「子育て支援」が日本を救う!統計分析が示す国家戦略の"正解"

「子育て支援」が日本を救う!統計分析が示す国家戦略の"正解"

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2016/10/19

最強の学問「統計学」を政策に活かせ

統計学が最強の学問である』という本がベストセラーになって、3年が経った。

「ビジネス」の現場では、統計学はかなり普及しただろう。たとえば、「見かけ上の相関」や「逆の因果」といった基本概念は、ビジネスパーソンにはかなり「常識」になったのではないだろうか。

しかし、「政策」の現場ではどうだろうか。

「どの政策にどういう効果があるのか」「どちらの政策のほうが効果が大きいのか」といった統計学的な議論は、まだまだ足りていないのが現状なようだ。

「三世代同居の促進」は的外れ

たとえば、2016年1月20日に成立した2015年度補正予算では、「出生率を上げるために、三世代同居のための木造住宅整備などを促進する」という政策が組まれ、63億円の公共事業予算がついた。

しかし、出生率が低いのは都市部であり、都市部では土地が高いため、「三世代同居の木造住宅」を建てるのは非現実的だ。それよりも、都市部では「保育サービス」がまだまだ足りないのだから(厚労省の2016年全国調査によると潜在的なものも含めて待機児童は9万人)、「三世代同居」よりも「保育サービス」こそを、増やすべきではないのか。

実際に、日本リサーチセンターが2000年代の都道府県データを分析したところよれば、保育所利用率が上がった都道府県ほど、その「5年後の」有配偶出生率が上がる傾向にあった。

つまり、保育サービスは、出生率上昇に効果があると期待できるのだ。ここでは、この「5年後」というのがポイントだ。「出生率が上がると、(働く母親がさらに第二子や第三子を産むケースが増えるので)保育所利用率が上がる」というような「逆の因果」ではない、ということだ。

さらに、1990~2010年の都道府県データを使った別の分析によれば、「子育て世帯は、三世代同居ではなく保育サービスを求めている」ということが示唆されている。というのも、保育所定員が増えた都道府県では、三世代同居をやめて核家族になる世帯が増えたからである。

おそらく、「保育所に預けられるなら、三世代同居は(気疲れするから)やめたい」というのが、全国の子育て世帯の「本音」なのだろう。三世代同居の促進政策は、やはり的外れなのである。

たしかに、「三世代同居率が高い県ほど、出生率が高い」という相関関係は多少ある。たとえば福井・島根・鳥取などの日本海側は、両方とも高い。

しかし、相関関係と因果関係は、全く別物だ。因果関係がないにもかかわらず相関関係が見られることを、「見かけ上の相関」(あるいは「疑似相関」)という。

おそらく、「三世代同居率」と「出生率」の相関関係には、その両方を昔のまま高く維持しやすい何らかの背景要因(たとえば新幹線が通らず都市化が遅れていたことなど)が、影響しているのだろう。

つまり、その背景要因があると、「三世代同居率」と「出生率」の両方が高く維持されやすいため、両者のあいだに(因果関係がないにもかかわらず)相関関係が発生していたと考えられるのだ。

ちなみに、先に紹介した分析によると、2000年代では、保育所定員が増えた都道府県ほど、母親の就業率が上がる傾向にあったという。つまり保育サービスは、(出生率上昇だけでなく)女性活躍にも効果があるのだ。

このように、統計学を用いれば、「三世代同居よりも保育サービスのほうが、出生率上昇に有効だし、女性活躍にも有効だ」という推論が得られる。しかし、政府が打ち出す政策のなかには、こういった統計学的推論とは逆行してしまうものもありうるのだ。

おそらく、最強の学問「統計学」を、まだ十分に活用できていないからかもしれない。

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〔photo〕iStock

「統計学」による政策論

では、「統計学」を活かすと、どのような政策論を展開できるのだろうか?

私は、先進28ヵ国の主に2000年代のデータを、統計学的に分析することにより、「財政が健全化した国は何をしたのか」を探った。その結果、得られた結論は、とてもシンプルなものだった。

「保育サービスなどの子育て支援を充実させた国は、そのあと数年以内に、財政がより健全化しやすい」というのが答えだ(拙著『子育て支援が日本を救う』勁草書房、2016年)。

日本では、子育て支援のための政府支出がとても少ない。子ども一人当たりの子育て支援支出は、少しずつ増えてきているものの、いまだに、先進国平均の「半分」にすぎない。

子育て支援に巨額の予算をつぎ込んでいる国は、財政状況が良好だ。とくに、2000年代半ば以降のスウェーデン・フィンランド・ノルウェーなどでは、政府純債務残高が無く、むしろ「黒字」にさえなっている。

他方で、その3分の1から2分の1ほどしか子育て支援に予算をつけていない日本では、政府純債務残高はGDPの1.2倍を超えている。これは先進諸国の中で最悪だ。

もちろん、日本政府の債務は主に日本国内での借金であるため、債務不履行になるリスクは比較的低いと言われている。しかし、「債務無し」「黒字」の国に対しては、さすがに財政状況で「負け」を認めざるをえないだろう。

子育て支援が「財政を健全化させる」

先進諸国のデータの統計分析から私が得た結論の一つは、「子育て支援が日本を、財政難から救う」というものだった。では、どういうメカニズムで、子育て支援は財政難から日本を救うのだろうか?

私の分析では、上記のメカニズムは、つぎのような先進諸国の傾向として見出された。

まず、保育サービスへの政府支出が増えると、認可保育サービスが質・量ともに改善されて、母親たちは安心して子どもを認可保育所や認可ベビーシッターに預けやすくなる。

すると、働く母親が増える。さまざまな職場で女性が増えて、女性のアイデアや能力が活かされやすくなる。それにより国全体で、労働者の労働生産性が高まる。すると税収が増えて、財政の余裕が増える(つまり財政の健全化が進む)。

「職場で女性が増えると、労働生産性が上がる」という先進諸国の傾向は、日本の企業でも近年見られる傾向だ。

たとえば、日本の企業3000社以上の2000年代の時系列データを分析した研究によれば、「正社員での女性率が高まると、同時に企業の利益率も高まる」という傾向が見られたのだが、中途採用の多い企業やワークライフバランス施策が整っている企業ほど、この傾向がより顕著だったという。

つまり、人件費節約だけでなく生産性向上も通じて、女性の活躍が企業業績を高めていると考えられるのだ。

同じことは、スウェーデン・フィンランド・ノルウェーなどの政策でも言える。それらの国は、2000年前後から、保育サービスの予算を大幅に増やし、女性の就労を全面的に支援するようになった。おそらくこれが一因となって、2000年代半ば以降、財政を「黒字」に保てるようになったのだろう。

財政難に苦しむ日本は、こういった先進諸国の経験から、学ぶことができる。先進諸国の傾向が日本にも当てはまるとするならば、保育サービスの予算が増えて、保育サービスが質・量ともに改善されていけば、母親が働きやすくなり職場で女性が増え、労働生産性が上がり、税収が増えて財政の健全化が進むだろう。

これを具体的な数字で見てみよう。仮に、保育サービスへの政府支出をGDP比で0.1%(0.5兆円相当)増やすと、数年以内に、女性労働力率(労働力人口に占める女性の比率)は0.12%ポイント上がり、労働生産性(1労働時間当たりの実質GDP)の成長率は0.19%ポイント上がる見込みだ(図1)。

このようにして保育サービスは、労働生産性を高めることにより、日本を財政難から救うと期待できるのである。

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図1 政策効果の予測値 (注)柴田悠『子育て支援が日本を救う』(勁草書房、2016年)で行った9つの統計分析から得られた結果の主要部分を、一つのフローチャートとしてまとめたもの(構造方程式モデリングは用いていない)。使用データは、日本・欧米を含むOECD28ヵ国1980~2009年(主にはデータが揃いやすい2000年代)の国際比較時系列データであり、OECD・世界銀行・WHOがインターネット上で公表した数値。主に2000年代においてOECD諸国で見られた平均的な傾向のうち、「偶然では説明しがたい(=有意な)傾向」のみを、矢印で表現している。矢印に付記された数字は、統計分析によって推定された「係数」(5%水準で有意)。 表を拡大表示する

ただし日本では、女性の働きやすい労働環境がまだあまり整っていないため、女性の労働参加が全体の労働生産性の向上につながる度合いは、先進国平均よりはまだ小さいかもしれない。その点では、上記の数字は、女性労働力率が増える初期段階では、もっと小幅な効果の数字にとどまるかもしれない。

それでも、いずれ女性労働力率が先進国平均並みになれば、政策効果は上記の数字に近いものになるだろう。

子育て支援が「経済を成長させる」

他方で、日本での労働生産性と経済成長率の従来の関係をもとに推計すれば、労働生産性の成長率が0.19%ポイント上がると、経済成長率(人口1人当たり)は0.23%ポイント上がる見込みだ(前ページ図1)。

これはもともと、保育サービスにGDP比0.1%分の追加予算を投入することによって見込まれる効果だった。したがって投資効果として見ると、0.23を0.1で割って「2.3倍」という倍率になる。

データや推定方法が異なるので単純な比較はできないが、日本での公共事業の投資効果である「1.1倍」と比べると、保育サービスの投資効果のほうが大きいのではないかと期待できる。

つまり保育サービスは、公共事業よりも経済波及効果の大きい投資先となることで、労働生産性と経済成長率をより効率的に高め、経済停滞から日本を救うのではないかと期待できるのだ。

経済成長率が高まれば、日本国内への投資も増えて、国内の生活はより豊かになるだろう。

ただし、人口減少に加えて、労働時間も(過労防止・生産性向上・希望出生率実現のために)減らしていかなければならない今後の日本では、労働生産性の上昇が従来どおり経済成長率の上昇に寄与していくのかどうかは、検討の余地があるかもしれない。

子育て支援が「子どもの貧困を減らす」

さらに、「子育て支援が日本を救う」のは、「財政を健全化させるから」や「経済を成長させるから」だけではない。「子どもの貧困を減らすから」でもある。

これも具体的な数字で見てみよう。保育サービスへの政府支出をGDP比0.1%(0.5兆円相当)だけ増やすと、子どもの相対的貧困率は、数年以内に0.8%減る見込みだ。さらに、それに加えて児童手当もGDP比0.1%(0.5兆円相当)だけ増やすと、子どもの相対的貧困率は合わせて1.4%減る見込みだ。

手頃な認可保育サービスが増えれば、母親が働きやすくなり、共働きしやすくなり、家計が安定する。また、保育サービスが安くなることによっても、家計は助かる。さらに、児童手当が増えると、もちろんそのぶん家計の収入が増える。こういった家計の安定によって、子どもの貧困が減っていくのだ。

なおOECDの統計分析によれば、子どもの貧困が減ることは、長期的には、経済成長率の上昇にもつながると考えられる。したがって、子育て支援は、子どもの貧困を減らすとともに、長期的には経済成長率を高めるとも期待できるのである。

出生率を引き上げ、自殺率を抑制する

以上で紹介してきたように、保育サービスを中心とした子育て支援は、労働生産性を高めることによって「財政を健全化させる」「経済を成長させる」ことが見込まれると同時に、「子どもの貧困を減らす」ことも見込まれる。この3つの理由から、「子育て支援は日本を救う」と期待できるのである。

さらにいえば、拙著『子育て支援が日本を救う』では、上記の3つの波及効果に加えて、保育サービスに見込まれる波及効果をさらに2つ紹介している。それらは、効果の量はあまり大きくはないものの、「出生率を引き上げる」という効果と、「自殺率を抑制する」という効果だ。

そして、ここまで幅広いポジティブな波及効果は、保育サービス以外の社会政策には見出すことができなかった。この「波及効果の幅広さ」という点から見ると、いわば、「保育サービスを中心とした子育て支援こそが日本を救う」とも考えられるのである。

柴田 悠(しばた・はるか)
1978年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。博士(人間・環境学)。京都大学総合人間学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員PD、同志社大学政策学部任期付准教授、立命館大学産業社会学部准教授を経て現職。専門:社会学、社会保障論、幸福論。著書に『子育て支援が日本を救う――政策効果の統計分析』(勁草書房、2016年)、共著に『Labor Markets, Gender and Social Stratification in East Asia』(Brill, 2015)などがある。

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いま日本に一番効く政策は何か。それは保育サービスを中心とした「子育て支援」だ。客観的なデータに基づく、統計分析から提言される政策論!

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