メジャーシーンで結果を出した入江悠監督が語る埼玉ロケ作品『ビジランテ』で挑んだ新境地!!【前編】

メジャーシーンで結果を出した入江悠監督が語る埼玉ロケ作品『ビジランテ』で挑んだ新境地!!【前編】

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2017/12/07
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地方都市で過ごした青春時代の葛藤をラップに叩き付けた自主映画『SRサイタマノラッパー』(09)でブレイクを果たした入江悠監督。『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)以降はメジャーシーンでの挑戦が続いていたが、2017年はワーナー系で全国公開された『22年目の告白 私が殺人犯です』が3週連続で興収1位を飾るという躍進の年となった。最新作『ビジランテ』は『サイタマノラッパー』シリーズ以来となる久々のオリジナル劇場映画。地元・深谷市で撮影した『ビジランテ』に込めた想い、テレビ東京で深夜ドラマ化された『SRサイタマノラッパー マイクの細道』にまつわるエピソードなど、入江監督に2017年を振り返ってもらった。

──故郷や家族に対して複雑な感情を抱く3兄弟(大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太)を主人公にした『ビジランテ』の構想はいつ頃から考えていたんでしょうか?

入江悠(以下、入江) 『ロードサイドの逃亡者』の後、『日々ロック』(14)や『ジョーカー・ゲーム』(15)と商業映画をやり、その後に寒村を舞台にした『太陽』(16)という作品を撮ったんです。僕の中では『太陽』で描かれていたテーマや問いがすごくフィットしていた。その頃からですね。

──神木隆之介&門脇麦主演の『太陽』は文明の進化から置き去りにされた集落で暮らす若者たちの愛憎劇でした。

入江 SFという設定でしたけど、ひとつのコミュニティーの中には差別があり、コミュニティーを出ていくことに反発心を抱く者もいたりと、いろんな立場の人間がいるドラマだったんです。『太陽』は前川知大さんの舞台が原作だったのですが、その独創性と冷徹な観察眼に刺激を受けて、自分なりに地元の深谷市を舞台にして書いたのが『ビジランテ』です。オリジナルで脚本を書くのはすごく時間が掛かり、気が付いたらオリジナルでの劇場作品は『ロードサイドの逃亡者』以来になってしまいましたね。

──『サイタマノラッパー』劇場版三部作の舞台挨拶で、各地を回った体験も活かされている?

入江 それはあると思います。それまでの自分が知っていた世界は狭かったけれど、『サイタマノラッパー』シリーズで全国の地方都市を北は北海道から南は九州まで回って、各地の問題に触れる機会になったんです。原発問題もあれば、『ビジランテ』で描いたような郊外型ショッピングモールの建設をめぐる問題もある。でも社会と個人というテーマは、各地に共通する問題じゃないかと感じられたんです。そういった日本全体にかかわる問題を、地元の街に置き換えて描いた感じですね。

──『サイタマノラッパー』は半径1メートルの物語でしたが、今回は間口が広まった感じがします。半径500メートルぐらいの物語?

入江 もう少し広いかな。半径1キロメートルぐらいの物語ですかね。ショッピングモールは駐車場だけでもかなり広いですから。『サイタマノラッパー』シリーズは僕個人の悩みや不安、夢と現実などをドラマ化したものでしたが、2017年でちょうど撮影から10年経つんです。年齢を重ねていく中で、僕も少しずつですが社会との関係性を考えるようになった。技術的なことや僕自身の人間的な未熟さもあって、これまでは映画として描くことができなかったんですが、もう少し視野を広げて、そこで生きている人たちの人間模様を描いてみようという気になってきたんです。

──2017年4月~6月にオンエアされたTVドラマ『SRサイタマノラッパー マイクの細道』にも劇場版三部作では描かれなかったIKKUの家族が登場しました。

入江 僕の高校時代は男子校で、剣道部だったんですが、6人いる同期はみんな結婚して家庭を持っているんです。同期の結婚式に呼ばれて、久々に集まったら、「結婚してないのは、もう入江だけだぞ」と言われて(笑)。東京にいるとあまり独身であることを意識しないんですが、たまに田舎に帰省すると気づかされますね。同級生たちはちゃんと結婚して、子育てして、親の介護なども引き受けていたんだなぁと。自分は映画を撮ることしかやらず、家族に対する責任はいっさい引き受けてこなかった。そのことは『マイクの細道』にも入っていますね。

■入江作品の中における3人の男たち

──『サイタマノラッパー』と同じ埼玉県深谷市でロケ撮影されたこともあり、『ビジランテ』に映し出される世界も同じような風景ですが、そこで繰り広げられるのはまったく異なるハードボイルドなものになっています。

入江 『サイタマノラッパー』はシリーズ化されていくことで、主人公たちがどんどんアイコン化され、中でもIKKUとTOMはコミカルな存在になっていった。それもあり、『ビジランテ』では現実感のあるキャラクターとして一郎(大森南朋)、二郎(鈴木浩介)、三郎(桐谷健太)の3兄弟を考え出したんです。3兄弟の父親役には、映画『64 ロクヨン』(16)でのコワモテの警察署長役が印象的だった菅田俊さんにお願いしました。菅田さんには真冬の冷たい川の中に入って、熱演していただきました。

──菅田俊演じる武雄は、子どもたちを容赦なく折檻する“昭和の父親”。ちなみに入江家はどんな家庭だったんでしょうか?

入江 うちは全然違います。もっと、ダラッとしてました。父はフリーランスの物書きなんです。父の仕事がないときは、母が稼いでいました。菅田さんみたいな厳格な父親ではなかったんですが、それもあって昔ながらの家庭像への憧れがあったみたいです(笑)。

──大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太はどういう順番でキャスティングを?

入江 同じ空気を吸って育ったことを匂わせるような3人であることが必要でしたし、年齢差もそれぞれないといけないので、誰が最初ということはなく、バランスを考えて3人同時に決めていった感じですね。

──日刊サイゾーだからお聞きしますが、大森南朋と鈴木浩介はよく共演OKしたなと。

入江 大森さんと鈴木さんなら大丈夫だろうなと思ってオファーしました。僕はあまりテレビドラマは見ないんですが、鈴木さんが出演していたドラマを幾つか見たところ、すごくいい。もっと映画に出てほしい人だなと思いました。オファーすると、鈴木さんは映画出演をとても喜んでくれた。3人とも現場では仲良かったですよ。真冬の深谷はかなり寒く、カメラが回っていない間は3人ともヒーターの前に集まって、ずっと雑談していました。3人とも初共演だったんですが、昔からの顔なじみのようでした。

──大森南朋のふてぶてしい姿は、お父さん(舞踏家の麿赤兒)に似てきましたね。これまでは全然似てない親子だなぁと思っていたんですが、『ビジランテ』では受け継いでいる業みたいなものが全身から滲み出ています。

入江 あると思います、そういうのって。麿赤兒さん、高田馬場の喫茶ノワールでお見かけしたことがあったんですが、「昭和の怪人」がお店に現われたような怖さを感じました。麿さんからすごい殺気が漂っていたんです。大森南朋さんにもそれに近いものを感じました。本人はそのことを意識していたかどうかは分かりませんが、ちょっと近寄りがたい雰囲気がある。でも、逆にひょうきんな面も併せ持っている。顔のシワとかも年輪っぽい感じがして、大人の顔を見せていますよね。

──桐谷健太はCMですっかりメジャーになりましたが、撮影現場ではムードメーカー役も買って出る好人物。

入江 彼とは同い年なんです。井筒和幸監督の『ゲロッパ!』(03)や『パッチギ!』(05)に出ていたのを観て、「いい役者が出てきたなぁ」と思っていたんです。同世代の役者と一緒に仕事をする機会って、『サイタマノラッパー』シリーズ以外ではなかなかなくて、いつか自分の作品に出てほしいなと思っていました。脚本を渡したところ、「ぜひ、やりたい」と言ってもらえ、うれしかったですね。

──女優陣の脱ぎっぷりも素晴しい。入江作品で、ここまで本格的な濡れ場があるのは初めて。『ジョーカー・ゲーム』では深田恭子が荒縄で縛られて吊るされるシーンがありましたけど。

入江 ハハハ、「少年ジャンプ」に出てくるような緊縛シーンでしたね(笑)。濡れ場シーンは、仙台短編映画祭から“愛”をテーマにした作品を依頼されて、『サイタマノラッパー』のTOM役の水澤紳吾を主演にした短編映画『狂人日記』(14)を撮ったことがあるんです。誘拐した女性を監禁してしまうというハードな内容で、仙台で上映されて物議を呼び、門外不出になってしまった(苦笑)。本格的な濡れ場は、それ以来ですね。今回は前半ずっとバイオレンスシーンかSEXシーンばかり撮っていたので、感覚が麻痺していました。でも、女優陣は肝が据わっていて、やるとなるとバンッと脱ぎっぷりよくやってくれた。間宮夕貴さんは石井隆監督の『甘い鞭』(09)や塩田明彦監督の『風に濡れた女』(16)がとても良くて、僕から出演をお願いしました。間宮さんは脱ぎっぷりだけでなく、脱いだ上でしっかり演技ができる素晴しい女優です。

──物語を大きく左右するファムファタール役は元AKB48の篠田麻里子。カーセックスシーンや枕営業シーンにも挑んでみせた。

入江 30歳前後で、こういう悪女役をできる女優って意外といないんです。彼女は身長があるし、品のある顔立ちなので、悪い女を演じさせるとハマる。難しい役だから受けてくれるか心配だったんですが、「リハーサル、いっぱいやらせてください」「何かあったら、すぐ言ってください」と現場ではすごく謙虚でしたね。初日が鈴木浩介さんとのカーセックスシーンだったんですが、物怖じせずにやってくれました。最初にそういうシーンを演じ切ったことで、鈴木さんと距離感なく、うまく夫婦役になったように思います。

──『サイタマノラッパー』シリーズはIKKU、TOM、MIGHTYという3人の男たちの物語でしたが、今回の『ビジランテ』も3兄弟の物語。男3人というキャラクターでも共通していますね。

入江 自分自身の分身を3つに分けた感じですね。3人という人数が好きみたいです。地元を飛び出したい気持ちが今回は一郎になり、地元の街のメインストリームを歩きたいという想いが二郎になり、2人の間で揺れ動く感情が三郎になっている。矛盾を1人のキャラクターに抱え込ませると物語化しにくいけれど、3人に分散させてぶつかり合うことで物語が動いていく。あと数本オリジナル脚本を書いたら、いつも同じ内容なことがバレると思います(笑)。

──町の再開発が始まる前に不審火が起き、ショッピングモール建設の利権に裏社会が絡んだりと、地方都市の不穏なリアリティーを感じさせるドラマが展開されていく。

入江 『サイタマノラッパー』の舞台挨拶で、各地のいろんな話を聞いてきたことが役立ちました。『ビジランテ』の脚本を書いていた頃、深谷市でもショッピングモールの建設計画が進んでいたらしくて、「お前、よく知ってたな」と勘ぐられたんですが、まったくの偶然でした。深谷市でも実際にショッピングモールの建設に賛成か反対かの市民集会が開かれ、脚本を書きながらざわっとしました。

──映画と現実は不思議とシンクロする。

入江 シンクロしちゃいますね。『22年目の告白』の製作を進めているときも、『絶歌 神戸連続殺傷事件』(太田出版)が出版されましたし。『22年目の告白』の脚本を書いたほうが早かったんですが、フィクションで書いていたことが現実化していくみたいな怖さを感じましたね。
(インタビュー後編に続く/取材・文=長野辰次/撮影=長谷英史)

『ビジランテ』
脚本・監督/入江悠
出演/大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴、吉村界人、菅田俊
配給/東京テアトル R15+ 12月9日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
C)2017「ビジランテ」製作委員会
https://vigilante-movie.com/index.php

■『ビジランテ』の公開を記念して、テアトル新宿にてトークショーを開催

ヤクザday
12月10日(日)  14:00の回上映後
ゲスト/般若、坂田聡、山口航太、龍 坐、大宮将司、蔵原 健、三溝浩二、裵ジョンミョン

ヤングday
12月16日(土)3回目上映後
ゲスト/吉村界人、間宮夕貴、大津尋葵、入江悠監督

デリヘルday
12月23日(土)4回目上映後
ゲスト/岡村いずみ、浅田結梨、市山京香、入江悠監督

●入江悠(いりえ・ゆう)

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1979年神奈川県生まれ、埼玉県深谷市出身。『JAPONICA VIRUS』(06)で長編監督デビュー。自伝的要素の強い青春映画『SRサイタマノラッパー』(09)が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」オフシアター・コンペティション部門でのグランプリ受賞を皮切りに、自主映画として異例のロングランヒットに。『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)と共に『SR』北関東三部作として熱烈な支持を集めた。『日々ロック』(14)、『ジョーカー・ゲーム』(15)でメジャーシーンに進出。『22年目の告白 私が殺人犯です』(17)は3週連続興収1位を記録するヒット作となった。その他の主な監督作に『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンローロは鳴り止まないっ』(11)、『太陽』(16)など。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』『22年目の告白』が共に現在DVDが絶賛リリース中。

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