卓球・張本智和はなぜ2人の中国五輪金メダリストを倒し歴史的勝利飾ったか

卓球・張本智和はなぜ2人の中国五輪金メダリストを倒し歴史的勝利飾ったか

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  • 更新日:2018/06/14
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14歳の張本は2人の中国の金メダリストを倒す金星を重ねて優勝した。その進化の理由とは?(写真・アフロスポーツ)

サーブは卓球において自らコントロールできる唯一で最初の攻撃といわれる。

6月6〜10日、福岡県北九州市で開かれたITTFワールドツアー・ジャパンオープン男子シングルスで、世界王座に君臨する中国の3選手を倒し優勝した張本智和(14、JOCエリートアカデミー)の歴史的快挙の裏にもサーブをめぐる巧みな戦術があった。

まず世界選手権、ワールドカップ王者で2016年のリオ五輪金メダリスト(シングル、団体の2冠)の馬龍(29)との準々決勝。3大タイトルを制した「絶対王者」を迎えた大きな山場に張本は、とっておきの“新兵器”を用意していた。投げ上げサーブだ。トスを高く上げボールの落下速度を利用して回転量とスピードをアップさせるサーブ技術の一つだが、これを使う選手はよくいるし、取り立てて特別なサーブではない。

だが、張本はこの投げ上げサーブを今年3月のワールドツアー・カタールオープンでブラジルのトップ選手であるウーゴ・カルデラノ(21)が効果的に操るのを見て「自分も強化したい」と男子日本代表の倉嶋洋介監督に申し出たという。

実は張本は「投げ上げサーブが世界チャンピオンに効くとは思わなかった」と試合後に本音を明かしている。だが、実際はトスが落ちてくるまでの間に馬龍のレシーブに入るタイミングが微妙にずれ、本来であれば厳しいコースに決まるはずの台上レシーブなどにミスが出た。

また倉嶋監督は、YG(ヤングジェネレーション)サーブと呼ばれる逆横回転のサーブで「馬龍のツッツキ(ラケット面を斜め上に向け突っつくように返球する技術)を防いだ」と話しており、加えて馬龍の返球が浮いてきたら相手のバック側に打ち返し、ブロックされたボールをアタックするという戦術を徹底したとも明かしている。

「サーブの種類が多いのも張本の良さ」と倉嶋監督。
リスクを考え新たな技術習得に抵抗感を示す選手もいる中、張本はまだ14歳(6月27日で15歳)と若いこともあるが、貪欲に技術を増やしていこうとする柔軟な姿勢に定評がある。

一方、2012年のロンドン五輪金メダリスト(シングルス、団体の2冠)の張継科(30)との決勝では、勝負どころのサーブに加えレシーブの選球眼も光った。
連取された第1、2ゲームこそ相手の徹底したフォア前サーブに張本の得意なチキータレシーブを封じられ主導権を握られたが、第3ゲームからは「チキータだけじゃなく少しストップとか違うレシーブも入れていった」という張本。これで張継科のサーブを崩して2ゲームを奪い返すと、続く第5ゲームは張継科、第6ゲームは張本が取って勝負は最終の第7ゲームへもつれ込んだ。

最終ゲームで目を見張ったのが、張継科がマッチポイントを握った9-10の場面だ。
この窮地にサーブが回ってきた張本は、この試合初めてバック前に切れるサーブを出した。慌てた張継科は反応が遅れてレシーブが甘くなり、そこを張本が思い切りフォアで叩いてスコアをデュースにした。土壇場での強心臓ぶりに驚かずにはいられないが、この時のチョイスについて本人は、「フォア前にサーブを出したら絶対にチキータで得点されるし、長いサーブを出してラリーになってもリードしているほうが有利だと思ったので、ミスしてもいいからそれまで全く出していなかったサーブを出した」と説明している。

よく中国人選手が競り合いの場面やデュースで新しい技や戦術を出して勝ち切るが、そのお株を奪うような張本のセンスと成長を感じさせるポイントだった。

さらに11-11で並んだ場面でも張継科がバック側に出してきたロングサーブを読み切り、すかさず回り込んで強烈なフォアドライブをお見舞いした。なぜ張本には張継科のサーブが予測できたのか? その答えがふるっている。

「五輪を制しているような選手が、ずっとフォア前にサーブを出してくるはずがないと思った。それで少し回り込みを意識したら本当にロングサーブが来て、思い切り打つことができた」

もちろんサーブ、レシーブの他にも入念な中国人選手対策や難解な戦術の数々があるし、1カ月前の世界選手権スウェーデン大会後に替えたという硬めのラバーで球威が増したり、サーブを切りやすくなったりなど用具の改善が上手く機能した部分もあったようだ。これら全てを含めた地道な強化が日本のファンの前で大金星につながった。

そして注目すべきは考え方や精神面での成長だろう。張本クラスになれば技術は中国人選手に引けを取らない。それどころか張本の武器であるバックハンドなどは今大会、馬龍が「回転量がすごかった」と舌を巻いたほどだ。その高い技術を試合で使いこなせるかどうかが肝心で、それは戦術の引き出しの多さにかかっており、適切な場面で適切なプレーを連続して選択できる能力や落ち着きが必要とされる。

その点で言えば今大会の張本には、これまでしばしば見られた焦りによる打ち急ぎのミスや戦術変更の遅れがほとんどなかったように思う。なぜならば本人に「理想は3球目や5球目で決めることだけど、ラリーで粘る意識があった」「いくら武器でも相手に対処されたら武器じゃなくなる。だから武器の使いどころは相手によって見極めた」などの考え方があったからではないだろうか。
張本自身も「よく我慢してプレーできていたと思う」と成長を実感していた。

急激な進化を続けている中学2年生は目下、2020年の東京五輪に出場し金メダルを取ることを最大の目標にしているが、優勝会見の場で「あと1、2カ月のうちに世界ランクで日本人選手の1位になり、東京五輪までその座を渡さないという気持ちでいる」と豪語した。

ちなみにジャパンオープン前の張本の世界ランクは10位。ジャパンオープンでの優勝を受け7月に入ってすぐ発表される最新世界ランクは上昇することが確実だ。
そしてその7月にはITTFワールドツアー最高格付けで獲得ポイントの高いプラチナ大会「韓国オープン」と「オーストラリアオープン」の2連戦が控えている。そこでも引き続き結果を出せれば世界ランクは大きくジャンプアップするだろう。張本の描く青写真は極めて現実的だ。

(文責:高樹ミナ/スポーツライター)

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