
あなたは、仕切りたがる人? 仕切ってもらって従う人? 誰かが仕切ってくれるのは「ありがたい」話だが、かといってうまく仕切ってくれることばかりではない。
何人かが集まって何かを決めようとするとき、誰かが仕切ってくれたほうがありがたいと多くの人が思っているのではないだろうか。決めてもらってついていったほうが楽だから。女性同士のグループには比較的、こういうことが発生しがちだ。
だが、仕切る人がすべての意見を尊重していたら、何も決まらない。結局、多数決になったとき、仕切った人が文句を言われる可能性は高い。そして誰も仕切りたがらなくなるのが常だ。
だからこそ仕切ってくれる人はありがたい。それで誰も文句を言わなければいいのだが……。
ママ友グループの「仕切りたがり」
「上の子が小学校低学年のころ、ママ友グループができたんです。グループを作ろうと言い出したのはリホさん。彼女、『私は専業主婦だから』が口癖で、けっこうお世話係を買ってでるようなところがあったので、いい人なんだなと思っていたんです」
そう言うのはチナミさん(43歳)。結婚14年、12歳と10歳の娘たちがいる。5年ほど前にできたそのグループは6人いて、フルタイムがチナミさんを含めて3人、パートで働いているのがふたり、専業主婦はリホさんだけだった。
「例えば子どもの誕生日パーティがどうだの、卒園した保育園でバザーがあるから手伝いに行くだの、子どもを預かってほしいだのと、子どもがらみでいろいろあるんですよ。私が住んでいるところは近所付き合いもわりと濃いし。
最初はなんとなくみんな遠慮しながらLINEでやりとりをしていたんですが、そのうちリホさんが『何かあったら私が世話役になるから遠慮なく言って』と言い出した。彼女がリーダー格ということで暗黙の了解ができました」
6人の中で、いちばん早く子どもが誕生日を迎えたママが、「誕生パーティをしたいんだけど、どんな感じでやればいいのかしら」とグループLINEで相談、みんな初めてのことでわからない。するとリホさんが、近所に先輩ママがいるから聞いてみると言ってくれた。
「私はパーティなんか好きなようにやればいいのにと思っていたんですよ。家の広さも収入も家庭によって違うんだし、こうやればうまくいくと決まっているわけでもない。だけどでしゃばってあとで文句を言われるのも怖いので黙っていました」
パーティの“やり方”を事細かに指示するママ友
するとリホさんが、事細かに指示を出してきた。平日の学校終わりの時間帯で、プレゼントはいくらまで、迎えるほうは手作りの料理がマストというように。
「それは働くママには厳しい話ですよね。しかもその相談をしたのはフルタイムで働いている人だったから、『うちは無理だわ、やめようかな』とつぶやいた。するとリホさんが、やめるなんてダメ、ちゃんとやらないと他の人にも迷惑がかかると。
なんとなくみんなが賛同して、結局、彼女は2日間も仕事を休んでパーティの準備をしたんですが、当時、子どもの間でインフルエンザが流行って学級閉鎖になったこともあってパーティも中止。彼女はがっかりしていました。
リホさんはそんな彼女に面と向かって『時期が悪かったね。こんな時期に生まれたなんて運がないのね』って。たまたま私は近くにいて聞こえてしまったんですが、そういう言い方はないですよね。でも彼女はそれを他の人に言うわけにもいかず、人知れず悩んだそうです」
パーティのやり方まで、ほとんど命令のように指示しておきながら、開けなくなったら「生まれた時期が悪い」というのはかなり横暴な発言である。
ずるい、適当……それでも仕切りを任せる理由
仕切りたくて前面に出てくるものの、仕切りがうまくいかないと人のせいにしたり、最後は逃げるように手を引くなど、リホさんの「ずるい適当さ」はそれ以降も続いた。だが、誰かが代わりに仕切るようなことはなかった。
「彼女たちとの付き合いは3年ほど続いたんですが、結局、みんな忙しいからできる限り、トップに立ったり世話役になったりはしたくないんですよ。だから仕切りたがりのリホさんに任せてしまった」
いつもあとから、「あの人に任せると何かがうまくいかなくなる」とみんなが思っていたが、言い出す人はいなかった。
トラブル発生! 香典が消えた真相
あるとき、ママ友グループの全員がお世話になっていた地元の高齢者が亡くなった。家族だけで葬儀をするという情報を聞きつけ、リホさんは「私がお香典を集めて持っていっておく」と言った。ところがそのお金をリホさんは先方に届けなかった。
「なかなか事態が判明しなかったんです。そこでグループの誰かが、“先方が何も言ってこないのはおかしい”と思って先方と親しい人に聞いてみたら、そんなお香典は来ていないと。それでリホさんを問い詰めたら、のらりくらりと逃げるんですよ。『私は届けたわよ。家族葬なんだから、あちらが公にしたくないんじゃないの?』と。
でもなんだかおかしい。それでまた誰かがリホさんの夫に直接尋ねてみた。それですべて明るみに出て」
リホさんの夫はみんなに頭を下げて歩き、出したお金は返ってきたが、その後、リホさん夫婦は離婚。リホさんは姿を消した。そのうち夫も子どもも見なくなった。
「気の毒ですよね。妻が妙なことをしたために一家離散、夫もいられなくなって。彼女、仕切っているときは気持ちがよかったんでしょう。でも最終的にまとめ役ができないので、適当なところで投げ出したりしてしまう。
つじつまを合わせるために嘘をついたりごまかしたりもしていたと思う。できることだけして、できないことは人に任せればいいのに、プライドだけは高かったのかもしれません」
自然消滅したグループだが、グループがなくても誰も困らない。気が合う人とは、何もしなくても交流は続いていく。自身も「グループ」にこだわりすぎたと、チナミさんは今になってそう考えていると言った。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
(文:亀山 早苗(フリーライター))
亀山 早苗(フリーライター)