日本のクラシック文化の歴史を変えた『サントリーホール』建設秘話

日本のクラシック文化の歴史を変えた『サントリーホール』建設秘話

  • @DIME
  • 更新日:2017/09/16

あらゆる面で画期的だった。美しい音の響き、初めて見る客席、そして社交場としてのホール。サントリーホールの誕生は日本のクラシック文化を大きく変えた。

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日本初のヴィンヤード型ホール。シャンデリアはシャンパンの泡をイメージし、客席のシートの色はワインレッド、内壁にはウィスキーの樽材が使われるなど、お酒メーカーらしいこだわりも随所に。

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◎完成したホールをカラヤンは「音の宝石箱」と讃えた

東京には、プロのオーケストラが演奏するに相応しいクラシック専用ホールがひとつもない――。

約30年前、世界の著名なオーケストラが続々と来日していたにもかかわらず、こと演奏会場となると、日本のクラシック環境はかくも貧弱だった。そんな時代の1986年10月、「世界一美しい響き」を目指して、六本木のアークヒルズにオープンしたのがサントリーホールである。大のクラシックファンだったサントリー2代目社長・佐治敬三の夢を実現したものだった。

何より画期的だったのはホールの形状だ。当時も今も、主流は直方体の空間を持ち、短い辺の一方にステージを設けた「シューボックス型」。それに対し、サントリーホールが採用したのは、当時は世界でもベルリン・フィルハーモニーなどわずかしかなかった「ヴィンヤード型」。葡萄の段々畑のようにブロックごとに分かれた客席が中央のステージを取り囲む形状だ。若手としてホールの音響設計に関わった永田音響設計の小野朗さんが説明する。

「時代とともにホールの大型化が求められたのですが、『シューボックス型』で大型化すると音響性能が低下しかねず、視覚的にもステージから遠い客席ができてしまう。一方、『ヴィンヤード型』は、客席のブロックに段差を設けることで生じる壁面も反射面に利用し、ブロックごとに最適の音が届くようにするので大型化に対応しやすい。また、すべての客席がステージに近くなるので視覚的な一体感も得られるという特徴があります」

建設にあたり、アドバイスを求めたのが、ベルリン・フィルの首席指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンだ。「ヴィンヤード型」はそのカラヤンに勧められたが、床、天井、壁、座席の材質や形状に微妙な調整が必要で、高度な音響設計が求められた。それでもその勧めに佐治は「ほな、そうしましょ」と即断した。

「設計、施行に3年ほどかかり、うち半年間は10分の1の模型内で集中して音響実験を繰り返しました。当時はまだコンピューター内でのシミュレーションが一般的ではなかったので、模型実験は今よりずっと重要でした」(小野さん)

音響実験にはカラヤンも立ち会っている。完成したホールは、世界の音楽家から高く評価され、特にカラヤンは「音の宝石箱」と表現して讃えた。そうした評価が世界に広まり、サントリーホール以降、「ヴィンヤード型」は少しずつ増えていった(現在日本では3ホール、世界では数十)。サントリーホールの成功が世界のホールのあり方を変えたと言っても過言ではない。

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音楽の知識から緊急時の対応まで身につけたレセプショニストがエントランスで迎える。

◎コンサートに来てお酒を楽しむ文化

サントリーホールは運営というソフト面でも画期的だった。

「世界の代表的ホールとしては珍しく専属のオーケストラを持たないホールです。専属という制約がないから世界の多くの有名オーケストラの演奏をここで聴くことができます。演奏家の中には『日本のホームはサントリーホール』と言ってくれる方も多いです」(サントリーホール・越野多門さん)

在京のほとんどのプロオーケストラの演奏がここで聴けるのも同じ理由からだ。

「ホール・オペラ」という上演方法を編み出し、定着させたのもサントリーホールだ。幕がなく、本格的な舞台装置も組めないホールでオペラを上演する場合、歌手もオペラ用の衣装を着ずに歌う「演奏会方式」を採ることが多い。だが、サントリーホールは、同じセットで全幕を通し、歌手は衣装を着て、通常のオペラにより近い方法で上演した。それによって日本におけるオペラの普及に大きく貢献した。

ホールでの楽しみ方も変えた。

「従来のホールは音楽を聴くことがすべてでした。しかし、サントリーホールは、お客様にコンサートの時間だけでなく、ホールに来てから帰るまでのすべての時間を楽しんでいただきたいと考えました」(越野さん)

そのため、「ホワイエ」(エントランスと客席の間の空間)にワインやビールを飲んでくつろぐための「ドリンクコーナー」を設けた。これも今では当たり前になっているが、日本のコンサートホールで初めて導入したものだ。

「当時の日本では〝クラシックのコンサートに来てお酒を飲むなんて〟という感覚だったのですが、ヨーロッパでスタンダードになっている社交場を目指したのです」(越野さん)

サントリーホールは、日本と世界の音楽文化にかくも大きな影響を与えたのである。

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永田音響設計 取締役

プロジェクトチーフ

小野 朗さん

「若手だった私はもちろん会社としても初めての大きな仕事でした」

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大ホール正面の世界最大級のパイプオルガン。

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ウイスキー・ビールの原料である麦をモチーフとしたオブジェ。

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日本のコンサートホールでは初めてのドリンクコーナー。

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10分の1(天井高約2m)の模型内で行なった音響実験。図面だけではわからない音響障害を見つけることができる(作業をするのは小野さん)。

文/編集部

※記事内のデータ等については取材時のものです。

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