日本全国の発酵食を探究した貴重な記録『日本発酵紀行』が待望の文庫化 著者・小倉ヒラク氏とロバート キャンベル氏との特別記念対談

日本全国の発酵食を探究した貴重な記録『日本発酵紀行』が待望の文庫化 著者・小倉ヒラク氏とロバート キャンベル氏との特別記念対談

  • カドブン
  • 更新日:2022/11/25
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取材・文=門賀美央子 撮影=後藤利絵

“醸す日本”に勝機あり! 発酵食に未来を拓くヒントが満載! 小倉ヒラク『日本発酵紀行』

日本の伝統的発酵文化に無限の可能性を見出した小倉ヒラクさん。『日本発酵紀行』は、有名どころから地元でも知られていないレアな食品まで、47都道府県をくまなく巡って足で探した稀有な記録だが、その真価はどこにあるのか。数年前から小倉さんの活動に注目してきたロバート キャンベルさんに、キャンベルさんの専門である近世文化の視点から読み解いてもらうべくお二人の対談が行われた。発酵食の歴史を柱に、和古書や古文書から見えてくる近世日本人の挑戦、そして現代日本人が考えるべき問題とは。

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『日本発酵紀行』書誌ページ
https://www.kadokawa.co.jp/product/322112000461/

小倉ヒラク×ロバート キャンベル 特別記念対談

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小倉:キャンベルさんと初めてお会いしたのはNHK WORLDの番組「Face To Face」に僕が出演させていただいた時でしたね。

キャンベル:そうです。私が長くMCを務めている番組で、日本文化や日本人の魅力を世界に向けて発信することを目的に毎回ユニークなゲストを迎え、その方が活躍する現場に足を運んでお話を伺うインタビュー番組なのですが、ヒラク君の時は山梨県に行ってご自宅でお話しすると同時に、近所の五味醤油さんという醸造元を訪ねて味噌づくりのワークショップをするなど非常に楽しい時間を過ごしました。

小倉:キャンベルさんが、うちのカエデって猫と仲良くなっていらっしゃったのを覚えています。

キャンベル:すごく仲良くなりました。でも、ぬか床を水槽で“飼育”されていたのにも興味津々でした。観賞魚用の水槽に機器に繋がれたぬか床があって、それがヨーロッパにある同様のものとオンラインでデータを同期している、ということでしたよね。

小倉:あれは2019年のミラノ・トリエンナーレに出展した「ぬか床ロボット NukaBot」のプロトタイプでした。ミラノに同じ装置を設置して、同期しながら微生物の動きを解析していたんです。プロジェクトの目的はふたつあって、ひとつは誰でも失敗せずにぬか床を作れるようにしようということ、もう一つは素人でも醸造家のように微生物とコミュニケーションできるインターフェースを作るということでした。

キャンベル:データを同期させることでなにがわかるんですか?

小倉:同じように育てても、気温/湿度の差や環境に常在する微生物の違いなどで変化が生じるので、それを調べようとしていたんです。

キャンベル:なるほど。初見から数年経ってやっとわかりました。

江戸時代はご当地ブランディングが上手だった。 古文書からヒントを得る伝統食の未来。

キャンベル:初対面以来、様々な場所でご一緒するようになり、私が去年3月まで4年間館長を務めていた国文学研究資料館主催のイベントにも出演してもらいました。

小倉:福生市にある石川酒造で行ったイベントですね。

キャンベル:あれは国文研が所蔵する古典籍を元に、本の内容に関係する識者を招いて実際に書物を見ながら語り合っていく対談企画シリーズ「一冊対談集」の一貫でしたが、ヒラク君の回は酒蔵の二階で開催することができました。とてもいい香りがしたのを覚えています。取り上げた書物は、『日本山海名産図会』といって江戸中期の大坂で出版された物産学の絵入り本。摂州伊丹の酒造りの様子を描いていますが、現代の酒造りと比べながら解説してもらいましたね。

小倉:あれは楽しかった。キャンベルさんは、資料から見える伝統的食文化のおもしろさを紹介してくださいましたが、あの後、僕も古文書を元に各地の伝統発酵食を学ぶ機会が増えました。たとえば、加賀藩では前田家三代目から五代目ぐらいにわたって産物方という役職を置いて、そこで物産品リストを作るという作業をしていたそうです。なんでも、加賀移封を境に藩の規模がいきなり大きくなったせいで借金が増えて破産しそうになり、お金を稼ぐため藩外で売れる特産品を作ろうという機運が高まって、まずは藩内にどういう食材があるのかを調査してリスト化していったのだとか。その成果物が古文書として残っているんです。さらに、全国に視察を送って、なにかおもしろい食べ物を見つけては、それを地元食材で再現し、物産品を新規開発したそうです。今回の本の中だと富山の「黒作り」って食べ物がそれに当たるんですが、これなどは長崎の出島付近でイカスミを食べる文化があるのを見つけたのでそれを移植した、と。日本人は基本イカスミを食べないので、おそらく出島経由でインドネシアあるいはイベリア半島の食習慣が伝わったんでしょう。

キャンベル:物産調査は江戸時代の有力藩で盛んに行われていました。島根の松江藩にも『出雲国松江藩領産物帳』という絵入りの物産記録が残っていますが、これなどは食物史だけでなく、国語史にも貴重な資料になっています。方言の分布や日本語の変遷がわかるんですね。ひとつの資料からいかに幅広い価値を見つけていくか。それはヒラク君のような方にも手伝ってもらって、はじめて可能になることなのだと思います。

小倉:江戸時代の人たちは、ご当地食材を工夫し、付加価値をつけるのがとても上手なんです。つまり、ブランディング戦略に長けていた。ところが、今の日本はそこがどうも下手くそで、国策がかえって伝統食品の存続を阻害してしまっているようなところがある。本書では文庫用に書き下ろしたあとがきでそうした問題を取り上げています。

キャンベル:これからの時代、日本人は否が応でも足元の食文化を見直さなければならなくなると思います。本書はそのよいきっかけになるのではないでしょうか。

小倉:そうなるとうれしいですね。

本書で紹介した日本各地の発酵食品には、ヒラクさんのお店で購入できるものが多数あります。
発酵デパートメント オンラインストア
https://hakko-department.com/collections/all

プロフィール

ロバート キャンベル(Robert Campbell)

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プロフィール(公式サイトより)

日本文学研究者。早稲田大学特命教授。早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問。国文学研究資料館前館長。
近世・近代日本文学が専門で、とくに19世紀(江戸後期~明治前半)の漢文学と、それに繋がる文芸ジャンル、芸術、メディア、思想などに関心を寄せている。テレビでMCやニュース・コメンテーター等をつとめる一方、新聞雑誌連載、書評、ラジオ番組企画・出演など、さまざまなメディアで活躍中。
ニューヨーク市生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒業(B.A. 1981年)。ハーバード大学大学院東アジア言語文化学科博士課程修了、文学博士(M.A. 1984, Ph.D. 92年)。
85年に九州大学文学部研究生として来日。同学部専任講師(87年、国語国文学研究室)、国立・国文学研究資料館助教授(95年)を経て、2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授に就任(比較文学比較文化コース〔大学院〕、学際日本文化論〔教養学部後期課程〕、国文・漢文学部会(同学部前期課程)担当)。07年から同研究科教授。17年4月に国文学研究資料館館長就任。21年4月から現職。

小倉ヒラク

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写真:石崎崇人 イラスト:スケラッコ

1983年、東京都生まれ。早稲田大学文学部で文化人類学を学ぶ。在学中に絵の勉強のためフランスへ留学。卒業後企業へ入社。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市の山の上に発酵ラボをつくり、日々菌を育てながら微生物の世界を探求している。発酵デザイナー。全国の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを開催。絵本& アニメ『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。15年より絵本『おうちでかんたん こうじづくり』とともに「こうじづくり講座」をスタート。海外でも発酵文化の伝道師として活動するほか、雑誌、ラジオ、テレビでも活躍。18年~19年、47都道府県を旅し、日本の超ローカルな発酵文化を発掘。渋谷ヒカリエでキュレーターを務めた発酵食品展覧会は大盛況。20年、下北沢に「発酵デパートメント」をオープン。著書に『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』などがある。

作品紹介

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日本発酵紀行
著者 小倉 ヒラク
定価: 748円(本体680円+税)
発売日:2022年11月22日

発酵デザイナーによる、日本の発酵文化をリサーチする、8か月間の旅の記
元バックパッカーの小倉ヒラクが2018年夏から8カ月かけて全国の発酵の現場を訪ね歩いた旅行記。本書『日本発酵紀行』はD&DEPARTMENTが手がけるd47 MUSEUMの企画展「Fermentation Tourism Nipponー 発酵から再発見する日本の旅ー」の公式書籍として誕生しました。発酵を通して日本の文化の深層に出会い、今を見つめなおす旅の記録。醤油、味噌、酒といった日本のソウルフードだけでなく、お菓子、漬物、激レア激ウマ発酵食品までを隅々まで歩き出会い食べつくす!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322112000461/
amazonページはこちら

カドブン編集部

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