イタリア映画の最高峰...ラストシーンの意味とは? 映画『道』徹底考察。とにかく泣ける...珠玉の名言と音楽も深掘り解説

イタリア映画の最高峰...ラストシーンの意味とは? 映画『道』徹底考察。とにかく泣ける...珠玉の名言と音楽も深掘り解説

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  • 更新日:2023/09/21

映画『道』を、あらすじ(ネタバレ)、演出、脚本、配役、映像、音楽の項目で解説。アンソニー・クイン、ジュリエッタ・マシーナ共演。自他共に認める、フェデリコ・フェリーニ監督の最高傑作。第29回アカデミー賞・外国語映画賞を受賞した本作の魅力を多角的な視点から明らかにする。 <あらすじ キャスト 考察 解説 評価 レビュー〉
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●『道』あらすじ

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映画『道』のワンシーン【Getty Images】

ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)は、知能は低いが素直な心の持ち主。ある日、ザンパノ(アンソニー・クイン)という大道芸人のアシスタントを務めていた妹の訃報を受ける。

ジェルソミーナの家は貧しかったため、わずかなお金でザンパノに買われてしまい、彼と共にオート三輪で旅に出ることになる。

ザンパノは体に巻いた鎖を自分の胸筋だけで引きちぎる芸で生計を立てており、ジェルソミーナにも太鼓や客の呼び込みなどの芸を仕込んだ。

だが、ザンパノは時に暴力を振るう野蛮な男であった。

嫌気がさしたジェルソミーナは、あてもなくザンパノの元を飛び出すが、たどり着いた街で明るい綱渡り芸人のイル・マットと出会う。

そこでジェルソミーナに追いついたザンパノに連れ戻されるが、のちにジェルソミーナとザンパノは、イル・マットのいるサーカス団で働かせてもらえることになるのだった…。

●男女の孤独を描いたネオレアリズモの傑作ー演出の魅力

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映画『道』のワンシーン【Getty Images】

本作は、無垢な小娘ジェルソミーナと、粗暴な大道芸人ザンパノの魂の交流を描いたロードムービー。

監督はイタリアの名匠フェデリコ・フェリーニで、フェリーニの妻であるジュリエッタ・マシーナがジェルソミーナ役を、アンソニー・クインがザンパノ役を演じている。

1954年制作の本作は、ロベルト・ロッセリーニの『無防備都市』(1950年)や、ヴィットーリオ・デ=シーカの『自転車泥棒』(1948年)など、ネオレアリズモというジャンルの映画と同時期に制作された作品として知られている。

ネオレアリズモとは、荒廃したイタリアをドキュメンタリータッチで描いた作品で、悲惨な現実社会を客観的に捉えた作品が多いのが特徴だ。

しかし、本作では、退廃的なイタリアの情景を描きながらも、大道芸や旅路、サーカス、海など、後のフェリーニのフィルモグラフィに共通するモチーフが数多く登場。

加えて、男女の孤独と魂の救済という普遍的なテーマを叙情たっぷりに描いており、従来のネオレアリズモ映画とは一線を画したフェリーニらしい作品に仕上がっている。

なお、本作は公開当時、第29回アカデミー賞外国語映画賞や第15回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)など、さまざまな賞を受賞。

フェリーニの国際的な名声を高めた作品としても知られている。

●キリスト者フェリーニが描出する“魂の救済”ー脚本の魅力

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フェデリコ・フェリーニ監督【Getty Images】

本作には、随所にキリスト教的なモチーフが組み込まれている。

最も有名なのは、自分自身が役立たずだと嘆くジェルソミーナに、綱渡りの芸人イル・マットが次のように問いかけるシーンだろう。

「この世の中にあるものは何かの役に立つんだ。例えばこの石だ。こんな小石でも何か役に立ってる(…)神様はご存知だ。お前が生れる時も死ぬ時も人間にはわからん。おれには小石が何の役に立つかわからん。何かの役に立つ。これが無益ならすべて無益だ。空の星だって同じだとおれは思う」

全てのものが役に立つー。このマットのセリフには、世界中の万物が神の被造物であり、何かをすることよりも「存在することそのものに意味がある」とするキリスト教的な世界観が垣間見える。

また、本作のラスト、粗野だったザンパノがジェルソミーナの死をきっかけに悔い改めるシーンには、アダム(=人類)の身代わりとして到来し、人類の罪を背負って死んでいったイエス・キリストを連想させる。

では、なぜ、本作にはこのようなモチーフが散りばめられているのか。手がかりとなるのは、フェリーニ自身の半生だ。

敬虔なキリスト教徒だったフェリーニは、子どもの頃には神学校に通っていた。しかし、たびたび脱走してサーカス小屋に逃げ込んだり、10代で駆け落ちをして放浪生活をしたりと放蕩三昧の日々を送っていたという。

また、本作の主人公ザンパノも、子供の頃に近所に住んでいたという豚の去勢を生業としたジプシーが、知的障がいのある若い子どもを妊娠させてしまったという身も蓋もないエピソードからインスピレーションを得たという。

「神の愛は信じぬ者にも及ぶ」という思いで本作を作ったと語るフェリーニ。本作には、自身の幼年期や、思い出深い人々に対する救済の思いが溢れているのかもしれない。

●アンソニー・クインの獣性あふれる演技ー配役の魅力

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映画『道』のワンシーン。主演のアンソニー・クイン【Getty Images】

本作の配役といえば、まずはザンパノ役のアンソニー・クインの獣性あふれる演技を挙げなければならない。

これまでもさまざまな映画で荒くれ者を演じてきたアンソニーだが、本作では粗暴さの中に男の色気や哀愁を滲ませ、奥行きのある演技を披露している。

特に終盤、失意に沈む演技は本作最大の見どころであり、長きに渡って充実した仕事を残した名優・アンソニー・クインの集大成的な演技といってと過言ではないだろう。

なお、フェリーニによれば、リアリティを重んじるネオレアリズモらしく、当初はザンパノ役に本物のサーカス団の団員を起用しようとしたという。

しかし、適切な人物が見つからずにキャスティングは難航。結果的に、たまたま見た映画に出演していたアンソニーの演技が目に留まり、出演が決まったという。

メキシコ人の両親のもとに生まれたクインは、ロサンゼルスで少年時代を過ごし、端役(その多くは悪役)からキャリアをスタート。ハリウッド映画のみならず、本作のようなイタリア映画にも出演するなど、身一つで流浪の役者人生を歩んでおり、深いレベルで役柄と親和性があり、フェリニーニの目を引いたのではないだろうか。

また、ジェルソミーナ役のジュリエッタ・マシーナの無垢で痛々しい演技にも注目。

フェリーニによれば、ジェルソミーナの人格にはジュリエッタの人格が反映されているとのことで、まさに彼女以外には考えられない役になっている。

フェリニーニとマシーナは、映画史上最も有名な監督×女優夫婦として鳴らし、本作以降も『崖』(1955)や『カビリアの夜』(1957)など素晴らしい作品を残している。

●ジェルソミーナの海、ザンパノの海ー映像の魅力

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映画『道』のワンシーン。(上から)ジュリエッタ・マシーナ、アンソニー・クイン【Getty Images】

あらすじからも分かるように、本作は海で始まり海で終わる。

最初のシーンで映るのは、浜辺に落ちている棒切れを拾い集めるジェルソミーナ。と、そこへジェルソミーナの妹・ローザの死を告げにやってくる。

身体を起こしたジェルソミーナの目線の先には、海に向かって仁王立ちするザンパノの姿が映っている。

ここから本作前半の物語は、ジェルソミーナの感情にスポットが当てられたまま進行する。しかし、中盤のマットの死以降は一転し、今度はザンパノの心情を軸に物語が進行する。

そして、ラストシーンでは、年老いたザンパノがうら寂しい夜の海を彷徨っている。何かを探しているのか、入水を試みようとしているのか、当て所もなく彷徨うザンパノだが、何もできずに浜辺にへたり込んでしまう。

ここで思い出してほしいのが、マットの次のセリフだ。

「おれには小石が何の役に立つかわからん。何かの役に立つ。これが無益ならすべて無益だ。空の星だって同じだとおれは思う」

ジェルソミーナを「役に立たない小石」として扱っていたザンパノ。それが実はかけがえのないものであったことに気づいても、すでに手遅れだ。

自身の過ちの深さを悟ったザンパノは、へたり込んだまま空を見上げる。しかし、空にある星々はあまりに遠く、手元にあるはずの小石も暗闇でよく見えない。項垂れたままのザンパノを残し、カメラはゆっくりと引いていくー。

小石、空の星、そして海。本作では、この3つの詩的なモチーフからジェルソミーナとザンパノの感情が描出されている。

こういった話法は、まさに従来のネオレアリズモの手法に当てはまらないフェリーニならではの技法といえるだろう。

●ニーノ・ロータの哀愁漂うメロディー音楽の魅力

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映画『道』のワンシーン。ヒロインのジュリエッタ・マシーナ【Getty Images】

本作の音楽を手掛けたのは、ニーナ・ロータ。フェリーニ作品のほか、映画『ゴッドファーザー』(1972年)や映画『太陽がいっぱい』(1960年)など、数々の名作映画の音楽を手掛けてきた大作曲家だ。

ニーナは、主な撮影が完了した後に、フルオーケストラによる音楽を提供。作中ではジェルソミーナをはじめ、登場人物が演奏する音楽として登場している。

中でも印象的なのは、「ジェルソミーナのテーマ」だろう。

哀切たっぷりのトランペットの音色は、ジェルソミーナの悲劇の人生にぴったりで、観客の涙を誘うこと請け合いだ。

なお、この曲は、ニーナが敬愛していたとされるドヴォルザークの「弦楽セレナーデ第4楽章『ラルゲット』」が元になっており、フェリーニは想像力を刺激するため、この曲を流しながら映画を撮影したという。

なお、本作のメインテーマはその後さまざまな歌手によって歌詞がつけられカバーされており、日本では「ジェルソミーナ」として美輪明宏や沢田研二が歌っている。

また、2010年のバンクーバーオリンピックでは、フィギュアスケート男子シングルの髙橋大輔選手がこの曲を採用するなど、時代を超えて聞かれ続ける曲になっている。

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