[お江戸小説] ココロサク 【1話】いつものくれない荘でいつもの朝

[お江戸小説] ココロサク 【1話】いつものくれない荘でいつもの朝

  • Japaaan
  • 更新日:2018/02/15
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1話 いつものくれない荘でいつもの朝

「納豆~、納豆~」
「とうふ~、あぶらげ、がんもどき~」
「しじみやしじみや」
棒手振(※1)たちの威勢のいい声が行き交い始めるのが、明六ツ(※2)。長屋の入り口の木戸(※3)もこの時間に開き、町が一気に動き出す。なんだか1日が始まるっていう感じがして、この瞬間が大好きだ。

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歌川広重「東海道五十三次之内 日本橋」

いつもは棒手振の声で目覚めるのだけど、今日みたいに、隣の家のおすみさんの怒鳴り声が加わることもたまにある。良吉さんはいい人なんだけど、つい可愛いコに手を出しちゃう悪いクセがあって、そのたびにおすみさんにみっちり油を絞られるっていうわけ。狭い部屋の中を良吉さんが逃げ回っているのか、ほうきでお尻を叩かれているのか、壁にぶつかる音がして、それはたいそう賑やかで自然と目も覚めてしまい…。

※1 棒手振(ぼてふり)……商品を天秤棒で担いで売り歩く、商人。振売(ふりうり)という別名も。
※2 明六ツ……日の出前の、夜が明け出した頃。
※3 木戸……裏長屋への入り口を木戸口といい、明六ツに開き、暮れ六ツに閉められた。戸の開閉は、大家がすることが多い。

「母さん、おはよう!お隣さんの二人、また賑やかにやってるねぇ」
「おはよう、おりん。そうだね、おすみさん怒らせちゃったら、しばらくは続くかもねぇ。さ、ごはんが冷めないうちに、お食べ」

「ん~!いい香り~。」
炊き立てのごはんのふんわりとした香りは、鼻孔をくすぐり、なんとも幸せ。今日の献立は、ごはん、豆腐の味噌汁に大根の漬物。私が朝ごはんを食べる傍ら、ひと足先に早く食べ終えた母さんはすでに洗濯物を干して、仕事場の呉服店に向かう準備をしている。化粧をほとんどしなくても、きめ細かい肌に艶のある髪が母さんの美しさを引き立たせているなぁと惚れ惚れ。

おっと!あまりゆっくりしていると、水茶屋(※4)の仕事に遅れてしまう。食べ終わった茶碗を湯茶ですすいで箱の中に入れて蓋をしたら、後片付けは終了。夜に食べる分のごはんをお櫃に移して、布団をさっと片付けてから身支度に取り掛からなければ。といっても押入れはないので、たたんで部屋の隅に置いておくだけなんだけど。

ふと、今日の風はどんな具合だろう、と思って外に出てみると、容赦なく吹きつける風。後架(※5)から流れてくる強烈なニオイに、思わず顔をしかめてしまう。これは、もしかして福助の…と思いきや、斜め向かいの家の福助がガハハと笑いながら、さっきウンコしたから臭うでしょ、なんて言うのも、いつものこと。お前はガキか!と言いたくなるけど、天真爛漫で憎めないヤツなんだよなぁ。

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『江戸名所図会 1巻』より「十軒店雛市」長谷川雪旦

なんだかんだいって平和で、やっぱりここは落ち着くねぇと、おりんは呑気ですが…。いつまでも平穏な生活は続かないのが、世の常というもの。なにやら、おりんのまわりはせわしくなりそうです。そんなことは露知らず、母さんと楽しそうにおしゃべりしながら仕事に向かうおりん。さてさて、どんな日々が待ち受けていることやら。(つづく)

※4 水茶屋(みずぢゃや)……やや高級な休み茶屋。寺社境内にあることが多い。客は、看板娘を目当てに来店する。
※5 後架(こうか)……裏長屋の共同のトイレで、踏み板を渡しただけの簡易な造り。扉は下半分だけなので、人が入っているときは頭が見えている。

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