現在放送中の、MEGUMIが企画・プロデュースを担当しているドラマ『くすぶり女とすん止め女』(テレビ東京系、火曜深夜24時30分~)。モラハラ夫の武(勝村政信)に虐げられている49歳の専業主婦・郁子(西田尚美)と、何をするにも1位にはなれずに自信が持てない25歳会社員・ほのか(香音)の奮闘が描かれている。

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◆存在感が強すぎる、最低のDVモンスター・武
そんな2人の主人公以上に存在感を発揮しているのが武だ。夫の健康を気遣って郁子が作った豆腐ハンバーグを「君は亭主に、豆腐が混ざったハンバーグまがいのものを食べさせようとするのか」と言ってゴミ箱に捨てたり、イライラした際にはサンドバッグを殴って家族を威圧したりなど、多種多様なDVムーブを常に見せている。

Ⓒ「くすぶり女とすん止め女」製作委員会
どのようにして武というDVモンスターは誕生したのだろうか。本作のプロデューサーを務め、テレビ東京配信ビジネス局配信ビジネスセンターに所属する原口真鈴さんに、本作のキャスティングや武というキャラの見せ方など話を聞いた。
◆ハマり役の2人はどうキャスティングしたのか
まず郁子のキャスティングの背景として、「郁子役の西田さんはこれまで多くの母親役を務めていますが、全ての母親役に個性豊かな色がついていることが印象的でした」と話し始める。
「郁子も専業主婦として家事育児をキチンとこなしていますが、ちょっと世間とズレた感覚を持っています。難しい役どころではありますが、西田さんに郁子を演じてもらえたら、郁子の個性をチャーミングで愛される人に色付けてもらえるのではと感じてオファーしました」

『くすぶり女とすん止め女』プロデューサーの原口真鈴(テレビ東京)さん
次にほのか役を香音が担ったことについては「2023年4月から放送されたドラマ『ガチ恋粘着獣~ネット配信者の彼女になりたくて~』(テレビ朝日系)に出演していた香音さんは、可愛いのに報われない女性を演じていました。発狂するシーンなどもあり、その時のインパクトがすごく、ふと『ほのかと似ているかも』と思いました」という。
「香音さん自身の性格などを周囲に聞いた時、“地に足がついている女性”というか、『世間の温度感を肌でしっかり感じている人なんだな』ということを知りました。実際に会って話してみると、大学のお友達と遊んだり一緒に授業を受けたりと、一般的な学生らしい生活を過ごしていることがわかり、『Z世代のほのかの気持ちをしっかり乗せてくれるのでは』と思ってキャスティングしました。2人ともハマり役だなと思っています」
◆シリアスからコメディへ、勝村のDV夫が見たかった
武というかなり難しい役に勝村をキャスティングした理由を聞くと、「勝村さんってどんな役でも鮮やかにしてくれますよね。そんな勝村さんがDV夫をやった時、どのように派手に面白く演じてくれるのかなと思ってキャスティングしました」と説明。

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髪をテカテカに固め、横文字をやたら使うシーンも多い武は、コントっぽくなってしまうリスクもある。武の映し方には注意しなけばチープになってしまうが、「そこはとても悩みました。最初はコメディ寄りにしようと考えていたのですが、1話でまず視聴者が郁子に共感できるようにしたかったため、シリアス色を強くしました」と話す。
「その後も“コメディにシフトしていく”というより、『徐々に郁子やほのかが変化していくことで、言っていること・やっていることは変わらないけど、武の軽薄さが表面化していく様子を面白おかしく見てもらえるように』と意識しています」
◆ボツになった“幻の武”も存在していた
そもそも、武というDVモンスターはどのようにして誕生したのか。
「DVする男性をかなりリサーチして、その中で『この要素を入れたらいいんじゃない?』ということを話し合う中で、次第に固まっていきました。直接暴力を振るったり、『生きる価値がない』みたいな暴言を吐いたりなどの一線は越えないように意識しました。そのラインを守りつつ、郁子を名前ではなく『きみ』と呼ぶようにしたり、靴下を脱ぎ散らかしたりなど、武にイライラしてもらえる要素をいくつも散りばめています」

Ⓒ「くすぶり女とすん止め女」製作委員会
また、当初の武は“髪テカ日焼け男”ではなかったらしく、原口さんは「昭和の価値観を曲げられず、服装に疎い男性をイメージしていました。ただ、“現代的な嫌な男性”にしたほうがキャッチーになると思い、PR会社に勤務していたり、イントネーションを間違えた横文字をたくさん使ったりといった設定にしています」とボツになった武の存在を語った。
◆武によって過去のトラウマを思い出す人も
武の言動にイライラを覚える人ばかりではなく、過去に実際に武のような人と接していた時のことを思い出して視聴を断念したという投稿はSNSに少なくない。

Ⓒ「くすぶり女とすん止め女」製作委員会
武というキャラは若干“やりすぎ感”もあるが、「そのあたりの調整は難しいなと実感しています。ただ、テレビ局だけではなく、動画配信サービスも含めてドラマは飽和状態です。本作は原作があるわけではなく、予算にも限りがあるため、大々的なプロモーションはできません。埋もれないためになんとか視聴者の心を動かす必要があり、『イライラを噴気させよう』ということは常に重視しています」と回答。
「また、最近は復讐系漫画のネット広告を頻繁に見かけますよね。胸糞悪い作品は続きが気になりやすいため、本作でもイライラシーンをショート動画にして各SNSに投稿しています。『こういった取り組みが視聴率・視聴回数にどの程度つながるのか?』という実験的な思いもあるため、賛否の別れる反応を受け止めて、次に繋げていきたいです」
いろいろな工夫が詰まっている『くすぶり女とすん止め女』。制作陣の様々な思いを感じながら見ると、より面白味が増すかもしれない。
<取材・撮影&文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。Twitter:@mochizukiyuuki