川口美喜子「80歳以上の2割が低栄養傾向。フレイル状態を防ぐには?和食は体に良いが塩分に注意。高齢者こそおやつを食べて」

川口美喜子「80歳以上の2割が低栄養傾向。フレイル状態を防ぐには?和食は体に良いが塩分に注意。高齢者こそおやつを食べて」

  • 婦人公論.jp
  • 更新日:2023/11/21
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歌手の瀬川瑛子さん(左)と、医学博士の川口美喜子さん(右)。手に持つのは、川口さんが開発した主食・主菜・副菜をバランスよく取るためのお皿「バランスプレート」(撮影:鍋島徳恭)

70歳前後で体の不調に見舞われた瀬川瑛子さん。いつまでも歌い続けたいという願いをかなえるために、栄養学を教える医学博士の川口美喜子さんが効果的な食べ方を指南します(構成=丸山あかね 撮影=鍋島徳恭)

【一覧】あなたは大丈夫?「食べ方」チェックリスト

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<前編よりつづく

調味料を足す前に素材の味に親しむ

川口 瀬川さんは食事面でどんなことに気をつけていますか?

瀬川 塩分を摂りすぎないようにしています。なにせ母から、「お味噌汁は塩分が多いから、汁は飲むな」と刷り込まれて育ちましたので。ところが近年になって、お味噌汁自体が体にいいと知ってびっくりしました。

川口 発酵食品のお味噌には、植物性乳酸菌という、生きて腸に届く乳酸菌が含まれているので、腸内環境を整える効果が高いと言われます。また、お味噌の原料である大豆には、女性ホルモンを補う働きがあるんです。ただ、和食は気をつけないと、塩分を摂りすぎてしまう可能性があります。

瀬川 そうなんですか!

川口 たとえば和食の朝定食の定番は、焼き魚、納豆、梅干し、味噌汁。一見するとヘルシーなのですが、これだけで4~5gの塩分を摂取していることになります。1日の理想的な塩分摂取量は6.5~7.5gなので、昼食、夕食まで含めると目標値を軽くオーバーしてしまうのです。

瀬川 煮物なども、ついつい濃い味つけにしてしまいますよね。

川口 日本人の死因で最も多いのはがんですが、2位と4位は心疾患と脳血管疾患。これを合わせると死亡率はがんに近くなる。いずれも高血圧が関連する病気なので、塩分は大敵です。

瀬川 濃い味が好きな人にとって、塩分を控えるのは難しそうですが。

川口 すぐに慣れるものですよ。病院に勤めていた時、よく患者さんに「味が薄い」と言われました。でも1週間も経つと、同じ患者さんが「僕好みの味にしてくれてありがとうございます」と言う。もちろん何も変えてません。(笑)

瀬川 好みも割といい加減なんですね。(笑)

川口 多くの方がお料理は調理段階で味つけをするものと思い込んでいます。でもまずはそのまま食べてみることを習慣化していただきたい。物足りないと感じたら、ちょっと塩コショウする、ちょっとお醤油をつけるようにする。それだけで塩分をずいぶん減らすことができます。

瀬川 確かに野菜スープなどは、調味料を使わなくても、野菜から出る旨みだけで十分に美味しいですよね。

川口 家系的に注意すべき病気と、育った家庭の食習慣も把握しておく必要があると思います。親戚に高血圧系の病を患う人が多いようなら、薄味を心がけたほうがいいですね。

瀬川 高血圧を防ぐため、あるいは改善するために、減塩以外にできることはありますか?

川口 カリウムが豊富な果物や海藻、豆類を積極的に取るとよいでしょう。というのも、塩分に含まれるナトリウムを尿とともに体内から排出するためにはカリウムが必要だからです。

瀬川 体って奥深いですね。

食事量が減ったら、回数を増やせばいい

川口 先日、在宅での栄養指導に伺った83歳の女性は、認知症もなく、体も至って健康だということでした。でも、袖口から見えた腕が細すぎる。そこで体重を尋ねたところ、「去年は43キロでしたが、今年は38キロになりました。食が細くなるのも、年だからしょうがないですね」と言うのです。

瀬川 38キロは痩せすぎでは?

川口 はい。最近は栄養が足りない「低栄養」に陥る高齢者が増えています。2019年の「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)では、65歳以上で16・8%、80歳以上では約2割が「低栄養」傾向だそうです。

瀬川 自分がその状態にあるか見極めるためにはどうすればいいのでしょうか?

川口 週に1度は体重をチェックするようにしてください。ダイエットをしていないのに、2週連続2%の体重が落ちていたら、栄養が足りていない可能性が高いです。

瀬川 低栄養状態が続くと、どうなってしまうのでしょう。

川口 食が細くなるから体力が落ちる、体力がないからひきこもる、ひきこもれば運動量が減る、運動しないからお腹が減らない。これが低栄養を引き起こす負のスパイラルです。慢性化すると、筋力や活力が低下して、フレイル(虚弱)状態になってしまいます。寝たきりになるリスクも高まります。

瀬川 怖いですね。私も最近は昔ほど食べられなくて。食欲が湧かない日もあるのです。

川口 大丈夫、食事量が減ってきてしまったら、回数を増やして、必要な分のカロリーを摂取すればいいのです。小さい子どもは、3食では栄養が足りないので、間に「補食」を摂りますでしょう?それと同じです。

瀬川 なるほど。

川口 先ほどの83歳の女性は、昨年に比べて1日のカロリー摂取量が250キロカロリーくらい落ちていると推測しました。その方はお花を育てるのが生きがいでしたので、「長く続けるためには体力が必要ですよね」と説得。

食間にドラッグストアなどで売っている200キロカロリーのゼリー飲料を召し上がってみませんか?と提案しました。それで体重は持ち直すはずです。

瀬川 生きがいを続けるためと言われれば、頑張れます!

川口 時間を定めて3食食べることも大切なのです。食事の時間を軸に1日のスケジュールを決めることが、食生活を整えるコツだといえるでしょう。

何のために元気でいたいのか

瀬川 昔は料理が大好きで、凝ったものも作っていたんですけど、更年期を過ぎた頃から、その気力がどんどんなくなっていって。やはり自分で作ったほうがいいんですよね?

川口 皆さん、年齢を重ねると、作る体力がなくなってきたと言います。そこも工夫のしどころですよ。今は、高齢者向けの宅食サービスも充実しているので、それを頼るのも一案です。

瀬川 缶詰やレトルト食品も進化していますよね。常温で保存できるし、価格が安いので、お財布にも優しいですし。

川口 特に魚の缶詰は高齢者にもってこい。真空加熱で骨までやわらかいので、不足しがちなカルシウムを手軽に摂取することができます。

瀬川 先生のお話を伺ってホッとしました。上手に他人の力を借りていけばいいのですね。70代の不調の時、舌がピリピリ痛む舌痛症に悩まされていたのですが、医師にビタミン剤を処方され、舌の運動をしたら改善しました。

川口 足りない栄養はサプリメントなどで摂取するという選択肢もあります。ただし、サプリメントはあくまでも栄養補助食品。サプリを飲んでいるから野菜を食べなくてもいいといった発想は本末転倒ですよ。

瀬川 今回のように気軽に栄養の悩みについて相談できる場所があればいいのですけど。

川口 おっしゃる通りです。現在、私はドラッグストアに勤める栄養士の育成に力を注いでいます。そうすればちょっとしたことも相談できるようになる。ドラッグストアはもっとも身近な医療施設として、有効活用すべきです。

瀬川 素晴らしい活動ですね。

川口 あとは、全国の「暮らしの保健室」を訪ねていただいても!新宿で催している「からだに優しい食事」には、普段外出しない方も参加しています。「美味しいね」と言いながら、みんなで食べることが楽しいとおっしゃる。私はよく「食べる口」と「しゃべる口」が健康寿命を延ばすと言っています。人は口から再生するのです。

瀬川 食べ方を変えることで、人生を好転させることは何歳からでも可能でしょうか?

川口 可能です!何のために元気でいたいのかを明確にすると、食べる意欲も湧いてきます。

瀬川 私は末永く歌い続けていきたい。そのためには筋力も必要、スタミナも必要です。ならばどんな栄養素を摂っていけばいいのかと考えて、自分なりの食事スタイルを構築すればいいのですね。今日はありがとうございました。

川口 今回の話がヒントになったら嬉しいです。

瀬川瑛子,川口美喜子

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