世界最高峰のステーキハウスが、初の海外進出先を「日本」に決めるまで

世界最高峰のステーキハウスが、初の海外進出先を「日本」に決めるまで

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/10/14
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日本でも大人気のステーキ

ステーキはご馳走だ。

宗教上の禁忌や個人の思想信条などを除けば、きれいな塊肉を焼いて食べるのが贅沢であることは、世界の大部分で共通の認識ではなかろうか。

草食だった人類が肉を食べ始めたのは、今から250万年も昔。太古から直火で炙った牛肉が食べられていた。8世紀にはヨーロッパでローストビーフが食べられるようになり、14世紀には牛肉料理のバリエーションが豊かになる。

そこから時代が進み、牛肉の火入れが研究され始めたのが19世紀。レア、ミディアム、ウェルダンといった焼き加減の区別が生まれた。牛肉のおいしさを峻別できるようになったということで、現在のステーキの原型であるといえよう。

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Photo by iStock(画像はイメージです)

ここ日本で牛肉が口にされるようになったのは明治時代。明治後半には、ステーキは豪華な食事だという認識が広まった。そして第二次大戦後、アメリカンスタイルの厚みあるステーキがアメリカ占領下の沖縄から本州へと伝わる。

1945年に「元祖 鉄板焼 ステーキ みその」、1964年に「ステーキハウス ハマ(STEAK HOUSE hama)」、1967年に「麤皮」、1974年に「八王子うかい亭」など、今でも輝く名店がオープン。そして現在では専門のステーキハウスでだけではなく、ファミリーレストランでもステーキが提供されたり、ステーキのチェーン店が展開されたりするようになった。

日本標準産業分類の「76飲食店」配下にはステーキハウスという区分がないので、食べログで確認してみると、東京でステーキを提供している飲食店は2000を超えている。これだけ多くの飲食店で提供されていることから、ステーキはもはや大衆化したといっていいだろう。

本家本元の「ステーキハウス」が東京に

ステーキは日本で親しまれるようになったが、この10年近くで大きな潮流が起きた。本場アメリカのステーキハウスが続々と上陸してきたからだ。2007年10月に「ルース クリス ステーキハウス(Ruth's Chris Steak House)」がオープンした。少し間を置いてから、出店ラッシュとなる。

2014年2月に「ウルフギャング・ステーキハウス(Wolfgang's Steakhouse)」、2014年9月に「BLT ステーキ(BLT STEAK)」、2016年11月に「アレクサンダーズ ステーキハウス(ALEXANDER'S STEAKHOUSE)」、2017年6月に「ベンジャミンステーキハウス(BENJAMIN STEAK HOUSE)」、2017年10月に「エンパイアステーキハウス(Empire Steak House)」、2018年11月に「モートンズ ザ ステーキハウス(Morton's The Steakhouse)」と、多くのステーキハウスが開業したのだ。

アメリカの名だたるステーキハウスが日本へ次々と登場したことによって、ステーキハウスが大きな話題を呼び、人気となった。これだけ多くのステーキハウスがオープンしたので、もう注目するものはないかといえば、それは全くの間違いである。

なぜならば、最も上陸を期待されていたステーキハウスが、この2021年10月14日に満を持して姿を現すからだ。

そのステーキハウスとは、「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京(Peter Luger Steak House Tokyo)」。

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「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」のエントランス(ワンダーテーブル提供)

1887年にニューヨークのブルックリンで創業した長い歴史を誇り、ミシュランガイドで星を獲得したり、一般ゲストによる格付けサービスであるザガット・サーベイで30年以上も上位にランキングされたりしている。

看板メニューは、フィレとニューヨークストリップと呼ばれるサーロインが共に味わえるTボーンステーキ。全米にドライエイジング(乾燥熟成)のおいしさを広めたステーキハウスだ。

同店は「ウルフギャング・ステーキハウス」「ベンジャミンステーキハウス」「エンパイアステーキハウス」の創設者をはじめとして、日本でも大成功を収めているステーキ界の逸材を輩出してきた。

このような理由から、ピーター・ルーガーがステーキハウスの本家本元、最後の大物と称されている。

こだわり抜いた「熟成肉」の旨味

では、これからオープンする「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」はどういったステーキハウスなのか。

レンガの外壁が印象的な、全部で241席もある大型路面店。1階はバー34席、個室32席の全66席だ。2階は6メートルの天井高があり、オープンキッチンが設けられている。

ダイニング60席、個室1室10席の全70席。3階はダイニング60席、個室1部屋10席の全70席だ。2階の中央は見事な吹き抜けとなっており、3階から臨場感を持って見下ろせる。1人あたりの平均単価はランチ8,000円、ディナー18,000円というファインダイニングだ。

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2階のダイニングにはオープンキッチンも。3階から見下ろせるようになっている(ワンダーテーブル提供)

ステーキの大きな特長はドライエイジングによる熟成肉。ドライエイジングは、真空包装して寝かせたウェットエイジングとは異なり、低温で風を循環させて肉を乾燥させる手法。肉がとてもやわらかくなり、豊かな熟成香も生まれる。

味わいや香りが素晴らしい変化を遂げるが、管理に技術を要し、トリミングしなければならないので重量がもとの60%くらいになってしまう。ウェットエイジングに比べると、ドライエイジングは手間もコストもかかるので、非常に難易度が高い。

ピーター・ルーガーでは、オーナーファミリー自らが市場に出る前の最高のプライムビーフを先んじて買い付けている。プライムビーフとは、米国農務省(USDA)によって格付けされた最上級の牛肉だ。

このプライムビーフをドライエイジングし、周りをカットして塩を振り、専用のブロイラーで表面を焼いて旨味を閉じ込める。肉を切り分け、溶かしたバターと共に皿に載せたまま再びブロイラーに入れ、数分間焼くと完成。この長く手間のかかる工程を経ることによって、噛めば噛むほど旨味が溢れ出るステーキとなるのだ。

東京店では、オーナーが目利き職人を選任。この目利き職人によって選別されたプライムビーフが空輸され、到着してから同じノウハウによって熟成される。

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門外不出のウェットエイジングで熟成されたTボーン(ワンダーテーブル提供)

世界中にファンをもつピーター・ルーガーだが、本店はニューヨークのブルックリンにあり、他には同じくニューヨークのロングアイランドに支店を構えるのみ。あえてマンハッタンには進出しておらず、老舗ならではの価値観を守っている。

ニューヨークに訪れたら是非ともピーター・ルーガーのステーキを食べて帰りたいということで、マンハッタンからウィリアムズバーグ橋(Williamsburg Bridge)を渡って訪れるビジネスマンや観光客は少なくない。

アメリカ以外にはおろか、ニューヨーク以外にも店舗を持たないとあって、ピーター・ルーガーが東京に上陸するのは、世界的に注目されているのだ。

ピーター・ルーガー、日本進出のキッカケ

ステーキハウス最後の大物、ピーター・ルーガーが日本に進出するに至ったのは、どのような経緯があったのであろうか。

「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」を日本で運営するのは大手外食企業のワンダーテーブル。国内外合わせて、コロナ前の2019年では約200億円の売上高を誇り、2021年9月時点で125店舗を擁する。

「モーモーパラダイス(MO-MO-PARADISE)」「天吉屋」といった日本の料理から、ビアレストランの「よなよなビアワークス(YONA YONA BEER WORKS)」などの自社ブランド、さらには「ユニオン スクエア トウキョウ(Union Square Tokyo)」「オービカ モッツァレラバー(Obica Mozzarellla Bar)」「バルバッコア(Barbacoa)」「ロウリーズ・ザ・プライムリブ(Lawry's The Prime Rib)」「テール・ド・トリュフ東京(Terres de Truffes, Tokyo)」「ジャン・ジョルジュ トウキョウ(Jean-Georges tokyo)」といった海外で人気のレストランを運営。

「MO-MO-PARADISE」「鍋ぞう」「天吉屋」は、台湾、タイ、中国、ベトナム、インドなどのアジアやアメリカでも展開するなど、日本の食文化を世界に広めている。

代表取締役社長を務めるのは、2012年から同職に就いた秋元巳智雄氏。近年におけるワンダーテーブルの快進撃を主導した切れ者だ。外食産業の発展にも大きく寄与しており、農林水産省主催「第17 回優良外食産業表彰事業大臣賞」など受賞も多い。

その秋元氏は、次のように述懐する。

「弊社会長の林とピーター・ルーガーのオーナーに共通の友人がいて、2015年10月に知り合いました。当時は一緒にビジネスをするためではなく、いくつかの日本企業から誘致の話もあり、日本の外食トレンドに興味をもっているということで情報交換するようになりました」

日本の外食市場を知るために、飲食業界のオピニオンリーダーである秋元氏と意見を交わしたいと考えるのは自然なことだ。秋元氏もニューヨークへ出張する際にピーター・ルーガーを訪れるようになり、信頼関係を築いていく。

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ニューヨークのブルックリンにあるピーター・ルーガーの店舗[Photo by gettyimages]

6年越しに迎えた東京店の開店

転機を迎えたのは2017年。ピーター・ルーガーの出身者たちが立ち上げたステーキハウスが続々と日本へ上陸し、たちまち大ブームとなる。日本にはアメリカンスタイルのステーキへの需要があり、熟成肉も大いに受け入れられることが証明された。

どのステーキハウスの創設者たちもピーター・ルーガーの出身者であることに間違いはない。しかし、ピーター・ルーガーでは、ドライエイジングのノウハウは門外不出となっているので、他のステーキハウスに伝承されているわけではないのだ。本家本元であるピーター・ルーガーの熟成肉を味わえるレストランが日本に存在していないのは残念なことではないか。

そこで秋元氏とオーナーの間で日本出店の話が持ち上がった。

契約書をつくり上げ、互いにサインしたのが2018年7月。2015年に知り合ったことを考えれば、十分な時間をかけて理解を深めていったといっていい。

ワンダーテーブルは、海外から6つの有名店を上陸させ、日本で安定した人気店に仕立て上げた実績を持つ。この秋元氏のもとであるからこそ、ピーター・ルーガーはニューヨークから東京に進出しようという考えに至ったのだ。

ピーター・ルーガーの日本上陸は決まった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、オープンは2020年中から2021年中へとずれ込む。

「2021年の東京五輪が開催されている頃にはコロナが落ち着いていると予測していました。ただ、五輪期間中ではあまり集客できないと考え、五輪後のオープンを目指して進めました」(前出の秋元氏、以下同)

物件の賃貸契約を終えたのが2021年4月で、オープンは10月14日。場所は2020年12月にクローズした「MLB cafe TOKYO 恵比寿店」跡地で、敷地面積は約406坪、3層で延床面積は約489坪。とても広い上に駅からのアクセスも抜群だ。

ただ、すぐ近くには同じくワンダーテーブルが運営するプライムリブ専門店の「ロウリーズ・ザ・プライムリブ 恵比寿ガーデンプレイス店」がある。業態的に競合するが、どのように考えたのであろうか。

「業態だけで見ればロウリーズとは競合してしまうかもしれませんが、それぞれが魅力あるレストランなので、そこまで競合しないと考えています。それにもともと、ピーター・ルーガーの魅力を伝えられるようにと、よい場所よりもよい箱を探していました」

秋元氏がここと決めた自信のある物件だけあって、物件契約前の2020年中に、店舗デザインは既に完成させていた。もしも別の物件を採用することになっていれば、デザイン費用は無駄になってしまう。しかし、コロナ禍の現在では特にスピードが重要ということで、先んじて店舗設計を進めていたのだ。

この英断が功を奏して、物件の契約が完了するとすぐに着工できた。ゴールデンウィーク明けから本格的に工事が始まる。8月30日に引き渡しとなり、そこから装飾品を揃えた。ドライエイジングには4週間が必要となる。そのため、通常であれば2週間前から始まるスタッフのトレーニングを、1ヶ月以上前の9月初めから開始した。

東京店でしか味わえない魅力

東京店は本店とどのように違うのであろうか。

「ピーター・ルーガーのメニューは素晴らしいので、基本的に変えていません。使っている牛肉や熟成方法、しっかりと表面を焼きながらも、中はしっとりジューシーにさせる焼き方も全く同じです」

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Tボーンステーキと充実したサイドメニュー(ワンダーテーブル提供)

もちろん東京ならではの進化もある。ニューヨークのピーター・ルーガーは老舗のこだわりで、支払いはキャッシュのみ、予約は電話のみだったのが、ようやく昨年からネット予約も併用。対して東京ではAIが自動応答する「LINE AiCall(エーアイコール)」によるフォンレス、大手飲食店予約サービス「TableCheck(テーブルチェック)」に連動し、支払いはキャッシュレスと反対をいく。

「世界最高峰のステーキハウスが東京に進出すると考えた時、ニューヨークと全く同じでは、もしかして素晴らしさが伝わらないのではないかと危惧しました。そのため、東京らしくラグジュアリーな雰囲気をまとった空間を造り、フォンレスやキャッシュレスといった最先端のシステムを備えることにしました」

ブティックを併設したのも東京店ならでは。看板メニューのTボーンステーキやリブアイステーキからコンディメント、アメリカンデザートやワイン、さらにはTシャツやバッグまでを販売する。

当初はブティックを構える予定はなかったという。しかし、コロナ下のオープンとあって、本格的な物販に加えて、テイクアウトやデリバリーなど、柔軟に対応することになったのだ。

「おそらく12月くらいから、消費が戻ってくると予想していますが、一時的なリバウンドで長く続かないのではないでしょうか。2022年か2023年になってようやく、外食産業の景気は回復すると思っています。その時まで、国や自治体の要請に従い、従業員の雇用を守りながら、営業していきたいです。今は力を溜める時で、コロナ後に外食企業の実力が試されるのではないかと考えています」

ワンダーテーブルは、店舗で行う「5つの感染拡大予防策」と、ゲストに留意してもらう「感染防止のための5つのお願い」を定め、安心安全の営業に努めている。

業種別の倒産件数で、飲食店が最多を記録するなど、飲食業界はまだ厳しい状況に置かれているといってよい。こういった状況にあって、489坪241席という大型店をオープンするのは、飲食業界の内外で大きな驚きがあった。しかし、決してネガティブな色には彩られていない。9月1日に予約を開始してから、3分で140組の予約が埋まるなど、消費者からも大きな注目を浴びている。

「飲食業界の内外から励ましや期待の声をいただきます」と秋元氏が述べるように、「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」の開業がコロナ禍における飲食業界の希望となり、復調する飲食店の象徴になることを心より願いたい。

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