回は旧型の700系であるために、破損してしまったと見られるわけですが、そうであるにしても、今回破損した部分は、

新幹線のボディ本体ではなく、連結器カバー

強化プラスチック製のため、仮に壊れても金属片が飛散することはなし

ということは確認しておいても良いと思います。

問題は、むしろメディアの姿勢にあると思います。今回の事件を、他の事件と重ねることで、新幹線の安全神話が揺らいだとする、そこまでは間違ってはいますが、まだ仕方がないとは言えます。ですが、問題は、その報道が余りにも露骨で大量だったことです。

いちいち血痕がどうとか、「人体の一部」が発見されたとか、「衣服」が見つかったなどと「おどろおどろしい」報道が繰り返されたのです。その結果として、交通システムへの信頼は必要以上に揺らいだし、同時に、これだけ報道されてしまうと、模倣する人が出てくるのが怖いです。

新幹線を使った自殺というのは、経済的・社会的なダメージが巨大になるだけでなく、身元確認(今回は指紋で確認できたようですが)が難航したり、遺体の捜索活動も凄惨を極めるなど、絶対にあってはならないことです。模倣犯を防止するという観点からも、今回の報道の総量は、問題の深刻さに比べて多すぎたと言わざるを得ません。

image by:Flickr

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