亀屋万年堂社長「“やりがい”だけでは立ちゆかない」

亀屋万年堂社長「“やりがい”だけでは立ちゆかない」

  • R25
  • 更新日:2016/10/20
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(撮影=栃尾江美)

みずほ銀行を退職し、ナボナで有名な亀屋万年堂を継いだ引地大介さんは、提案書制度(前編)のほかに、「数字の開示」を試みた。役員しか知り得なかった情報をオープンにして、社員の意識を高めたのだ。銀行員として、融資先企業の経営危機を見てきた経験から、過度に「やりがい」を求めがちな時代に警告を鳴らす。

売上しか見ていなかった店長に利益まで意識させる

「社長としてはやはり、従業員の幸福を追求したい。そのためには、職場環境ややりがいなどお金以外でできることもたくさんありますが、会社の利益が出なければ立ちゆかなくなってしまいます。その両輪のバランスが取れていなくてはなりません」

銀行で融資先の回収業務などを担当し、数字の重要性を身に染みて感じていた引地さん。家業を継いでからは、店舗ごとの売上しか見ていなかった各店長に対して、利益もオープンにした。

「生ものを扱っているので、賞味期限が切れると店舗から工場へ返品します。利益を開示するまでは、従業員は返品の数量に無頓着でした。より多く仕入れた方が、売上は上がりますから。ところが、利益を見るようになると、返品は大きなマイナスになります。前年度の売上や天候を見ながら、慎重に発注するようになりました。そのほか、経費の削減もより意識するようになりましたね」

“伝統”を武器に、新たな市場開拓に挑戦

歳暮や中元の習慣が減っているなか、亀屋万年堂でも、店舗での菓子商品の売り上げが伸びているとは言いがたい。ただし、一方でインターネット通販での売り上げはアップしているという。

「以前からインターネット販売はしていましたが、あまり手が付けられておらず売り上げは横ばいでした。そこで、私が社長になってから、ホームページのリニューアルなど、ネット販売にも力を入れはじめ、今では前年比130%の成長を続けています。力を入れているといっても、自社サイトを立ち上げて、SEOなどマーケティングの対策をするという、一般的にはごく当たり前のことをしているだけです」

ほかに、直営店舗とは異なる量販店での販売にも力を入れた。

「取扱売店数を増やすべく、営業に力を入れています。直営店の場合、来訪してくださったお客様の90%は購入してくださいますが、量販店や土産店では、他社と並んでいるなかで選ばれなくてはなりません。手に取ってもらいやすいようパッケージをおしゃれにするなど、お客様に喜ばれる『見た目』も大事な要素であると意識しています」

直営店、インターネット、量販店など、売り場を変えるだけで、そこには異なるマーケティングの施策が存在する。伝統ある家業を引き継ぎつつ、「古くてもいいが『古くさい』と感じられてはいけない」と語る引地さんは、新たな可能性を切り開いている。

愛され続けてきた「ブッセ」 知らない世代にも広めたい

昨年には提案書の意見から端を発した「生ブッセ」の専門店を表参道にオープンした。ブッセとは、さっくりとした軽いケーキにクリームを挟んだお菓子のこと。

「弊社の主力商品の『ナボナ』もブッセです。以前はテレビCMもしていて広く知られていましたが、若い方からは『知らない』という声もよく聞きます。そこでまずはお菓子のブッセを盛り上げていきたいと考え、専門店をオープンしました。社内の提案書で、若い方向けの生タイプのナボナを作ってはどうかという案があったのがきっかけでした」

専門店の評判は上々といい、若い人の問い合わせも増えているという。

「サラリーマンを経て外の世界を見ていなかったら、マーケティング的視点は持てなかったかもしれません。自社の常識を、当たり前と思っていた可能性はありますね」

さまざまな企業に触れて培われた数字の重要さ、マーケティングの観点、さらには、社内で取り入れた提案書制度。これまでの経験を生かし、若くして数百人をまとめる引地さんは、これからも、亀屋万年堂の資産である「ナボナ」ブランドを守りながら、時代に即した戦略を立てていくだろう。

(栃尾江美/アバンギャルド)

(R25編集部)

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