【検証】イタリアはなぜ世界王者から予選敗退まで凋落した? 後編:連盟と育成の機能不全

【検証】イタリアはなぜ世界王者から予選敗退まで凋落した? 後編:連盟と育成の機能不全

  • サッカーダイジェストWeb
  • 更新日:2017/11/17
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FIGCが代表監督への招聘を目論んでいるアンチェロッティ。現在フリーだが、はたして受諾するか?(C)Getty Images

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タベッキオ(左)はヴェントゥーラ(右)を切った一方で、自身は連盟に居座った。内部の権力基盤はまだ揺らいでいない。(C)Getty Images

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世界制覇を果たした2006年W杯の面々。全盛期のブッフォン①をはじめ、ピルロ㉑、トッティ⑩、カンナバーロ⑤など一線級が揃っていた。(C)Getty Images

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スウェーデンにプレーオフ2試合合計0-1で敗れたイタリアは、実に60年ぶりにW杯出場権を逃す失態。ブッフォンには悲劇的な代表ラストマッチとなった。写真:Alberto LINGRIA

ロシア・ワールドカップ予選のプレーオフ敗退の直接的な原因が、ジャン・ピエロ・ヴェントゥーラ監督の力量不足にあったことは、前編で見た通り。しかしもちろん、この10年のイタリア・サッカーの凋落をそれだけで説明することは不可能だ。

すべてのベースにあるのは、イタリアが輩出するプレーヤーの絶対的なレベルが低下しているという事実だ。1990年代から2000年代にかけてイタリア代表のレギュラーといえば、大半のポジションに世界のトップ10に入る顔ぶれが揃っていた。

GKならばジャンルカ・パリュウカ、アンジェロ・ペルッツィ、フランチェスコ・トルド、ジャンルイジ・ブッフォン、DFならジュゼッペ・ベルゴミ、フランコ・バレージ、パオロ・マルディーニ、アレッサンドロ・コスタクルタ、ファビオ・カンナバーロ、アレッサンドロ・ネスタ、ジャンルカ・ザンブロッタ、MFならディノ・バッジョ、デメトリオ・アルベルティーニ、ジェンナーロ・ガットゥーゾ、アンドレア・ピルロ、FWはロベルト・バッジョ、ジャンフランコ・ゾーラ、クリスティアン・ヴィエリ、フィリッポ・インザーギ、アレッサンドロ・デル・ピエロ、フランチェスコ・トッティ、ルカ・トーニまで。彼らの多くは1994年W杯とEURO2000の準優勝、2006年W杯の優勝などに貢献した。しかし、1960~70年代生まれの彼らに続く80年代以降生まれの世代に、ワールドクラスと呼べるプレーヤーは極めて少ない。

これは、ひとことで言えばイタリアの育成システムが機能しなくなってきたことを意味している。かつてフランス、ドイツ、イングランドといった他のサッカー大国も同じ問題に直面したが、国立アカデミーINFの設立とクラブレベルでのアカデミー投資(フランス)、地域トレセンの充実によるタレント発掘と育成(ドイツ)、育成メソッドの見直し(イングランド)など、国を挙げての育成システム改革を通じて、低迷からの脱却を果たした。しかしイタリアでは、この種の取り組みが完全に停滞したままだ。
代表レベルでは、2010年の南アフリカW杯でグループリーグ敗退を喫した後、往年の名将アリーゴ・サッキを統括コーディネーターに迎えて、U-15からU-21まで育成各年代のイタリア代表について、スカウティングからプレーコンセプトまでを統一し一貫して行うというプロジェクトが進んできた。

近年は、2016年のU-19欧州選手権で準優勝、2017年のU-21欧州選手権でベスト4、U-20W杯で3位と、7年にわたる取り組みの成果が少しずつ出つつある。ちなみに、2014年からサッキの後任としてプロジェクトの責任者を務めているマウリツィオ・ヴィシディは、かつてセリエBのクラブを率いていた当時、『ワールドサッカーダイジェスト』誌で約10年間にわたって『カルチョ解体新書』など多くの連載企画に携わってきた、日本のサッカーファンにもお馴染みの人物だ。

しかし、イタリア・サッカー全体の底上げを図るためには、それだけではまったく不十分だ。問題はむしろ、クラブレベルで育成に対する取り組みが軽視されており、また育成年代のエリートがトップリーグで主力としてプレーするまでの段階的な成長と成熟のルートがシステムとして確立されていないところにある。

セリエA、Bのクラブの多くは、目先の勝ち負けにこだわるために、トップチームの戦力強化に資金を投下する一方で、育成やトレーニング施設といった長期的な視点に立った投資を渋る傾向が強い。これを是正するためには、育成部門への投資義務づけや施設整備基準の引き上げといった制度的な改革が必要なのだが、FIGC(イタリア・サッカー連盟)はそうした枠をはめられるのを嫌うクラブの言いなりで、改革に踏み切ろうとしない。

プリマベーラ(U-19)で育成年代を終えてプロになった若手の多くが、下部リーグにレンタルされて様々な困難に直面し、持てるタレントを十分に開花させることなく埋没していくことも大きな問題だ。これに対しては、スペインやドイツなどで行われているBチームの下部リーグ登録という解決策が何年も前から提言されているが、セリエAでもこれに積極的なのはわずか5~6クラブ、Bチームの受け入れ先となるセリエB、Cはチーム登録枠が奪われるのを嫌って反対と、今のところ実現の見通しは立っていない。

大局的に考えれば、イタリア・サッカーの再生と発展にとってこうした改革が不可欠であることは誰の目にも明らかだ。にもかかわらず、当事者であるクラブが既得権にしがみついて痛みの伴う変化を拒み、FIGCもそれを許容・追認するという構造のため、処方箋があるにもかかわらずそれが実行に移されないという状況が何年もの間続いている。
今回のW杯予選敗退にポジティブな側面が少しでもあるとすれば、イタリアがこうした現状を改めて直視し、一致団結して改革に踏み切るための絶好の機会になりえることだろう。しかしそのためには、カルチョの世界を統括する立場にあるFIGCがリーダーシップを取り、明確な構想を打ち出して変革に取り組んでいくことが必要だ。

だが問題はまさにそこにある。ここまで見てきたように、FIGCこそが変革に歯止めをかけている張本人だからだ。

2014年からそのトップの座にあるカルロ・タベッキオ会長は、長年に渡りアマチュアリーグ連盟(セリエD以下のアマチュアリーグ統括団体)会長を務め、利害調整や資金分配といった政治的な手腕を武器にして、FIGC内部で権力の階段を上ってきた人物。イタリア・サッカー全体の発展を長期的に見据えた大幅な変革に取り組めば、彼自身がこれまで築いてきた権力基盤を揺るがす危険にもつながりかねない。

予選敗退が決まって以降のイタリア・メディアは、ヴェントゥーラはもちろんだが、それ以上にタベッキオの責任を追及し、その職を辞して責任を取るべきだという論陣を(世論の支持も背景にして)張っている。そもそも、アッズーリを率いるだけの器ではなかったことが誰の目にも明らかになったヴェントゥーラを監督に選んだ責任が彼にあることは明白だ。

にもかかわらずタベッキオは、敗退が決まった直後も、「FIGCのトップは、ピッチ上のスポーツ的な結果についての責任を取る立場にはない」という非公式のコメントを残しただけで、マスコミの前に出てくることもしなかった。そしてその後の2日間沈黙を守った後、11月15日に緊急招集されたFIGC理事会でヴェントゥーラ監督の解任を発表すると、自身は「辞任するつもりはない。私にはFIGC内部からの支持と会長としての実績がある」と開き直った。

FIGCの理事会は、セリエA、セリエB、セリエCの各プロリーグ、アマチュアリーグ、審判協会、監督協会、選手協会という7つの下部団体によって構成されているが、そのうちタベッキオ不支持を打ち出しているのは、元イタリア代表MFのダミアーノ・トンマージが会長を務めるプロサッカー選手協会ただひとつ。残る6団体は監督協会も含め、既得権を保証してくれるタベッキオを支持する姿勢を崩していない。

またタベッキオには、FIFAとUEFAの会長選挙でそれぞれジャンニ・インファンティーノ、アレクサンデル・チェフェリンという現会長2人の選出につながる票の取りまとめに協力したこともあり、両会長の支持と協力を得られる立場にもある。マスコミと世論の風は逆風だが、サッカー界内部の支持基盤は、少なくとも現時点では大きく揺らいでいない。 とはいえもちろん、このまま何もせずにこれまでの路線を続けていくことはさすがに不可能だ。いまタベッキオが目論んでいるのは、マスコミと世論を含めて誰もが納得するような大物を代表監督に招聘して批判を和らげ、目先をしのいで自らの立場を守ることだ。

その候補として交渉しているのが、9月にバイエルンを解任されてフリーになったカルロ・アンチェロッティだ。他にはアントニオ・コンテ(チェルシー)、ロベルト・マンチーニ(ゼニト)、クラウディオ・ラニエリ(ナント)、マッシミリアーノ・アッレグリ(ユベントス)などの名前も挙がっているが、いずれもクラブとの契約下にあり招聘は難しい。

現時点における希望は2つ。ひとつは、アンチェロッティが強い立場を活かして、代表の強化に繋がる大きな変革への取り組みを就任受諾の条件として突きつけること。もうひとつは、アンチェロッティも含めて世論を納得させられる代表監督を招聘できないまま混乱が深まってタベッキオの立場が悪くなり、支持を失うか辞任に追い込まれることだ。

いずれにしても、サッカー界を統括するFIGCが自ら大きな変革に取り組まない限り、イタリア代表にもイタリア・サッカーそのものにも明るい未来はない。変革に取り組んだとしても、成果が出るまでには5年、10年という歳月がかかるだろう。しかしそれをしなければ、待っているのはさらなる低迷と衰退への道である。

文:片野道郎

【検証】イタリアはなぜ世界王者から予選敗退まで凋落した? 前編:無策すぎたプレーオフ

【著者プロフィール】
1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌では現役監督とのコラボレーションによる戦術解説や選手分析が好評を博す。ジョバンニ・ビオ氏との共著『元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論』が2017年2月に刊行された。

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