日々の料理はなぜこんなに大変なのか?疲弊する女性たち 『料理は女の義務ですか』阿古真理氏インタビュー

日々の料理はなぜこんなに大変なのか?疲弊する女性たち 『料理は女の義務ですか』阿古真理氏インタビュー

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  • 更新日:2018/01/12
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共働き家庭が増加する昨今、育児に家事、そして仕事にと日々の生活に悲鳴をあげる女性たちが増えている。夫たちも長時間労働などを理由になかなか参加できない現実があるが、日々の料理を作る大変さについて、どれほど理解しているだろうか。

そこで「人はなぜ料理をするのか」という根本的な問いがテーマの『料理は女の義務ですか』(新潮社)を上梓した阿古真理氏に、料理という行為、料理を誰が担ってきたのか、男性の家事参加などについて話を聞いた。

(iStock/kazoka30)

――普段料理をしない人は、「料理とは調理すること」だと思いがちですが、日々の料理とはどんな行為と言えるでしょうか?

阿古:料理は、生活を回していく家事や雑務のなかでもっとも難易度が高く、非常にクリエイティブな作業です。

まず、献立はその日に考える人もいれば、予め数日前から決めている人にわかれます。次に、献立に必要な素材を決め、スーパーやネットスーパーなどで買い物をします。しかも、冷蔵庫のなかに残っている食材が日持ちする物か、またはすぐに食べないといけないものかなどを考えながらです。なかには、スーパーで良い食材を見つけたり、安くなっていれば、そこで献立を変更する人もいます。ここでようやく食材が揃い調理を始めます。この時、子どもがいて、さらにまだ幼ければ「お母さん」と近づいてくるのを牽制しながら、もう少し大きくなれば「お手伝いしたい」と言う子どもに、手伝わせるのか、手伝わせないのかを逡巡しながら調理します。台所は、火や包丁を扱うので、何かあれば大怪我や死に至ることもある場所なので、子どもの対応には非常に神経を使います。

また、3~4品作ろうとすれば、調理を同時並行で行わないと温かいまま食卓に出すことができない。ですから、適切なタイミングを見計らい味つけをし、火加減を調節するといったことを同時に行う。さらに、日本の台所は狭い家が多いので、洗い物を置いておくスペースなどとの格闘もあります。

いざ食卓で、家族と食事を共にしても、味が家族の好みに合わないことや、子どもに至っては何の配慮もなく「まずい」「美味しい」と言うこともありますから、毎日査定を受けているようなものです。そして後片付けもあります。

しかも、長い目で見ると、毎日の料理の結果が、自分や家族の健康に直結してくる。外食もありますから、すべて家庭での料理に起因するとは限りませんが。

このように在庫管理に買い付け、調理作業、栄養管理、サービスといったいくつもの仕事を一人で同時並行的に行う家庭料理は、ものすごく高度なものといえます。

――毎日のように食事を作るというのは、多くの男性のように、たまに1食分だけ作ることとは訳が違うわけですね。共働きの家庭が多い現代で、多くの女性が日々強いられている。それでは、少し歴史を振り返ってみると、高度経済成長期以降、一時的に専業主婦が増えます。しかし、それ以前は、基本的には農家を始め、共働きが多かったと思うのですが、料理に関しては誰が担っていたのでしょうか?

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『料理は女の義務ですか』(阿古真理、新潮社)

阿古:基本的には、女性です。たとえば、明治以降の中流家庭には、女中さんが1~2人はいましたから、家事の負担を分散できました。ただ、当時は家電がありませんし、ガスがまだ普及していない時代もあったので、いまの何倍も大変だったのは想像に難くないですね。

それ以前や当時の農家では、家族のなかで、役割分担が決まっていたようです。たとえば、夫は薪を割り、子どもも何かしら手伝うといったように。女性は、料理を担当していましたが、現在ほどの品数はなく質素だったようです。たとえば、鍋に麺類と具材を入れて煮たものだけや、常備菜を繰り返し食べるといったものです。

――そうすると昔は基本的には1品だったと。

阿古:ご飯、味噌汁、漬物や常備菜といった一汁一菜が基本で、1品だけの場合もありました。そこに魚が手に入れば、煮魚などを食べた。

ところが、明治以降、日本は近代化により価値観や社会が大きく変わり、家庭重視の考え方が出てくる。そのなかでも大きかったのは、良妻賢母思想です。これにより、それまで親や夫に従っていただけの妻は子どもを産むだけでなく、育てる役割まで担う「地位」を獲得したのです。ただし、あくまでも家庭内でのことです。この思想では、妻は自らを犠牲にし、家族や子どもに尽くすことが推奨されました。

戦後、憲法で男女平等が定められ、戦後育ちの新しい世代の意識が変化するなか、70年代に世界的に広がったウーマン・リブ(女性解放運動)が日本でも高まります。しかし、良妻賢母思想の母親に育てられた新しい世代の女性たちのなかには、母親たちの世代の意識を引きずっている人も少なくなかった。

高度成長期には、流通の発達や生産力の向上により、調理できる食材が豊富になりました。また、ガスが使える明るい板の間キッチンや冷蔵庫などの家電の普及で台所も近代化され、料理しやすい環境が整いました。

その時に、彼女たちが献立の見本としたのが、『きょうの料理』などの料理番組や、『主婦の友』などの主婦向けの雑誌でした。調べると、高度成長期には一汁二菜くらいの提案が目立ちますが、70年代の終りには、一汁三菜と言われだします。この頃から、日本では、一汁三菜が家庭料理の基本であると考えられるようになりますが、それは武家社会の懐石料理の影響で、庶民の日常食は先ほどもお話しましたが、一汁一菜、もしくは1品だけの食事が主でした。

同時に、一つひとつの料理がゴージャスになり、手間がかかるものが増えます。たとえば、ハンバーグやロールキャベツ、餃子などがそうで、それまでに比べ料理のハードルが上がります。

高度成長期になると、家電製品の普及など台所の近代化が進みましたが70年代以降も家事時間はほとんど減少していません。それは、専業主婦になる女性が増えたことで、むしろ料理などの家事に手間をかけるようになった影響があるように思われます。

――80年代半ばには、男女雇用機会均等法が施行されます。

阿古:同法により、働く女性が増えると、今度は時短料理が流行します。と言っても、それは70年代に家庭に登場したゴージャス化した、一手間も二手間もかかる家庭料理を手際よく作るものだったのです。また、かつてなら、母親の手伝いをしながら料理など家事のやり方を覚えていったのですが、この頃の若い女性には、そういう経験がないままに結婚した人が少なからずいた。

本書を構想したのは『小林カツ代と栗原はるみ』(新潮社)という本の執筆中でした。その最中、レシピ本を始め料理に関わることを調べていると、女性の社会進出に伴い、仕事と家庭で忙しくなった女性の料理のレベルが下がっていくことが見えてきました。

世代交代が進み、料理の技術が下がっているのに、同時並行で3品作るのは至難の業です。しかも、80年代に厚労省が、1日30品目摂取を推奨していたのも追い打ちをかけました。

また、若い女性は、どうしても手の込んだ料理を揃えなければならないと力む傾向があります。ただでさえ経験が浅く技術がないのに、あるべき理想像を高く持ってしまうがゆえに、実際の自分とのギャップが大きく、かえって自己評価を下げてしまうのです。

――共働きが当たり前となった現在でも、ほとんどの家庭で家事や育児は女性が担っています。家庭内の料理に関しても、男性は苦手だという声をよく聞きます。

阿古:料理に関して、自信がない、不安だというのがあるのではないでしょうか。新婚時代に奥さんにできていない点を細かく指摘されて、苦手意識を持った人もいるかもしれません。特に、40歳以上の男性は、中学校以降家庭科の授業を受けていないため、知識や経験に自信がない人が一定数いる。また、30代以下で家庭科があった年代でも、男子中高生にとって、家庭科の授業そのものが自分には関係がないと思われ、面倒くさいものだったかもしれません。それに比べれば、女子のほうが将来の自分に関係がある授業である、と積極的に学んだ人の割合が高いのではないでしょうか。

また、男性は料理を作るような同時並行の作業が苦手だという話もあります。たとえば、得意料理がカレーという男性は多いですよね。そういうものを1品作ることに集中させて、サラダなどは奥さんが作るなど分担をしてもよいかもしれません。あるいはその日だけはパパの得意料理を食べる日、とイベント化するなどもよいと思います。

――なるほど、1つのことに集中させて、料理を作ってもらうのは名案ですね。他に、男性が料理をはじめ家事にもっと参加するにはどうしたら良いでしょうか?

阿古:仕事がどれだけ忙しくても、男性にとって仕事が人生の全てではないですし、仕事だけで完結してしまう生活は健全ではありません。

まず、思い出してほしいのは奥さんと一緒にいたいから結婚した、ということ。本当は家族が大切なはずです。家族として居続けるためにこそ、家庭生活に参加することは大切なのです。そのためには、家庭生活のなかに自分の役割を作ること。役割としての家事をこなしていくと、奥さんが大変なことに気がつきます。

初めは、家事に参加するのが難しいかもしれません。免許取りたての運転が大変なのと一緒です。でも、慣れてくれば、肩に力を入れないでも、流れ作業のようにできるときが来ます。

たとえば、夫婦で買い物へ行き、夫が重い荷物を持ち、二人で相談しながら冷蔵庫を片付け、洗い物をする。子どもにも配膳くらいは手伝うようにしてもらう。あるいは担当する日や作業を決めて分担する。家族で協力し美味しいご飯を作れば、食べながらその日作った料理についての会話が弾むかもしれません。家族の楽しい共有体験は、何もテーマパークへ行かなくても作ることができるのです。そうなったとき、家事は押し付け合う面倒な労働から、娯楽や当たり前の生活習慣になっているかもしれません。

――どんな人に読んでほしいですか?

阿古:ここ1〜2年、さまざまなメディアで若い女性が家庭と仕事の両立に悲鳴をあげているのを目にしてきました。私には子どもはいませんが、フリーランスで共働きの家庭です。夫は家事を分担してくれるけど「どうして私ばかりしないといけないの」と思い、家事や料理をすることが嫌だった時期を経験しています。しかし、後輩の女性たちに対し、自分たちの世代は、なかなかその失敗や教訓を伝えられていないと思いこの本を書きました。悩んでいる若い女性に手にとってもらえれば嬉しいですね。

また、最近奥さんや後輩の女性たちが怒っているけど「どうして?」と思っている男性にとっては、それを知る良い機会になると思います。

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